IPEの果樹園2018

今週のReview

3/5-10

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簡易版

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主要な出典 Bloomberg, FP: Foreign Policy, FT: Financial Times, The Guardian, NYT: New York Times, PS: Project Syndicate, SPIEGEL, VOX: VoxEU.org, そして、The Economist (London)

[これは英文コラムの紹介です.私の関心に従って,いくつか要点を紹介しています.関心を持った方は正しい内容を必ず自分で確かめてください.著者と掲載機関の著作権に従います.] 


The Guardian, Fri 23 Feb 2018

The Guardian view on Labour and banks: not casino capitalism

Editorial


PS Feb 23, 2018

Cold War II

RICHARD N. HAASS

FT February 26, 2018

Russia, America and a contest of sick systems

GIDEON RACHMAN

アメリカの大統領選挙に介入することはとんでもないことだ、と思うだろうが、ロシアから見れば、そうでもない。ロシアの歴史において、外国政府への干渉・政治介入は普通のことであった。第1次世界大戦中に、レーニンがロシアに帰るのを助けたドイツもそうである。

2014年にロシアがクリミアを併合した後、アメリカが行った制裁をプーチンは激しく嫌っていたから、その制裁を決めたヒラリー・クリントンが選挙で勝利しないように、またロシアと和解する方針であるトランプを助けたことは、彼にすれば当然だった。

プーチンが学んだ教訓は、もう1つあった。ソ連はアメリカとの軍事力の対抗に努めたが、最後には、軍事的攻撃によってではなく、内部から崩壊した。21世紀に決定的な力は、単に軍事的なものではなく、その国の生命力であり、経済だ。

レーガン大統領の時代には、アメリカの自由が生命力を高めている、と主張できた。しかし、トランプ政権は、それがロシアではなく、アメリカの問題でもあることを示した。

Bloomberg 2018228

Great-Power Rivalry Is Back. The U.S. Is Playing Poorly.

By Hal Brands

FP MARCH 1, 2018

For Whom the Cell Trolls

BY SASHA POLAKOW-SURANSKY


FT February 24, 2018

Theresa May’s moment to soften her Brexit stance

CHARLES GRANT

国民投票から20か月が経っても、イギリス政府とEUの将来の関係をめぐる交渉はほとんど進んでいない。メイ首相は保守党内の党派争いと内閣との休戦協定を守っている。

しかし、妥協のときが来たようだ。EUUKとが受け入れ可能な取引を得るために、メイは優先目標を変更する。ソフトBrexitへの転換だ。

The Guardian, Mon 26 Feb 2018

The Guardian view on Labour’s custom union plan: realistic and smart

Editorial

FT February 27, 2018

Jeremy Corbyn’s welcome shift on the customs union


FT February 25, 2018

The US risks making a strategic blunder over China

ZHOU BO

アメリカが、1979年以来の中国の改革開放政策を好まないのは、愚かなことだ。中国が次第に自由化を実現し、ますます「アメリカに似てきた」ことを意味しているからだ。

ところがアメリカの新しい防衛戦略では、「大国間競争」こそがアメリカの最大の脅威である、と宣言し、中国をアメリカの主要な戦略的競争国家とみなした。近隣諸国を経済的に略奪し、南シナ海の軍事化を進めている、というのだ。

しかし、アメリカは130国以上の国に軍事施設を展開している。他方、貿易は基本的に相互利益である。確かに中国の領土要求は南シナ海で懸念を生んでいるが、国際法は領土要求を禁止していないし、他国も同様に要求している。

世界は重要な2つの問題に直面している。アメリカは衰退してしまうのか? 中国は世界を改善できるのか?

中国はパックス・アメリカーナをパックス・シニカに代えたいという意図などないが、世界の重心は疑いなく東に移動している。


NYT FEB. 25, 2018

Will the U.S. Help the Saudis Get a Nuclear Weapon?

