IPEの果樹園2018

今週のReview

9/10-15

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フラッキングの金融バブル ・・・世界金融危機10周年 ・・・スウェーデン選挙 ・・・アルゼンチン通貨危機 ・・・「長期停滞論」とマクロ経済学 ・・・中国例外主義の終わり ・・・

[長いReview

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主要な出典 FP: Foreign Policy, FT: Financial Times, Foreign Policy, The Guardian, NYT: New York Times, PS: Project Syndicate, SPIEGEL, VOX: VoxEU.org, Yale Globalそして、The Economist (London)

[これは英文コラムの紹介です.私の関心に従って,いくつか要点を紹介しています.関心を持った方は正しい内容を必ず自分で確かめてください.著者と掲載機関の著作権に従います.] 


 フラッキングの金融バブル

NYT Sept. 1, 2018

The Next Financial Crisis Lurks Underground

By Bethany McLean

20年前、George Mitchellという企業家が、乾燥した土地に含まれる石油と天然ガスの多くを、高圧で水を注入することにより地表に押し上げることができる、と証明した。約10年後、この技術はフラッキングと呼ばれて、本格的に始まった。

短期間で、アメリカのフラッキングは世界のエネルギーを逆転させた。今や、アメリカは世界最大の天然ガス生産者であり、サウジアラビアやロシアも脅かすほどの、石油生産国である。それは地政学の転換をもたらす5つの決定要因の1つ、とまで言われた。

フラッキングの影響は、環境に関して、地震や水質汚染など、懸念を呼んだが、それほど論争されていない問題がもっと重要になるだろう。

フラッキングについての最大の懐疑派はウォール街にいる。この産業は資金を生み出す安定した基礎をまだ示していないからだ。採取・生産の上位60社が、操業と資本支出に必要な十分な資金をその活動から得ていない。2012年半ばから2017年半ばに、全体として、4半期で90億ドルの収益を生まない無償の資金を得てきた。

これらの企業が生き延びてきたのは、懐疑派はいるが、多くのウォール街の人々が彼らに資金を与え続けたからだ。パイオニアの1つであるChesapeake Energy社は、2001年から2012年までに、164億ドルの株式と、155億ドルの社債を売って、ウォール街に11億ドルの手数料を支払った。Chesapeake Energyは、他にも公表されない形で、資産の売却により300億ドルを得たが、それはまさにEnron社がやったように、天然ガスの将来の販売で支払う借金だ。

著名なヘッジファンドのマネージャーであるDavid Einhornは、投資家の会議で疑問を示した。フラッキングによる油田は急速に産出量が減少する。それゆえ、操業を続けるためには油井を増やし続けるしかない。それは以前の油井が産出を減らす分を相殺する大規模な投資が必要なことを意味する。

この資本を貪欲に求める産業が生き延びているのは、2008年の金融危機後に、歴史的な低金利が続いたからであろう。言い換えれば、フラッキング・ブームの責任は連銀にある。

Chesapeake Energyの経営幹部であったAubrey McClendon2016年春に死亡したのは、この産業の終末を予告したように見える。オクラホマ・シティのコンクリート・ブリッジに、加速して激突した。衝突を避けるような努力はなにもしなかったようだ。その前日、連邦大陪審が反独占法で有罪の判決を彼に示した。

McClendonは、かつてForbesの資産家番付で134位になった人物だ。推定30億ドルの純資産があった。しかし彼は多額のローンと、個人の保証で企業のローンを負っていた。債権者の弁護士たちが彼の資産を奪い合った。ハゲタカ・ファンドの1人は、半額以下でその債務を買った、と言う。

しかし、フラッキングは復活した。だれも夢想だにしなかったことだが。その最大の理由は新しい地域West Texas and Southeast New Mexico、いわゆるthe Permian Basinに投資を拡大したことだ。しかも、復活を信じる者たちは、技術が大幅に改善した、と言う。しかし、一部で黒字が出たとしても、長期的に産業を維持する水準には達していない。

