IPEの果樹園2016

今週のReview

9/12-9/17

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メイ首相のBrexit ・・・中国・杭州G20 ・・・マイナス金利は必要か? ・・・メルケル難民政策への反発 ・・・香港・民主派から独立派へ ・・・ロシアと日本の合意は可能か? ・・・グローバリゼーションの逆転 ・・・ノアの箱舟 ・・・難民危機 ・・・オバマ外交 ・・・中国とカンボジア ・・・外交における一角獣

 [長いReview]

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[これは英文コラムの紹介です.私の関心に従って,いくつか要点を紹介しています.関心を持った方は正しい内容を必ず自分で確かめてください.著者と掲載機関の著作権に従います.]


l  メイ首相のBrexit

Bloomberg SEP 5, 2016

Mapping Britain's Exit From Europe

Clive Crook

2か月経ったが、メイ首相は何も示せない。交渉であるから細部は説明できないにしても、優先順位や基本原則は示すべきだ。Brexitを実現する上で、短期的な手続きと、長期的な目標とを、区別することが重要だ。

イギリスもEUも、緊密なパートナーであり続けることが重要だ。当面、離脱の愚劣な交渉過程が続くが、イギリスとEUは数年ではなく数十年を共に生きる。

重要な点は極めて単純だ。イギリスは、EUの超国家プロジェクトには属したくないから、離脱する。しかし、経済統合や外交協力には、最大限、参加したい。多くのイギリス人にとっては、移民規制が重要であった。それゆえ、移民規制を行うことで単一市場は利用できないのか? と問うだろう。イギリスが望むは、高度なFTAである。

Project Syndicate SEP 8, 2016

The Not-So-High Costs of Brexit

DANIEL GROS

Brexitは、今年最大の実現しなかった大事件になりそうだ。ポンド安と金利低下を示しただけで、国民投票は持続的な影響を何も残さなかった。金融市場、消費支出、さらに驚くことに、投資についても、動きはない。

Brexitのコスト予想は間違いだったのか? そうでもない。GDP2-3%が低下するというのは、投票結果ではなく、単一市場から離脱することについてのコストである。それは長期にわたって生じる。もし10年で発生するなら、年0.2-0.3%である。それくらいならポンド安で補えるだろう。

もう1つのクッションとなる要因は、イギリス経済がサービスに大きく特化していることだ。1990年代に比べても、財の輸出よりサービスを、EU諸国よりEU外に多く輸出している。

このことはBrexitのコストを小さくしているが、他方で、今後の貿易交渉をむつかしくする。特に新興の巨大市場に対して、交渉のテコにできる材料が少ないのだ。

サービスの中でも、金融が重要であるが、その拡大はユーロ圏の統一によって生じた。Brexit後もロンドンの優位は変わらないだろう。しかし、EUとの交渉にかかわらず、イギリス経済の構造はサービスから製造業の再生に少し傾く。このリバランスがどうすれば管理できるのか、わからない。それが進まないと、Brexitのコストは増大する。

金融部門の拡大は所得分配を不平等化し、グローバリゼーションへの不満やBrexitへの投票に導いた。EU離脱はその結果だが、コストはまだ定まらない。


l  中国・杭州G20

The Guardian, Sunday 4 September 2016

The Guardian view on the G20: helping China find its new place in the world

Editorial

グローバルな問題が積み重なっている中で、中国・杭州G20の関心はオバマ大統領に歓迎の赤じゅうたんが敷かれていなかったことに集まった。これは陰謀か?

しかし、アメリカが中国国民の感情を傷つけた、という主張は無視されてきた。習近平は、アヘン戦争以来、外国が支配した「恥辱の100年」、という発想を広めた。そして生活水準の改善と国民的な威信回復を掲げた。

2008年の世界金融危機以後は、中国が世界救う、という誇大広告に向かった。オバマの新しい外交を弱さの表れと見たし、「アジア旋回」は太平洋を支配し続けること、そして中国を封じ込めることだと解釈した。西側からの道徳的な非難を嫌った。台頭する中国は、国際制度を作り替えることを望むし、もし他国が反対するなら、独自のものを創ろうとしている。

西側は中国の排外的な変化、ますます強まる軍事的なスタンスを軽快している。北京はG20を最近の危機に対する効果的な舞台に作り変え、事後的な対策より、問題への戦略的な取り組みを示す場にしようと望んだ。「グローバル・ノース」と「グローバル・サウス」とをつなぎ、宇宙開発や平和維持にも協力する。

しかし、中国は国内問題でも明らかに失敗している。日曜日に行われた香港立法院の選挙で、独立派が当選したのだ。中国共産党が香港のコミュニティーに対する支配を強化したことで、むしろ人々は香港市民としての自覚を強め、かつて愚かな要求であった「独立」を支持する者が増えた。

中国は南シナ海や国内の言論弾圧を続けているが、それでも中国に世界で積極的な役割を果たすように、指導的な諸国は支援しなければならない。


l  マイナス金利は必要か?