By THE EDITORIAL BOARD


FT February 26, 2018

The threat of regional conflagration in Syria

FT February 28, 2018

Russia and Iran cynically exploit divisions over Syria

DAVID GARDNER

PS Feb 28, 2018

What Putin Wants in Syria

NINA L. KHRUSHCHEVA


FT February 26, 2018

Xi Jinping sweeps away consensus rule in China

Jamil Anderlini

40年間、中国の政治的安定性を保ってきた合議体制を放棄してよいのか?

FP FEBRUARY 26, 2018

Globalization Has Created a Chinese Monster

BY EMILE SIMPSON

FP FEBRUARY 26, 2018

China’s Stability Myth Is Dead

BY JAMES PALMER

FT February 28, 2018

Xi Jinping’s bid to stay in power more of a gamble than it seems

Tom Mitchell in Beijing

これは習近平にとって最大の賭けである。

習はすでに多くのタブーを破ってきた。どれほど高位のエリートでも収賄によって有罪となり、東シナ海、南シナ海では、アメリカや日本との軍事衝突に向かうリスクも犯した。

国家主席の任期を2期に制限する規定を除去する習の意図は、単に、30年間の権力の平和的な移行を制度化していた憲法を破壊するにとどまらない。習は、中国社会を、強権的な支配の時代に戻ると恐れる人々、それを歓迎する人々の間で分断してしまった。習とその共産党指導部は、後者の数が前者を圧倒することに賭けたのだ。

最大の懸念は、都市の教育あるエリート層が、ソーシャル・メディアで攻撃することだった。しかし、彼らこそ1党支配体制の最大の受益者である。世紀転換期の住宅市場民営化で、都市の住宅所有者たちは大幅に富を増やした。

しかし、彼らの多くが文化大革命の混乱を記憶している。習は、党内権力闘争の練達者であるかもしれないが、ますます豊かになり、複雑になって行く中国社会を、政治的に治める才覚はないかもしれない。

共産党はこの変更を論争にしたくない。CCTVは、憲法の多くの他の些末な修正項目と一緒に、長い報告で触れただけである。北京の労働者の1人は、ソーシャル・メディアで、毛沢東後の他の前任者たちに比べ、習を好意的に評価した。「大衆は習を支持する。彼は大衆のことを想う、強い指導者だ。江沢民は富裕層だけを想い、胡錦濤は弱かった。」

そのような感情は出稼ぎ労働者や農民の間に強い。彼らは習の反汚職キャンペーンや強硬な外交政策に感謝する傾向がある。特に、日本に関する扱い方について。

習近平は、こうして第1期に蓄積した政治資本を使って、第2期には、より困難な経済・金融改革に取り組む。


PS Feb 26, 2018

The Making of Lehman Brothers II

SIMON JOHNSON

PS Feb 27, 2018

The Market Dogs That Didn’t Bark

ANATOLE KALETSKY

FT March 1, 2018

Should the US ease regulation on its big banks?

Hal Scott and Lisa Donner


PS Feb 26, 2018

China Confronts the Mundell-Fleming Trilemma

YU YONGDING

FT March 1, 2018

Rush for China shares and bonds bodes well for renminbi

JAMES KYNGE


FT February 27, 2018

Our struggle with Big Tech to protect trust and truth

ANNE-MARIE SLAUGHTER


PS Feb 27, 2018

Working Toward the Next Economic Paradigm

MOHAMED A. EL-ERIAN

NYT FEB. 28, 2018

Corporate America Is Suppressing Wages for Many Workers

By ALAN B. KRUEGER and ERIC POSNERFEB. 28, 2018


PS Feb 27, 2018

Why Are US Interest Rates High and Rising?

