IPEの果樹園2016
今週のReview
7/11-16
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Brexit後の世界 ・・・Brexitの意味 ・・・グローバリゼーションの分裂 ・・・保守党の内紛 ・・・社会科学の未来 ・・・政治的に何もしない ・・・国民投票に制約されるか ・・・IOC難民チーム ・・・イラク戦争の委員会報告
[長いReview]
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[これは英文コラムの紹介です.私の関心に従って,いくつか要点を紹介しています.関心を持った方は正しい内容を必ず自分で確かめてください.著者と掲載機関の著作権に従います.]
l Brexit後の世界
FP June 26, 2016
The Collapse of the Liberal World
Order
By
Stephen M. Walt
かつて、1990年代には、多くの賢明な、真剣な人々の主張として、リベラルな政治秩序が将来を決めるものであり、地球上に広がるはずであった。ヨーロッパ市民の多くは、民主的制度、市場統合、法の支配、国境の開放、というユニークな組み合わせが、アメリカの粗暴な「ハードパワー」より優れたとまで言わないが、それに並ぶ、「市民的パワー」になると信じていた。
しかし、1990年代の高揚した楽観論はますます悲観論や警告に変わっている。リベラルな理想を信じる人々には困難な時代になった。
私はリアリストであるが、リアリスト的な世界の中でリベラルな社会の諸価値を支持する。もしリベラルな制度や価値が広まれば、世界はより改善されると思う。(しかし、われわれにそれが実現する過程を早めることができる、とは思わない。特に、軍事力の行使によって。)
なぜリベラルな理想は実現しなかったのか?
第1に、それは誇張されていた。独裁者が倒れ、選挙が行われても、言論の自由や法の支配、競争的市場を実施し、EUやNATOに加盟しても、たとえ政治的な反対がリベラルな枠組みの中で扱えるとしても、それは円滑に進むものではない。リベラルな社会の中で傷つく集団は出てくるから、反感が生じるのは避けられない。しかも、イラク戦争、アフガニスタンの国家再建、2008年の金融危機、といった大失策をエリートは犯した。
また、リベラルな人々は、その成功がリベラルな社会の基礎にある諸価値、特に、寛容さを必要とすることを忘れていた。それは外部から、特に、ドローンや特殊部隊が押し付けることはできないものだ。
さらに明らかなことだが、冷戦後のリベラル派は、ナショナリズムや他のローカルなアイデンティティーを軽視した。宗派、エスニシティ、部族の紐帯、などだ。しかしますます多くの場所で、人々は民族のアイデンティティーや、歴史的な対立、領土的シンボル、伝統的な文化を、リベラル派の「自由」よりも重視するようになっている。
特に社会変化が急激で、予測できないようなとき、また、かつて同質的であった社会が、異なる背景を持つ人々を、短期間に協力させ、同化するように強制するとき、そうした伝統的感情が膨れ上がる。リベラル派は寛容さや多文化主義を重視するが、1つの政治体の中で諸文化を混ぜ合わせることは容易でない。
最も重要なことは、自由を悪用し、その制度を乗っ取ろうとする個人や集団に、リベラル派が脆弱であることだ。Donald Trump, Jean-Marie Le
Pen, Recep Erdogan, Geert Wilders、その他の政治的な企業家たちは、リベラルな原則を表面的にしか信じていない。そして、開かれた社会を悪用し、支持者を増やす。彼らの企てをくじく用意は民主主義的な秩序にない。
私の考えでは、これが多くの人々にヨーロッパにおけるアメリカの関与を必要と思わせる原因だ。攻撃的なロシアへの不安ではなく、ヨーロッパそのものへの不安である。ヨーロッパの平和、寛容さ、民主主義、そしてEUがグルジアやウクライナにまで拡大することを望むが、本当に、ヨーロッパはそれを管理できるのか? アメリカによる平和の維持がなくても、ヨーロッパはリベラルな秩序を維持できるか?
