IPEの果樹園2016
今週のReview
12/5-10
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気候変動 ・・・Brexitの政治的想像力 ・・・イタリア国民投票 ・・・貿易摩擦 ・・・G20 ・・・トランプの目指す外交 ・・・グローバリゼーションの出口 ・・・フィデル・カストロの訃報
[長いReview]
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[これは英文コラムの紹介です.私の関心に従って,いくつか要点を紹介しています.関心を持った方は正しい内容を必ず自分で確かめてください.著者と掲載機関の著作権に従います.]
l 気候変動
The Guardian, Friday 25 November
2016
The 13 impossible crises that
humanity now faces
George
Monbiot
トランプから気候変動まで,多頭型危機の前兆が広がっている.気持ちを強く持てないなら,読まない方がよい.
1.ドナルド・トランプ.ホワイトハウスに入る次の男だが,自己抑制や均衡や感情移入には全くそぐわない.復讐心と悪意に満ちた性格だ.アメリカ議会の上下両院と最高裁判所を支持者で抑え,無知な顧問たちに囲まれている.この男が世界最強の核兵器・通常兵器を動かせる.
2.次のアメリカ国家安全保障顧問Michael T Flynnは危険な過激派である.3.他の重要閣僚も,化石燃料,タバコ産業,製薬産業,金融ビジネス,億万長者が雇った,職業的ロビイストたちだ.
4.Brexitなど,大西洋同盟の衰退.5.ユーロ危機.6.次の世界金融危機.7.雇用を奪う機械化.8.フランス大統領にル・ペンが当選するかもしれない.9.そうなれば安全保障理事会を占める人々はDonald Trump, Vladimir
Putin, Xi Jinping, Theresa May and Marine Le Penである.10.気候変動の抑制に関するパリ協定は破棄される.11.それは難民を増やし,軍事化を加速する.12.土壌が失われ,農耕はできなくなる.13.種の絶滅が加速する.
FT December 1, 2016
Green cities for 4bn urban
inhabitants
By
Tomasz Telma, IFC
発展途上諸国で急速な都市化が続いている.トルコのイスタンブールは,1990年に650万人であったが,今ではその倍以上,1600万人である.あちこちで停電し,交通渋滞がいつも起きている.
世界最大の5都市のうち4都市は,デリー25万人,上海23万人,メキシコシティ21万人,サンパウロ21万人,発展途上国のである.しかし,問題は活発な投資によって解決できる.
l Brexitの政治的想像力
FT November 25, 2016
Five ways for Britain to prosper
after Brexit
Dido
Harding
イギリス経済の将来を楽観する議論はほとんどない.Brexitの影響や交渉を悲観するからだ.
私は論争の楽観的な要素を追加したい.そのためには国民投票の結果から学ぶ必要がある.多くの人々が,政治経済の枠組みに対して,強い疎外感を持っていることを示した.では,より包括的な,希望の持てるイギリスはどうすれば実現できるのか?
そのための5つの要素を提示したい.
1.技術革新を歓迎する.2.国民すべてがデジタル・スキルを習得する.3.新しい雇用契約を歓迎する.4.よりバランスのとれた経済,地方の発展を促す.5.消費者を満足させる競争市場のチャンピオンになる.
技術革新を恐れることは,歴史において,失敗することが分かっている.オスマントルコも,エリザベス1世も,技術革新を拒んで失敗した.技術が職場を奪うことは誰でも知っている.しかし,新しい技術を妨げることには成功しなかった.それは単に,他国が新技術による成果を得ただけである.
