IPEの果樹園2019

今週のReview

1/28-2/2

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Brexit合意案の否決後 ・・・技術革新と政治 ・・・NATO離脱 ・・・ダヴォスの陥穽 ・・・中東欧の「悪夢」 ・・・権威主義体制の前進とリベラルの後退 ・・・愛国主義的アニメの誘惑

[長いReview

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主要な出典 FP: Foreign Policy, FT: Financial Times, Foreign Policy, The Guardian, NYT: New York Times, PS: Project Syndicate, SPIEGEL, VOX: VoxEU.org, Yale Globalそして、The Economist (London)

[これは英文コラムの紹介です.私の関心に従って,いくつか要点を紹介しています.関心を持った方は正しい内容を必ず自分で確かめてください.著者と掲載機関の著作権に従います.] 


 Brexit合意案の否決後

The Guardian, Fri 18 Jan 2019

Post-Brexit Britain may need a constitution – or face disintegration

Vernon Bogdanor

SPIEGEL ONLINE 01/18/2019

Britain's Brexit Dithering

It's Time to Let the UK Go

A DER SPIEGEL Editorial by Peter Müller

かつて、イギリスはEUにおいて優れた地位を得ていた。世界市民的な、ビジネス・フレンドリーな、冷静な考え方を示す国民であったからだ。しかし、今はそうではない。

イギリス議会は、EU離脱に関するメイの合意案を大差で否決した。メイは議会で合意を形成することができず、イギリスが何を望むのかも明らかでない。EUとしては、イギリス政治が紛糾し続けることに時間をこれ以上割くより、離脱して、彼らがEUの外で争う方が良いだろう。

SPIEGEL ONLINE 01/18/2019

Irreconcilable Differences

A Divided Britain Faces a No-Deal Brexit

By Jörg Schindler

FT January 19, 2019

Have the Conservative party’s Eurosceptics blown Brexit?

George Parker and Alex Barker

FP JANUARY 19, 2019

Will Brexit Blow Up Britain’s Conservative Party?

BY VERNON BOGDANOR

2016623日、国民投票でイギリスはEU離脱を決めた。しかし、残留派の一部はその結果を受け入れない。これほど重大な変更をわずかな差で決めてはならない、有権者は離脱派の嘘によってだまされた、と考えるからだ。

この問題は二重の意味で難しい。メイ政権は下院で過半数を取れず、Brexiを支持する北アイルランドのDemocratic Unionist Party (DUP)から10議席を加えて、わずかに多数派を形成している。さらに、保守党も労働党も、離脱派と残留派に分裂している。

その分断はイギリス内部の分断を反映している。大都市とスコットランド、北アイルランドはグローバリゼーションを歓迎し、EUの自由移動原則も問題としない。しかし、小都市や旧製造業地域では、取り残されたと感じており、グローバリゼーションやEUに反対だ。

メイは合意案をまとめたが、DUPはそれに強く反対する。彼らはEUとの合意が北アイルランドとアイルランド共和国との間にハードな国境線を復活することを恐れるのだ。歴史的な大差で否決された以上、メイ首相は強硬派をなだめるためにハードBrexitを唱えれば、党内の残留派が離反する。逆に、ソフトなBrexitを支持すれば強硬派が反発する。保守党の統一を維持する妥協案は存在しない。

同じような状況で、1979年、労働党の少数政権がスコットランドへの分権化について、1951年、労働党政権が左右の分裂で崩壊した。ヨーロッパにおけるイギリスの地位をめぐっては、過去に6つの保守党政権(Harold Macmillan, Edward Heath, Margaret Thatcher, John Major, and David Cameron)が崩壊した。

FT January 20, 2019

The self-fulfilling prophecy of a no-deal Brexit

Wolfgang Münchau

FT January 20, 2019

Unlock the Brexit logjam by learning from other nations     

Stella Creasy

FT January 22, 2019

Why Theresa May’s Brexit deal could still pass through parliament

Sebastian Payne

PS Jan 22, 2019

Brexit Demands a New British Politics

GUY VERHOFSTADT

米英において、ポピュリストの反抗が決定的な分岐点を迎えている。アメリカのトランプ大統領は、史上最長の連邦政府一部閉鎖を続け、もはや危機終息のために民主党の慈悲を乞うしかない。同様に、イギリスのメイ首相は合意案を議会で否決され、反対派と交渉しなければならない。

