IPEの果樹園2016

今週のReview

1/4-9

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宗教と世俗主義 ・・・日本の人工島 ・・・自由で民主的な世界の後退 ・・・市場モデルの進化 ・・・気候変動ガバナンス ・・・中国の出稼ぎ孤児たち ・・・従軍慰安婦に関する日韓合意 ・・・世界政治システムの弱さ ・・・ヨーロッパの問題群

 [長いReview]

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[これは英文コラムの紹介です.私の関心に従って,いくつか要点を紹介しています.関心を持った方は正しい内容を必ず自分で確かめてください.著者と掲載機関の著作権に従います.]


l  宗教と世俗主義

FT December 24, 2015

Turkey’s vote against Christmas

Elif Shafak

かつて、トルコは宗教に寛容だった。誰もがクリスマスを楽しみ、サンタクロースやクリスマス・ツリーを街で見かけた。世俗主義とさまざまな信仰は、いつもまじりあっていた。

今は信仰が固く求められ、ハイブリッドな世俗主義が否定される。「イスラム教徒はクリスマスを祝わない。」 トウィッターはイスラム社会にメッセージをばら撒く。反対に、「クリスマスを祝うな。子供と結婚するだけだ。」と、イスラム教を利用したナショナリズムに、反対派はトルコ社会の欺瞞を告発する。

わたしは、クリスマスも、ラマダンも祝う。多元主義を支持するから。


l  日本の人工島

FT December 26, 2015

Japan grows an island to check China’s territorial ambitions

Robin Harding in Kumejima, Okinawa

中国は浚渫で人工島を建設している。しかし、日本はサンゴを移植して、沖ノ鳥島が水没するのを阻止しようとしている。このバスタブほどのサンゴ礁が日本の安全保障や海底資源、水上輸送にとって重要だ、と考える。それゆえ、中国の南シナ海における行動は批判するが、自分たちの行動は違う、と主張する。


l  市場モデルの進化

NYT DEC. 26, 2015

In Sweden, a Cash-Free Future Nears

By LIZ ALDERMAN

スウェーデンでは、物乞いも携帯型のクレジットカード・リーダーを持つ。キャッシュレスの社会が実現しつつある。

スマートフォンのアプリケーションやプラスチック・マネーの便利さがスウェーデンほど急速に受け入れられつつある社会はない。しかし、批判的な者は、インターネット犯罪の増加を指摘する。あるいは、老人たちや難民はキャッシュを使い、社会の中で周辺化される。若者たちはキャッシュレスに支出することしか知らず、旧世代よりも債務に依存しやすい。

しかし、キャッシュレスになれば強盗はいなくなる、と個人の安全を理由に挙げる者もいる。紙幣やコインの発行額は、経済規模に比べて、スウェーデンでは減少している。消費に占める割合は、世界平均の75%に対して、スウェーデンは20%でしかない。現金自動引出機はますます撤去されている。

政府は、より効率的な徴税を可能にするキャッシュレス社会を支持している。教会も、礼拝に来る教区の信者たちに、スクリーンで大きく銀行の口座番号を映す。寄付する信者たちはスマートフォンを取り出して、その口座に振り込むのだ。

65歳のStefan Wikberg は、IT技術者であったが、4年前に失業してから、ホームレスになった。今は慈善団体の雑誌Situation Stockholmを売って暮らしている。人々がキャッシュを持たないので、支払いには携帯型のクレジットカード・リーダーを使うようになった。「小銭がないよ」と言われたら、「カードでも、SMSでも支払えます」と応える。

ビッグブラザーの時代になる、と警告する者もいる。すべての生活が、コンピューター機器やシステムに強く依存することになる。立ち止まって、ホットドッグを買うとき、その店のカードリーダーが故障した。「すみませんが、現金での支払いをお願いします。」


l  気候変動ガバナンス

Project Syndicate DEC 28, 2015

The Paris Approach to Global Governance

ANNE-MARIE SLAUGHTER

パリ協定は、国際法としてみるとき、失敗であった。しかし、その欠陥にもかかわらず、21世紀における効果的なグローバル・ガバナンスのモデルとして、それは大きな前進を示した。