アメリカの資源も限りがある。裕福な他国の防衛を支援するのは気が重い。リベラルな価値は、ヨーロッパで生き延びるだろうか?
l Brexitの意味
Project Syndicate JUN 25, 2016
The Meaning of Brexit
Jeffrey
D. Sachs
Brexitは3重の抗議であった。第1に、増大する移民流入に反対し、第2に、シティの銀行家たちに反対し、第3に、EUの諸制度に反対した。
それは結果的に、ドナルド・トランプの大統領選挙運動に対して、他の反移民の政治家たちと同様に、大きな追い風となった。Brexitは、新しいグローバリゼーションが必要であることを示した。移民の流入を抑えなければならない、と有権者の多くは考えている。それは公的秩序や文化的な規範を脅かす、と。
イギリスでもEUでも、短期的には破滅的フィードバックを抑え、長期的には改革の利益を最大化しなければならない。
第1に、シリア内戦を直ちに終わらせて難民の増加を止める。それはCIAとサウジアラビアによるアサド政権打倒の試みを終わらせることだ。これによってアサドは(ロシアとイランから支援を受け)イスラム国家を打ち破り、シリアを安定化する。体制転換(アフガニスタン、イラク、リビア、シリアで行われた)に向かうアメリカの習性は、ヨーロッパ難民危機の遠因である。アメリカの介入がなければ、シリア難民は帰国できる。
第2に、ウクライナとグルジアに対するNATOの拡大をやめる。ロシアとの冷戦はアメリカのもう1つの大失策である。それをやめればロシアとの緊張は緩和し、関係を正常化できる。ウクライナは安定化し、ヨーロッパの経済と統合化に関心が向かう。
第3に、イギリスの離脱を罰するな。むしろ、各国の国境やEU境界線の管理を強化し、非合法移民を取り締まる。それは決して、外国人排斥でも、レイシズムでも、(自国民優先の)熱狂でもない。世界で最も豊かな社会給付を行う西ヨーロッパは、何百万人もの移民流入を拒む。アメリカも同じだ。
第4に、恵まれない労働者階級には、公平さと機会を保障することが重要だ。彼らの生活水準は、金融危機と、職場の海外移転によって悪化している。それは医療、教育、職業訓練、貧困家庭への支援に潤沢な社会給付を行うため、富裕層に課税し、タックス・ヘイブンを閉鎖する社会民主主義のエートスである。公共の財源で経済的不正義を正す。それはまた、ギリシャ債務を免除し、ユーロ危機を終わらせる。
第5に、低所得諸国においては、戦争より、経済発展に向かう資源や経済援助に注目せよ。気候変動、極度の貧困、熟練や教育の欠如がアフリカ、中央アメリカ、カリブ海域、中東、中央アジアにおいて発展の可能性を損なう限り、移民政策にかかわらず、貧困・紛争地域からの無数の移民が続く。戦争ではなく、持続的な発展に戦略を転換する必要がある。壁を築いても移民は阻止できない。グローバルな協力が必要だ。
NYT JUNE 25, 2016
Britain Rattles Postwar Order and
Its Place as Pillar of Stability
By
JIM YARDLEY, ALISON SMALE, JANE PERLEZ and BEN HUBBARD
イギリスのEU離脱は、長い間、ヨーロッパで平和的に共存してきた民主主義的諸国のブロックを解体する脅威になる。さらに、1945年以後のアメリカとその同盟諸国が世界に広めた秩序も解体するのか?
低成長が伝統的なリベラルな経済に対する信頼を崩し、特に、貿易と増大する移民に直面したことで崩壊が始まっている。ポピュリズムが各地に現れ、中東の国境は消滅し、宗派対立が高まっている。中国はますます攻撃的になり、ロシアの冒険主義も強まっている。よりよい生活を求めて、貧しい、あるいは戦争に破壊された土地から、多くの難民がやってくる。
今やイギリスは、戦後秩序の基礎に走る亀裂のシンボルになった。世界最大の市場、グローバル民主主義のアンカー、であるEUが弱まった。その背後にある戦後のコンセンサスが、安定性を維持する諸国民間の同盟であり、かつてヨーロッパを流血の紛争に陥れたナショナリズムの勢いを薄めてきた。今や、ナショナリズムが各地に復活している。