ブリュッセルの外交官と政治家は、メイの大敗を残念に思った。結局、否決されたのは「メイの合意案」であるだけでなく、「EUの合意案」なのだから。

メイはが決めたレッド・ラインに制約され、交渉は均衡を欠くものだった。しかし、財政負担の約束や、EUUKにおける市民の地位をめぐって、交渉は秩序ある形で離婚できる合意を示した。さらに、北アイルランドについて、グッド・フライデー合意を維持することも重要だった。

保守党と労働党の残留派が超党派で解決策を示すことは、2大政党制の対立図式では困難だ。もちろん、複数政党によるアプローチはヨーロッパの政治化には当然のことである。EUの法制定には、いつも、議員たちと閣僚を1つの部屋に閉じ込めて、妥協するまで深夜の交渉が続く。

EU型の「共同決定」という政治文化に移行することを、イギリス国民も、EUBrexit担当者たちも、支持するだろう。そして、将来、若い政治指導者が再びEU加盟を主張するかもしれない。

FT January 23, 2019

If parliament cannot resolve Brexit, a new referendum is needed

The Guardian, Wed 23 Jan 2019

For the EU to prosper, Britain must leave

Eoin Drea

最近まで、私は残留派だった。Brexitの混乱を脱け出すEUにとって最善の方法は、Brexitを止めることだ、と信じていた。しかし、このひと月の出来事は、ブリュッセルに全く違う結果を望む雰囲気を生じた。EUが繁栄するためには、イギリスは去るべきだ。

Brexitは避けられない。なぜならイギリスは、共同体的な、妥協を要する、多民族の組織に、自分が加盟するための不可能な条件を要求し続けているからだ。離脱に際してすら、イギリスは勝手な「レッド・ライン」を作っている。こんなことが加盟国である限り続くだろう。

イギリスはすでに多くの特別扱いを受けている。ユーロ圏からオプト・アウトし、シェンゲン協定からも、自由、司法、安全保障に関するヨーロッパの法制度、基本的な権利に関して、特別扱いが存在する。イギリスでは、この状況をヨーロッパの超国家が忍び寄っている、と描かれる。そんな姿勢にヨーロッパの外交官たちはうんざりしている。それはEUの結束を損なうだろう。意思決定を遅らせ、重要な目標が決められず、行動にブレーキをかける。

アイルランドの国境問題でも、イギリスの態度は根本的にEUを誤解している。バックストップは、UKを罠にかけるものでも、破壊するものでもない。そのような見解は、それほど深くEUの制度や役割を疑っているということだ。それはイギリスの財源払い戻しについても言える。すでに支出の計画は練られている。イギリスが離脱すれば、その財源を他の加盟諸国が埋めねばならない。

イギリスはEU予算の財源を負担することが、商業的な取引ではなく、その眼前に広がる平和、安定、成長に投資することだ、と理解しなかった。主権を共有する、EUに体現された法的な統合モデルは、加盟諸国がより大きな、ときには計り知れない恩恵を得ているから、それゆえにこそ成功する。

現在、イギリスはシティのタワーから、ウェールズの渓谷にある旧炭鉱の赤さび地帯まで、すべての旧帝国が示す小宇宙となっている。フランスとドイツは、ヨーロッパ統合を、平和を確保し、グローバルな役割を最大化するメカニズムと見ている。イギリスはEUとの関係に失敗し、今なお世界に自分たちの役割を見出せないのだ。

イギリスとヨーロッパの将来の関係は、1つの点で明らかだ。離婚後は敬意と友情をもって接するだろう。家族は複雑だが、有益な友人関係はそれほど複雑ではないのだから。

NYT Jan. 22, 2019

Watching Brexit Fall Apart

By Sylvie Kauffmann

皮肉なことに、“take back control”と約束してBrexitは国民投票に勝利した。ときに、イギリス人はコントロールを失っただけでなく、その心も失ったのではないか、と思う。

西から東、東から西へ、エリートと不平等に対する反乱は広がった。組織的な嘘、デマゴギー、分断、といったアメリカの有権者になじみ深いものが、ヨーロッパにもあふれている。

