IPEの果樹園2017
今週のReview
7/24-29
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パリ祭のトランプ ・・・劉暁波の死 ・・・イラン・イスラーム共和国 ・・・オルトライト運動 ・・・1930年代と1970年代 ・・・経済学の有用さ ・・・人間を偽装するボットたち ・・・中国の課題 ・・・システム指導力 ・・・トランプの無能さ
[長いReview]
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主要な出典Bloomberg, FP: Foreign Policy, FT: Financial Times, TheGuardian,NYT: New York Times,Project Syndicate,
SPIEGEL,VOX:
VoxEU.org, そして、The
Economist (London)
[これは英文コラムの紹介です.私の関心に従って,いくつか要点を紹介しています.関心を持った方は正しい内容を必ず自分で確かめてください.著者と掲載機関の著作権に従います.]
● パリ祭のトランプ
FP JULY
13, 2017
Bastille
Day Is a Military Holiday Out of Donald Trump’s Fantasies
BY GREY ANDERSON
フランス革命記念日(パリ祭)にトランプ大統領が出席することは、政治論争を引き起こしている。マクロン大統領に招待されたものだが、トランプに対するフランス国民の支持は、オバマと対照的に、非常に低い。
ベル・エポックの保守派政治家たちにとって、軍隊は海外の帝国防衛に、また、繰り返されるデモ行動への対応や国内治安活動におけるフランス本土の秩序維持に欠かせないものであった。軍隊はまた、市民的な権威に対する継続的な脅威であった。反動的な軍人と反共和主義感情が結び付いていた。
年に1度の軍事パレードは、すぐに、7月の夏季休暇に行われる他の催しから人気を奪い、国民の統一とパワーを示した。左派の反軍国主義や王党派の批判にもかかわらず、この行事は1914年から1918年まで続けられ、国民統一と同じ神聖なものになった。
アメリカの参加は、1914年、第一次世界大戦にアメリカが参戦してから100年を記念するものだ。
FT July
14, 2017
Trump and
Macron in Bastille Day show of bonhomie
Anne Sylvaine Chassany in Paris
FP JULY
14, 2017
Making
Peace With Assad’s State of Barbarism
BY KIM GHATTAS
FT July
21, 2017
Emmanuel
Macron stands up to the French military
FP JULY
20, 2017
Trump Was
Right: NATO Is Obsolete
BY MARK GALEOTTI
● 劉暁波の死
NYT JULY
14, 2017
Liu Xiaobo
and the Decline of China
Bret Stephens
劉暁波Liu Xiaoboは死んだ。中国初のノーベル平和賞受賞者だった。最後の9年間のほとんどを獄中で過ごした。
優れた人々を辱め、投獄するような国は、偉大になれない。
中国が世界第1位の大国になることを、あと数年で起きると予言する狂信的人々は、アメリカと中国のGDPが、18兆6000億ドルと、11兆2000万ドルであり、その成長率が2%足らずと6%を超えていることを前提に計算している。
しかし、かつてソ連がアメリカを超えると予測され、日本が越えると予測され、EUも議論された。いずれも間違いだった。
中国の公式成長率は年々低下している。銀行の不良債権は増え、労働生産性の伸びは16年来の低さだ。労働年齢人口は減少し、2015年だけで約500万人減少した。昨年の資本流出額は6400億ドルに達した。中国の中上層に属する人々は、不動産購入で投票している。
かつて多くの高速成長を示す諸国がその成長を減速させた。いわゆる「中所得の罠」である。
中国にとって、事態はさらに悪い。劉はそれを知っていた。
人権を守らない国に、未来はない。経済は、投入物だけでなく、価値を重視する。経済資源に対する政治的な支配は、汚職と資本配分の悪化をもたらす。創造的な経済を築くには、自由が必要だ。
政治改革を行わない経済近代化は失敗する運命にある。北京は劉の注意を聴くことなく、彼に関する意見や表現をインターネットから消し去った。しかし、1人の無名のメッセージは届いた。
You
want to bury him
bury
into the dirt
but
you forget
he
is a seed.
FT July
15, 2017
The tragic
loss of a Chinese dissident
Project
Syndicate JUL 16, 2017
Did Liu
Xiaobo Die for Nothing?
MINXIN PEI
劉暁波の突然の死は,重大な損失であるとともに,1つの強いメッセージであった.中国共産党CCP指導部は,いかなる手段を使っても,いかなるコストを支払っても,その政治権力の独占を維持する,ということだ.