MARTIN FELDSTEIN


YaleGlobal, Tuesday, February 27, 2018

Just Power for a Reformed UN

Nayef Al-Rodhan

正義のパワーだけが、そして正当性を得た制度だけが長期的に持続可能である。その意味で、国連改革は重要だ。国連は、住民に対する責任、を承認し、国際司法裁判所、を設置した。

正義のパワーを行使する国連の役割を強化するために、国連を一層民主化し、安保理に見られる非対称的な構造的パワーを抑えるべきだ。すべての国際機関に求められる方針は、1.効果的な多角主義、2.効果的な多角的機関、3.責任ある多角的意思決定、4.対話、5.責任、6.透明性、7.コストの分担、8.多角的機関と市民社会のアクターとのパートナーシップ、である。


FP FEBRUARY 27, 2018

Italy’s Election Is a Shipwreck

BY LUIGI ZINGALES

SPIEGEL ONLINE 02/28/2018

Italy's Strange Campaign

Berlusconi, Five Star and the Road to Political Gridlock

By Walter Mayr

PS Feb 28, 2018

Will Italy Cross the Illiberal Rubicon?

DOMINIQUE MOISI


FT March 1, 2018

#MeToo, the pink wave crashing over Donald Trump

EDWARD LUCE


PS Mar 1, 2018

Europe’s Bretton Woods Moment

HAROLD JAMES

マクロンが当選し、フランス議会で多数を獲得したことに加えて、ドイツでも連立政権がようやく決まった。EU改革が、EUレベルの財政刺激策や、「財政移転同盟」と呼んでドイツがタブーとみなしてきたユーロ圏の改革を進めるときだ。

しかし、大衆の支持を得るには、仏独同盟には新しいビジョンが必要だ。人々は、理想だけでなく、意味のある、具体的な手段を求めている。その基本を、第2次世界大戦後のブレトンウッズ合意に求めることができる。それは社会、経済、政治に関する新しい制度だけでなく、新しい思考方法を示した。

1つの可能性は、欧州議会が監視するEMF(ヨーロッパ通貨基金)である。EMFは、既存の政府間金融救済制度や、欧州安定化メカニズムを大幅に改善するものになるだろう。地域協力メカニズムとグローバル金融制度とのリンクは、すでにアジアにおいて、チェンマイ・通貨スワップ・イニシアティブやAIIBとして実現しつつある。

ブレトンウッズ会議を回顧することには今も意味がある。それは、戦間期のグローバリゼーションに対する反動に応じた、貧困、自給体制、戦争、という結びついた現象を解決するための合意であったからだ。

アメリカ以外の諸国にとって、戦後の諸制度はドル支配という苦い薬を包む甘い皮膜であった。アメリカ国内では、それは国際主義という苦い薬の甘い皮膜であり、戦間期に広まった「アメリカ・ファースト」の孤立主義を抑えるためのものだった。

問題は、同様の制度的合意が、EUの政治的決定に対する正当性を高めるために役立つか、ということだ。ブレトンウッズの忘れられた本質の1つは、それが経済・政治問題と安全保障とを結び付けたことだった。1944-45年にIMF・世界銀行の5大国は、アメリカ、ソ連、イギリス、中国、フランスであり、国連安全保障理事会の常任理事国と一致する。

今、ロシアのプーチン大統領やアメリカのトランプ大統領が戦後の枠組みを後退させているとき、経済問題と安全保障との結びつきを回復する取極めが必要である。


FP MARCH 1, 2018

The Chinese Navy Can Make North Korean Sanctions Bite

BY DONALD RAUCH


YaleGlobal, Thursday, March 1, 2018

Populism or Transformative Movements?

Alphan Telek and Seren Selvin Korkmaz

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The Economist February 17th 2018

Africa’s great war reignites

The Democratic Republic of Congo: Waiting to erupt

Cities and farming: Into the urban maw

(コメント) コンゴ民主共和国と、バングラデシュやナイジェリアにおける農業の変化に関する記事を興味深く読みました。

コンゴは、長い内戦状態で有名ですが、それが安定的な政治秩序に至ることもないまま、再び内戦へと向かっている、と言います。それを促す要因としては、1.外からのショック、2.資源、3.エスニックや部族の複雑さと軍閥支配、です。さらに、4.歴史、5.無能で腐敗した指導者、を挙げることができます。小さな隣国ルワンダに3度の侵攻を受け、指導者を替えられたわけです。