FP JANUARY 23, 2019

Sorry, Britain, You’re Just Not That Important for Europe

BY SIMON TILFORD

FT January 24, 2019

The risks of a second Brexit referendum must now be run

Martin Wolf


 技術革新と政治

FT January 18, 2019

Donald Trump’s cold war tactics will not work with China

Jeffrey Sachs

FT January 19, 2019

Bigger risks to US Treasuries than China playing games

Joe Rennison in New York

FT January 20, 2019

Advocates of an open economy face rough road

Martin Wolf

歴史は繰り返す。産業革命以来、グローバリゼーションには2つの大きな波があった。19世紀後半から20世紀初めと、20世紀後半から21世紀初めまで。それは2度とも、大国間の紛争、経済不況、ナショナリズム、保護主義によって終わった。

今回、それは2008年の金融崩壊と、その後の大不況であった。米中間で対立と保護主義が高まっている。どちらもその根源は、開放型世界経済の維持が難しいことである。

1930年代と違い、政策担当者たちは最近の不況をずっとうまく制御した。生産や貿易は崩壊せず、国際的な短期融資が減少するのは望ましかった。しかし危機後、投資が減少し、グローバル・サプライチェーンが展開する余地は尽きた。

WTOによる貿易自由化は停滞し、ドナルド・トランプの離脱でTPPも後退している。最近、保護主義への動きが明確になった。グローバルな貿易システムの核心的原理を、その創設者であるアメリカがイデオロギーとして否定した。アメリカ国内においては、中国の野心や「不公正」な貿易に対する疑念が政界に広まっている。

高所得国、特にアメリカの国内政治が将来を決める。彼らは国内政策の失敗を外国人のせいにしがちである。内向きの経済ナショナリズムが支配的になれば、アメリカ、EU、中国の周りに、保護主義的な経済ブロックが誕生する。

Richard Baldwinが画期的な著書で示したように、蒸気船や、コンテナ船とインターネットの次に、今やAIとロボットがグローバリゼーションを、製造業から多くのサービス分野にもたらすだろう。それはオフショアへの仕事の破滅的移転を意味する。社会的・経済的な不安定化の影響は深刻だ。

政治はますます内向きになるが、技術革新によって距離が死滅し、障壁は飛び越えられる。長期的にグローバリゼーションが勝利するだろうが、短期的には乱気流が襲うだろう。


 次の金融危機

PS Jan 18, 2019

The World Economy Goes Hollywood

ANATOLE KALETSKY

FP JANUARY 22, 2019

Is the World Prepared for the Next Financial Crisis?

BY CHRISTINE LAGARDE


 アフガニスタン

PS Jan 18, 2019

Afghanistan’s Forgotten Half

ANNE-MARIE SLAUGHTER, ASHLEY JACKSON


 戦後ドイツ

PS Jan 18, 2019

The End of Postwar Germany

HELMUT K. ANHEIER


 NATO離脱

NYT Jan. 18, 2019

The World Still Needs NATO

By Ursula von der Leyen

FP JANUARY 22, 2019

Europe’s Future Is as China’s Enemy

BY STEPHEN M. WALT

アメリカのNATO離脱は、トランプのせいではなく、その構造に由来する。大西洋をまたいで市民を戦場に送り、戦争に参加する約束は、それにかかわる自国の安全保障が重視されるときだけ維持できる。アメリカが第1次世界大戦、第2次世界大戦に参加したのは、ヨーロッパの工業・軍事力を支配する単一の強国が現れるのを阻止するためだった。NATOは、ソ連が消滅したとき、その理由も消滅した。

新しい合意は、アメリカがヨーロッパにおける軍事的プレゼンスを減らし、長期の対抗関係を意識する中国に対して、ヨーロッパが協力することを求めるものだ。


 ロシアのウクライナ侵攻

FP JANUARY 18, 2019

It’s Time to Stand Up to Russia’s Aggression in Ukraine

BY STEPHEN J. HADLEY


 トランプと北朝鮮

The Guardian, Sun 20 Jan 2019

The Guardian view on Trump and arms: can the doomsday clock be stopped?