しかし,CCPは無敵ではない.その最高レベルにおいても弱さが現れている.「集団的指導体制」と,グローバリゼーション,トランプ政権,その他,彼らの決定を揺るがす制約は強まっている.内外の自由を求める人民の声は,いずれ一党支配体制を打倒する.
FT July 19,
2017
The logic
behind China’s treatment of Liu Xiaobo
Jamil Anderlini
● イラン・イスラーム共和国
Project
Syndicate JUL 14, 2017 11
The Iran
Paradox
Michael Mandelbaum
2冊の最近の本から、1979年の革命以降、イラン・イスラーム共和国を分析する。
20世紀の3つの大革命は、1917年のロシア、1949年の中国、1979年のイランで起きた。イラン・イスラーム共和国だけが、その元来の国家体制を維持している。その革命体制は、ますます硬直化し、動揺している。しかし、近年、対外的には勢力を拡大している。
ロシアと中国における革命と同じく、イラン革命も全く新しいエリートたちに権力をもたらした。彼らはラディカルなイデオロギーに基づき、その国の政治・経済秩序意を再編した。また同様に、抜け目ない、カリスマ的な、柔軟で、極端に冷酷な指導者が革命を指導したが、シーア派イスラム教徒の、聖職者であるホメイニ師がレーニンや毛沢東と同じ役割を果たした。3つの革命は、激しい暴力を行使した。反対派に対するテロの動員と、厳格な弾圧によって権力を固めた。
現在、ロシアと中国の革命体制はもはや存在しない。どちらも比較的平和裏に終焉した。ゴルバチョフが始動したロシアの改革は、ソビエト連邦と共産党の解体に至り、15の共和国に分裂した。そのいずれの国でも共産党は支配していない。中国共産党は権力を独占しているが、その国は自由市場経済のブームを経験している。毛沢東の後、鄧小平が経済改革を進めたからだ。
イラン革命は2つの目標を掲げた。1つは、国内におけるイラン社会の改造。もう1つは、海外におけるイランのヘゲモニー確立である。第1の目標は達成しそうにないが、第2の目標はこれまでになく実現している。
イランは、漸進的、平和的に民主主義を実現できるだろうか? あるいは、暴力的な革命に向かうのか?
イスラーム共和国の起源は、ホメイニとその側近たちが虚偽の見せかけによって権力を得たことだった。パーレヴィ国王の支配体制を転覆するために、広範な勢力がイラン人の連携を結成した。彼らが望んだことは、政治的な民主化と経済的な繁栄であった。その両方をホメイニは約束した。イラン人は、シーア派イスラム教による特定の解釈に依拠する聖職者の独裁体制など望まなかった。しかし、ホメイニが罪悪と野蛮を駆使して実現したものは、それだった。
NYT JULY
18, 2017
On Iran,
Trump Is Obama 2.0
By
REUEL MARC GERECHT
NYT JULY
20, 2017
Avoiding
War With Iran
By
THE EDITORIAL BOARD
● オルトライト運動
SPIEGEL
ONLINE 07/14/2017
Hipster
Extremists
The
Alt-Right Movement Behind Trump's Presidency
By Philipp Oehmke
オルトライト運動はトランプ政権の下で繁栄している。彼らがトランプを大統領にしたのだ。彼らの調理法とは、人種差別、イスラム憎悪、女性差別、狂信的な愛国心だ。それらが一つにまとまって、かっこいい、軽やかな、偽善的表現になる。
FT July
17, 2017
Online
vitriol and death threats – a way of life for MPs
Helen Lewis
● 1930年代と1970年代
FP JULY
14, 2017
The Gathering
Storm vs. the Crisis of Confidence
BY HAL BRANDS, CHARLES EDEL
われわれは1930年代と似た時代を生きているのか? 権威主義的指導者が行進し、民衆的指導者たちはそれに反対しなかった。国際システムはとん挫し、世界は戦争に引き込まれた。あるいは、われわれは1970年代後半に似た時代を生きているのか? アメリカは敗退しつつあった戦争から撤退し、長引く経済不況から回復し、国民的な再生の時期に向かい、国際的な威信を高めること可能にする、進路の修正に着手し始めたのか? ひとびとは、見慣れない、挑戦的な状況に直面したとき、当然、以前の時代と比較する。ドナルド・トランプが当選してから、アメリカ人は世界秩序に何が起きているのかを理解するため、最善の歴史的な類推を探している。
しかし、問題は歴史的類推が明晰さと同じくらい曖昧さを持ち込むことだ。
FP JULY
18, 2017
NATO,
Russian Troops Rattle Swords Along Hundreds of Miles of Borderland
BY PAUL MCLEARY
FT July
20, 2017
Seven
charts that show how the developed world is losing its edge
Martin Wolf
● アイルランドとインド
The