フラッキング・ブームが起きた第1の要因は、ウォール街だ。金利が低いままであったから、巨額の債務に依存できた。プライベート・エクイティの超資産家たちは利益を上げたが、それは会社が利益を上げたからではない。収益は他者への販売により、あるいは、大衆から資本調達したものだ。株式を売却したり、すでに株式公開した企業に自身を売却したりすることで、プライベート・エクイティや経営幹部の資金作りにだれもがつながっている。

投資家たちが、うまくいくと信じている限り、続くのだ。それが失敗するまで。


 世界金融危機10周年

FT September 4, 2018

Why so little has changed since the financial crash

Martin Wolf

1970年代のスタグフレーションは(ケインズ主義への)反革命をもたらした。1980年代は、市場にと国家の役割、マクロ経済政策の目標、中央銀行の使命について、根本的な変化を生じた。

世界金融危機の後はどうだったか? 政治家や政策決定者は過去にもどったのか? あるいは、異なる未来を目指したのか?

彼らは改善した過去を目指した。それはちょうど1918年に起きたことだ。破滅的な戦争を経験して、彼らは平和に関する新しいアイデアを実現した。「集団的安全保障」と国際連盟だ。しかし彼らは戦前経済への復帰を望んだ。特に金本位制の再建だ。2008年の危機後も、金融規制の改善という形で、過去への復帰を望んだ。

危機後の政策担当者たちが目指したのは救済であった。金融システムを安定化し、需要を回復させることだ。破たんした金融システムに国家がバランス・シートを拡大した。金利を引き下げ、財政赤字を膨張させた。そして、複雑な新しい金融規制を行った。1930年代のような経済崩壊を回避し、(弱い)回復をもたらした。

これらは危機前のコンセンサスにあまりにも近いものだった。

金融危機は不平等を拡大した自由市場システムの破滅的失敗であった。しかし、1970年代と違い、政策担当者は政府と市場の役割を全く見直さなかった。「構造改革」と言われるものは、なお、減税や労働市場の規制緩和であった。不平等は懸念されただけで、何も行動しなかった。

ポピュリストたちが支持を集めたのは当然だ。政治は、多くの市民が苦しむことに、何も答えなかった。

なぜ危機前の正統的な見解が維持しているのか? 1つの説明は、それに代わる良いアイデアがない、ということだ。さまざまな主張がある。家計も債券より株式を買う。債務の利払いに対する税額控除を廃止する。企業経営者の報酬システムを見直す。企業の自己資本、中央銀行、債務を創る銀行システム、の見直し。金融だけでなく、税制や反トラスト法にも及ぶ。

しかし、今はこれらを包括するイデオロギーがない。良いアイデアはあっても、既得権を持つ人々の政治力が強い。

優れた政策を示せなければ、市場経済やリベラルな民主主義とともに、デマゴーグたちがすべてを押し流す。

PS Sep 4, 2018

What Lehman Brothers’ Failure Means Today

HAROLD JAMES

世界金融危機は、主として、リーマンブラザーズやアメリカ金融システムの問題ではなく、「市場の失敗」でもなかった。

「次のリーマン」を避けることが、金融危機後の政策担当者たちの支配的関心であった。それは金融機関の救済と、改革の延期をもたらした。

3つの主要な認識が広まった。1.チャールズ・キンドルバーガーの名著が注目したミンスキーの金融危機循環説が広まった。21929年の大恐慌やその後の大不況が重視され、債務は破産処理されず、公的債務になった。3.「アメリカ資本主義の終わり」という主張が、事実によってではなく、心理的に支持された。

世界金融危機が示したのは、市場の失敗ではなく、金融の世界に蔓延した、機能しない、非市場型の企業だった。リーマンブラザーズとは、単一の企業ではなく、40カ国以上に散らばる、7000以上もの分離した機関によって構成されたものであり、その破産処理は複雑な、コストのかかる処理となった。世界は今も、それゆえに、大不況を起こす状態にある。