FT November 30, 2016
A smooth post-Brexit transition will
be vitally important
Martin
Wolf
Brexitの合意はむつかしい。国民投票はEU離脱に賛成しただけで、その中身については何も決めていない。代表民主制の国として、主権は議会に付託されている。離脱派だけでなく、残留派も、議会においてBrexitの条件を議論する権利がある。
メイ首相はリスボン条約50項による離脱手続きを始めるだろうが、その交渉に許された時間は非常に短い。交渉によって得た条件が議会で承認されるか、しかも、ドイツでは選挙がある。企業や投資家は不確実さを嫌うから、期限の2か月前には承認されていなければならない。
離婚交渉がそうであるように、これはお金の問題でもあり、双方が相手の条件に不満を感じる。限られた時間では完全に合意できず、むしろ、移行期に関する条件を合意することが重要だ。そのもっとも単純で、イギリスにとって望ましいことは、このままの条件で単一市場の参加を認められることだ。しかし、イギリスの輸出の約半分がEUに対して行われており、EU諸国はそれぞれに不利になることを嫌うから、最終的な合意は困難だ。
イギリスがEU法廷を拒んだ以上、金融サービスの「パスポート」制度は維持できないだろう。EUとの貿易に関する現状維持を守るために、すくなくとも高度な移民労働者に関して移動の自由を認めるべきだ。
l イタリア国民投票
FT November 25, 2016
Matteo Renzi still has job to do
even if he loses the referendum
Mario
Monti
イタリアの憲法改正に関する国民投票は、Brexitやトランプとは異なる、特別なものではないし、そもそも首相が辞任する必要もなかった。
しかし、レンツィ首相は国民投票で否決されれば自認する、と主張して、この投票を自分の信任投票にしてしまった。
この修正は、それがもたらすメリットよりデメリットの帆が多いと考える。しかし、改革を成長の障害に対する論争から、憲法に関する論争に変えてしまった。
たとえ否決されてもレンツィは辞任すべきではないが、もし自認しても、総選挙をするより、大統領が他の政治家に組閣を求めるのが良い。
FT November 29, 2016
Stability and reform are at stake in
Italy’s referendum
Paolo
Gentiloni(イタリア外相)
ヨーロッパ最大の経済の1つとして、イタリアは改革と安定性を必要としている。アメリカは改革の課題を長く抱えていたが、その動きは非常に遅かった。憲法改正はこれを加速する。
レンツィ政権は奇跡を行えなかったし、公的債務を減らしていない、また、過去30年間の累積してきた問題も解決していない。しかし、イタリアを再び動かすことには成功した。中産階級の犠牲を減らし、公的部門の雇用や年金を守るためには、これが必要だ。
それは緩やかな過程であるが、成長回復の果実である。公的債務比率は低下し、労働市場の硬直性は減り、銀行部門は改革を進めている。公的機関、学校、民事裁判所もそうだ。
イタリアは再びヨーロッパで発言力を得るだろう。他方で、改革に反対するすべての党派が存在する。北部同盟のベルルスコーニや、ポピュリストのファイブ・スター運動とグリッロだ。
私は同胞が改革を支持すると信じている。
FT November 30
The real threat to Matteo Renzi is
Beppe Grillo and his ilk
Bill
Emmott
イタリアの憲法改正に関する国民投票をグローバルなポピュリスト革命の第3ラウンドと見る人が多い。しかし、国民投票は、Beppe Grilloのファイブ・スター運動だけでなく、エスタブリシュメントで元首相のMario Monti、現政権の主要な与党である中道左派の民主党からも何人も、が反対している。
レンツィの失敗は、第1に、この時期、自分のすべてを賭けて国民投票に挑んだことだ。成長は慢性的に不足し、失業率が高い。
第2に、一層大きな弱点は、ムッソリーニ以来のだれも手にしたことのない首相への権力集中を求めたことだ。それはイタリア国民の多くにとって、ファイブ・スター運動を恐れることにもなった。
特に、議会多数派の絶対多数議席を保証する選挙法の改正には問題がある。権力に対するチェック・アンド・バランスを破壊するものだ。