イギリスの歴史家Timothy Garton Ashは、イギリスの不満は西側に対するボディーブローになった、とThe Guardianに書いた。国際協力の理想、リベラルな秩序、開かれた社会に対して、イギリスは過去に大きな貢献をした国であった。
ベイルートのレバノン・アメリカン大学、政治学准教授Bassel Salloukhは、中東とヨーロッパの諸問題には共通の起源がある、という。グローバル経済の地殻変動にともなう不安から生じているのだ。しかし、西側では不安や不満が選挙によって示され、中東の諸国家には対応に弾力性がない。「高度に中央集権的で、同質的な、権威主義国家は、こうした転換に直面して、まさに爆発したのだ。」
しかし、爆発は中東に封じ込められなかった。シリアとイラクからあふれた難民たちがトルコ、ヨルダン、レバノンに数百万人も流れ込んだ。彼らがEUに向かうことで、イギリスの国民投票が離脱に傾いたが、ヨーロッパにと手最大の地政学的衝撃になっている。ヨーロッパが政治的に安定性を維持するためにも、シリアの安定化が必要だ。
「イギリスの離脱はドイツに新しい挑戦となる。」とthe Harvard Kennedy
Schoolの元外交官Nicholas Burnsは語った。「ヨーロッパの統合と前進には、ドイツが一層の指導力を発揮しなければならない。」 しかし、ナチズムの歴史を抱くドイツは、その経済力に見合った、外交や軍事における役割を担うことを嫌っている。
メルケル首相はすでに金曜日に述べた。「ヨーロッパは転換点に達したのだ。われわれはますます頻繁に、同盟を強化することへの基本的な疑問に直面している。」
近代の歴史上初めて、アジアの私的な富がヨーロッパを超えた。中国は2008年の世界金融危機に際して、安定化に大きな役割を果たしたにもかかわらず、IMFにおける発言力が小さいことに満足していない。Lee Kuan Yewを含む、多くのアジアの指導者が、EUの崩壊を予想した。
Bloomberg JUNE 27, 2016
Brexit Is the Sum of China's Fears
Christopher
Balding
Brexitは中国共産党に民主主義の恐ろしさを確信させた。遠くの官僚たちに人々が示す反発は、共産党にとって軽視できない。
国営の英字新聞the Global Timesは、Brexitがパンドラの箱を開けた、と警告する。共産党がもっとも恐れるのは不安定性である。政治でも実業界でも、中国は極端にリスク回避的である。銀行も、企業も、大学も、政府が景気を回復する力に依存している。
Brexitの中国経済に対する直接の影響は小さい。しかし間接的には、イギリスの国民投票後に、人民元の為替レートが、8月の切下げ以来、1日の最大の下げ幅を示した。最悪の場合、Brexitは中国の輸出を減らし、資本逃避を強め、直接投資を抑えて、過去数十年の成長を維持した諸力を損なうだろう。
Brexitを受けて、中国政府はなりふり構わず人民元の減価と低利融資を増やすだろう。それは金融や政治の改革を行うことに強いリスクを意識させ、困難な情勢に向かう。
Project Syndicate JUN 28, 2016
How EU Overreach Pushed Britain Out
MARTIN
FELDSTEIN
EUは、財と資本の自由な取引、労働力の移動に関する制限を取り除くものであった。しかし、最初の構想を超えて、EUは拡大し、各国政府の権限を侵すものになった。
EUが通貨同盟に向かうとき、イギリスはポンドを維持する権利を求めた。EU加盟諸国が28か国にまで増えて、以前は考えられない諸国からも労働者が来るようになった。1993年以来、その数は倍増し、600万人(労働力の10%)を超えた。1998年、「安定性と成長のための協定」が結ばれ、2008年の金融危機によって、新しい「財政協定」となり、共通の金融ルールなどをともなう「銀行同盟」とともに、欧州委員会が加盟国に求めるものになった。
EU官僚と加盟国政府との関係は、キリスト教的な社会教義から導かれる「補完性」の原則によって、あいまいに合意されている。それはアメリカ憲法が州政府の権限を保障するより、はるかに小さな保障にしかなっていない。
