IPEの果樹園2016

今週のReview

9/26-10/1

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ヒンクリー・ポイント原発の決断 ・・・移民・難民システムの構築 ・・・教育の供給 ・・・グローバリゼーションの市民革命 ・・・アメリカ外交の破たん ・・・メルケルは謝罪しない ・・・最後の貸手と政治構造 ・・・日銀の政策決定t ・・・北朝鮮の核開発

 [長いReview]

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[これは英文コラムの紹介です.私の関心に従って,いくつか要点を紹介しています.関心を持った方は正しい内容を必ず自分で確かめてください.著者と掲載機関の著作権に従います.]


l  ヒンクリー・ポイント原発の決断

FT September 16, 2016

Hinkley Point decision best taken by government, not the market

Martin Wolf

180億ポンドのヒンクリー・ポイント原子力発電所プロジェクトを進めるかどうかメイ首相が決定する。これは政府が決めるべきことだ。そのような決定ができる市場は存在しないし、それが許されることもない。この問題は原発やエネルギー政策に限らない。もっと広範な意味を持つ。

政府が決めるべき問題だ、ということと、ヒンクリー・ポイントが良い計画がどうか、とは別問題だ。環境保護派のシンクタンクE3Gによれば、この原発は金がかかり、必要ないものだ。政府は現行の卸価格の2倍以上の価格でEDFから35年間も電力を買うことになっている。もっと安価で、早く、クリーンな、そして信頼できる選択肢は存在する、という。

他方、支持する側は、個の原発が完成すれば、イギリスの電力の7%を供給し、石炭から原子力への移行を進められる。すなわち、エネルギー安全保障と炭素排出量の削減が達成できるのだ。

だれが正しいとしても、原子力のリスク、長期の寿命、先行投資について、競争的な民間部門が市場で決定することはできない。また民間部門はその戦略的な要素を無視する。このことは、他の戦略的な決定にも共通する特徴である。すなわち、輸送、住宅、水道、電波、金融。

オックスフォードのDieter Helmは、エネルギーに関して、余裕を持った供給力を維持することも戦略的な決定に求められる、という。電力に依存した社会は、もし供給が止まれば、余剰の供給力を維持するコストを超える甚大なコストを生じるからだ。しかし、競争的な会社には余分の供給力を維持する動機がない。

電力供給、炭素排出量、輸送システム、がそうである。空輸、道路、鉄道のバランス、高速鉄道の優先度、新しい経済活動を生み出すインフラ整備の性格、景観の価値、技術開発の優先度、こうしたことには(個々の)限界的な意思決定ができない。公共主体だけが決定できる。電波利用ネットワーク、大規模な住宅建設、それにはインフラ整備や公共サービスがともなう。

危機が示すように、金融もネットワークである。金融ビジネスは、直接のコネクション、金融危機の感染によって縫い合わされている。個々の金融ビジネスには「外部性」があり、これを考慮させるために規制当局が介入する。例えば、利潤追求が許す以上に多くの自己資本を維持させる。

そのような部門の決定はしばしば非常に重大で、政治的に困難である。しかし、それらを分散的な市場の決定に委ねることはありえない。

政府の課題は、その効果的な手続きを導入し、実施することだ。もしイギリスの輸送インフラ、住宅供給、金融システム、エネルギー産業を観れば、われわれがいかに水準を大きく下回っているか、理解できる。政府は決断する優位を持ち、それをやり遂げる英知を持たねばならない。


l  移民・難民システムの構築

The Guardian, Monday 19 September 2016

My cure for a divided Britain? A programme of managed immigration

Stephen Kinnock

国民投票はイギリスが分裂状態にあることを示した。特に、移民の受け入れに関してだ。一方は、全面的に良いことだ、と考える。経済的にも、イギリスの開放性を示す生活の在り方としても。他方、これまでコミュニティーの外に追いやってきた変化の多くを、移民が引き起こしている、と考える者もいる。前者は政治的エリート、後者は人種差別主義のナショナリスト、と非難される。

この問題を無視すれば、ヨーロッパを離脱したイギリスは、分裂したコミュニティー、あからさまな人種差別主義に向かうだろう。

移民政策は左派にとっても重要である。国民の分断は労働党の支持基盤で特に深刻であり、広範な同盟形成を困難にしている。国民投票後のイギリスで、労働党が追及するべきは、安っぽいUKIPのまね事ではない。進歩的な価値観とそれを実現する欲求を示すものである。私は固く移民を支持するものだが、移民が追求するべき価値ではない。社会的、経済的にダイナミックな改革を支持する。この違いは非常に重要だ。