Editorial

NYT Jan. 22, 2019

A Second North Korea Summit

By The Editorial Board


 ダヴォスの陥穽

FT January 20, 2019

China’s Xi Jinping is no Davos man

Rana Foroohar

習近平は、グローバリゼーションを指導する新しいダヴォス・マンではない。彼はむしろ改革を後退させ、毛沢東時代にもどっている。保護主義と国有企業、補助金に頼る一方で、米中の金融的膨張が続いている。

トランプは問題だ。しかし、米中貿易摩擦が中国の改革を加速するなら、それは中国の勝利である。アメリカ政府が、ハイテク企業の米中依存関係を完全に解体するとは思えない。トランプ政権は政府閉鎖の問題を処理するのに忙しく、ダヴォス会議を欠席した。しかし、北京がグローバリゼーションの守護者にはなれない。

The Guardian, Wed 23 Jan 2019

Panic is on the agenda at Davos – but it’s too little too late

Aditya Chakrabortty

The Guardian, Wed 23 Jan 2019

The Guardian view on Davos: elites without answers

Editorial

FT January 23, 2019

Redefining globalisation on the slippery slopes of Davos

FP JANUARY 22, 2019

Inside the Strange Bubble World of Davos

BY MICHAEL HIRSH

ダヴォスに集まった富裕層、投資家は、グローバリゼーションが社会的な混乱や不満を生み出すことを無視してきた。彼らは非常に裕福で、非常にパワフルで、非常に無慈悲である。ダヴォスは一貫してグローバリゼーションを推進してきた。

グローバリゼーション4.0は資本主義の性格を変え、GoogleFacebookの「監視型資本主義」を生み出した。彼らはゲームのルールを変え、かつてフォード自動車が大量生産を広めたように、資本主義の本質を変えてしまう。監視型資本主義は社会的不平等と人々の有機的なつながりを破壊することで、トランプに体現されるグローバリゼーションへのポピュリスト的反動を広めた。


 中東欧の「悪夢」

FT January 21, 2019

Europe is an alliance, not a union of values

Gideon Rachman

PS Jan 21, 2019

The Metamorphosis of Central Europe

IVAN KRASTEV

フランツ・カフカの小説『変身』の主人公、グレゴール・ザムザは、ある朝、悪夢から目覚めると、自分がベッドの中で「巨大な虫」に変身してしまったことを発見する。彼の家族はショックを受け、この醜い生き物をどうして良いのかわからない。

その感覚はヨーロッパ市民たちが味わっているものだ。ハンガリーとポーランドが、リベラルな民主主義の希望に満ちたモデルから、非リベラルな、陰謀論に心を支配された多数派の体制に変身したのだ。他のヨーロッパは、自分たちの家に住みついた不気味な生き物を、どうして良いのかわからない。

リベラルなエリートたちはうぬぼれ、EUの制度に自信過剰になっていた。しかし、より重要なことは、ポピュリズムが拡大する背景を、イデオロギーとしてではなく、心理的な要因として理解できなかったことだ。

中欧の変身は、およそ30年間にわたり、この地域の政治を突き動かした「西側をまねる」ことから生じた。それは、民主化、自由化、収れん、統合化、ヨーロッパ化、さまざまな名前で進められた。実際、そのために共産主義後の諸国は2万もの新しい法律や規制を採用した。何一つ、自分たちが議会で討論したものではない。EUに加盟するためだった。

外国の政治経済モデルを採用することには、道徳的、心理的な、予想外のマイナス面があった。模倣者にとって、生活はその不十分さ、劣った、従属した、アイデンティをなくした感覚に支配されていく。理想化されたモデルをコピーするには、自分のアイデンティを、侮蔑とまでは言わないが、不断に批判する必要がある。しかし結局、理想というのは実現不可能である。

1989年以降の解決は、当然、化膿していく怨嗟を広めたのだ。今や、中東欧に広がるネイティビズムの波の背後で、国民的な怨嗟こそ政治を突き動かす力となっている。ポピュリスト反革命とは、西側のリベラルな民主主義を模倣することを根本的に拒否する姿勢だ。

もう1つの要因は、EU加盟後、中東欧諸国から生じた大規模な人口流出である。人口減少は、過去20年間に政治・経済変化から多くの利益を得た諸国が、それにもかかわらず、ある種の喪失やトラウマを感じていることを説明する鍵である。1989年から2017年の間に、ラトヴィア、リトアニア、ブルガリアでは、それぞれ人口の27%23%21%が流出した。ルーマニアからは2007年以降に340万人が去った。その多くは40歳以下の若者だ。地域全体が、高齢化、出生率の低下、大規模な移民流出で、人口減少がパニックを生じている。

