IPEの果樹園2018
今週のReview
2/12-17
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簡易版
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主要な出典 Bloomberg, FP: Foreign Policy, FT: Financial Times,
The Guardian, NYT: New York Times, PS: Project Syndicate,
SPIEGEL, VOX: VoxEU.org, そして、The Economist (London)
[これは英文コラムの紹介です.私の関心に従って,いくつか要点を紹介しています.関心を持った方は正しい内容を必ず自分で確かめてください.著者と掲載機関の著作権に従います.]
The
Guardian, Sat 3 Feb 2018
Britain’s
imperial fantasies have given us Brexit
Gary Younge
イギリス外務省の元幹部Patrick
Wrightが書いた新著Behind
Diplomatic Linesは、マーガレット・サッチャー首相の仰天する世界観を説明している。元首相は、南アフリカが「白人だけの国」であることを望み、ベトナムを逃れたボート・ピープルが香港に到達する前に海で沈められるべきだと確信し、さらに、特に「ドイツ嫌い」の感情に凝り固まっていた。
最近の戦争映画に関して、ドイツの外交官、駐イギリス大使Peter
Ammonは述べた。「歴史は常にあいまいであり、浮き沈みがある。しかし、イギリスが第2次世界大戦の、単独で(ドイツに)立ち向かった時期だけを観ても、まあ、それはいい話だろうが、それでは現在の問題を何も解決できない。」
この種の懐古趣味が、しかも、特殊な懐古が、EU離脱派の思考を支配している。・・・植民地を持った過去と、その崩壊について私たちは納得できないまま、自分たちが今も、はるかに強大で、影響力を持っている、と信じている。われわれイギリスが世界地図の中心に位置するのは、地球がわれわれを中心に回っているからである、と思い、われわれが地図を描いたから、とは思わない。
今や、私たちイギリスが縮小した国家であることは、十分に明白になった。・・・2017年の選挙中、メイは、かつてヨーロッパ人の鼻を血に染めたサッチャーに倣って、今度は自分がユンカーEU委員長を倒してやる、と豪語した。EUからロンドンへ交渉に訪れた人々は、こんな風に結論した。メイ首相は「火星に住むのではないとわかった。彼女は、もっと遠くの、別の銀河に住んでいる。」
NYT FEB. 5,
2018
How
Nations Recover
David Brooks
国民的な復活の例を調べていた。混乱、不平等、分極化に病んだ国民が、協力する道を見出し、以前よりも強くなる。
特に、1820年から1848年におけるイギリスが復活した、そのやり方に注目した。今の私たちにとって、いくらか教訓になるだろう。
イギリスは経済・人口の変化に翻弄されていた。金融危機、凶作、深刻な不況があった。過酷な不平等があった。国民の平均寿命は40歳であったが、マンチェスターやリバプールのような工業都市では、それが28歳程度であった。蜂起が広がり、政府は弾圧した。1819年には、1206人の「ラディカルたち」が死刑判決を受けた。処刑されたのは108人であったが。
国民は、上からも下からも、この混乱に対処したのだ。
一連の社会運動が起きた。クラパム派(イギリス国教会内の福音派)が現れた。奴隷制の廃止を唱え、日曜学校を建てた。チャーティスト運動が、3度、高揚した。それは男性の普通選挙権や選挙区の平等を求める憲章に集約された、ラディカルな労働者たちの運動だった。
さらに、反穀物法同盟があった。それは19世紀イギリスにおける、最も組織され、多くの政治資金を集めた圧力団体であった。彼らは自由貿易の法制化、土地に依拠したジェントリーの権力抑制、労働者階級への安価な食糧供給、国際的な交易と協力を促進した。
社会運動はめざましいものだったが、イギリスの復活を決めたのは政治指導者たちの対応だった。イギリスには安定した議会制度があり、熟慮と討議を重視する議会文化があった。どちらの政党でも、政治指導者たちは変化の風を理解し、彼らが革命を避けるためには、改革を進めるほうが良いことを知っていた。
政党は既得権に対応していたが、イデオロギーに固執しなかった。ホイッグ党は、1832年の選挙法改革を行った。それは現代の視点からは受け入れがたい(成人男性の5人に1人だけが投票できる)が、旧来の寡頭政治が示す最悪の腐敗を取り除くものだった。工場法、地方自治体法を制定した。
ロバート・ピールに率いられたトーリー党は、穏健な保守党に変身した。ホイッグの諸改革を受け入れ、司法制度を改革して死刑を減らした。カソリックを許し、ロンドン警察を創設し、小麦、砂糖、そしてついには穀物の関税率を下げた。多くの鉄道を認可した。