国際法の最高水準は条約だ。その文書は法廷や仲裁裁判所で効果を持つ。強制されたルールで、違反すれば制裁が科される。条約は各国の議会で承認される必要がある。

パリ協定は、条約ではなく、行政合意である。それはオバマ政権だけを拘束する。上院の3分の2以上の承認も必要ない。

しかし、条約はいったん合意された後で、これを変更することができない。気候変動をめぐる認識や状況、目標は変化するから、これはふさわしくない。パリ協定では、各国が決めた貢献策(INDCs)を求めた。

パリ協定は、合法か非合法か、という苦情に認証のスタンプを押す作業を放棄したのだ。それに代わり、「透明性促進フレームワーク」を提供し、相互の信頼を高め、効果的な達成を促すことにした。

計画に対する事後の順守メカニズムはあるが、それは法律家だけでなく、気候科学者や政策専門家も加えた、専門家集団によるものだ。それは「円滑化」のためにあり、「透明で、敵対的でない、処罰することを求めない」機関である。規律委員会ではなく、支援グループと呼ぶべきだ。

伝統的な国際法の基準で観れば、パリ協定は、世界の気温上昇を産業革命前に比べて2度以下に抑えよう、という「善意の要請」でしかない。この複雑な、急速に変化する目標に対して、恒久的な、法的拘束力を持つ約束は不可能であろう。グローバル・ガバナンスとして、パリ協定はプロセスを示した。

圧倒的に貧しい、内戦によって荒廃した国から、高度に発展した国まで、政治状態が非常に異なる195カ国が、トップダウン式に、統一した行動を取ることを求めても無駄である。市民が参加して政府が決めたIDCsの方が、達成する見込みがある。しかも、集団的な競争を支援する。透明性のメカニズムは、各国は共通の問題を解決するため相互に支援する。ジャーナリスト、活動家、科学者、意識の高い市民、環境にやさしい企業などが議論に参加し、その成果を公表して、遅れている諸国に支援を与える。

21世紀型のガバナンスに参加するのは政府だけではない。Bill Gates がクリーン・エネルギーの開発に向けて200億ドルの寄付とともに提唱したthe Breakthrough Energy Coalition は、26人のグローバルな慈善事業家、カリフォルニア大学も参加する。それは、中国、インド、アメリカなど、20か国の政府と投資家が協力する、政府・民間パートナーシップの新レベルだ。C-40のように、地方政府やメガ・シティも問題解決に向けた行動に参加する。

広範な政治集団や利益汗会社が参加する、公共問題を解決するグローバルな行動を組織するのは、法律ではない。こうしたアプローチだけが機能するだろう。


l  中国の出稼ぎ孤児たち

FT December 27, 2015

China migration: Children of a revolution

By Patti Waldmeir in Sha’anxi Province, China

両親が出稼ぎに行ったため、子供たちは農村に残された。それは中国の成長を支える人類史上でも最大規模の労働力移動であるが、子供たちは文字を読めない祖母や高齢で衰弱した祖父にゆだねられ、あるいは、まったく自分だけで暮らすことになった。犠牲となった子供たちが家族や中国の将来に及ぼすコストは甚大であるだろう。

中国には6100万人も、こうした“left behind children”がいる。それは汚染された河川や肺炎で呼吸もできない大気とともに、中国の工業化が生んだマイナスの遺産だ。

もしかすると、インターネットのチャットやスカイプが、遠く離れた両親と子供を、週に1度、顔を見て相談に乗ってやる可能性を与えるかもしれない。

FP DECEMBER 29, 2015

China, Circa 2016

BY ANDREW J. NATHAN, BETHANY ALLEN-EBRAHIMIAN, TAISU ZHANG, JEROME A. COHEN

2016年の中国について、専門家たちは何に注目して観ているのか?