危機は、増幅された短期利益主義の産物であった。銀行は融資が有毒化する前にそれを市場で売却することを望んだ。他の市場参加者たちは、それを長期投資ではなく、短期的な賭けの機会とみていた。その意味で、ボラタリティーは望ましいのだ。

リーマンショックは、国際情勢に占めるアメリカの金融と政治の優位が失われた、という見方を、事実が示す以上に、誇大に言説として広めた。長期的には、アメリカがその約束を実現する力を持っている、という信頼が失われた。危機が示した「感染」とは、金融ではなく、知的な感染であった。

20076月にiPhoneが販売されていたことには深い意味がある。ソーシャル・メディアのダイナミズムが変化した。さまざまなプラットフォームやアプリが、数えきれない人々の社会生活を変えた。長期的な関与よりも、短期主義の思考が強まり、ハイパー個人主義を促して、人々の政治や行動パターンを変えた。異なる意見を避け、同類だけで称賛する、オンライン型の敵対視やハラスメント、情報操作が、今、われわれを苦しめている。

政治のボラティリティが増したのは、連続性を否定し破壊を称賛する、21世紀型政治・社会の持つ、こうした心情だ。金融危機がそれをさらに強めた。

The Guardian, Wed 5 Sep 2018

Ten years after Lehmans, it’s as if we’ve learned nothing from the crash

Aditya Chakrabortty

FP SEPTEMBER 5, 2018

The Buck Stops Here: Europe Seeks Alternative to U.S.-Dominated Financial System

BY KEITH JOHNSON

FT September 7, 2018

Five surprising outcomes of the 2008 financial crisis

Gillian Tett

未来を予測することはむつかしい。

リーマンショックから10年を経て、多くの議論がある。1つの問題はこうだ。われわれが10年前に予測したことに比べて、その後の金融界の変化はどうだったのか? 私自身の答えは、驚いた、である。

少なくとも、金融危機後の変化について、直感に反する5つの特徴が指摘できる。

1.投資家も銀行も、過剰なレバレッジがいかに危険か、学んだはずだ。当然、債務は圧縮されただろう。しかし、そうではない。アメリカのモーゲージ市場は圧縮された。銀行やヘッジファンドもそうだ。しかし、世界の債務は膨張した。

2.リーマン倒産で「大き過ぎて潰せない」ことが危険だとわかった。大銀行は分割するのがよい。しかし、彼らはさらに巨大化した。

3.危機の源であったアメリカの金融支配が、危機後、後退すると予測された。もっとおとなしい勢力に変わるはずだった。しかし、そうではない。アメリカの投資銀行はヨーロッパを圧倒し、ニューヨークとシカゴは勢力を膨張させた。

4.「シャドー・バンキング」はどうなったのか? 非銀行の金融機関は、莫大な、不透明な、隠された投資機関として、システミック・リスクであった。これは一掃されたのか? しかし、そうではない。むしろ銀行規制は、より多くの活動を陰に押し込んだ。

5.金融犯罪者たちは法的な制裁を受ける、と予想された。1980年代のS&L危機後には、多くの訴訟が行われ、関係者が投獄された。しかし、この10年間で、確かに銀行は多額の罰金を支払ったが、訴訟は直接に犯罪に関わった者だけだった。

なぜか? ・・・金融エリートたちの力はそれほど強い。・・・改革派がまとまるイデオロギーがない。・・・金融危機後に、政治的な左派ではなく、反エスタブリシュメントを唱えた右派の諸政党が支持を得た。彼らは(言うほど)金融システム改革に本気で取り組む気がない。