移民を支持する立場とは、長期的な経済・社会・政治の分野での移民の成功を意味する。移民は可能な限り、持続可能な程度に受け入れるし、イギリス全体が繁栄し、価値があると感じる環境を創り出す、その能力によってだけ制限される。

国民投票が明らかに示したのは、移動の無制限な自由というのが、その経済的利益が証明されても、社会的、政治的に持続可能ではない、ということだ。移動の自由に反対することと、反移民政策とは違うものだ。われわれは移民を差別しない、開放型の社会を実現する一部として、移民を強く支持する。しかも、こうした価値が脅かされないように、移民流入を管理する必要がある。

それは、労働許可証の発行管理になるだろう。発行システムは、申請者の技能や資格を精査し、イギリス経済の必要や経済情勢を考慮して決まる。

労働許可証システムへの移行は、全体として、労働力の限界化を排除する包括的なアプローチの一部である。

Brexit後のイギリスで、このアプローチは欠かせない。グローバリゼーションが進む時代に、将来の成功を得る人々や諸国は、異なる文化に開放的で、国際的機会を利用し、新しい技術を取り込むだろう。政府はそうした人々と協力し、移民がすべての者に有益な姿を示さねばならない。

FP SEPTEMBER 19, 2016

The Refugee Crisis Is Real

BY DAVID MILIBAND, MADELEINE ALBRIGHT

責任範囲の混乱はグローバル・ガバナンスの中心にある。世界はますます緊密に結びつくようになったが、グローバリゼーションを管理するメカニズムや手段は不十分である。その結果として、不満、疲労、恐怖から逆転が生じている。

それが最も顕著であるのはグローバルな難民危機である。2015年、世界には紛争、迫害、人権蹂躙によって住む土地を離れた6500万人の難民がいる。昨年より580万人増加した。

2014年に帰還できた難民は1%にも達していない。国連によれば、帰還するまでの時間は平均17年である。国連は200億ドルの人道支援基金を呼びかけたが、45%も足りない。トルコ、ケニア、ヨーロッパではドイツ、スウェーデン、など、多くの難民を受け入れている諸国では絶望感が広がっている。

以前のグローバル危機もそうだった。1980年代のオゾン層破壊、1990年代のボスニア内戦。諸国は2つの反応を示した。問題があまりにも大きすぎて手におえず、関与や責任を避けようとする。あるいは、真に集団的な解決策が示されない限り、意味のある解決には至らないことを認めて、国際システムの下に集まる。

国境を閉ざし、難民を追放するだけでは、非合法な難民仲介者が増えるだけである。それは不安を高め、コミュニティーを離反させる。

今週、2つのサミットが開かれる。国連によるthe U.N. Summit for Refugees and Migrantsと、オバマ大統領によるものだ。しかし、国連サミットの提案には新しいものがない。そうであれば、大統領が、アメリカによるイニシアティブを発揮しなければならない。難民を再定住に導き、受入国で雇用と教育を与えるのだ。

政府の集団的な指導力と、ビジネスの革新力、大衆的な動員によって、グローバルな諸問題は解決できる。

FT September 20, 2016

Refugees and those who flee war and strife deserve better

Paul Collier

難民システムは崩壊している。国連難民高等弁務官事務所UNHCRはあるが、冷戦時代の産物である難民条約(議定書)のほかには戦略もない。

グローバルな難民問題は、それがグローバルな移民と切り離せるなら、完全に管理可能である。しかし、UNHCRも議定書も、これら2つを扱う権限はない。

難民が帰還するまでに数年を要するのであれば、最優先すべきは生活の資金を稼ぐことである。それゆえシリア難民の多くにとってUNHCRは無意味である。難民たちはキャンプではなく、都市に住んで、たとえ非合法でも働くからだ。

議定書は1951年、ソ連が東欧に支配を拡大したことに対するアメリカの反応であった。共産主義体制下で弾圧された者が逃れてきた場合、送還しないためだ。しかし現在の難民は、弾圧ではなく大規模な混乱から逃れてくるのであり、多くの難民を受け入れる国も議定書の締結国ではない。UNHCR、弁護士、政治家の間で、難民の扱いは定まらない。