FT September 7, 2016

The ECB shows that central banks are sometimes the only game in town

Lorenzo Bini Smaghi

ECBの主要な目標は、インフレ率を2%の目標に近づけることだ。インフレ期待は低く、さらに低下する危険がある。

量的緩和政策の弊害として市場のゆがみがあることはわかっている。貯蓄は損なわれ、銀行利潤は失われ、実物経済に信用は向かっていない。

ECBは多くの者の見解に賛同する。他の政策の動員がなければ、特に、財政刺激策と構造改革がなければ、金融政策の効果は失われていく。しかし、ヨーロッパの政治家たちは動こうとしない。ドイツなど、財政的な余力がある国でもそうだ。そして改革の疲れが広がっている。

どうすればよいのか? それを考えるうえで、逆のケースを考えてみてほしい。ECBが、原油価格の上昇、賃金上昇、インフレ期待の高まりで、強いインフレ圧力に直面しているとしよう。それが設定された目標を超えて、たとえば、3%とか4%であり、同時に、経済成長は低く、不況でさえある。非伝統的な手段、例えば信用規制なども行うが、インフレはなお目標より高い。

そのような状況であれば、明らかに、現在と同じような論争になるだろう。他の政策が動員されないまま金融引き締め策を続けても無駄である、とか、財政引き締め、労働市場改革を行え、とか。金融引き締め策の損失は低インフレの達成よりも深刻だ、と。

1970年代の半ばから1980年代の前半に、中央銀行はそのような状況にあった。多くの国で中央銀行は、他の政策が動くことを期待し、インフレ圧力にもかかわらず金融引き締めを延期した。その顕著な例外が、1970年代半ばのドイツ連銀と、1980年代前半のアメリカ連銀だった。彼らは金融引き締めの弊害を知っていたが、それでも主要な目標は物価の安定であると理解した。政治が責任を引き受けて、インフレが管理されるまで、彼らはかつてない水準まで金融引き締めを行った。

それは人気のある政策ではなかったが、経済を持続可能な経路に戻し、究極的に、中央銀行の独立性を守ったのだ。


l  香港・民主派から独立派へ

FP SEPTEMBER 7, 2016

Meet the Young Leaders Shaking up Hong Kong Politics

BY SUZANNE SATALINE

94日、香港市民たちは、2年前の「雨傘革命」と同じように、再び、北京からの政治介入に反対の意思を示した。立法院選挙に、多くの市民が投票し、民主化運動を支持した人々が作った政党Youngspirationからも当選者を出したのだ。

220万人という記録的な投票が行われ、ある投票所では午前2時を過ぎても投票者が行列していた、という。

Edward Leungは聴衆に述べた。「われわれはもはや権力を握る人々に改革を頼まない。われわれがボトムアップの革命を起こすのだ。」 こうした言動こそ、社会的安定性と中国の領土的一体性が成功の鍵であると確信する北京や香港の政府官僚をいらだたせる。

立法院が依拠する基本法に対して、彼らは信用していない。彼らはその改正を求めるだろう。基本法が保証する「12制度」の期間は2047年までである。それは若者たちにとって遠い未来ではない。


l  ロシアと日本の合意は可能か?

Bloomberg SEP 5, 2016

A Russian Deal With Japan Finally May Be Possible

Leonid Bershidsky

単に経済協力のために領土を売ったというのではなく、東アジア安定化のためにロシアは日本にとっての戦略的な同盟国であると国民が納得するような合意を、プーチンは求めている。


l  グローバリゼーションの逆転

FT September 7, 2016

The tide of globalisation is turning

Martin Wolf

移民だけでなく、貿易や投資に関してもグローバリゼーションは逆転するのか?