1848年、ヨーロッパでは労働者たちによる革命が広がり、次々に政治体制を破壊していた。しかし、イギリスは概ねそれを免れた。すべての社会的分断が解消されたわけではないが、国民は結束を保ち、その後の65年間において、地球上で最強の国家として君臨した。
今、われわれの政治指導者たちには、公共目的に奉仕する精神を見いだせない。
Bloomberg 2018年2月3日
What
Happens When China Eclipses the U.S. in Asia
By Tobin Harshaw and Daniel Moss
アメリカの優位が終わろうとしている。その戦略的な地位があまりにも急速に低下するため、中国との間で地域を共有するというのも意味のあるオプションではなくなっている。オーストラリアと東南アジアのアメリカの同盟諸国は、アメリカと中国の間で選択することを嫌う。しかし、その儀礼の下で、地域内の誰も北京を敵にしたくはないのだ。
Hugh White: 明らかに、中国とアメリカの経済力は拮抗し、経済的な相互確証破壊になっている。しかしそれは、一方が他方との衝突のリスクを決して犯そうとしない、という意味ではない。特に、他方がそれを誘発するときには。北京は、アメリカがアジアへの関心を低下させ、長期的に、中国よりも重要でなくなる、と示唆するだろうと確信している。私は、多分、彼らが正しいと思う。
Tobin Harshaw: そうした考えを表明することは自己実現的な予言となる、という懸念がある。
HW: その懸念は理解できるが、間違いだ。中国のパワーが増大するにつれて、中国の地域的な覇権を阻むアメリカのコストも上昇する。しかし、アメリカが地域の最優位を維持しようとする理由は一層強まったわけではない。その趨勢は明らかだ。中国の野心を抑えるコストと、それによる利益とが、均衡点に達するだろう。オバマの「アジア旋回」は失敗だった、というトランプ政権の感覚は、均衡点がまだ実現していないとしても、非常に近いことを示す。
HW: もちろん、アメリカは世界でもアジアでも、主要な経済的役割を担うだろう。しかし、そのことが地域における戦略的かつ政治的な指導力を担うことは保証しないだろう。ヨーロッパがアジアで果たす役割と同じである。
HW: オーストラリアは1951年、あるいはそれ以前から、安全保障をアメリカに(どの程度まで)依存していてよいか、という激しい論争を経てきた。しかし、1990年代中ごろ以降、主要政党間や官僚、政策論争における論争は消滅した。アメリカとの同盟がオーストラリアの外交・安全保障の基礎であることは、今も将来も、疑いえないからだ。その一方で、皮肉にも、アメリカが安全保障を提供する意志と能力はますます不確実になっている。
TH: オーストラリアが核武装することはあるか? 独自に核開発するか、イギリスと潜水艦による核攻撃力を共有するか、アメリカにオーストラリア本土で核兵器を配備するよう依頼するか。
HW: それは重大な問題である。私は個人的に自国の核保有を嫌悪するが、今後の数十年を考えれば、アメリカによる核抑止には依存できなくなる。その結果、われわれは選択に直面する。中国の核の下で生きるか、インドの核の下で生きるか? そして、おそらく、アジアの他の核保有国、また、おそらく、イギリスとの協力の下で独自の核抑止力を最小限は手に入れる。
NYT Feb. 3,
2018
Who’s
Able-Bodied Anyway?
By Emily Badger and Margot Sanger-Katz
FT
February 4, 2018
The
American way of healthcare
RANA FOROOHAR
FT
February 4, 2018
Nuclear’s
hazards: struggling industry aims for power surge
Andrew Ward in Hinkley Point
FP FEBRUARY
6, 2018
The World
Doesn’t Need Any More Nuclear Strategies
BY STEPHEN M. WALT
核武装に関する監視が高まっている。その理由は、北朝鮮が核戦争の危機を高めていること、アメリカが核戦略を変更したことだ。
核兵器が、1945年以降、1度も使用されなかったことは幸いだ.それには、いくつか理由があった。核攻撃はその国にとって,ダメージに見合う,有益な結果をもたらさない。核もしくは通常兵器によっても深刻な報復を受ける。国際的な評価を損なう。また、核不拡散体制の推進が、核武装する国を抑制して、他の諸国に対応の時間を与えた。政治家たちが、核兵器を特別なものとして扱い、その使用の政治的コストを引き上げた。
なぜペンタゴンは、小規模の核兵器を開発し、柔軟な使用方法を検討するべきだと主張したのか? 戦略的な複雑さ、ロシアの狡猾な戦略に対抗するため、という。しかし、その説明はこれまでの核戦略理論を変更するものではないし,新しい,特別な事情でもない。
アメリカ政府の核戦略見直しは,4つの疑問に集約される。1.アメリカの安全を高めるか? 2.なぜアメリカは自分たちの核抑止力を疑うのか? 3.核使用の閾値を下げることに利益はあるか? 4.核不拡散体制は維持されるか?