改革は、これから進むのか? ・・・おそらく。しかし、予測するのはむつかしい。

FT September 6, 2018

Lehman insider: why the bank could and should have been saved

Scott Freidheim

PS Sep 6, 2018

The Case for a US Public Banking Option

THOMAS HERNDON, MARK PAUL

アメリカの家計の貯蓄・決済システムを扱うのは、民間商業銀行から分離した、国有銀行システムでよい。

YaleGlobal, Thursday, September 6, 2018

Tethered to the US Financial System

Will HIckey


 スウェーデン選挙

The Guardian, Sun 2 Sep 2018

The Guardian view on the Swedish elections: danger ahead

Editorial

スウェーデンは、社会民主主義の、人種差別など存在しない、効率的な経済や政策を実行する国だ、という思い込みがあった。それは間違いだ。

FP SEPTEMBER 5, 2018

So Long, Swedish Welfare State?

BY NIMA SANANDAJI

そとから観れば、スウェーデンは何もかもそろっているように見える。高い生活水準、強い社会保障、世界で最も先進的な価値観、病気や出産に対する寛大な休養措置。医療、教育、高齢者介護における公的な資金と、競争や選択の重視。

しかし、多くのスウェーデン人は、自分たちの社会の経過に不満を感じている。特に選挙戦では、移民、犯罪、経済停滞、驚くことに、社会福祉そのものも重要な争点であった。

有権者の不安には、経済停滞と地方政府の問題が影響しただろう。

FT September 6, 2018

Sweden’s unique political brand is put to the test

NYT Sept. 6, 2018

How the Far Right Conquered Sweden

By Jochen Bittner

FP SEPTEMBER 6, 2018

Swedes Can’t Go Home Again

BY ANDREW BROWN


 習の大計画

FT September 3, 2018

Greater Bay Area: Xi Jinping’s other grand plan

Ben Bland in Zhuhai


 ヨーロッパのナショナリズム

FT September 2, 2018

Europe’s nationalists are on the march

Wolfgang Münchau

FT September 3, 2018

Liberals, nationalists and the struggle for Germany

Gideon Rachman

1989年、“we are the people”という叫びが世界に響き渡った。それは東ドイツの大衆デモのスローガンであり、ベルリンの壁を倒し、冷戦を終わらせた。

およそ30年後、同じ叫びが再び東ドイツから起きた。それは反移民を唱える大衆デモであり、極右の運動につながるものだ。

1989年、改革派の指導者ゴルバチョフが登場し、本質的にソ連の傀儡政権であった東ドイツ政府の命を奪った。今、ドイツ政府は、再び、情勢が大きく変化したと感じている。今回は、ワシントンではなく、モスクワだ。

FP SEPTEMBER 5, 2018

Germany’s Return of the Repressed

BY YASCHA MOUNK


 アルゼンチン通貨危機

FT September 4, 2018

Argentina unveils austerity programme to stem crisis

Benedict Mander in Buenos Aires and Robin Wigglesworth in New York

PS Sep 3, 2018

Decoding Currency Crises

ANDRÉS VELASCO

2つの国を考えてみよう。A国はGDP5%にあたる財政赤字がある。B国は9%だ。さらに最近まで、A国の公的債務はGDP50%であった。B国はもうすぐ90%に達する。

A国とはアルゼンチン、B国とはブラジルだ。2018年初めから、アルゼンチン・ペソは価値が半分になった。IMFから500億ドルの融資を得るために、アルゼンチン政府は緊縮策を取ったが、投資家は安心していない。他方、ブラジル・リラは、10月の大統領選挙に関する不安から下落している。

従来の見解では、アルゼンチンに問題があり、ブラジルにはない。その理由は経常収支の違いだ。2017年末に、アルゼンチンはGDP5%に近い赤字だが、ブラジルはほぼ均衡しているからだ。金融市場は、大統領候補たちが何を約束しても気にしない。資本流入の「サドン・ストップ」に対して、赤字国は耐えられない、と。