1次世界大戦前のグローバリゼーションが逆転したときと同様、アメリカ政治が変化するかもしれない。労働集約的な製造品の貿易、世界史的に見ても最大規模の投資ブームが中国で起きたことに対する国際商品貿易の増加、さらに国際融資やFDIの増大する周期が終わった。

各国政府は、貿易自由化ではなく保護主義に関心を向け始めている。金融危機とその後の景気低迷、排外主義が各国政治を変質させた。

いかにしてもグローバリゼーションの進展は止まった。それは逆転できるのか? できるとしたら、主要な大国間の平和が必要だ。もし覇権国の存在を考えるなら、アメリカと中国の戦争が可能性として考えられる。しかし、その破壊的な影響は計り知れない。

グローバリゼーションを、経済変化のもたらす諸問題についてのスケープゴートにしてはならない。過去から学んで、内外の政策を転換するべきだ。

Project Syndicate SEP 6, 2016

Leadership Icons of a Globalized World

HAROLD JAMES

現在のグローバルな文化状況において、ドイツのメルケルとロシアのプーチンの異なる国民指導者が、その複雑性に1つの意味を与えている。

かつて、第1次世界大戦後に、民主体制が崩壊していったとき、世界はイタリアのムッソリーニとロシアのレーニンに注目した。1920年代、ムッソリーニは社会を組織する最適な方法を見つけた、と外国の観察者たちも確信した。伝統的なリベラリズムがもたらすアナーキーと自己破壊的な性格を克服する、と。ムッソリーニの下で、イタリアは世界経済に統合し、しかも、資本と労働との利害の調和を説く、公式のコーポラティズムを推進した。

ムッソリーニのファシスト・インターナショナル運動は、各地に影響を及ぼした。ヒトラーだけでなく、イギリスでも、ルーマニアでも、中国でも、ファシズム運動が起きた。

この時代に、ムッソリーニに対抗したのはレーニンであった。レーニンも階級のない社会を建設すると主張し、そこでは政治対立がなくなると考えた。

現代の指導者たちが政治の将来に見ているのは、メルケルとンプーチンが示す開放性と防衛性の対立である。フランス国民戦線の党首で、大統領選挙に立候補すると思われるマリー・ル・ペンは、メルケルがEUをヨーロッパに対するドイツの支配の道具に使う、と考え、難民の寛容な受政策を「奴隷」輸入と主張した。

メルケルが代表するのは、効果的な政治的管理によって世界は改善できる、という希望である。他方、プーチンは、社会的な保守主義、政治的な権威主義、ロシア正教によるユーラシアの統合を目指す。こうしてメルケルとプーチンは、グローバリゼーションの到達した交差点を代表する政治的なイコンとなった。


l  中国とカンボジア

FT September 9, 2016

FT Investigation: How China bought its way into Cambodia

James Kynge, Leila Haddou and Michael Peel

中国からの膨大な投資は無条件のものであるが、東南アジアに関するASEANの合意が中国の利益に反するようなとき、それを拒否するために、カンボジアとの戦略的な同盟関係を強化する役割を果たしている。それはカンボジアの独裁的な支配者、フン・センの個人的な結びつきを基礎にしている。


l  外交における一角獣

FP SEPTEMBER 8, 2016

My Top 5 Foreign-Policy Unicorns — and Why I Want to Kill Them

BY STEPHEN M. WALT

一角獣を見たことがありますか? ・・・もちろん、私もない。しかし、お話では様々な望ましい、幻想的な性質を持っている。また、ひどい怪物の話もいろいろあるが、幸いなことに実際には存在しない。

しかし、政治においては、しばしば、ユニコーンやいろいろな怪物を信じるように求められ、それを生み出すとか、消滅させるという政治家たちに投票するよう頼まれる。そのために貴重な現実の機会を失い、とんでもない危険を引き受け、国内の崩壊するインフラや教育システムを無視するのだ。

外交政策に現れるこうした生き物たちのトップ5を紹介しよう。

1.完全な軍縮(核廃絶)・・・武器のない世界、戦争のない世界、深刻な政治対立のない世界。

2.核兵器を持つ無法国家・・・抑止することのできない、大量殺戮の脅迫を行う、自殺的な戦争も避けようとしない国家。Joseph Stalin, Nikita Khrushchev, Mao Zedong, North Korea’s Kim family, along with assorted Pakistanis, Iraqis, Libyans, and Iranians

3.テロ組織の指導者・・・911が示すような、世界を隷属させる天才的なテロ組織の指導者。

42国家独立案・・・パレスチナとイスラエルが独立国家として和平と安全保障を確立する提案。

5.(アメリカに)フリー・ライドしない同盟諸国・・・ヨーロッパでもアジアでも、アメリカは安全保障を引き受けてきた。同盟国は軍事費を負担したがらない。

FP SEPTEMBER 8, 2016

Is the United States Giving Up on Supporting Democracy Abroad?