核戦略の見直し,そして核武装論の流行は,脅威を煽り、核危機のシナリオを主張する者が、そうではない者を圧倒したことに原因がある。
FT
February 5, 2018
Social
media users of the world unite!
JOHN THORNHILL
FT
February 5, 2018
Don’t
forget there’s good news behind higher bond yields
MOHAMED EL-ERIAN
NYT FEB. 6, 2018
The Market
Collapse Blame Game
By DESMOND LACHMAN
NYT FEB.
6, 2018
The Stock
Market Is Volatile Again. Get Used to It.
Ruchir Sharma
Bloomberg 2018年2月6日
The Stock
Market Is a Lot Like Bitcoin
By Leonid Bershidsky
NYT FEB.
6, 2018
Do You
Think Donald Trump Is Ready for a Real Financial Crisis?
By THE EDITORIAL BOARD
Bloomberg 2018年2月7日
Three
Lessons for Investors in Turbulent Markets
By Mohamed A. El-Erian
NYT FEB.
8, 2018
What
Bitcoin Reveals About Financial Markets
By JOHN QUIGGIN
YaleGlobal,
Thursday, February 8, 2018
Volatility
Returns to the Global Economy
David Dapice
FT
February 5, 2018
How Guyana
can avoid the curse of oil
NICK BUTLER
ExxonMobilがガイアナ共和国の120マイル沖で,確認埋蔵量32億バレルの海底油田を発見した.ガイアナは「石油の呪い」を避けることができるのか?
歴史的に見て,油田の発見は,一方で,投資や雇用,富をもたらすが,他方で,汚職,紛争,暴力を意味した.サウジアラビアやリビアのような専制国家,あるいは,各地の内戦,多国籍企業への反発,通貨価値の急増と地域産業の破壊を意味する「オランダ病」も,関連して生じた.
ガイアナの人口80万人ほどが,6つの輸出産品(砂糖,金,ボーキサイトなど)により,年間8000ドルで暮らしている.
第1に,長期の開発計画を作成し,石油採掘をその一部にすること.新しい港やさまざまなインフラを整備する.国内雇用が増えるように,ゆっくり開発する.
第2に,資金の使い方だ.中東の地主経済にならないよう,インフラを整備して地域産業を育成する.ノルウェーやアブダビのように,油田からの資金を管理する政府系投資信託を設けることだ.
第3に,多国籍企業が競って投資を求めるだろうが,それに対する自分たちの管理能力を高めるべきだ.ライセンス契約,規制,税制が必要だ.自国の必要に応じた配達でなければならない.
多国籍企業の専門サービスは優れているが,「石油の呪い」を解くには視野が狭すぎる.
PS Feb 5,
2018
Inclusive
Growth or Else
SERGEI GURIEV, DANNY LEIPZIGER, JONATHAN D.
OSTRY
FT February
6, 2018
Korean
reconciliation: Moon Jae-in’s Olympic gamble on unity
Bryan Harris in Seoul
NYT FEB.
6, 2018
A
Dissenter’s Legacy: How to Win Without Violence
Tina Rosenberg
FT
February 8, 2018
North
Korea: US fear risks squandering the chance for peace
JOHN DELURY
FT
February 8, 2018
Pacifist Germany defies Europe’s nationalist tide
PHILIP STEPHENS
FT
February 8, 2018
Five Star
struggles to be Italy’s agent of change
BILL EMMOTT
SPIEGEL
ONLINE 02/08/2018\
Geopolitical
Laboratory
How
Djibouti Became China's Gateway To Africa
By Dietmar Pieper
PS Feb 8,
2018
US Foreign
Policy and the Missing Left
MICHAEL WALZER
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The Economist January 27th 2018
The next war
America and North Korea:
Face off
Africa’s CFA franc: Franc
exchange
The Future of War: The
new battlegrounds
Europe’s welfare states:
Battle of the benefits
Bagehot: The midlands
engine
(コメント) 核兵器が恐怖の均衡を実現して、少なくとも、大国間の戦争は終わった。最近まで。残されたのは、核兵器の廃絶を実現する方がよいのかどうか、哲学的な難問だけでした。
しかし、にわかに世界中で軍拡競争が始まったのはなぜか?