ファイブ・スター運動はユーロ離脱を国民投票に問うと主張している。もし彼らが政権に就けば、政府債市場は大混乱に陥り、新しい銀行危機とユーロ圏崩壊に向かうだろう。
FT December 1, 2016
A No vote in the Italian referendum
will derail essential reforms
Francesco
Giavazzi
イタリア経済の惨状を示すのは1つの数字は、労働生産性である。1995年を100とした場合、20年後に、アメリカが140、ドイツ、フランス、UKは130、ポルトガル125、スペイン115であるが、イタリアは、わずか105である。
いくつかの説明が可能である。イタリア企業の規模は小さいこと。多くが家族企業であり、金融市場も未発達である。特に、地方における「家族文化」が重要だ。
レンツィによる改革が行われる前は、保護が人に対してではなく、職場に対して行われた。強力な労働組合がそれを守った。その結果、生産性の低い企業が政府の補助によって生き延び、競争は失われ、生産性の高い企業が入れ替わることを妨げた。それは公共部門で特に顕著であった。非生産的な都市の公共部門がごみ収集を独占し、民間企業の参入を拒んだ。メディア供給もそうだ。
イタリアでは、情報処理技術の導入も遅い。それは過去20年間の生産性上昇で主要な役割を果たした。小規模の、補助金に頼り、保護された企業では、新技術の採用が遅れた。
人的資本も不足していた。イタリアの大学卒業率はEUの中でも最低水準である。また、技術系ではなく、法律や人文系の卒業者が多い。
レンツィ首相は、特に必要であった雇用契約の柔軟性を高める改革を行った。雇用は増えたが、改革のスピードは非常に遅い。完全な二院制の議会は法律の承認に何年もかかる。レンツィはこれを改革することが必要なスピードを可能にすると信じている。
レンツィ政権の誕生により、イタリアの政界には世代交代が進んだ。閣僚の平均年齢は、レンツィになって48歳に下がった。ベルルスコーニのときが52歳、モンティ政権が64歳であった。また女性閣僚も増えた。
レンツィが辞任すれば、若い世代は政治から抹消されるだろう。それによって、イタリアがユーロ圏に残ることも危うくなると思う。
l G20
VOX 25 November 2016
‘Winning the peace’: The challenge
for the G20
Marco
Buti, Helene Bohn-Jespersen
国際経済政策協力のG20による成果は、世界金融危機からの不況を回避したことだった。より長期の改革を促すためには何が必要か?
問題の診断を共有し、政策の実行を約束し、政策協力に市民の視点を取り込み、国際政策協力の成果を目に見えるものにする。
保護主義、ポピュリズムへの対応がG20にかかっている。
l トランプの目指す外交
FT November 28, 2016
Donald Trump and the nuclear danger
Gideon
Rachman
トランプ大統領が核兵器を使用する権限を持ち、これに関してはチェック・アンド・バランスの抑制が働かない。その場合、トランプの個人的な性格、その安全保障担当顧問、そして、直面する問題の性格、が重要だ。
もし攻撃を受けた場合、核兵器使用の決断には、わずか4分しか時間がない。選挙期間中も、軍の関係者からトランプの資質を疑う声があった。また安全保障会議を統括するMichael Flynnは2014年に軍の情報局長官を解任されており、その資質が疑わしい。トランプが直面するのは、確実に、北朝鮮の核ミサイルがアメリカ西海岸に及ぶ可能性だ。
Bloomberg NOV 29, 2016
How to Fill the Void Left by TPP
Noah
Smith
TPPのアメリカにとっての通商上の利益は大きくない。むしろ、同盟諸国の成長(ベトナム)や経済再生(韓国、日本)を促す重要な条件をなっただろう。その意味で、アメリカの国際的地位を低下させる。
TPPに代えて、日本との二国間通商条約を結ぶことだろう。日本とのサービス分野と技術の条約は、双方の利益を高める。アメリカは経済的利益を、日本は安全保障上の利益を強調して、どちらも勝利を誇示できる。
FT December 2, 2016
China’s brutally pragmatic response
to a shifting world order
Kevin
Rudd