西欧の市民たちは、いつも、EU内の人の自由移動について苦情を述べる。しかし、多くの中東欧市民が言うとき、それは逆の意味だ。国家は才能やスキルのある人々を失い、教育など、社会資本への投資を奪われている。

もしあなたが、若者たちの多くが去ることを願っているような国に住むとしたら、あなたがどれほど成功しているとしても、敗者のように感じるだろう。この喪失感と劣等感が、ポーランドを新しいポピュリズムの典型にした。他方、模倣を指導した共産主義後のリベラル派は、自分たちの国を去って、2度と帰らぬ者たちの政治的代表とみなされた。

小国は自分たちの文化が消滅する世界に生きている。急速な技術革新や大規模な職場の移転とともに、彼らはエスニックと文化の多様性を生存の危機と感じている。しかし彼らは、EUから切り離されることもまた、自国にとって大きな悲劇となることを知っている。東西の分断を再現しても人口が戻ることはなく、経済的展望が失われる。

模倣者を続けることは苦痛だが、ポピュリストたちがEUを崩壊させることも恐ろしい。中東欧の「悪夢」は永久に続く現実となった。

PS Jan 21, 2019

Macron’s Great Gamble

JEAN TIROLE

FT January 22, 2019

France and Germany reaffirm their treaty vows

FT January 23, 2019

Europe can break the Brexit impasse

Bob Diamond

NYT Jan. 22, 2019

In Poland, the Limits of Solidarity

By The Editorial Board

FT January 24, 2019

Emmanuel Macron receives a lesson in populist politics

Philip Stephens


 インドの政治と経済

FT January 21, 2019

The raid on the Reserve Bank of India is risky

FT January 22, 2019

Modi’s electoral juggernaut looks less unstoppable

Amy Kazmin

FP JANUARY 24, 2019

India’s Digital Dreamer

BY RAVI AGRAWAL


 権威主義体制の前進とリベラルの後退

FT January 22, 2019

The rise of the populist authoritarians

Martin Wolf

権威主義が広がっている。それは貧しい諸国だけでなく、豊かな国でも、特に、アメリカでも起きている。ドナルド・トランプは、権威主義的支配者を目指すポピュリストの古典的な例である。

Erica Frantzは著書(Authoritarianism: What Everyone Needs to Know)で、現代の権威主義者に関する2つの特徴を挙げている。第1に、それは民主主義を内側から食い破る。第2に、それはしばしば最も危険な独裁体制、すなわち、個人崇拝を目指す。ロシアのプーチン、ベネズエラのチャベス、トルコのエルドアンがそうだ。

「権威主義的な体制」をどう定義するのか? その答えは、民主主義の否定、である。民主主義とは、自由で公正な選挙によって誰が権力を持つかを決めるシステムだ。意見の自由な表明、自由なメディア、偏りのない選挙の実施、結社の自由、政治的な競争に必要な資源を集める自由。しかし、現代では選挙が正当性の源となっている。それゆえ多くの権威主義者は「似非民主主義」、だれもが知っているように、指導者の敗北しない選挙を実施する。

強権指導者はポピュリストから現れる。ポピュリストたちは、この国の問題を解決することができるのは自分たちだけである、と主張する。伝統的なエリートたちは腐敗し、無能である、という。専門家、裁判官、メディアは信用できない。有権者は、人民の意志を体現する指導者の直感を信用するべきだ、と。そして、同様に、「人民の敵」を弾圧する。

新しいメディアは政治的な変革に道を拓き、怨嗟を利用し、真実という概念を破壊した。幸い、今までのところ、高所得国の確立された民主主義は権威主義体制に転落していない。しかし、多くの国で権威主義の傾向を持つポピュリストたちが権力に手をかけている。その責任は、既存の政治エリート、ビジネス・エリートたちが、人口の大部分の運命に無関心であり、欧米の金融危機が如実に示した、その強欲と無能さにある。

しかし、新しい独裁者たちは答えを示さない。プーチンのロシアは経済的衰退を続けている。トランプが「アメリカを再び偉大にする」というのは詐欺である。彼らの国を貧しくし、国民の自由を奪う。