アメリカと北朝鮮との恐喝合戦はエスカレートし続けました。しかし、この言葉の果てには、アメリカが核戦争を回避するために、予防的な戦争を始めるべきか、という問いが待っています。北朝鮮に対するアメリカの戦略は、2つの問いをめぐって意見が分かれるのです。1.中国は協力するか? 2.金正恩は核抑止を理解するか? そして、予測不可能な領域が広がります。
アフリカにおける共通通貨、フラン圏の論争が興味深いです。それはECBの植民地的支配なのか、あるいは、地域の安定性と経済発展の基礎なのか?
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IPEの想像力 2/12/18
通勤電車の中で、The
Economist January 27th 2018の記事を読みました。
社会が豊かになれば、過激なイデオロギーや暴力は支持されなくなる、と期待されていました。中産階級が増えることで、政治は安定し、政策目標や手段に関する合意形成も容易になる。戦争ではなく、国際的な協調の可能性は高まり、対話の領域が広がるだろう、と。
しかし、民主主義も、戦争も、社会福祉も、根本的な条件が変化しつつあるようです。
都市国家の直接民主主義が政治の理想とは限らないとしても、数千万や数億の人々から成る政治的な体制がどのように民主的に統治可能であるのか、正しい答えを知っている者はいません。マス・メディアやソーシャル・ネットワークを駆使した政治論争は、国民の所得を増やす、消費水準を保証する、という合意やコストを争うわけではないからです。トランプの暴言や奇矯な行動が、実は次世代の政治モデルであると再評価されるのは、いくらか根拠のあることです。
ネット上でフェイクニュースが競い合い、戦争がAIとロボットによって自動化され、左派を含む主流派が受け入れた新自由主義は嫌われて、社会福祉の拡大を約束することで権力を握ったのは極右政党です。政治の空間が大きくゆがむのを感じるでしょう。
民主的な代表制による統治と市場の統合は、深刻なダメージを受けています。対話や思索を拒む、監視とプログラムによる秩序、と呼べるでしょう。
特集記事が示すのは、核抑止という平和に代わる、グレー・ゾーンの戦争、膨大なデータ、ハイスピードの精密誘導兵器、AIでしか対処できない時代、同時に、宇宙に及ぶ情報システムに大きく依存した、それゆえハッカーやコンピューター・ウィルスに対して脆弱な、核攻撃に対する報復力をもはや確信できない時代です。それは、小規模な戦争、内戦、テロの頻発する時代、さらには、大国間でも外交における衝突と軍事力行使の危機が増し、ナショナリズムを受け入れた豊かな国民に代わって、AIやロボットが敵の人間を探し出して殺害する時代です。
ロシアと中国はアメリカの秩序、それを支持する軍事的優位を受け入れるつもりはありません。いずれの大国も、大国間戦争は望まず、戦争する意図も持たないが、互いに相手の恐怖を刺激して攻撃を予防し、政治的優位を築くために、新しい戦争技術を相手より先に実用化するだろう、と専門家たちは予想しました。
こんな、とんでもない世界を子供たちは生きるのか? もっと希望のある土地が広がっている記事はないか、と探しました。
イギリスの議会政治が混乱し、メイ首相の導くBrexit交渉の先行きは、ますます頼りないものです。Brexitに翻弄され続けるイギリス議会とロンドンを離れて、Bagehotの記者はウォーウィックなど、イングランド中部、ミッドランドを訪れ、新しい希望を見つけた、と述べます。
保守派の新しい政治指導者が、革新的な目標を掲げて、大学や新興企業と手を組みます。イギリスは多くの問題を解かねばなりません。ミッドランドにおける製造業と地方の復興は、これらを解決されつつある、と言います。そのダイナミズムが向かう先にあるのは、1.包括的な成長(雇用や平等をもたらす成長モデル)、2.生産性の上昇(ハイテクを取り入れた製造業の復活)、3.地域的不均衡の解消(ロンドンと金融への集中を是正、地方都市を活性化する)、です。
Brexitは、彼らの成果を根底から破壊する試みである、と嘆きます。
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