難民は移民ではなく、自国に戻ることを望んでいる。彼らは避難先でも普通に生活したいのだ。その必要を満たすには、連帯と比較優位、というグローバルな原理を用いるべきだ。すべての者が異なる形で貢献するべきだ。難民たちは隣接諸国に逃れ、帰還を待っている。政府は難民たちの避難先に財政支援を行い、企業は雇用をもたらすべきだ。UNHCRが独占することはできない。

NYT SEPT. 20, 2016

Our Immigrants, Our Strength

By BILL de BLASIO, ANNE HIDALGO and SADIQ KHAN

先週、ニューヨークのChelsea地区で起きた爆発は、世界の他のテロ事件とともに、開放的で、民主的な大都市の、すべての居住者にとって、安全が何より重要であることを教えている。しかし、移民や難民のコミュニティーを過激派や危険な人々として議論するのは間違いだ。そのような排外主義の言葉が世界中にあふれている。

私たちは、3つの偉大な世界都市、ニューヨーク、パリ、ロンドンの市長として、国連に集まる世界の指導者たちに、紛争を逃れた難民たち、経済的困窮を逃れた移民たちに、休息と安全な穂難所を手依拠するため決意と行動を示してほしい。

われわれの都市は包みこむ姿勢を支持し、さまざまな移民コミュニティーを含む、すべての住民を助ける支援サービスとプログラムを提供する、と約束する。彼らが歓迎されており、自分たちの都市であると感じてもらうように。

たとえば、ニューヨーク、パリでは都市IDを発行している。移民や難民が帰属意識を高め、都市のサービスを利用できることを歓迎している。それは都市の安全を高めることにも役立っている。

移民や難民の統合に投資することは、単に、正しいことを行う、ということではなく、彼らのスキルやヴァイタリティーを都市の経済成長に生かすことでもある。彼らの存在は都市の利益なのだ。


l  教育の供給

Project Syndicate SEP 16, 2016

Education and the Invisible Child

GORDON BROWN

かつてアメリカの黒人たちを、沈黙の、長く苦しみ、多数派の白人たちから全く無視されていたことを、Ralph EllisonInvisible Manという小説で描いた。2016年も、新しい、グローバルな、見えない人々がいる。それは26000万人の、基礎教育を拒否された少年と少女たちである。


l  グローバリゼーションの市民革命

NYT SEPT. 17, 2016

Put Globalization to Work for Democracies

By DANI RODRIK

グローバリゼーションを実現するやり方は国によって全く異なった。成功する一般的な答えはない。日本、韓国、中国は、独自のやり方でグローバリゼーションを制限したのだ。

他方、メキシコのように、NAFTAのリベラルな貿易・金融政策によってグローバリゼーションを推進した結果は、他のラテンアメリカ諸国に比べても、高い成長につながっていない。

現在、より大きな心配は、管理されないグローバリゼーションが民主主義を破壊することだ。国内政治は中産階級や仮想の有権者を守ることができず、グローバル市場を規制する機関は弱すぎるか、彼らの声が届かない。

グローバリゼーションは、世界市場を利用できる者と、そのためのスキルや資源を持たない者との間で、分裂状態にある。その不満や敵意を、トランプなどのネイティビスト(自国民優先主義者)たちが利用する。

われわれは、グローバリゼーションをポピュリストから救出すると同時に、極端なチアリーダーたちからも守らねばならない。国民的な自律と経済グローバリゼーションとのバランスを変える必要がある。要するに、「ハイパーグローバリゼーション」が極端に進行しているのだ。

民主主義的な国家の国内規制、文化や独自の制度は、グローバリゼーションに対して守られるべきだ。それぞれがその権利を持つ。国際交渉の目的は、他国へのマイナスの影響を考慮するとしても、国内政策の自立性を高めることであるべきだ。グローバル・ガバナンスとは、民主主義を高めるために構築すべきであって、グローバリゼーションの推進ではない。

他方、ロシアや中国、サウジアラビアのような非民主的国家の場合、法の支配や市民的な自由が守られていない。そのような国には、国際システムが認める国内統治の権利は認められない。国内規制が市民を守るために必要だ、とは主張できない。

グローバリゼーションは、ある限界内において、経済的に利益があり、民主主義にもよいものとなりうる。

Project Syndicate SEP 19, 2016

The Coming Anti-National Revolution

ROBERT J. SHILLER

過去数世紀にわたって人類は、さまざまな抑圧に対する一連の知的な革命を経てきた。革命とは、心の中に起きることであって、最終的には世界に広がる。それはさまざまな理由で起きる戦争によってではなく、言葉と情報技術によって実現する。

私は次の革命が、国民国家によって生じている経済格差の消滅だと思う。全くの偶然で,ある人々は貧しい国に,他の人々は豊かな国に生まれる.ますます多くの人が多国籍企業で働き,他国から来た多くの人と知り合うなら,正義の感覚も影響を受ける.