Brexitがイギリス経済に生じると予想された破局は、不可避的なものではない。離脱を決めたイギリスは、EU規制に縛られず、自由貿易協定を結ぶことができる。その独立を活かせるかどうかだ。
l グローバリゼーションの分裂
Project Syndicate JUN 30, 2016
The Anti-Globalization Brexplosion
YOON
YOUNG-KWAN
ポピュリズム、ナショナリズム、外国人排斥、それらが合わさってEU離脱派に有利に働いた。しかし、こうした諸力は表面的なものでしかない。より基本的な変化は、国家と市場との関係で起きている。
近代資本主義が誕生して以来、これら2つの枠組みは対立してきた。市場は参加者の経済利益を追求する過程で拡大したが、国家はその支配する領土内でだれに対しても、何に対しても、規律を求めた。商人が外国で市場機会を見つけても、それは国家と衝突した。
市場と国家との緊張関係を和解させることが政治経済学の主要なテーマであった。スミス、リスト、マルクス、ケインズ、ハイエク、など、長い論争が続いた。
仮説的な2つの極論で観れば、1つは、継ぎ目のないグローバル市場である。個々人は、国家介入なしに、その経済利益を最大化できる。しかしグローバリゼーションのマイナスの効果に対して弱くなり、守ってくれる者はいない。反対の極は、完全に孤立した自律的諸国家である。その場合、グローバルな分業から得られる利益を放棄しなければならない。それらの中間に、EUやNAFTAのような地域統合モデルがある。
過去200年の資本主義の歴史は、これらの両脚間で示される振り子運動であった。たとえば、1846年の穀物法撤廃が自由市場の時代を開くと、第1次世界大戦までのグローバリゼーションが起きた。
第1次世界大戦後、その振り子は反対に向かった。金融資本は政治的に弱まり、労働者階級はグローバルな市場に対抗して、雇用や社会福祉、グローバルな市場のルール・規制を求めた。第2次世界大戦は、近隣窮乏化政策や保護主義の蔓延に苦しみ、イギリスは1931年、金本位制を離脱した。
1944年のブレトン・ウッズ会議は市場に戻る新しい揺り戻しであったが、ある程度の国家の自立性を許した。1960年代まで、開放性と自律性とのバランスが調和的に維持された。しかし、1970年代の低成長とインフレ高進、いわゆる「スタグフレーション」で、エネルギー危機を契機に、振り子が完全な自由市場へと振れた。ケインズ的世界からハイエク的な世界へ、マーガレット・サッチャーとロナルド・レーガンがこの変化を促した。
現在は、2008年の経済危機により、サッチャー=レーガンのプロジェクトが放棄された時代だ。第1次世界大戦後のように、グローバリゼーションに取り残された労働者が、大企業や金融資本家に媚びる政治家たちに対してBrexitを示した。たとえ経済的なコストを生じても、彼らは国家の自立を重視するのだ。
アメリカ大統領候補たちがTPPに反対して、大幅な修正を求めるなら、それは世界貿易体制からのアメリカの離脱、Amexitとなるだろう。
その結末がどうなるか予測できないが、これが最終的な均衡ではないだろう。
l 保守党の内紛
FT June 28, 2016
What a Prime Minister Boris Johnson
should do next
Martin
Wolf
ボリス・ジョンソンやマイケル・ゴーブは専門家たちの予測は間違った、と言うが、そうではない。ポンド価値やイギリス債券の格付けは大きく下がった。
現状では、何もしないことが最善である。UKは離脱の条件を考えねばならない。50条による離脱通知は交渉のテコを失う。双方の利益になる結末も可能である。
死刑を宣告された男が王に言った。「王様の馬を1年で歌うようにできる。」 王は答えた。「それは面白い。しかし、1年経っても馬が歌えなければ、お前は処刑されるぞ。」
囚人仲間は男にやめるように勧めたが、男は答えた。「私には1年ある。前はなかった。1年もあれば、いろいろなことが起きる。王様が死ぬかもしれない。馬が死ぬかもしれない。私が死ぬかもしれない。」 「それに、馬が歌うかもしれないだろう?」
l 社会科学の未来
Project Syndicate JUN 28, 2016
Which Thinkers Will Define Our
Future?
J.