中国はトランプ大統領に驚き、困惑している。何より、北京の外交に大きな不確実さをもたらすことを嫌っている。その対応策は、イデオロギーではなく、プラグマティックに決めるだろう。
3つの外交派閥がある。1つは、「不安定」派である。中国の国際戦略は著しく保守的であり、予測不可能な事態を嫌う。第2は、楽観派、第3は、悲観派である。楽観派はトランプ外交に中国の影響力拡大を見出す。悲観派は、アメリカとロシアとの接近、そして、重商主義的な姿勢による貿易・通貨戦争のリスクを見出す。
いずれの派閥が優位を占めるかはわからない。それはトランプにかかっている。その意味では、米中関係を決めるのはトランプだ。彼の「交渉術」が何をもたらすか、まだわからない。
l グローバリゼーションの出口
Bloomberg NOV 25, 2016
A More Perfect Union Needs Both
Nationalism and Globalism
Clive
Crook
人に貼るラベルで、最近、人気があるのは、「ナショナリスト」と「グローバリスト」である。しかしこれらのラベルは役に立たない。カテゴリーが相互に排他的ではないからだ。穏健なナショナリストの感情は、外向きのリベラリズムと重なりうる。アメリカでは、ナショナリストであり、しかも、グローバリストであることは自然なのだ。
アイザイア・バーリンは、ナショナリズムを、国民意識の病理学的表現と呼んだ。攻撃的ナショナリズムは20世紀に恐ろしい害悪をもたらした。しかしバーリンは、国民意識やその等価物は、病理学的な形態に比べて害悪が少ないだけでなく、それ自体、価値があるものだ、と指摘した。それは、公正な、同情心に富む、秩序ある社会を築くときに不可欠のものでさえある。
ユートピア思想家の言うような、国家や戦争のない時代がいつか来るかもしれないが、今は、公共政策を国民国家が担っている。ほとんどすべての集団的行為の発動は、資本主義を文明化し、弱者や不幸な者を保護することも含めて、より大きな善のために誰かの犠牲を求めることだ。もし市民たちが歴史によって結びつき、共有する文化や価値観を持っていれば、この統合化作業はより効果的であり、しかも、明らかにより野心的なものになりうる。それこそが、国民意識の形成にかかわっている。
20世紀前半はその悪い面、後半は良い面を示した。邪悪な政治体制は破壊され、外向きの国際秩序が確立された。これは国民意識の抑圧や根絶を必要としなかった。むしろ、アメリカの力と意志を強めるような国民意識が無かったら、リベラルな世界秩序を築くことはできなかっただろう。
しかし、民族の誇りに依拠する国民意識は、反発を生じ、非常に危険である。ドナルド・トランプは白人至上主義者である、と非難されている。それはアメリカ政治家に対する最悪の非難だ。トランプはそれを知ったうえで、支持者の動向を計算している。
国民意識を人種差別と混同するのは間違いだ。それは悲惨な結果をもたらす。しかし、この2つは同時に広まる。私はアメリカ例外主義を信じている。それは、エスニックや歴史的偶然、宗教による国民の伝統を強調するのではない、国家を形成する考え方だ。国民意識は、憲法に書かれたリベラルな諸原則に対する約束によって成立する。アイデンティティ政治の蔓延は、こうした国民意識に対する挑戦だ。
移民をめぐる論争は、ナショナリズムとグローバリズムとの虚偽の分割が、対話を妨げる典型である。純粋なグローバリストは外国人と市民を区別せず、国境を開放する。そのような夢想が実現したら、福祉国家を維持することなど不可能だろう。だれもがその区別の重要性を知っている。他方で、外国人は、彼らが外国人だから、悪である、と思うのは偏見だ。
中間の立場は多くある。移民たちはアメリカ市民にとって有害であり、削減するべきだ。アメリカ市民への支援を増やすべきだ。移民たちがアメリカの基本原則を受け入れ、同化するなら、支援するべきだ。あるいは、何をすべきかわからないが、アメリカの移民法を厳格に適用するべきだ。さまざまな意見がある。1つだけ合意があるとすれば、アメリカ市民の利益が優先される、ということだ。
それが国民意識である。それは外向きンオリベラリズムと矛盾しない。左派は認めないが、社会正義の実現にとって必要な条件である。国民意識のない統合は不完全だ。
FT November 28, 2016
Review – ‘Thank You For Being Late’
Gillian
Tett
数十年前は,乳しぼりが熟練した農夫の仕事だった.しかし数年前,驚くべきことが起きた.酪農がデジタル化されたのだ.