法治国家に住むわれわれが民主主義による答えを示すときだ。その責任は重い。

FT January 22, 2019

The west needs its own perestroika moment

Timothy Garton Ash

30年前、私は中欧の希望にあふれる通りを歩いた。ソ連のペレストロイカと呼ばれる改革政策が1989年のベルベット革命を始動しつあった。

この1年、私はイギリス議会を訪れ、西欧諸政府の執務室を訪れ、シリコンバレーのFacebook本社を訪れた。今や西側がペレストロイカを必要としているからだ。

そう考えたのはFacebookMenlo Park campusを訪れて会議を観ていたときだ。彼らは、世界中の20億人の利用者がソーシャルメディアのプラットフォームで何を観てよいか、決めていた。厳密に、どのような条件なら、女性の乳首が見えてもよいか? 「公人」の定義とは何か? 彼らは議論していた。

私がFacebookの内部の政策会合を目撃するように招待されたのは、ミャンマーで広まった大量殺戮に及ぶヘイト・スピーチを、意図しないままに拡散した責任を問われ、オンラインにおける女性への権利侵害、2016年のアメリカ大統領選挙におけるロシアの情報介入に果たした悪名高い役割、これらに応えるためだった。

Facebookは民間のスーパーパワーである。私はそのとき思った。「これがFacebookのグラスノスチだ。」 それはかつてソ連の指導者であったゴルバチョフが進めた、管理された透明性、情報公開であった。そして、私は思った。今やわれわれがペレストロイカを必要としている。それはシステムの根本的リストラクチャリングであった。

Facebookが自由な言論と民主主義のより良いフォーラムになる方法を、私は求めた。利用者のために情報の管理を拡大し、「フェイクニュース」と闘う事実のチェックを強め、地域の専門家によるレビューや独立した審査機関を設ける。要するに、われわれは世界的規模のデジタル公共圏となる義務を明確にし、適度な政府規制、産業規模の自主規制、プラットフォームに特化した手段、それらをミックスすることを目指す。

ソ連のぺレストロイカは共産主義システムの中央集権的な試みであった。しかし、西側のペレストロイカは多元的なステークホルダーの多極的協力を再編するものだ。政府、議会、ビジネス、大学、NGO、個人が含まれる。前者は失敗したが、後者は成功するかもしれない。

メイ首相のBrexit合意案は否決され、ドナルド・トランプ大統領の下でアメリカの政治システムは同様に厳しい緊張状態にある。1989年の勝利の後、資本主義は金融化を進め、米英の不平等が著しく拡大した。ポピュリズムが台頭した文化的側面も重要だ。地政学的な敵を失った米欧関係は、トランプのNATO離脱を恐れている。

今また、30年前と同じように、すべてが危機の中のチャンスをつかむ諸個人の営為にかかっている。

PS Jan 22, 2019

Trump, Macron, and the Poverty of Liberalism

KISHORE MAHBUBANI

西側のリベラル派で、トランプの当選がアメリカ社会にとって災難であること、マクロンの当選がフランス社会の勝利であること、このことに反対する者はいない。しかし、逆のことが正しいだろう。

なぜパリには暴力的な街頭デモがる続き、ワシントンDCにはないのか? 黄色いベスト運動の人々は、マクロンが彼らの苦境について配慮しないし、理解していない、と考えるからだ。

マクロンは意味のあるマクロ経済改革を試みた。ディーゼル燃料への増税は、フランス政府の赤字を減らし、炭素排出量も減らす。フランス財政が健全化すれば、それは投資を増やし、長期的にはフランス社会の下位50%にも利益になる、と願った。しかし、人々は長期的な利益のために短期の苦痛を受け入れるほど、指導者を信用しなかった。

対照的に、トランプは、アメリカ社会の底辺、少なくとも白人の信頼を得ている。確かにトランプは億万長者だが、リベラルでも保守派でも、アメリカのエスタブリシュメントを攻撃した。彼は底辺層にとってカタルシスをもたらす政治家だった。

エリートたちは個人の自由の拡大だけを重視して、不平等が拡大することについては何もしなかった。2001年の中国WTO加盟後は、市場の「創造的破壊」が強まった。エリートたちは、仕事を失った人々に責任があった。しかし、彼らへの支援はなかった。