BRADFORD DELONG
数年前、現在の社会科学者というのは、社会科学の巨人たち、すなわちNiccolo Machiavelli, John
Locke, Adam Smith, Alexis de Tocqueville, Max Weber, and Émile Durkheimの仕事を受け継ぐことである、と気が付いた。彼らに共通しているのは、1450年から1900年の西ヨーロッパ世界における社会、政治、経済の仕組みにもっぱら焦点を当てたことだ。しかし、1840年の世界に当てはまる道具が、2016年の世界に有効である保証はない。
さらに、2010年代の後半から2070年まで働く者が、学ぶべき社会科学とは何か? 私は3人の著作を選んだ。1830s-1840sのトクヴィル、1920s-1930sのケインズ、1930s-1940sのポランニーである。
ケインズは、集合的な繁栄の壊れやすさを心配した。平和で繁栄するグローバル社会の基礎にある、ナショナリズムと根無しの世界市民主義との対立を懸念した。彼は活動を組織し、良き生活のために反映を利用する方法に関心を持った。経済管理に関するテクノクラートの問題を深く考察し、管理に失敗した世界に起きる社会、倫理、政治の破滅を心配した。
ポランニーは、市場が人間を操り人形にしてしまい、市場の諸力に翻弄されることを問題にした。そして、市場がもたらす豊かさを損なわずに、コミュニティーの崩壊を防ごうとした。それはブルジョア的な秩序やイデオロギーにはできないことであった。
現代の問題は、こうしてトクヴィルに戻る。トクヴィルは貴族が形成する巨大なカーストが崩壊し、商人に好意的な秩序へ変わる過程を考えた。今、西側民主主義の世界秩序、白人男性支配が崩壊しつつある。グローバリゼーションの職場や生活の破壊に対して、白人男性はしばしばネイティビズムで対抗する。
l 政治的に何もしない
The Guardian, Friday 1 July 2016
If you think Britain is angry and
divided, look at the continent
Timothy
Garton Ash
ヨーロッパに行くと、友人たちは、私の家族が悲劇的な事故で亡くなったかのように悲しんで抱擁してくれる。
何一つ変わらないが、何もかもが変わったのだ。いつか彼らが外国人として、EUに属する、スロヴァキアやスロヴェニアのような、小さな独立国の市民となって、そのとき私の国、イングランドはどこにあるのか?
取り残された人々、失った人々、無視された人々の怒りによって離脱は選択された。そして今、残留を支持する者に怒りが高まっている。私の息子の世代が嘆いた。なぜわれわれの未来を奪うのか? と。
EUには2つの意見がある。一方は、欧州委員会委員長Jean-Claude
Juncker, フランス大統領 François Hollande and ベルギー首相 Charles Michelが代表するような、少数派の意見だ。・・・イギリスにさようなら。イギリスはできる限り早く離脱させて、EUは最初のカロリング朝的な数か国に戻るべきだ。
しかし、私はハーグの会議で、このネオ・カロリング朝の謀略が多数の加盟諸国の反対に遭うのを観た。東欧や北欧の諸国がそうだった。フィンランドの元首相Alexander Stubb、エストニアの大統領Toomas
Ilvesは、創立時の6か国が示す離脱を急がせる意見に、明確に反対の声を上げた。それが、イギリスに時間を与える、というメルケル首相の率いる多数派だ。
海峡の両側で、イギリス残留を望む人々は何をなすべきか?
離脱派は、投票の結果は明らかだ、それに従え、と言うだろう。しかし、残留派は、負けたから、ゲームのルールを見直すべきだ、と言うことはできない。それでも、時間が経ってマイナスの影響がはっきりすれば、どうか? 秋の選挙後でも、まだ保守党からの首相は、決定後の後悔を示さないと思う。
もっと多くのイギリスとヨーロッパの間のジグソー・パズルが変化するだろう。スコットランドや、スペインのカタロニア、アイルランドはどうなるか? 来年のフランスとドイツにおける選挙が終わるまで、重大な変化は起きないだろう。2018年までに、リスボン条約の50条がどうなるか、スコットランドがどうなるか、労働党の党首がどうなるか、はっきりするだろう。
戦略的目標は明らかに、UKを維持し、ヨーロッパ大陸につないでおくことだ。しかし、政治においては時に、動かず、情勢を見守ることが賢明なときもある。残留派にとっては、今がそうだ。
l 国民投票に制約されるか
Project Syndicate JUL 7, 2016
Direct Democracy and Brexit
PETER
SINGER
国民投票は究極の直接民主主義であるから、必ず従うべきか? あるいは、議会はそれを無視してもよいのか?