都市と農業との関係は相互にダイナミックに変化を刺激する、という記事が面白いです。バングラデシュの養殖池は、才覚のある個人企業家が拡大したけれど、ナイジェリアの養鶏場は都市の富裕な投資家や外国企業が関与しています。農業は、都市の胃袋を満たすため、より多くの労働力と資本を要する養殖池や養鶏場に変化し、労働者たちのための安い食糧を供給し、より安定した賃金契約をもたらしたようです。

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IPEの想像力 3/5/18

NHKBS1で「ペリーの道:元米国防長官の警告」を観ました。

「クリントン政権下で米国防長官を勤めたウィリアム・ペリー(90歳)。氏は世界史の「危機の瀬戸際」を歩んできた。新兵として沖縄派遣、キューバ危機の際にはCIAの分析チームで働いた。」

キューバ・ミサイル危機のとき、フルシチョフはアメリカの軍事力に対してソ連が劣勢であることを知っていた。キューバに格を持ち込むことで、それを回復したかったのだ、とペリーは回顧します。その後、アメリカが、核による恐怖の均衡状態を認めます。ソ連がアメリカの核に追いつき、核軍拡競争はますます激しくなった、と。

ペリーは、軍備拡大が答えではない、と示したかったように思います。それは数人の学生たちとゼミを行う映像からも感じました。軍備の拡大は、そうして始まるのだよ、とペリーはアメリカの軍備に関する不満を述べた学生に、婉曲な拒否を示します。

ペリーが恐れたのは、核兵器が実際に使用される兵器である、ということでした。国防次官として、彼は国民の誰よりも、核戦争を恐れていたのです。しかも、核戦争は指導者の決断によって起きるのではない。むしろ、その始まりは人為的なミスだ、と彼は知りました。実際に、ソ連の核ミサイルがアメリカに向けて飛来してくる警報が鳴り響いたことがありました。兵士たちとともに、彼は凍り付きます。

もし発射ボタンを押す権限のある3人の兵士が合意していたら、アメリカの核ミサイルは発射されていたはずです。しかし、1人の兵士は反対しました。結局、それは間違いだったのです。訓練のための情報を間違って流してしまった、とわかりました。

それでもペリーは大きな不安を拭い去ることができず、家族に電話をした、と言います。アメリカやソ連の核兵器は、いつ発射されてもおかしくないのだ、と確信していたからです。もう会えないかもしれない。家族の声を聴きたかった、とペリーは告白しました。

クリントン政権で国防長官となったペリーは、核兵器の抑止力に依存する安全保障を転換しようとします。そのためには、新技術によって軍事的な優位を確保することでした。巡航ミサイルや精密兵器を開発して、核廃絶への道を拓こうとします。

まったく予想外にも、ソ連が崩壊し、冷戦が平和的に終結した後、ロシアと核軍縮に合意したことはペリーを喜ばせたはずです。ウクライナの核廃棄に関して、アメリカが協力することを映像は示します。核廃絶は可能だ、という歴史を示すために。

4賢人(George P. Shultz, William J. Perry, Henry A. Kissinger, Sam Nunn)による提言“A World Free of Nuclear Weapons”が、20071月、WSJに載りました。高い関心を呼んだのは、民主・共和両党の安全保障専門家が一致して、核兵器廃絶を求めたからです。

アメリカは、ロシアとともに、核兵器の小型化や使用できる条件を具体的に再検討しているようです。それは同時に、精密兵器やAIに依存した戦争の無人化、抑止力という概念の崩壊をもたらす現実と合わせて、戦争や国際秩序の再考を緊急に求めています。

ペリーは高校時代のガールフレンドと結婚しました。妻はすでに亡くなり、彼女がいない家で彼がピアノを弾くと、軽快なポップアップの曲であることに驚きました。核戦争の最前線に立つ大統領顧問を支えたのは、妻や家族が体現する平和の尊さであったのです。

これから、新しい安全保障の考え方が、核廃絶と一緒に進むはずです。戦争の目的は秩序です。しかし秩序の基礎にあるのは軍事力ではなく、恐怖の均衡から始まる、その管理と、治安や経済システムの合意に向かう交渉です。

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