リベラル派がトランプを倒すには、有権者の信頼を取り戻す必要がある。そのためには、成長の利益をトップ1%ではなく、下位50%にもたらすための構造改革を行うことだ。それは理論的に容易であるが、実践的には多くの既得権者が反対する。

トランプは必要なウェークアップ・コールであった。マクロンは幻想を振りまいただけだ。

FP JANUARY 22, 2019

Springtime for Strongmen

BY ROBERT KAGAN

2018年に独裁者が増えたのは、ワシントンがグローバルな縮小政策を採用したからだ。それは独裁者に頼る政策だ。それは1960年代後半から1970年代初めに、ニクソンとキッシンジャーが取った戦略だった。ニクソン・ドクトリンは、海外におけるアメリカの関与を減らすために、イラン国王からサウジ王室まで、ワシントンのすべての駒をテーブルに並べた。しかし、その1つの結果は、イラン革命であり、もう1つの結果が、アメリカを攻撃した911の犯人19人中の15人が支持するワッハーブ主義の蔓延であった。

今、アメリカ外交の縮小を支持する研究者たちは、ワシントンが世界の「多様性」に適用するべきだ、という。それはおそらく、独裁者と独裁者を目指す支配者たち、そして、減少する民主主義体制との、素晴らしいミックスであるだろう。他国はガバナンスについての対立する意見を持ち、そのルールによって自分たちの国際秩序を確立しようとする、それがアメリカの適用する現実だ、とGraham Allisonは述べた。

他にも、独裁者が増える理由はある。西側は19世紀後半の人種差別的帝国主義者のように行動した。すなわち、ユダヤ=キリスト教の伝統を欠く社会には民主主義が機能しない、と信じていた。また、独裁者たちは各地に援助を与えた。しかも、中国の独裁体制は、ロビイストを雇わなくても、アメリカ企業が中国市場の好条件を得るために働いた。そして、アメリカ人自身が民主主義について自信を失った。政治は分裂し、議会は機能しない。アメリカは、仕事のできる独裁者たちとともに、無意味な秩序を破壊すればよい。その感覚は、ヒトラーやムッソリーニが支持された背景にもあった。

最後に、人々は自由を求めるが、他方で、安全保障も、家族、部族、民族、強権指導者に頼る。われわれは、民主主義が生き延びるために、ジャングルが広がることに対して戦い続ける必要がある。


 AOCの増税案

NYT Jan. 22, 2019

Alexandria Ocasio-Cortez’s Tax Hike Idea Is Not About Soaking the Rich

By Emmanuel Saez and Gabriel Zucman


 経済学の反省

FP JANUARY 22, 2019

The End of Economics?

BY FAREED ZAKARIA

冷戦後の世界を支配した「経済学」の力は失われた。現実の世界は、経済学の前提とは大きく異なっている。人間の合理的な行動を前提する経済学は、「行動革命」によって否定された。世界金融危機がそうだ。また、国家の行動を説明することは、経済学だけではできない。

PS Jan 23, 2019

The Three Revolutions Economics Needs

EDMUND S. PHELPS


 愛国主義的アニメの誘惑

FP JANUARY 23, 2019

Super-Patriotic Anime Youth Wars!

BY TANNER GREER

共産党は、中国の若者たちが日本のアニメに夢中になることを危惧している。中国国民に歴史的な苦しみを与えた日本について、そのポップ・カルチャーが混乱、衝撃、怒りを生むのだ。多くの中国人は、これが若者の心をめぐる戦争だ、と感じている。しかも、敗北しつつある

日本の歌やアニメを規制する法律が多くできている。しかし、政府間の地政学的な判断より、ファンがもたらす熱狂とビジネスが上回っている。もはや旧世代のような日本人に対する憎悪は観られない。「愛国教育」によって日本を嫌っていた若者も、漫画やアニメ、カラオケを通じて、日本のことを知るようになって、考えが変わった、という。