しかし、経常収支はその国の貯蓄と投資との差額を示す。アルゼンチンの赤字は、政府と民間の貯蓄を超えて、生産力に投資したことを意味する。逆にブラジルは、経常収支の均衡と、GDP9%に近い財政赤字を示す。ブラジルの民間部門は、固定資本に投資するより、政府債券に投資することを好んだのだ。ブラジルの投資額はGDP15%でしかなく、他国に比べて少ない(チリ23%、インド33%、中国44%)。

毎年、資源の5分の1を生産の拡大(将来の支払い能力)に投資する国と、そのはるかに少ない投資しかしない国と、どちらが安全な投資先なのか? ブラジル人は年金の支払い(財政赤字の多くを占める)が正しいかどうか、無限に論争しているが、1つだけ明確なことは、退職者は将来の債務返済に何の役にも立たないことだ。

従来の見解は、別の理由も示す。ブラジルには3600億ドルの外貨準備があり、アルゼンチンには500万ドルしかないことだ。しかし、両国は変動レート制であり、市場に介入する必要はないはずだ。

なぜ外貨準備だけ特別視するのか? 政府には他の資産がある。ブラジルの中央銀行総裁が、ニューヨークで債券発行し、外貨準備を増やしたら、市場はそれを称賛するのか? あるいは、無視するのか?

アジアに粉ミルクを大規模に輸出するため、アルゼンチンの民間農業輸出者が国際市場で債券発行し、高度に競争力のある酪農工場を建てた場合、投資アナリストは称賛しても、マクロ経済学者はアルゼンチンの債務が増えたことを警戒する。

酪農工場は、外貨準備に比べて、流動性が低い。しかし、もしよく整備された金融市場と法制度があれば、酪農工場も速やかにモーゲージ債券を発行して現金化できる。工場は将来のドル収入をもたらすが、外貨準備はそうではない(海外からの預金であればマイナスになる)。市場の不安に対して、アルゼンチンは必要なインフラ投資をキャンセルしている。短期ではドルを節約するが、中期的にはドルを失う。

従来の「流動性」概念は恣意的である。それ自体が内生的な変数だ。楽観的な時は創出され、信認が失われると、一気に破壊される。流動性危機は、その国の経済条件と無関係に生じる。教訓は、各国が流動性の懸念に圧倒されないことだ。アルゼンチンが漸進的に財政再建を進めた方針は正しい。

それは国際金融システムに、自己実現的な流動性危機を生じる欠陥があることも示している。IMFを超える国際的な最後の貸し手が必要だろう。ECBのドラギ総裁が、ユーロを護るために「何でもする」と断言したように、アルゼンチンの救済を市場に保証するドラギはどこにいるのか?


 「長期停滞論」とマクロ経済学

PS Sep 3, 2018

Setting the Record Straight on Secular Stagnation

LAWRENCE H. SUMMERS

Joseph Stiglitzは、保守派のJohn Taylorに同調して、ビル・クリントンとバラク・オバマの両政権の経済チーム、(名指してはいないが)私を攻撃した。「長期停滞」論がオバマ時代の低成長率に言い訳を与えるために示された宿命論だ、というのだ。

これはまったく間違っている。「長期停滞」論とは、Alvin Hansenが主張したものだが、民間経済だけでは、急激な縮小の後に、完全雇用水準まで需要が戻らない、だから、公共政策が必要だ、という議論だ。

これは宿命論とは無関係だ。それは特に財政的拡大政策による需要を求める議論であった。私は財政赤字がそれ自体で税収をもたらすと主張したし、不平等の拡大や構造変化が需要を減らすことも強調した。

オバマ政権の経済チームで、私たちは最低でも8000億ドルの財政刺激策が必要だと考えていた。政権への高い支持があったので、インパクトを強めるために、1兆ドルに近づけようと話し合った。しかし、残念ながら議会は僅差で法案を否決した。もっと大規模な刺激策が必要だ、という論拠を見いだせたとは思えない。