Thomas
Friedmanは新著Thank You For Being Lateで,牛の乳房,サプライ・チェーン,ミルクを,ますますコンピューターがモニターし,管理していることを示す.
牛の糞にまみれて,ばちゃばちゃとミルクを絞るイメージは消えて,未来の,成功した乳牛管理者が鋭くデータを読み,分析する様子を予想する.
ある意味で,これは素晴らしい.搾乳のデジタル化が新鮮なミルクを届けてくれる.しかし,他方では,陰鬱な未来である.サイバー酪農経営からは「中間的な職場」が消滅する.少数のソフトウェア・プログラマーと低熟練の労働者しかいない.それ以外は何もない.
もし社会と政治の沈滞状態を理解したいなら,中国を非難するより,人々を職場から追放する根本的で急速な技術革新を見るべきだ.この職の崩壊に社会が新しい対応策を見いださない限り,沈滞状態と人々の不満は悪化する.
これはFriedmanの旧著The
World is Flatから引き継いだメッセージだ.インターネットの登場とグローバリゼーションが世界を「フラット」にした.彼が以前よりも激しい変化を観ているのは,気候変動が加わっているからだ.技術変化は加速し,市場の力で世界が結びつく.その中で,気候変動が起きている.
「われわれはこの新しい変化のスピードに適応することを学ぶしかない.」とFriedmanは宣言する.
何か解決策はないのか? 彼が示すのは,持続可能な成長に向けた18のステップだ.法人税の引き下げから,職業訓練・教育の拡大,国境管理の厳格化まで.
それは「コミュニティ」意識の再発見でもある.Friedmanの故郷,ミネアポリスがそれを示している.包括的で,調和を重んじる,プラグマティックな政府.「良識」と「コミュニティ」はどこにでも耕すことができる,と彼は考える.ディストピア的なトランプの世界で,それが生き延びるカギだ.
しかし,Friedmanも認めるように,有権者たちがミネアポリスを素晴らしい未来だと思うのは,非常に難しい課題であろう.
YaleGlobal, 29 November 2016
Wanted: Equal Opportunity
Globalization
Branko
Milanovic
西側の豊かな諸国は,その成長が減速し,しかも分配が不平等化してきた.アジアの成長する諸国では平均的な家計の所得が5倍も速く増大した.その結果,欧米のポピュリストたちは,グローバリゼーションへの不満を吸収している.技術革新の利益は少数の富裕層や高度の熟練労働者・技術者に集中している.
不平等が技術変化によるものなら,政府には何もできない.もしグローバリゼーションによるものなら,政府はそれを抑制し,圧程度,逆転できる.もし間違った経済政策の結果であれば,政府が責任を負わねばならない.これら3つの不平等が,しばしば,重なって現れ,区別できない.
経済政策が不平等を緩和するには,資本の移動性と高所得階層(その資産)の移動性とが問題である.個々の選択がグローバルに影響するにもかかわらず,政府は国民国家単位で選択している.政府は協力して対応する必要がある.各国の経済的機会がグローバルに平等化すれば,ポピュリズムは抑えられる.
The Guardian, Thursday 1 December
2016
This is the most dangerous time for
our planet
Stephen
Hawking
ケンブリッジの理論物理学者として,私は特権的な生活を送ってきた.私は,アメリカやイギリスで標的となっているエリートの1人である.
イギリスがEUから離脱することを決めた有権者たちや,アメリカの次期大統領にトランプを選んだ有権者たちについて,われわれが何と考えていたにせよ,評論家たちが感じたことは明らかだ.指導者たちに見捨てられたと感じている人々が怒りの声を上げた,ということだ.彼らは専門家やエリートの助言,指導を拒否したのだ.
私も例外ではない.イギリスの科学研究を損なうからEUを離脱すべきではない,と警告した.しかし有権者の多くは,私の声も,他の政治指導者,労働組合,芸術家,科学者,ビジネスマン,セレブの声も,聴かなかった.
今,重要なことは,両国の有権者に対して,エリートが示す対応だ.事実を無視し,愚かなポピュリズムの蔓延と非難して,こうした投票を回避し,制限するべきだろうか? それはひどい間違いであろう,と思う.