Guardian, Saturday 15 July 2017
Empire
wove together the histories of Ireland and India – and of my family
Ian Jack
● 経済学の有用さ
Bloomberg
2017年7月15日
So Many
Critics of Economics Miss What It Gets Right
By Noah Smith
エコノミストたちは世界金融危機とその後の不況を予想していなかった。エコノミストたちは自由市場のイデオロギーを広める司祭になっている。経済学は流行に振り回されている。経済学は原子ではなく人間を扱い、科学の確実性を得ることはできない。エコノミストたちは謙虚になって、非伝統的な考えを受け入れるべきだ。
特に、イギリスの新聞the Guardianの記者たちはそう主張している。John Rapley, is entitled “How economics became a religion” はその最新の例だ。
しかし、その後の経済学は改善されつつある。1.現実に機能する、検証可能な予測を行うことができる理論を開発する。2.データによって検証する。3.より政策に関心を持つ。4.自由市場イデオロギーに対する偏向を持たない。
Project
Syndicate JUL 19, 2017
A
“Macroneconomic” Revolution?
ANATOLE KALETSKY
市場原理主義のイデオロギーがいくつかの政策を阻んだ.しかも,それが空論をはびこらせた.金融市場は効率的であるとか,中央銀行はインフレ率だけを目標にするとか.唯一の正しい財政政策は財政均衡であるとか.
ところが,2007年の金融危機を経ても,市場原理主義は生き残った.それは政治との密接な関係があったからだ.他方で,パレート最適のような主張が,ポピュリストの不満に火をつけた.また,そのイデオロギーが自由貿易やグローバリゼーションに対する是正策や補償政策の採用を妨げた.
保守派の自由貿易や労働市場の規制緩和ではなく,マクロ経済学が,構造政策とともに,改革の政治的な正当化を容易にするだろう.
● 人間を偽装するボットたち
NYT JULY
15, 2017
Please
Prove You’re Not a Robot
By TIM WU
SF作家たちが初めてロボットを想像したとき、ロボットたちは明敏で、非常に強力であり、世界を力で征服するだろう、と考えた。現実には、もう少し恐怖を薄めた形で変化が起きている。ロボットたちは改良されて、日々、人間を偽装しつつある。彼らは民主主義に対する脅威になっている。
人間のふりをするロボットが脅威になる。たとえば、ブロードウェーの劇を見ようとしても、そのチケットの多く、あるいは、すべてを買ってしまうのはロボットである。すぐにチケットは売り切れ、それを高値で仲介する業者が利益を得ている。
Brexitや、最近のアメリカ、フランスにおける大統領選挙で、ロボットが特に多くのTwitterを偽造した。スキャンダルを広め、情報をハッキングして、まともな専門的ニュースを排除し、ジャンク・ニュースが氾濫した。
ロボットは、民主的な行政機関を攻撃する。法改正に関する公聴会は機能しない。なぜなら、人間を偽装した多数のロボットたちが偽のコメントを送って、システムを占拠するからだ。ロボットたちは知覚できない存在であり、武器を持たず、身体さえ持たない。そうではなく、彼らは偽装した人間として、必要な証拠だけを示して検査をパスする。名前、クレジットカード番号、職業、誕生日、住所、などだ。それらの情報はプログラムが生み出すか、多くの人間から創り出される。
さらに改良されたロボットが生活の領域に進出する。選挙資金の規制も、多くのロボットが少額の献金に偽装すれば、容易に破られる。
反ロボットのキャンペーンは技術と法律を組み合わせて展開するべきだろう。悪質なロボットを摘発する民間団体がある。単純なものだが、本当のアイデンティティーを隠し、人間を偽装するプログラムの利用を禁止する「ブレード・ランナー」法案だ。自動化された作業には、“I am a robot.”と宣言することを要求する。
人間を前提した政治運動、選挙、開放市場において、ロボットが利用されることは、人々の賢明さに関する信頼を損ない、正当性を失わせ、公的な討論の価値を破壊する。支持者や意見が偽造されるなら、悪質な、支持者のいない議論が、斬新な、危険な力によって勝利する。それは、あらゆる民主主義に対する究極の脅威である。
NYT JULY
17, 2017
The
Trouble With Sex Robots
By LAURA BATES
セックス・ロボットが広まっている、とthe Foundation for
Responsible Roboticsの新しい報告書は警告している。多くがすでに利用可能であり、世界中に配送されている。
FT July
18, 2017
Stitched
up by robots: the threat to emerging economies
Kiran Stacey in New Delhi and Anna Nicolaou
in Atlanta
機械化・自動化の改善は,たとえば,縫製業によって雇用を得る貧困国の数百万人を打ちのめすだろう.ロボットやAIは,世界の辺境から,低賃金労働力を代替するかもしれない.