情報伝達技術が進んで、すべての法案を貯靴投票で決めることができる。カリフォルニアでは、それによって献金政治やロビー団体、既得権の壁を破った。しかし、同時に、住民たちが増税に反対し、政策を実行する財源を失っている。
1774年、エドマンド・バークは議会に選出されたばかりであったが、自分に投票してくれた有権者ではなく、偏見のない、成熟した判断、啓蒙された良識を代表する、と主張した。
住民に直接意見を問うことは重要だが、(平均的な市民より情報をよく知らない人々が投票しているなら)議会がそれに必ず制約されるというのは別問題だ。
l IOC難民チーム
FP JULY 1, 2016
The Olympic Team With No Flag
BY
ANDREW GREEN
戦争、専制支配、貧困、それらの結果として、かつてないほど多くの人々が難民となっている。政治的な問題を扱わないことで有名な国際オリンピック委員会(IOC)が、前例のない政治的な声明を発表した。Syria, South Sudan, the
Democratic Republic of the Congo, and Ethiopiaからの難民である10人の陸上選手を、個人的なオリンピックの栄光を目指すだけでなく、6530万人の難民たちの尊厳のために、チームを作る、というのだ。リオにおける彼らの存在そのものが、戦争によって引き裂かれた諸民族の平和を求め、世界が難民たちを受け入れることを求める要請になる。
l イラク戦争の委員会報告
The Guardian, Wednesday 6 July 2016
Blair told me the intelligence was
clear. That was a disastrous failure of judgment
Hans
Blix
イラク侵攻は現在もまだ恐るべき結果を生じている。バクダッドは血の海であり、イスラム国家は世界に対してテロ戦争を仕掛けている。
大量破壊兵器の存在が戦争の主要な理由であるとは今も確信できない。おそらく体制転換、サダム・フセインを権力から追放することが、ブッシュとブレアには彼が9・11を導いたとみなされて、戦争の動機となったのだ。
2003年2月20日にブレアに電話インタビューを行ったが、20万人の兵士をイラクに送り込んで、ほとんど何も発見できなかったことは愚かなことに思えた。ブレアは、フセインが大量破壊兵器WMDの開発計画を再開した、という諜報機関の確かな報告があった、と答えた。しかし、フランスのシラク大統領も、IAEAのエル・バラダイ事務局長も、WMDはないと考えていたし、多くの諜報機関がそのように報告していた。
ブレアと他の指導者たちは現実を誤解し、自分たちの描いた間違った絵に合わせて戦争を急いだのだ。彼が間違った核心を持っていたという証拠はないが、その判断は破滅的な失敗だった。
イラク戦争の教訓とは、国際査察を重視すること、国家が軍事的介入に訴えるのは国連が認めた場合に限ること、である。希望があるとしたら、アメリカもオバマ大統領によって介入を控える姿勢に転換したことだ。
Sir John Chilcotは、イラク侵攻を支持するブレアの議論を詳しく検討した。多くの人がすでに知っていることだが、チルコットは、2002年にクロフォードでブレアがブッシュに従うことを決断した、と確信した。それから、まったく後付けで戦争を正当化したのだ。ブレアがブッシュに書いたメモ、「何が起きようと、私はあなたの側にある」というのは、熱烈な愛の告白のようだ。
FT July 7, 2016
Chilcot report exposes Tony Blair’s
sin of certitude
Philip
Stephens
ブレアを「嘘つき」で戦争犯罪人だと呼ぶ抗議集団の声を聴くと、まるでフセインがかわいい権力者のように聞こえるが、そうではない。イランとクウェートに侵攻し、毒ガスで1万人のクルド人やシーア派を殺害した独裁者だ。
ブレアは嘘をついたわけではない。アメリカ大統領の戦争計画にあまりにも早く同意し過ぎた。諜報機関の情報を確かなものとみなした。国連で戦争を正当化する2度目の決議を得ることができると安易に確信していた。体制転換がもたらす深刻な結末にあまりにも不注意であった。
2003年3月に、イギリスは切迫する脅威を受けていなかった。サダムは危険なモンスターだったが、武器査察と封じ込めが効いていた。「平和的なオプションがまだ残されていたのに、政府は戦争に踏み切った。それは最後の手段ではなかった。」
ブレアはあまりにも強く大統領の近くにいることを願った。それは「特別な関係」から引き出されたが、魔法のような情熱になっていた。ブレアは、セルビアのミロシェビッチをコソボから追い出し、シエラレオネで正当な政府を守った。新しい国際介入の原理を西側に広めた。サダムの追放も、「正義をなす」ことであった。
さまざまな正しい反省点が述べられているが、イラクとアフガニスタンの厳しい結果を知り、財政緊縮で軍備を切り下げ、EU離脱により国際的役割をも失ったイギリス政府には、もはや必要ないだろう。
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The Economist June 18th 2016
Bagehot: The Nigel Farage Show
The Economist June 25th 2016
March of the machines
Propaganda: Who draws the party line?
Grassroots democracy: Unwanted model
Banyan: In Beijing’s bad books
Artificial Intelligence: The return of the machine
question
Working poverty: When a job is not enough
(コメント) ファラージという道化師のような存在はBrexitの政治にとって重要です.民主政治に対する退廃は, “Project of Fear” vs “Project
of Lie” となりました.