Andrew J. Nathan, professor of political science at Columbia University: 何事も自分で決めなければ満足しない、他の指導者を信頼しない、という習近平の性格が、彼個人に権力を集中しすぎている。それは、鄧小平が苦労して築いた共産党権力の制度化されたシステムを破壊してしまう恐れがある。


l  従軍慰安婦に関する日韓合意

The Guardian, Monday 28 December 2015

The Guardian view on Japan, South Korea and ‘comfort women’: one step towards healing the wounds of the past

Editorial

20万人に及ぶ女性たちが、その多くは朝鮮人であったが、第2次世界大戦中、日本軍のための性的奴隷にされていた。それは婉曲に「慰安婦」と呼ばれた。

日本の明確な謝罪が長く求められてきた。戦後、70年もたって、日本と韓国は「最終的かつ不可逆的に」解決した。日本側は「責任を痛感」し、安倍首相が「計り知れない苦しい体験をした女性たちに対して深甚な謝罪と反省」を表明した。日本は生き残っている韓国の慰安婦たち46名に10億円の基金を設ける。韓国のパククネ大統領は「信頼に基づく、新しい両国関係」を語った。

両国の合意には、戦略的な思考が働いている。共通の脅威として、中国の攻勢や北朝鮮の予測不能な行動に協力して対応しなければならない。共通の同盟国であるアメリカが、それを強く求めていた。

しかし、今回の合意が機能しないかもしれない。以前もこうしたことが合意されたが、韓国国民は受け入れなかった。元慰安婦たちも日本の法的責任が認められていないことに抗議している。他方、日本人の態度はほとんど変わらないだろう。

日本が植民地化した時代の深刻なダメージについて、新しい関係を築くため、両国の模索は続いてきた。安倍晋三は、国内でナショナリズムを強める政治家であったが、この点では勇敢な決断を下したと言える。少なくとも自身の強硬姿勢を抑えた。それには、メルケル首相がドイツの経験から助言したことが関係したかもしれない。

従軍慰安婦には、日本政府の責任だけでなく、韓国側や日本側の民間人による募集が重要な役割を占めた。その複雑な歴史についての論争は続く。

Bloomberg DEC 28, 2015

Apology Isn't Justice for Korea's 'Comfort Women'

By Noah Feldman

日本政府と韓国政府は、従軍慰安婦に関する合意に達した。慰安婦たちは、単に、謝罪までに70年もかかったということだけでなく、両政府の交渉で、自分たちの尊厳を回復するために多くの条件が付いたことに戸惑うだろう。

国際的な告発は、個人としてではなく、国家として行われ、たとえ人道に反する罪を裁こうとしても、そこには国家の通常の計算が働くのを否定できない。日韓の政府間合意は、中国の台頭と安全保障上の脅威が強める中で、しかも、かつて東アジアの安全保障を束ねてきたアメリカが、中国との戦争には明確な約束を示さないことに関する両国の不安から、協力関係強化が強く意識されて実現した。安倍首相は、自身が靖国神社参拝などで中国や韓国からの批判を受け入れないナショナリストの政治家であるが、今回は明確な謝罪を決断した。それは、日本国内のナショナリストたちに、日本の安全保障を重視する立場から、合意の利益を訴えることができるからだ。

しかし、元従軍慰安婦たちが人間としての尊厳や基本的権利を否定されたことについて、この政府間合意により告発できないのだとしたら、それは人道に関する罪を問えないという意味になる。それは間違いだ。従軍慰安婦については、今後も、詳しい調査や論争が求められる。もし歴史的な過ちを見過ごせば、現在のイスラム国家やボコハラムが行う、女性たちの奴隷としての売買を問う力も失われる。

FT December 29, 2015

Why it took hawkish Abe to bury the hatchet with Seoul

Joji Sakurai

韓国も日本も、勇気とプラグマティズム、そして、国内で生じる反発を受け止める覚悟を示した。両国の和解は、東アジアが機会と危険とをともに抱えるとき、非常に重要である。

安倍の政治姿勢を考えれば、合意は予想外の内容である。彼は日本の平和憲法を改定することを計画して近隣諸国の怒りを買い、ナショナリストたちを喜ばせる右翼思想を展開してきた。リビジョニストとしての歴史観を示し、2007年、「慰安婦」が売春を強制されたという証拠はない、とまで発言した。

しかし、この安倍のタカ派思想が、韓国政府との合意を導いたのだ。右派は自民党の支持基盤である。政治家の中では、おそらく安倍だけが、右派からの憤慨を鎮め、説得し、彼らの関心を心から理解できる。

安倍は同じことをTPP合意でも示した。自民党の重要な支持基盤である農民たちの既得権を削っても、日本の経済的な繁栄を優先したのだ。その圧力と支援策を使って、民主党政権にはできなかったが、安倍は変化に対する抵抗を切り崩した。