● EUの指導力
FT July
16, 2017
Three
steps the EU can take to show global leadership
Wolfgang Munchau
1.経常収支黒字の蓄積を終わらせる.2.ユーロ危機の繰り返しを終わらせる.3.EUの防衛費分担を実行する.
FT July
20, 2017
The EU has
a moral obligation to act against Poland
Slawomir Sierakowski
● インドの改革
FT July
16, 2017
Communal
politics put Modi’s reforms at risk
ヒンドゥー至上主義が求める牛肉禁止は,インドの改革の将来を悲観させる.モディは経済改革の意味を考え,ヒンドゥー右派の運動を制限するべきだ.
Project
Syndicate JUL 17, 2017 11
The
Changing Face of Work in India
RAKESH MOHAN and ANU MADGAVKAR
NYT JULY
17, 2017
India’s
Turn Toward Intolerance
By THE EDITORIAL BOARD
Project
Syndicate JUL 19, 2017
Trump’s
Surprisingly Strong Start with India
THOMAS R. PICKERING and ATMAN TRIVEDI
● 金融政策を説明する
FT July
17, 2017
Candour
from central bankers is overdue
James Grant
中央銀行家が,曖昧な言葉で金融政策を説明するのではなく,明晰に語ることは好ましい.グリーンスパンの曖昧さからバーナンキは離れることを目指し,現在のイエレン議長はそれをさらに試みている.中央銀行家として,語ることは1つの行為である,と.
しかし,「物価の安定」は望ましいのか,明晰に語ることは難しい.
Project
Syndicate JUL 18, 2017
Is
Productivity Growth Becoming Irrelevant?
ADAIR TURNER
● Brexit
FT July
17, 2017
The
democratic case for stopping Brexit
Gideon Rachman
● 中国の課題
FT July
17, 2017
China’s
railway diplomacy hits the buffers
James Kynge in London, Michael Peel in
Bangkok and Ben Bland in Hong Kong
FT July
17, 2017
Strength
of Chinese economy harks back to better times
Jennifer Hughes in Hong Kong
FT July
18, 2017
How to fix
China’s financial system
Eswar Prasad
中国は毎年,生産の半分を貯蓄する.金融システムがこれを不適格な銀行システムに仲介させている.そのため貯蓄は効率の悪い投資へ間違って配分され,生産性は急激に悪化し,雇用を生み出さずに,資源が浪費されてしまう.さらに悪いことには,信用供与に依存した成長加速は,累積するリスクを抱えており,潜在的な不良債権の山である.
Bloomberg
2017年7月19日
China's
Cashless Revolution
By Adam Minter
FP JULY
18, 2017
How Badly
Is China’s Great Firewall Hurting the Country’s Economy?
BY CHRISTOPHER BALDING
Bloomberg
2017年7月20日
China's
Buying Spree Ends Badly
By Christopher Balding
FT July 2,
2017
A train
that proclaims China’s global ambition
Philip Stephens
● ドイツの黒字
Project
Syndicate JUL 17, 2017 11
The
Politics of Germany’s External Surplus
CLEMENS FUEST
● ロシアと金正恩
FP JULY
17, 2017
Why Isn’t
Russia Worried About Kim Jong Un’s Nukes?
BY CHRIS MILLER
● システム指導力
FT July
18, 2017
Discard
old ideas of a leader of the free world
Anne-Marie Slaughter
ドナルド・トランプがパリ協定からアメリカは脱退すると発表した日,アンゲラ・メルケルが自由世界の指導者になった,と政治学者のDaniel DreznerはTweetした.