イギリスの名誉革命は,国王の権力を議会が抑えるだけでなく,正義の世界的な革命を開始した.情報が集まるコーヒー・ハウスを拠点に,自由で,シェアされる新聞に依拠した正当性が発達した.また,トマス・ペインの『コモン・センス』はアメリカ植民地13州の独立を実現する知識を広めた.それはベストセラーであり,教会や集会で朗読された.奴隷制の廃止,1848年のヨーロッパ各国における革命,女性参政権,そして人種や性的なマイノリティーに市民権が拡大された.

すべて「正義の革命」は,コミュニケーションの改善から生じた.次の革命は,出生地,国籍による特権を廃止するだろう.納税や兵役を担う国民間の社会契約は,この革命に反対する.無制限の移民流入を拒むのだ.しかし,出生地に関する革命は,移民を標的にしない.

P.A.サミュエルソンが1948年に発表した「要素価格均等化命題」は,輸送費がかからない,完全の自由貿易を仮定しただけであった.標準化した労働を含めて,要素価格は世界中で均等化する.輸送や情報の技術は進歩し,自由貿易協定は増えている.

必要なことは,物理的な居住地と結びつかない,生涯キャリアを実現する安定した基礎である.そして,自由貿易の敗者に対する保護システムである.

日常的に,外国の知的でまともな人々と,コンピューターのモニターで相談する人たちから,次の革命は生まれる.自由貿易協定は改善され,公正なグローバル経済に向けた移行において,より充実した社会保障が人々を守る.


l  アメリカ外交の破たん

FP SEPTEMBER 16, 2016

The Broken Policy Promises of W. Bush, Clinton, and Obama

BY STEPHEN M. WALT

冷戦終結後の3人オ大統領は,選挙運動で約束したリアリスティックな外交政策を,大統領になってから変更し,大きな失敗を犯した.

クリントンは,「平和の配当」を国内の経済的繁栄のために使うと約束したが,NATOを東に拡大し,ペルシャ湾では「二重の封じ込め」を行った.彼は,民主主義国は互いに戦争しない,ロシアは永久に弱体だ,という前提で,安全保障のコストを考えなかった.しかし,彼が退任してから,911テロ攻撃や,ロシアによる反撃を起きた.

ブッシュは,それまで双方を許容していたが,911テロを受けて,パウエル=スコウクロフトのリアリスト外交より,チェイニー副大統領らのネオコン思想を採用した.イラクとアフガニスタンで破滅的な戦争に突入し,中東や世界に自由を拡大すると主張した.

2008年,ほとんど無名だったイリノイ州の上院議員が,その雄弁さと,最初からイラク戦争に反対していたことで支持を得た.彼は戦争を終わらせ,悪化した外交関係を修復する,と約束した.ブッシュ政権の行き過ぎを正し,グアンタナモを閉鎖する,拷問の禁止,令状なしの捜索を止める,秘密事項を減らす,透明性の高い説明責任を果たす政府になる,と.

しかし,それは守られなかった.

なぜアメリカ国民が望むような外交政策は実行されないのか?

大統領になると,アメリカの例外主義,グローバルな秩序にとってアメリカは欠かせない国だ,というエスタブリッシュメントのコンセンサスを無視できないのだ.そして,

1.アメリカは豊かで,しかも安全だ.他の国には,このような外交政策の失敗は耐えられない.

2.アメリカは冷戦期に膨張したグローバルな諸機関に重要ポストを得ている人々がいる.

3.アメリカの外交専門家たちは,政府,官僚,学校,シンクタンク,基金,主要メディアに広まっており,リベラルなヘゲモニーを信奉している.国民の多数が望む者とは逆に,組織されたマイノリティーが外交を独占できるのだ.他方,国民は大統領選挙のとき,いくつかの問題を知るだけで,無関心だ.


l  メルケルは謝罪しない

Bloomberg SEP 20, 2016

Angela Merkel Isn't Backing Down

Leonid Bershidsky

アンゲラ・メルケルは謝罪するべきだ,と多くの人は思っている.100万人を超える難民の流入につながった,メルケルの決断に関してだ.地方選挙で,メルケルのキリスト教民主同盟CDUの敗北が続いている.