後から説明するのは簡単だ。Stiglitzは、2002年の論文で、政府が支援するFannie Maeが住宅融資を保証しているから、貸し手が資本を失う可能性は50万分の1もない、と述べた。しかし、2009年には、アメリカ銀行システムを国有化せよ、と彼は要求したのだ。

グラス=スティーガル法の撤廃が金融危機の原因だった、と断定した論文を私は観たことがない。危機に際して注目された機関(Bear Stearns, Lehman Brothers, Fannie Mae, the GSE Freddie Mac, AIG, WaMu, and Wachovia)はこの法律の適用外であった。Citi Bank of Americaはこれに当てはまるが、彼らの損失もグラス=スティーガル法の下で起きたものだ。むしろ、撤廃していたから、救済のための合併が可能だった。

2000年にクリントン政権がデリバティブを規制緩和したことを、Stiglitzは攻撃した。当時、私はこの法案を政府が支持しないよう望んでいた。しかし、2000年の法案を出さねば、ジョージ・W・ブッシュ政権の極端な規制緩和アプローチになるとわかっていた。あの法律は規制緩和それ自体のためではなく、デリバティブ取引に関わる不透明性がシステミック・リスクにならないよう、法的枠組みを与えるものだった。

PS Sep 4, 2018

Secular Stagnation Revisited

ROGER E.A. FARMER

スティグリッツもサマーズも、大規模な財政赤字を求めているが、それは間違いだ。投資家のアニマル・スピリッツが失業水準を決める。

PS Sep 5, 2018

Beyond Secular Stagnation

JOSEPH E. STIGLITZ

PS Sep 6, 2018

Final Thoughts on Secular Stagnation

LAWRENCE H. SUMMERS


 ロシアの戦争

PS Sep 3, 2018

The Toll of Putin’s Wars

ANDERS ÅSLUND

ロシア経済は世界第11位の規模であり、短期であれば、東ウクライナやクリミアで軍事行動を起こすことは可能である。しかし、戦争は高くつく。ロシア国民は次第にそれを学ぶだろう。

ロシアの軍事支出は、2008年から2016年まで、GDP3.3%から5.3%まで増えた。クリミアに関わる政府行政支出は20億ドル。東ウクライナも同じ程度の支出を要したはずだ。ロシアはこの2つの事件だけで年40億ドル、GDP0.3%を支出した。

西側の経済制裁も累積的に効果を発揮する。


 トランプとドル

PS Sep 3, 2018

Trump’s Policies Will Displace the Dollar

JEFFREY D. SACHS


 中国例外主義の終わり

FT September 5, 2018

US and China’s trade war is based on false assumptions

Tom Mitchell

FT September 5, 2018

China’s policy choices crucial for global financial stability

John Plender

PS Sep 5, 2018

China is Losing the New Cold War

MINXIN PEI

PS Sep 6, 2018

R.I.P. Chinese Exceptionalism?

ARVIND SUBRAMANIAN, JOSH FELMAN

アルゼンチンからトルコ、南アフリカからインドネシア、新興市場に再び金融の乱気流が吹いている。しかし、最大にして最重要な問題から目を離してはならない。それは、中国だ。

中国はこれまで経済の基本法則を無視してきた。債務の増大もそうだ。IMFによれば、中国の企業、政府、家計が、この10年間で、増やした債務額が23兆ドルもある。債務/GDP比率は100%も増えて、250%を超えた。普通なら金融危機が起きている水準だ。

債務は、工業基盤やインフラの構築だけでなく、国有企業の赤字を穴埋めし、無駄な公共設備や住宅の建設にも投資された。

中国では、GDP成長が減速しても、投資は巨額に行われ、銀行システムがそれを抑えることもない。なぜこんなことができるのか? いくつかの説明が考えられる。

国内貯蓄と巨大な外貨準備があるから、債務が銀行の損失に変わっても、政府がそれを吸収できる。政府のバランス・シートは、それが可能なほどに強い。あるいは、意思決定が集中しており、迅速で一致した行動が可能である。資本逃避も許さない。