BY THOMAS CAROTHERS

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The Economist August 27th 2016

Colombia and FARC: Ending a half-century of war

Monetary policy: When 2% is not enough

Central banking: The Jackson four

Banyan: A spot of localist bother

Six big ideas: The Mundell-Fleming trilemma – Two out of three ain’t bad

(コメント) コロンビアにおける内戦終結.金融政策の改善策を国際会議で議論しました.香港「雨傘革命」を弾圧したことが民主派を「独立派」に向かわせた.

最後のアイデアは「政策トリレンマ」もしくは「不可能の三位一体」です.あらゆる政策がこの議論に集約されているわけですが,記事は2つの指摘をします.このテーマはすでにJ.M.ケインズが述べていた.また,最近では,変動レート制でも金融政策の自律性を守れない,と分かった.

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IPEの想像力 9/12/16

NHKドキュメントWAVE「ジャカルタ・パンク:インドネシア 抑圧された人々の叫び」を観ました。パンクの意義をこれほど強く示したバンドを知りません。

ここには反逆する理由があり過ぎる。

学生を中心にした反体制デモは一般市民を巻き込み、大暴動化。抑圧と恐怖、経済危機と混乱をもたらした30年間のスハルト政権が終焉した。それから15年経った今、近年話題になるほどの経済成長と共に貧富の差は拡大している。貧困層が人口24千万人の半数近くにも達すると言われ、富豪トップ40人の総保有財産は、最貧困層6,000万人の財産とイコールになるという調査報告もある。

アジアで唯一貧困層が増え続けているこの国は、汚職と腐敗と不条理に埋め尽くされている。町は公害に侵され、インフラは整備されず、教育は高額で、医療制度は機能していない。警察や教師は賄賂を受け取り、官僚は富んだ暮らしに浸り、国民の多くはスラムに生きる。信号待ちをする車に幼児が裸足で駆け寄り、小銭をせがんでいる。パンクな出で立ちの幼い少年はウクレレを抱え、バスの乗客の前で一曲奏でる。よくある光景だ。貧しさが生んだフラストレーション。怒り。怒りが火をつけたパンク・ムーブメント。パンクは、瞬く間に若者の間に広がった。将来への夢や希望がない多くの若者に、パンクはアイデンティティを与え、感情をぶつける場所となり、さらにはストリートで生きる子供たちにとって生きる術となった。巨大化した彼らの存在を政府も無視する事ができなくなった。」(マージナル:ジャカルタ・パンク/中西あゆみ,解説文)

マージナルの代表曲「ネグリ・ングリ(Negeri Ngeri=恐怖に襲われた国)」を,歌詞の日本語訳とともに,聴きてみたいです.

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本山先生の大阪労働学校を訪ねました。かつて居留地であった土地にある学校再興を,先生は篤い思いで語っておられました.

私が参加したのは「第1回公開市民講座」です.日本軍は,侵略戦争の過程で,中国・海南島を占領しました.各地で強制労働や略奪,強姦,性奴隷化(軍の慰安婦),大量虐殺を行い,しかも,敗戦後はその事実を隠し,責任者の追究や謝罪,補償を行わなかった,と批判する記録映画の上映会です.

海南島虐殺に関わった日本軍の関係者,兵士はわかっている,と言います.なぜ,何があったか,日本でも調査しないのか? という質問に,誰1人として,そのことを証言しなかった,と「海南島近現代史研究会」は説明しました.

帰り道は,喫茶店,中華料理店をはしごしました.マルクス主義も近代経済学も偽物だ,と断言する本山節に,私は独自のコンストラクティビズムを感じました.

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北朝鮮の核実験は、国際関係の本質を変えるものではありません。(本山先生の上映会での言及には,この問題を扱う日本側の姿勢に対する不満も込められていました.)

しかし、大陸間弾道弾と潜水艦発射ミサイルの開発にも前進し,中国やロシアを含む周辺諸国,そしてアメリカにも,その脅威は及びました。

この問題を語り合うNHK日曜討論を観ました。・・・中国政府は、南シナ海などで紛争を抱えているときに、北朝鮮の体制を動揺させるような強い制裁は拒否するだろう。・・・北朝鮮は,核武装を拡大しながら,同時に,経済開発にも成功したアイゼンハワーのアメリカ,ソ連,インドの先例を意識しているだろう.・・・いや,北朝鮮は,むしろイラクやリビアのケースに近い.

何とか核戦争を回避しながら,国家犯罪の時代に終止符を打ち,人道・開発援助や市場開放,核保有国として地域安全保障に組み込む形を模索するのでしょうか?

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