しかし,メルケルは謝罪しなかった.「われわれは事態を掌握できる」と語ったが,ドイツ官僚制の異常に高い水準からみて,その後の事態は混乱し,公的な情報交換がパニック状態になっていた.「もしもっと,ずっと時間をさかのぼることができるなら,ドイツはもっと準備して,事態に対処できただろう」とメルケルは語った.

今,関連するスタッフは増員され,事態は沈静化したように見える.最近の難民と極右団体との衝突も,警察によって整然と分離され,負傷者を出さなかった,テロ事件も続いたが,犠牲者の数は,フランスやベルギーよりはるかに少ない.

メルケルの強みは,事態が沈静化するまで冷静さを保つことだ.CDUの支持率は30%に落ちたが,他の政党に比べて圧倒的に高い.メルケルは4期目に挑戦するだろう.メルケルなしに,それは不可能だ.


l  最後の貸手と政治構造

VOX 19 September 2016

Political foundations of the lender of last resort

Charles Calomiris, Marc Flandreau, Luc Laeven

中央銀行による最後の貸手(LOLR)は,19世紀の半ばまでに西ヨーロッパで行われていたが,他方,アメリカには1913年,ニュージーランドには1935年,オーストラリアには1959年まで,中央銀行がなかった.

世界のLOLRに関する歴史を見れば,それは経済学の視点だけでは説明できない.LOLRは,各地における歴史的な制度であり,その政治的なバランスの焦点として成立した.


l  日銀の政策決定

Bloomberg SEP 19, 2016

Fed Meeting Shouldn't Obscure BOJ's Big Moment

Mohamed A. El-Erian

日銀の決定は,過去の政策の検証を欠いたまま,特定の金利を目標にしたものだ.世界金融危機後の不確実な世界で,金融政策担当者が陥っている過大な責任と政策の有効性への疑問を,顕著に示している.

Bloomberg SEP 21, 2016

Japan's Central Bank Experiments at the Wrong Time

Mohamed A. El-Erian

日銀は,もっと安倍政権に「第3の矢」である,構造改革による成長率の引き上げを実行するように求めるべきだ.


l  北朝鮮の核開発

Project Syndicate SEP 20, 2016

The Coming Confrontation with North Korea

RICHARD N. HAASS

2020年のある日,CIA長官が大統領と緊急の会談を求める.北朝鮮が核弾頭の小型化に成功した情報を得たからだ.アメリカは,直接,北朝鮮の核攻撃にさらされる.

これは空想であるが,5回目の核実験で,開発は大きく前進したようだ.北朝鮮がアメリカの軍事攻撃を抑止できると考えた場合,韓国に対して通常兵器による攻撃を始めるかもしれない.他方,韓国や日本は,アメリカによる安全保障の約束を信用できなくなり,自国の核武装を始めるかもしれない.その議論は中国に対する警報となり,世界で最も多くの人口と経済力,軍事力が集まる地域で,紛争もしくは戦争のリスクが高まる.

アメリカには選択肢があるけれど,いずれも好ましいものではない.

1.核保有した北朝鮮と共存する.北朝鮮には,核の使用が体制の消滅であることを確認する.2.制裁を強化する.制裁の実効性を高めるため,中国との外交を深める.そして,将来の朝鮮半島に関する合意を形成する.再統一後の朝鮮半島では,米軍をもっと南に下げてもよい.3.北朝鮮が核兵器を使用する情報があれば,ミサイル基地に対して,古典的な予防的攻撃を行う.

しかし,いずれの選択肢の限界も明らかだ.次の大統領が誰であれ,こうした局面を経験するだろう.

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The Economist September 10th 2016

Art of the lie

Elections in Hong Kong: A not-so-local difficulty

Economic reform in the gulf: Time to sheikh it up

Ireland and Europe: Upsetting the Apple cart

(コメント) 「真実後の政治」に関して,考察されています.大衆の不満に応え,SNSがメディアを侵食し,真実とウソとを区別するインフラが機能しなくなる世界.

香港の選挙は住民たちの政治意識を形成し,湾岸諸国は真実の瞬間に直面しています.Appleという世界企業が促すグローバルな政治構造と税制に向けて,何が必要なのか?