グローバリゼーションや加速する技術変化に関するこれらの投票は,明らかに理由があることだ.工場の機械化は伝統的な製造業からすでに職を奪ったが,人工知能の発達はこの職場の破壊を中産階級にも及ぼすだろう.その手入れや開発,監視のためのわずかな役割が人間に残されるだけだ.
このことは,すでに拡大している世界中の経済的不平等を加速するだろう.インターネットとプラットフォームは,きわめて小さな集団に莫大な利益をもたらすと同時に,わずかな雇用しか生まない.それは必然であり,進歩であるが,同時に,社会的に見て破壊的である.
この点でわれわれは金融危機を考えるべきだ.金融部門で働く少数の個人が莫大な報酬を得ているが,他のわれわれがそれを許し,彼らの強欲がわれわれを混迷に導いたコストを支払ってやる,という形で危機はやってくる.われわれは金融的な不平等が,消滅するのではなく,拡大する世界に生きており,多くの人々は生活水準が低下するだけでなく,生活する術が失われているのだ.彼らが新しい契約を求め,トランプやBrexitを支持したのは,当然である.
インターネットとソーシャルメディアが普及した意図せざる結果として,この不平等のあからさまな真実が,過去にはありえなかったほど鮮明に,誰にでもわかるようになった.世界でもっとも繁栄する土地に暮らす最富裕層の生活と,電話も利用できない貧しい人々がいる.ますます人口が増えるこの惑星では,不平等から逃れられない.
その結果は容易にわかる.貧しい,地方の人々が都市に流入する.希望を求めて,粗末な小屋を建てる.しかし,そこでも幸福は得られず,人々は海外に流出する.よりよい生活を求めて,ますます多くの経済移民が豊かな国に集まる.その結果,インフラや経済への新しい需要がもたらされ,寛容さは失われ,政治的ポピュリズムが強められる.
私の見るところ,人類は協力して問題を解決するべきなのだ.われわれは深刻な環境問題に直面している.気候変動,食糧生産,過剰人口,種の絶滅,伝染病,海洋の酸化.
人類の発展は気丈に危険な時期にある.われわれは生活するこの惑星を破壊する技術を得たが,その破壊を避ける技術をまだ持たない.諸国民の間に,また,内部にある壁を,築くのではなく,打ち破るべきだ.世界の指導者たちはそれに失敗したし,今も失敗している.
職場だけでなく,産業全体が消滅する中では,われわれは人々が新しい世界で暮らす技術を吸収し,その間の彼らの生活を支援する必要がある.コミュニティや経済が移民の水準に耐えられないのであれば,われわれはグローバルな発展をもっと促すべきである.それによってのみ,多くの移民たちは自国の未来に希望を持てるからだ.
私は楽観主義者であり,人類にはそれができると思う.ロンドンからハーヴァードまで,ケンブリッジからハリウッドまで,エリートたちはこの1年の教訓を学ぶべきだ.
l フィデル・カストロの訃報
The Guardian, Sunday 27 November
2016
In our youth, before the dream
soured, we fell for Castro’s vision
Will
Hutton
1960年代には,カストロの指導するキューバが理想的な大胎モデルを示すと期待した.アメリカでもなく,核兵器を持つ独裁国家,ソ連でも,中国でもない.カストロとゲバラは,バチスタ独裁体制の汚職を一掃した.そしてキューバ人民に土地を分配したからだ.国民が文字を読めるように大規模な教育計画も実行した.ラテンアメリカで最高の公共医療システムも提供した.
しかし,一党支配体制には深刻な欠陥があった.
オバマが訪問し,カストロは亡くなった.キューバ人民は,今,その社会主義体制の最良の遺産を,ダイナミックな経済,政治的な自由と統合することを望んでいる.
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The Economist November 19th 2016
The new nationalism
Who is Chinese? The upper Han
Latin America and China: A golden opportunity
The Balkans: Clinton-lands
Charlemagne: Iron waffler
Online shopping and business: All that is solid melts
into air
Global politics: League of nationalists
(コメント) かつてのようなナショナリズムは復活するのか? 時代錯誤ではないか? オンライン・ショッピングを楽しむ,現代の若者にとって,ナショナリズムとは何か?