安倍は決してリベラルではない。彼の意向だけなら厳格なナショナリズムに向かうだろう。しかし、強い影響力を持つ菅義偉官房長官のような、明晰な思考のリアリストたちが安倍を支えている。そして安倍自身も、日本の経済と外交における地位上昇を強く望んでいる。彼が抱くロマンチックなナショナリズムと、日本の繁栄を回復するための大胆な経済・外交手段とを選択するとしたら、安倍は後者を選ぶだろう。

次は北京を目指す。1972年、田中角栄と周恩来が、その心を明かし、人柄を信用して、アジアの2大国間で外交関係を正常化した。その粗雑な映像を繰り返し見れば、2人の握手にはリアルポリティーク以上のものを感じる。2人の老練な政治家が、友情と互いの成果に感動していた。それは本物であった。

同じ輝きを、韓国のパククネ大統領と日本の岸田文雄外相との握手にも観る。私は何度も観直したが、それは演出されたものではなく、真剣な握手であった。2人の政治家が、大きく異なる歴史的視点から歩み寄り、新しい関係を始めることに期待を表したのだ。

同時に、そこには狡猾さもある。合意は、正月気分で人々が深刻に考えない時期を狙った。強硬なナショナリストたちも、酒を飲み、餅を食べるのに忙しい。

FT December 30, 2015

Japan-Korea ‘comfort women’ deal fails to placate victims

Song Junga in Seoul

安倍首相は法的な責任を認めなかった.その関与を認めただけだ.88歳の元慰安婦は,「言葉もない.無責任な交渉が私を2度も3度も殺した.」と言う.

韓国人の多くが,合意の背後にはアメリカからの強い圧力があった,と考えている.ワシントンは,中国の台頭,北朝鮮の核に対して,日韓の和解を求めてきたからだ.

また,ソウルが外交的な孤立を恐れた,と指摘する専門家もいる.昨年,安倍はアメリカを訪問し,中国との首脳会談を行い,TPPに日本を参加させた.TPPで,韓国よりも有利な条件で,日本はアメリカ市場に接近できるだろう.

朴クネ大統領は,「親日の裏切り者」として反対派に批判されてきたが,政治的な債務を負うだろう.彼女の父は軍人で独裁者であったが,帝国日本陸軍にも参加していた.1965年,日韓条約の締結により,日本との関係正常化を決めたが,それは植民地時代の支配者に対する法的な告発を放棄するものだった.

FP DECEMBER 31, 2015

The Wisdom of Japan’s Cunning Contrition

BY BENJAMIN SOLOWAY, HENRY JOHNSON

国際関係における謝罪の重要性に関して,日韓合意をどう見るか,Jennifer Lindの意見を聞いた.

この合意に関して,謝罪は最も重要性が低い.日本は何度も謝罪したし,安倍自身も夏に謝罪した.その内容には驚かない.

今回の合意で新しいのは,2つの重要なグループが参加していることだ.1つは,過去の謝罪が行き過ぎであったと考える日本の保守派グループだ.今回は,彼ら自身が交渉を主導したのである.もう1つの重要なグループは,韓国政府だ.この2つの集団が参加した点で,この合意は特に重要である.(しかし,合意を無駄にする力のある,韓国大衆と元従軍慰安婦の団体は参加していないことに注意せよ.)

安倍と保守派は,従軍慰安婦に関して,多くの点で異論があり,その意味では謝罪に合意しそうにない.しかし,安倍は政治的に非常に強い地位を築いている.反対論は,合意が戦略的な意味で(安全保障上)好ましいという意見と,バランスを取ることになる.

保守派からの反発が,しばしば,こうした謝罪の積極的な意味を低下させる.しかし,今回は交渉を指導したのが保守派政権であるから,こうしたことは起きないだろう.安倍がこの選択をしたのは,中国の脅威を強く感じているのが日本であるからだ.韓国は中国を脅威と認めていない.安倍の方が,その意味で,大きな譲歩を行った.

なぜ謝罪がこれほど遅れたか,というより,基本的に,国家とはこうした行為について謝罪しないものである.日本とドイツは例外である.他の国々は謝罪しない.