しかしこうした主張は、中国の例外主義が終わったことを認めて、修正しなければならないだろう。国内の債務累積、アメリカとの貿易戦争、一帯一路の地政学的展開とその後退、世界の、特にアメリカが進める金融引き締め。

その修正は避けられなし、近年の歴史に経験しなかったほどの深刻な苦しみをともなう。


 ナイキとトランプ

FT September 4, 2018

Colin Kaepernick is a shrewd choice for Nike’s new campaign

Andrew Hill

ナイキのキャンペーンに採用されたColin Kaepernickは、トランプ大統領との政治対立を抱えたフットボールのスターである。それは政治的な姿勢だけでなく、商業的な効果も狙っている。

NFLファンの中にはナイキに抗議し、ボイコットを求め、靴を燃やす動画を流す者もある。


 中東

NYT Sept. 4, 2018

Crazy Poor Middle Easterners

By Thomas L. Friedman


 インド

FP SEPTEMBER 4, 2018

America Shouldn’t Miss Its Chance With India

BY TIM ROEMER


 イッシング

SPIEGEL ONLINE 09/04/2018

Interview with Wolfgang Ischinger

'We Are Experiencing an Epochal Shift'

Interview Conducted by Britta Sandberg and Mathieu von Rohr


 ロシアと日本の領土問題

FP SEPTEMBER 5, 2018

Russia Won’t Budge an Inch on Islands Japan Claims

BY J. BERKSHIRE MILLER


 イギリス労働党

The Guardian, Thu 6 Sep 2018

Labour’s sole focus should be closing Britain’s wealth gap

Polly Toynbee

FT September 6, 2018

Jeremy Corbyn feeds the nasty populism of the left

Philip Stephens


 トルコ通貨危機

FT September 7, 2018

Turkey’s currency crisis triggers a sense of déjà vu

Leyla Boulton


 ヨーロッパ移民・難民政策

SPIEGEL ONLINE 09/06/2018

A Matter of Survival

How to Humanely Solve Europe's Migration Crisis

By Nicola Abé, Katrin Elger and Fritz Schaap

紛争地域の近隣諸国が国境を開放すること。そのための財政的な責任を、国際社会、特に豊かな諸国が共有すること。


 トランプ政権内部の反抗

NYT Sept. 5, 2018

I Am Part of the Resistance Inside the Trump Administration

FP SEPTEMBER 6, 2018

The Insubordination of Trump Isn’t Treason. It’s Normal.

BY PETER FEAVER

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The Economist August 18th 2018

Modern love

Emerging markets: Turkey’s turmoil

Liberal thinkers: John Maynard Keynes: Was he a liberal?

(コメント) デートの相手を見つけるサイトが、人類にとって欠かせない社会関係の細胞形成を、根本的に転換しつつあるかもしれません。さまざまな社会的障壁、差別、格差、隔離、偏見を超えて、個人として相手を見つめる結婚・パートナーが可能になるからです。それが信仰や社会集団の結束、政治的忠誠心を腐蝕させるとしても、新しい社会的紐帯を生む余地を広げます。

ネットのデート・サイトを利用するのが、異性間より同性間で急速に増えているのは、当然であり、その結果が何を意味するのかはわかりません。日本であれば、非都市空間での交際や社会再生、あるいは、孤独な高齢者の間でデートを促すことになるのでしょう。

ケインズに関する考察は、リベラルの変心・刷新です。ケインズがハイエクに書いた心のこもった手紙を紹介します。社会保障システムや投資の社会計画を支持しても、もちろん、ケインズは決して左派ではなかった。では、リベラルとは何か?

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IPEの想像力 9/10/18

世界金融危機、リーマンショックから10年が経って、世界は変わったか? アメリカやイギリスの金融街は変わったか? ユーロ危機は何を学んだか? 中国から次の金融危機は起きるのか? トルコやアルゼンチンの危機はどこまで波及するか?