 ベネズエラへの介入

The Guardian, Thu 24 Jan 2019

Donald Trump’s ship of fools is heading for the rocks in Venezuela

Simon Tisdall

FT January 24, 2019

The risks of Trump’s Venezuela freedom cry

Edward Luce

FT January 25, 2019

Venezuelan crisis calls for concerted diplomacy


 南シナ海

FT January 24, 2019

South China Sea: Fishing on the front line of Beijing’s ambitions

John Reed in Hanoi


 トランプの壁

NYT Jan. 24, 2019

Trump’s Wall of Shame

By Jamelle Bouie

FP JANUARY 24, 2019

Trump and May Are Discrediting Democracy

BY SUZANNE NOSSEL

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The Economist January 12th 2019

Red moon rising

Politics in Washington: How America’s shutdown ends

Ageing in Japan: Home help

Rural Australia: Immigrants in the outback

(コメント) コンゴ民主共和国の大統領選挙、パキスタンの軍・警察による国家管理、ベラルースとロシアの関係悪化、新興市場の金融不安と米中関係、なども読みましたが、特に、挙げません。中国の国策による科学技術開発が成功するのか、記事は取り上げています。他方、日本では老人介護の自宅に押し戻す社会保障コストの削減です。

アメリカ連邦政府の一部閉鎖が、トランプと民主党主導の議会下院との政策の妥協案なら、簡単にできる、と指摘します。トランプは建設費の一部を手に入れ、民主党は子供のときに非合法に入国した移民たちの市民権を手に入れます。

オーストラリアの移民政策は興味深いです。地方の人口減少を食い止める積極的な政策として移民を受け入れます。新興市場への投資や貿易も、調整政策の妥協案が可能だと思います。

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IPEの想像力 1/28/19

日韓の防衛関係者による摩擦は、日米韓の安全保障をめぐる同盟関係を著しく損ない始めます。朝鮮半島の非核化や経済復興で東アジアの繁栄が共通に保証されるコースではなく、北朝鮮への制裁や竹島問題など、日韓の対立がアジアのBrexitになり、アメリカのトランプ政権が離脱するコースを取るのでしょうか?

北方4島(歯舞・色丹・国後・択捉)がロシアとの和平条約を妨げているとき、竹島、尖閣諸島の紛争が激化する中で、東アジアでは朝鮮半島に似た準戦時体制が拡大します。日本の、今は過疎の村々にも、いつか前線が築かれ、周辺諸国からも軍人たちが、物資と一緒に広大な領域へ配置されるのでしょうか?

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それまでの軍事的な威嚇と異様なナショナリズムの高揚は、日本を外交的に孤立させた。国境地帯における治安の悪化、民兵集団による軍事的挑発が、周辺諸国に行動を促した。

ロシアの演出した軍事侵攻と反撃から始まって、北海道の東半分が占拠され、あるいは、中国軍が沖縄や九州南部、四国南部、紀伊半島南端への同時上陸を開始し、並行して、中国空軍の支援する朝鮮半島の南北合同軍が近畿北部から能登半島まで、沿岸に何十カ所も軍事拠点を設ける。

2期目のトランプ政権はロシアとの交渉で、北海道を与える代わりに、中国・朝鮮合同軍と米軍が対峙するときは米軍を支援する、とプーチンに約束させる。他方で、中国軍は九州全域を支配し、四国の南半分と紀伊半島の各地に拠点を確立する。

それは、2022年。何が発端であったのか、論争が続く。戦略的な合意形成を欠いた議会、日本政府の外交交渉失敗、乱立する民兵組織によって繰り返された危機の末に、ようやく覚醒した、イスラエルに似た日本です。

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朝鮮半島の再統一、ロシアのシベリア開発において、日本と中国の産業界は協力し、共通の産業規格や情報通信・輸送のインフラを整備する。

米軍基地も、核兵器も、原発も、日本列島には存在しない。日本人の半数以上が、台湾から東南アジア、そしてオーストラリアとニュージーランドに渡って広く分散し、居住する。

それは1度も戦争することなく、しかし、柔軟に、日本人が対応し続けた成果である。

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外国人排斥から始まって、地域主義的な差別、部族主義的な闘争が激化し、統一政府はもはや成立しない。互いにインフラを破壊して、原始的な暴力を行使する。冷酷で野蛮な支配者ほど肥沃な土地と女性を奪った。

日本の所得水準は5分の1に低下し、人口も半減した。長期の内戦状態で、ひどく荒廃し、汚染された土地に、周辺諸国のだれも関心を寄せない。

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