アメリカやヨーロッパに比べて,アジアで第2次世界大戦の行為が今なお政治問題になるのは,西ヨーロッパ諸国にはソ連という共通の脅威があったからだ.日本と韓国は,こうした共通の脅威がなく,アメリカによって守られていた.


l  世界政治システムの弱さ

FT December 28, 2015

Battered, bruised and jumpy — the whole world is on edge

Gideon Rachman

2015年は,不安と動揺が世界の主要なセンターに居座った年である.From Beijing to Washington, Berlin to Brasília, Moscow to Tokyo,政府,メディア,市民が飛び上がり,戦った.これほど不安が世界化したのは珍しい.

過去30年間,世界のどこかに楽観主義の中心地があった.1980年代はバブル景気の日本,1990年代は冷戦に勝ったアメリカ,2000年に入って最初の頃は単一通貨と加盟国の倍増を得たEUであった.そして,中国はその経済・政治的なパワーを増して,世界中で重視されるようになった.

今,インドは例外かもしれないが,アベノミクスの成果が信じられない日本も,ユーロ危機,難民流入,イギリスの離脱懸念を抱えるヨーロッパも,中国さえも株価急落後は不安を増している.逮捕者が10万人以上に達する腐敗撲滅キャンペーンなど,習近平の手法はダイナミックだが,予測不可能な印象を官僚とビジネスマンに与えている.

経済データを見れば唯一の例外であるはずのアメリカが,共和党の指名争いでDonald Trumpの躍進を許し,国民の不満を刺激している.Trumpのメッセージは,アメリカが危険なまでに衰退している,ということだ.

これらの背景を探れば,グローバルな不安の共通要素とは,次の金融危機が準備されていることかもしれない.政治と安全保障に関して,中東の内部崩壊が続いていることもある.それは難民や聖戦主義者のテロを通じて,アフリカとヨーロッパにも広まりつつある.しかし,最大の共通要素は,不平等や汚職について,反エリート主義の激しい怒りや不満が醸成しつつあることだろう.

全く事情の異なる国で,France, Brazil, China and the US,不安が広まり,特にヨーロッパやアメリカでは衰退論が重なる.こうした社会・経済の不安は政治的効果として,強い指導者を求める声になる.Mr Xi, Mr Trump or Vladimir Putin,彼らは,いかに欺瞞的でも,腐敗したエリートを攻撃し,弱者のために,国民のために立ち上がるのだ.

国際政治システムは,2008年の世界金融危機から回復しきらない病人である.このまま安静にしていれば回復するのかもしれない.しかし病人は弱く,新しいショックには耐えられない.


l  ヨーロッパの問題群

Project Syndicate DEC 28, 2015

The Fascism of the Affluent

JOSCHKA FISCHER

政治の右傾化,ナショナリズム,外国人排斥が広まっている.

Donald Trump in the United States, Marine Le Pen in France. Hungary’s prime minister, Victor Orbán, Jarosław Kaczyński now rules Poland.

Geert Wilders in the Netherlands, the Vlaams Blok (succeeded by today’s Vlaams Belang) in Belgium, the Freedom Party of Austria, the Sweden Democrats, the Finns Party, and the Danish People’s Party

彼らは皆,システムに反対し,政治のエスタブリッシュメントやEUに憤慨する.そして何ら恥じることもなく,エスニックな国民を称賛する.まるで1930年代のように,彼らの国民とは共通の属性や宗教を持つ.それは人種差別や宗教戦争に向かうものだ.

1930年代に極端なナショナリズムやファシズムが広がったのは,第1次世界大戦の結果として説明される.多数の人々を殺害し,軍国主義的な思想が広まったからだ.しかしヨーロッパ経済は崩壊し,グローバルな経済危機と大量失業につながった.

しかし,現状は大きく異なる.不満や挫折を政治が取り込む背景とは,「白人世界」,西側の社会秩序が,それまで有益な効果を広めてきたにもかかわらず,今や衰退しつつあることだ.グローバリゼーションは,西側の繁栄をもたらすだけでなく,東に富やパワーを移転した.移民流入,労働市場の世界化,ジェンダーの平等,性的なマイノリティーの解放・合法化など,保守派は根本的なショックを受けている.そして単純な答えや強い指導者が求められる.

もしフランスにル・ペン大統領が登場すれば,EUは終わり,ヨーロッパは世界政治から退場する.アメリカは太平洋に向けて方向転換し,ヨーロッパがユーラシアの付録でしかなくなる.