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IPEの想像力 9/26/16

Brexitについて,研究会で報告しました.ばったり先輩の先生に会い,報告してよ,という話になって.

Brexitは不思議です.それは姿がよく見えない,咆哮だけが聞こえる山奥の怪獣のようです.

私の報告の構成は,1.「恐怖プロジェクト」と「嘘つきプロジェクト」.2.イギリスの4つの顔.3.国際秩序を築く.4.国際関係論と国際経済学.です.

私は,Brexitは起きない,と思いました.確かに,政治キャンペーンは激しさを増し,EUには良くない話ばかりが重なりました.しかし,EUの意義はイギリス人も認めるだろう.まさか,EU抜きに,イギリスが孤立するような選択を,有権者がすることはない.冷静に考えるなら.

「離脱だよ」と聞いて,ゲッ,と絶句しました.

なぜだろう? いくつも理由は考えられます.特に,国民投票,という決定方法です.二者択一.離脱か,残留か? 残留のイメージは,このまま.でも離脱のイメージは,何でもありです.残留派が,離脱によって生じるコストに焦点を当て,他方,離脱派はさまざまな不満や不安を吸収し,離脱後の勇敢なイギリス人と愛国心を称賛したのです.かつて,ヒトラーを退けたように.

残留派は,もっと根本的な問題に答えるべきでした.これはグローバリゼーションとネオリベラル政策に対する反対であった,と指摘されています.グローバリゼーションは,必ず敗者の不満を高め,それが制度によって吸収されなければ維持できません.世界金融危機以後のイギリス保守政権による緊縮策の主張は,ロンドン以外のグローバリゼーション不満を高める結果になったと思います.

結局,Brexitとは何なのか? この怪獣は,まだ,山から出ていません.これから進むUKEUの政治的再編,秩序をめぐる論争や制度の組換えが,具体的な姿を決める,というわけです.

イギリスで起きたことは,ティモシー・ガートン・アッシュの考察に見事に描かれている,と思いました.イギリスには4つの顔があるのです(あるいは,2つの顔です).すなわち,島,世界,ヨーロッパ.アメリカ.しかし,こうした論評に,何も決定的な根拠はないと思います.それはアッシュが言うように,歴史的な物語を形成する道具立てです.

Brexitにおいて,離脱はヨーロッパを拒むことでした.あるいは,ヨーロッパを介してグローバリゼーションに対抗する戦略に失望したのです.むしろ,ヨーロッパは危機の巣だ,と.

国民投票に向かう選挙運動が,そうした政治的均衡を探る国民的な模索過程であったのは確かです.国家という歴史的な構築物を,繰り返し,新しい条件の中で再生する政治的な試みに,積極的に取り組むことを,イラク戦争やさまざまなテロ事件,EUをめぐる重大な3つの危機,あるいは,世界金融危機やアメリカ大統領選挙の不安は,イギリス政治家と有権者に求めたわけです.

国際秩序の姿も,危機によって形成される,とスティーブン・ウォルトは考えます.国家を超える秩序は,決してネオリアリストが言うようなパワーの配分で決まる構造がすべてではないし,国際経済学や国際金融論が描く,さまざまな市場均衡と調整過程ではない,というわけです.

それは,予測不能な,ショックの連続です.未来は予想外の事件に満ちており,それに対応する決断の背後にあるのは,政治指導者たちの信念である,と.あるいは,ホフマンが言うように,国際秩序には,あまりにも多くの暴力と不正義が存在しており,それを無視して合理的な議論はできない.価値と規範的な姿勢が求められる,と.

私のBrexit報告は,ここがポイントでした.国家という,内部の政治バランスによって動く構築物が,しばしば,激しい雷のような衝撃に撃たれます.旧来の構造において地位を確立していた社会的アクターも,解体され,秩序の再編を模索します.

国際経済学・国際金融論も,こうした構造変化を受けて,その構造や調整過程を変える条件を得るのではないか.あるいは,それらを反映できないような貿易構造や国際収支の在り方は,根本的に不安定化する.帝国であれ,国際通貨制度であれ.

国際秩序の調整を,社会的アクターの形成や再編まで含めて,歴史的・社会的に議論することが,国際政治経済学の目標なのです.

だから,日本にとってのBrexitとは,グローバリゼーションに対抗する戦略国家の形成,保守的ポピュリズムに負けない,憲法改正や朝鮮半島再統一の,未来に向けた構想を問うことなのでしょう.国家とその想像力は,モンスターを生み出します.

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