なぜ金融街は再び富を膨張させることができたのか? 金融システムは十分に改革されたのか? なぜ金融機関を救済して、住宅保有者や社会保障システムは緊縮されたのか? 金融モデルや経済学は何を間違ったのか? 何を学んだのか?

次の金融システム改革はどうなるのか? 国際金融システムの将来を予想できるか?

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Tettの記事は、危機後に見る5つの意外な変化を指摘します。レバレッジは世界的に見て増えており、大銀行は分割されず、アメリカの金融支配はむしろ強められた。シャドー・バンキングは規制強化によって拡大し、危機に至る責任を告発されて投獄された者は極めて少ない。

だらかGiliian Tettは、グリーンスパンを含む、関係者たちにインタビューしています。「文化」が重要であったのか? 金融ビジネスを支配する「文化」は変わったのか?

その答えは、とても信頼できないな、というものです。

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国際収支不均衡や為替レート、新興市場の通貨・金融危機はどうでしょうか?

トルコやアルゼンチンが示すように、危機は再現しています。経常収支の赤字が増大し、それを資本流入が支えている国は、国際資本移動に変調が生じれば、通貨危機になるわけです。しかし、ならない国もある。

経常収支の赤字が悪いわけではありません。カナダも、アメリカも、大規模な資本流入と移民・人口移動が、社会経済の構造変化とともに、高い成長を実現したわけです。日本も、中国も、輸出を伸ばし、経常収支黒字を続けながら、他国の経常赤字を維持する資本移動を続けました。

資源開発や輸出産業の形成において、高い投資率と成長率が経常収支を赤字にすることは、その意味で、問題ないわけです。他方、極端な金融緩和や土地価格の上昇、株価のバブルにより、好景気が続き、経常収支の赤字が資本流入によって維持される状態の国は、誰もが次の通貨危機、金融危機を予想します。

その引き金が何になるか、トルコの政治犯に関わるトランプ政権による経済制裁なのか、アルゼンチンのマクリ大統領が再選に向けて財政再建より自由化と成長を重視したことがアメリカの金融引き締めや米中貿易戦争によって不安を呼んだのか、それはわかりません。さまざまな要因と決定が市場参加者の行動を刺激します。

グローバルな投資や生産能力の形成・移転と、それを実現するインフラや教育、人口移動を整備することに、各地の政府・権力者が競って参加するのは、歴史的な社会政治過程のグローバル化とともに、好ましい変化です。

しかし、金融市場は危機を繰り返します。また、国家とその政治指導者は投資やブームを刺激し、利用します。

投資家について、金融市場の取引について、銀行について、明確に規制し、彼らが社会的な利益に一致する方向でしか利益を得られない、社会的な損失に対して自ら負担することを制度化する必要があります。金融ビジネスに関わる莫大な利益は、その危機の処理に充てられるべきだし、国境を超えて、最も貧しい人々から救済されるルールを実行するように監視し、違反者を法廷で裁くことでしょう。

IMF改革をめぐる識者たちの報告(VOXのインタビュー)は、過去の見解を繰り返し、浮動性の増大、マクロ政策とその利益の共有、中国の台頭、地域的な金融支援の組織化、IMFのガバナンス、などを指摘するにとどまります。IMFの改革と強化は、グローバルな政治経済過程を超えることができない、と認め、異なる分野に重点を移す必要を感じました。

不平等な社会、偏った成長モデルの制度化が、金融市場の利益を盲信する文化を経て、パニックと通貨・金融危機を生じます。政治家と金融市場との綱引きを、冷静に、社会の長期的な利益から判断する視点が必要です。

労働者や学生の移動、国際移民と知識・技術のグローバルな移転を促すほうが、民間取引やグローバル企業に委ねる貿易・国際資本移動の自由化よりも良い、と思います。金融的利益が支配するグローバリゼーションは逆転するのでしょう。

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