機械化や自動化の恐怖が,今はロボット化やAIの恐怖になりました.情報操作や貧困の問題が解決されているなら,技術を恐れることはないのです.
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IPEの想像力 7/11/16
参議院選挙で与党が勝利したことは、アベノミクスに対する信認が確立されたのでしょうか? 安保法制や憲法改正も支持された?
そして,アベノミクスに関する期待された効果は実現したのでしょうか? このまま,自民党政権が前へ進むのは,日本で暮らす人々が,新しい時代に,平和で繁栄した,信頼できる社会秩序を築くことができる,と確信したわけではなさそうです.
高齢化する社会を,今の制度は支えていけるのか?
格差、介護、子育て、・・・ロボット,AIの時代に,日本政府は何を目指すのか?
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再びThe
Economistの特集記事を利用します.
どのくらいの速さで,ロボットは増産され,普及するのでしょうか? それは,地球がロボットでいっぱいになる前に,火星への移住計画を相談しているような話かもしれませんが.
すでに,ロボットは人を殺しました.AIが運転する自動車に乗った人が事故で死亡し,戦場でもないのに,ダラスの警察官を狙撃し続ける犯人をロボットが殺害しています.戦場ではすでに多くのドローンやロボットが殺戮に利用されています.
福島原発事故の際にも,放射能汚染地帯をロボットが探査しました.
人間の買いたい品物を的確に紹介し,玄関まで届けるシステムは,独裁者にも利用されます.
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AIとロボットが,人間の感情を理解し,応用できる時代になったと言います.ロボットは恋人や家族になり,あるいは,麻薬に匹敵する幻覚や興奮,高揚感を操作し,売春婦(夫)に代わって,セックス産業で大規模に利用されるかもしれません.
もし投資戦略をAIが決め,優れた水準で利益を出せるなら,実際の戦場でも,軍事戦略をAIが決めるでしょう.あるいは,外交官がスマホに向かって,必要な知識とふさわしい戦略の主要なシナリオを検索する姿が当たり前になるかもしれません.すでに,株価暴落の原因の1つとして,プログラム売買が指摘されました.
改善してほしいのは,何より,ますます多くなる高齢者たちとの暮らしです.もしAIやロボットが介護の分野に普及し,老人たちが満足し,若者の労働力がもっと生産的な分野で雇用されるなら,日本の政治的安定性や長期的な経済成長への取り組みは大きく前進するでしょう.
多くの日本人はまじめです.自分が一所懸命に働くことで生活することに誇りを持ち,仕事の細部にこだわって工夫を重ねるでしょう.病気やけがで仕事を休むとか,続けられないときも,なるべき家族や隣人に迷惑をかけないように努めます.年金問題や社会給付,公共サービスの問題も,外国人労働者が日本の農村や町工場で働く問題も,優れたアプリがあれば,AIが社会・政治問題を解決してくれるかもしれません.
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国際秩序はどうなるのか? 私の注目する3つの変化,すなわち,大国間の戦争,技術革新による国際(グローバル社会)分業の変化,通貨・金融危機,はAIとロボットによって何か大きく変わるでしょうか?
ラッダイト運動を振り返って,工場制度が強いる周期的な失業や金融恐慌に対して,当時の思想家は,ベーシック・インカムを唱えた,とThe Economistはトマス・ペインやジョン・スチュアート・ミルの名を挙げています.
しかしAIやロボットが利用されるのは,その社会の権力構造や秩序の下で,特定のパワーを駆使する者に有利であるからでしょう.それと矛盾する形で,労働者のすべてに雇用と豊かさが確保されるには,AIに応じて社会保障と教育の在り方を変えるべきだ,とThe Economistは求めます.
核兵器よりも危険とさえ言われるAIの普及に対して,政府は効果的に対策を取るでしょうか? 伝染病の対策でも,それがどのように感染し,発症するのか,医学的に解明され,合意ができるまで,国際的な防疫体制は機能しなかった,とリチャード・クーパーは書きました.AIやロボットも加わった,大国間の戦争が国際秩序を築く時代はまだ続くのです.
選挙が,グローバリゼーションにおける富の生産と分配に関して,正しい理解や社会的な合意を形成できたとは思えません.次に権力をゆだねるべき政党は,まだない,ということです.
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