ドイツがアメリカに代わって,グローバルな課題の議事進行を決め,外交交渉を仲介し,軍事的な強制力を発揮する,ただし,それはトランプが拒んでいることだが,そう考えるとき,より深い意味が理解できるだろう.メルケルは,あるいは,他のどの指導者も,G20を主催するとき,異なる指導力を発揮するだろう.それは,特定の問題に対して,集団的な責任を負い,それを果たすために,諸集団に権力を与えるプロセスである.
システム内で談合と対立を繰り返し,問題を生じるのではなく,参加者は(解決に向けて)想像しなければならず,よりよいシステムのために集団的に作業する.
成功するシステム指導者には,3つのコア能力が備わっている.1.そのシステムの展望を与え,すべての異なる諸要素を複雑な諸問題に対して配置することができる.2.「共有された思考」,「何かを生み出すことに向かう会話」を促進できる.3.問題解決のために必要な行動から,未来を協力して創造することへ向けて焦点を移動させる方法を教えられる.
● アメリカ政治経済
FT July
18, 2017
An
enfeebled America stands alone
Martin Sandbu
FT July
19, 2017
The good,
the bad and the ugly of Trump’s economy
Mohamed El-Erian
● 不平等
NYT JULY
18, 2017
Getting
Radical About Inequality
David Brooks
● トランプの無能さ
NYT JULY
18, 2017
Walter
Shaub: How to Restore Government Ethics in the Trump Era
By
WALTER M. SHAUB, JR.
FP JULY
18, 2017
The Global
Consequences of Trump’s Incompetence
BY STEPHEN M. WALT
本当に問題なのは,どこまでも続くトランプの行儀の悪さではない.ますます明らかになる彼の無能さである.
「有能さ」“competence”とは何か? 外交において,有能であることは,世界の現状と,世界政治を動かす基軸勢力,に関する十分な知識を持っており,それゆえ,十分な情報を織り込んだ,聡明な政策を示せることである.言い換えれば,外交における有能さとは,その国に安全と繁栄をもたらす目標を設定し,その実現に向けて望む状態に近づける手段を備える能力なのだ.
もちろん,どれほど有能な指導者にも100%の成功はない.国際政治は機会をとらえ,不確実さに耐えるしかない領域である.しかし,総じてみれば,有能さは良い結果をもたらすだろう.
FP JULY
18, 2017
Regime
Change in Iran Would Be a Disaster for Everyone
BY MICHAEL AXWORTHY
FT July
19, 2017
Trump
cannot make America govern itself again
Edward Luce
FT July 2,
2017
Putting
aside protocol spells danger for Donald Trump
Julianne Smith
● 民主主義
The
Guardian, Wednesday 19 July 2017
A despot
in disguise: one man’s mission to rip up democracy
George Monbiot
● ソーシャル・デザイン
SPIEGEL
ONLINE 07/19/2017
Social
Design Award
Transitioning
to a Better World
By Michael Sontheimer
NYT JULY
20, 2017
Why
Finland’s Basic Income Experiment Isn’t Working
By ANTTI JAUHIAINEN and JOONA-HERMANNI
MÄKINEN
● 男女の賃金格差
FT July
21, 2017
Women are
right to be angry at the pay gap
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The Economist July 15th 2016
China’s conscience
Rwanda: Intimidation
nation
Banyan: Fantasyland
The World IF
The G20 summit: Teutonic
tremors
(コメント) 日本のオタク文化が病理現象として紹介されています.若者の失業,少子高齢化も,これは母親に支配される多くの未婚男性と切り離せない問題だ,と外国の観察者は思うのでしょう.
もし世界が・・・だったら,という特集記事を読みました.マクロンはフランスとEUを改革し,トランプはザッカーバーグに勝利して再選され,クローン技術による代理出産が普及し,など.
特に面白いのは,移民に対する門戸開放と,ブロックチェーン技術による情報管理体制からの解放です.貧しい国から豊かな国へ,労働者が移動するだけで,その生産性は大幅に改善します.おそらく世界はそれにより78兆ドルの富を得るだろう,と研究者たちは推計しています.
ブロックチェーンがもたらす情報の管理者からの解放は,貨幣を中央銀行や銀行システムから解放し,土地や資産,住宅,自動車などの売買を解放し,保険制度や年金システム,国家や企業組織から個人を解放します.人々はネット上の架空の国家に移住し,起業します.
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IPEの想像力 7/24/17
研究というのは,孤独な作業であるより,集団的な熱気なのだ,ということがよく分かりました.