他方,国家はナショナリズムを育成します.戦争とナショナリズムは相互に強め合い,次第に政府の制御できないものになります.各国の「愛国教育」,「歴史教科書」,「記念日」を,ナショナリズムから切り離す国際宣言が必要です.
メルケルのドイツにリベラルな国際秩序の指導者という役割を求めることはできない,と記事は指摘します.安倍の日本に,とは,わざわざ書いていません.
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IPEの想像力 12/5/16
「経済変化の過程を理解することができれば,」と,最近,翻訳されたダグラス・ノースの最後?の著書が,その序文で述べています.
「合衆国と西欧の持続的成長の長い歴史,ソビエト連邦の壮大な勃興と解体,台湾と韓国の急速な経済成長とサハラ砂漠以南アフリカの諸経済の悲惨な成績との間に見られる対照的成果,ラテンアメリカと北アメリカの対照的な進化」などが説明できるだろう,と.
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グローバリゼーションの出口は何か? 輸送費の急落,新興宗教運動の情熱,軍事的な技術革新,など,同じような分解作用を生じた歴史的な転換期は,何を示すか? 人々が依拠する社会秩序や安定的価値観を溶解する強烈な酸を,中和し,包み込むような,薬剤や緩衝膜はどこかにないのだろうか?
l ポピュリズム,ナショナリズムの中に,保守派の指導者たちは答えを求めます.
l 左派やリベラルも,福祉国家,移民抑制,国境管理を強調します.
l 新しい社会モデルを求めて,技術革新は双方向に働きます.未来のユートピアとディストピアとを決めるのは政治的な想像力です.
l 地域ブロックが.国民国家に代わる政治の受け皿になるでしょうか?
l コミュニティへの期待は,中世ヨーロッパの荘園を思わせます.カオスから逃れて,自給自足的な,軍事的要塞,宗教的な共同体に集まり,強い指導者を求めます.
各地に現れる新しいガバナンスの生存は,個々の指導者以上に,集団的な政治の技量,制度的な容量・適応能力にかかっていると思います.
グローバリゼーションの不安を抜け出す新しい社会モデルの条件とは,1.望ましいと人々が信じること,2.市場としてもワークする・効果的に豊かさを実現すること,3.政治的に実現可能であること.
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伝統的な職人の仕事に魅了され,自分も職人になりたい,という学生がいました.それは素晴らしい,と思いましたが,同時に彼女に問いました.
自分がやりたい仕事が,同時に,経済的な報酬・大きな(少なくとも衣食住に困らない)富をもたらし,社会的な評価が高いものであれば,まさに望みをかなえてほしい.しかし,どうだろうか? 現実から逃れて生きることはできないだろう.
希望を失う厳しい現実を前にして,話を終えるわけにはいきません.
・・・その技量は,現代の技術にも応用できるのだろうか? ・・・どこかの土地で,とても重要な改革や雇用を生み出すだろうか? ・・・新しい情報技術や物流,マーケティングの助けを借りて,市場を創り出せないか? ・・・それ自体が素晴らしいものである,と広く社会が認め,人々が愛するなら,職人の技量や工芸品の保存は特別な敬意をもって処遇されるかもしれない.
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「私はまた,停滞と没落のインセンティブを提供する制度によって構成されている経済がどのようにして持続しうるのかにも光を当ててきた.」と,ノースは書いています.「人為的環境の性質と,人間がその環境を解釈する仕方の特徴こそが,その持続を支える要因であるはずだった.」
「言語,人間の記憶,※貯蔵システムに退化されている1つの社会の蓄積的学習には,社会の文化を構成する信念,神話,慣行などが含まれている.」
それは遺伝的(成功した突然変異の進化的帰結)であると同時に,大規模集団における協力を有利にする諸制度の発展のような,文化的進化の帰結である,と.
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ナショナリズムや戦争を期待することなく,私たちは新しい社会モデルや国際秩序を実現できるはずです.
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