久留米大学で研究会に参加しました.集中豪雨の災害が起きた土地から遠くない,猛烈な暑さを感じる中で,いろいろな報告を聴きながら,国際政治経済学の存在理由を私は考えていました.
l
国際政治経済学(IPE)が消滅した、と聞きました。
IPEは,もはや大きなシステムの変化を議論することなく,比較政治学や外交史,制度論,人類学のような研究に分解しつつあるようです.多くのIPE参加者は,国際政治に戻り,あるいは,国際経済学は,再び,政治を無視することにしたのです.
それに反対して,IPEの視点を復活する試みを,ぜひ日本から発信したい,という研究の提案を歓迎します.多角的繊維協定(MFA)の成立に,日本は主体的にかかわった,と彼らは考えました.この協定の成立から廃止までの過程は,なるほど,面白そうです.
l
覇権安定論(HST)は空っぽだ.
IPEの核心を覇権安定論に見ることは,必ずしも,新しい議論を喚起しないでしょう.HSTの起源(キンドルバーガー,ギルピン)を観ることから私が思ったのは、彼らが金融危機・世界恐慌と覇権戦争に注目することで,国際秩序・システムの問題を強く提起した,ということです。
その後も,IPEとは帝国主義論,国際通貨システム改革論,あるいは,唯一の覇権国と切り離して国際システムを考える,レジーム論や戦後秩序構築論です.
l
ストレンジ=へライナー仮説,という試みを聞きました.
国際システムの形成や崩壊は,分野によって,遅速が生じる.仮説として表明することで,それを解明する姿勢を示したのかもしれません.歴史研究からIPEが独立する問題領域を発見するには,こうした仮説も重要です.トリフィンのジレンマや,フィリップス曲線,グローバリゼーションのトリレンマ.
私にとっては、要素賦存の違いによる貿易パターンを描く理論から、同時に分配への影響を予想したストルパー=サミュエルソン命題や,特殊要素説による,世界の歴史的な構造変化と各地の政治的同盟化,国際システムへの圧力を結びつけることは,フリーデンが示したように,非常に説得的です。
l
数学的な精緻化が,その内部の整合性によって「真理」の効果を高めることに,私は反対です.
官僚制が政治家の介入を排除し,市民への公平で,私利私欲に侵されない姿勢を強調するために,数学モデルは有効です.しかし,過剰な数学・統計の利用は,現実の分配や政治に及ぼす影響を隠し,無関心を装い,抽象化によって政治判断を避けていると思います.
経済モデルが数式によって埋め尽くされることは、治水や灌漑の学問であり、原子物理学(原子力発電や原子爆弾)、宇宙物理学(大陸間弾道弾、人工衛星の軌道、火星探査)を理想とする姿勢です。その優秀さは,競って完成されるでしょう.
しかし,社会的影響,政治的な含意を語るべきです.
l
国家は戦争を創り、戦争が国家を創った。
チャールズ・ティリーのような歴史社会学の試みを,もっと私は学びたいです。
l
政治社会統合は、暴力とアナーキーを回避する試みです。
国際政治学は、そのような政治統合を欠いた世界に関する考察を試みるものです。スタンロー・ホフマンは、数理モデルによって「科学」にすることに反対します。国内社会と異なって,世界には圧倒的な不正義と暴力が満ちているから.
l
リチャード・クーパーは、政治経済統合を考察し、その背後にある経済的な変化の本質と政治統合とを結びつけます。それは、共通通貨(マクロ経済政策)の試みに向かうのです。
なぜクーパーは.環境問題について,国家や領土,所有権による解決を目指したのか? 私は,それが不満でした.しかし,共通政策の構築に必要な準備作業・政治的仮設(環境国家)であったのかもしれません.
l
政治集団化とその対抗関係・同盟化をめぐる歴史的な転換が,政治経済学の描く「真実」です.
大学院で,世界金融危機後のグローバル・ガバナンスに関する論文集(M.
Kahler and D. A. Lake, eds., Politics in the new Hard Times)を読んでいました.この論文集の狙いはPeter
Gourevitchの,主要な経済危機に関する比較研究を,2008年の世界金融危機に関して,再考することです.
その対象だけでなく,学問としても,IPEは越境すること,異分野が集まり衝撃を伝えること,「虫歯の予防から核戦争まで」(かつてEichengreenが書いた論文タイトル),貪欲で刺激的な研究を誘発することを生命力としています.
IPEが死んだ,という話をする前に,IPEの姿を描くことを,私も夏休みの宿題にしたいです.
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