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The Economist December 19th 2015

Star Wars, Disney and myth-making

Caterpillar Fungus: The emperor’s mighty brother

Internal migration: Shifting barriers

(コメント) クリスマス・新年合併号の前半からです.

スター・ウォーズが資本主義の知的財産として徹底的に,頭から尻尾の先まで,食べつくされるシステムの開発に,ディズニーは成功しました.関連商品を含めて2016年に50億ドルを売り上げると推定されます.しかし,記事が面白いのは,宗教が衰退する世界で,こうしたハイテク冒険談が現代の不安や恐怖に重なることをブームの背景に見るからです.冷戦,911,グローバリゼーションに応じて,英雄と救済の神話が求められます.それは石器時代からソーシャル・メディアにまで共通した,人類の恐怖をねらうビジネスです.

中国の富裕な中間層が求める神秘的な回春薬,冬虫夏草,を求めて,子どもたちが草原に這う姿は異様ですが,チベットに成長の分配をもたらすメカニズムになるのか? あるいは,これも「資源の呪い」に終わるか?

成長とその分配をめぐって,一人っ子政策,戸籍制度など,中国の社会・法律が見直される余地も,徐々に拡大されているようです.

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IPEの想像力 1/4/16

お正月のNHKBSで、ヨーロッパのパラグライダー愛好者が参加するレースを楽しみました。「絶景アルプスを飛べ ヨーロッパ6か国,1000キロのレース」

最も過酷で技術が必要なレース,というけれど,私は面白そうだと思いました.10日間,時には1日で200キロを超える,と言うけれど,飛んでいるのだから,行けるんじゃないかな?

ムササビのように飛び,トンビのように宙を舞う.・・・うまくいけば.

チェックポイントがある,ということでした.マッターホルンの山頂から半径500メートル以内を通過しなければならない,というような.さらに,一定の飛行ゾーンから外れてもいけない.

地上を伴走する自動車に乗ったサポーターと,何度も位置や天候を確認し,次の山を目指すのです.参加者は,パラグライダーを背負って,ひたすら次の山を目指して歩くしかないから.そのときに,天気や風の状態が最適であるように,サポーターは考えなければなりません.

えいやっ,と飛んで,山の上へ向かう気流に乗って上昇できれば,舞い上がった位置から目標の方向へ飛行し続けます.何十キロか,あるいは,もっと遠くへ.

離陸に失敗したら,離陸できても早く落下してしまったら,また次の山を目指して歩くしかない.・・・確かに過酷だな.

レースではなく,順位や時間を気にせずに,山をひょいひょい越えていけるとしたら,気持ちがいいだろうな,と思いました.

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大みそかに古本屋で,トーマス・フリードマンとマイケル・マンデルバウムの共著『かつての超大国アメリカ』を買いました.グローバリゼーションからフリードマンが収集した話と,マンデルバウムの外交・安全保障に関するリアリズムとが,近所で時々会って雑談するように,巧みな構成で語られます.

アリババ,アマゾン,中国からの多数の留学生,フリーランサー・コム(専門職の仕事をマッチングするサイト)などを結びつけることで,新しいアイデアを,工場や資金調達,流通ネットワークを気にすることなく,世界のどこからでも短期間に商品化して起業できる.

「仮想マイクロ工場で,インフラや在庫さえ持たずに,商品を設計して売ることができる.」・・・「この光景は前にも見たことがある.音楽産業や新聞など,一体的構造の産業が,無数の小さな参入企業と対峙して崩壊する直前に,そういうことが起きた.」と,ウェブ雑誌の記者は書きます.

労働者はどうなるのか? 2つの基準で分類されます.想像力に富んだクリエーターであるか,その仕事内容がルーチンであるか.クリエイティブ・クリエーターが富裕な国に求められ,彼らに奉仕するルーチン・サーバー(非貿易サービス産業)が生き残ります.

国家は何をしなければならないのか? かつてケナンがアメリカに求めたこと,「巨大な宿敵とのグローバルな競争に負けないように,経済成長,技術革新,社会の機動性を高めねばならない」というのは今も正しい.冷戦が終わったことで,現実を見ない共和党と民主党とが政府を奪い合っているが,中国などの新興諸国が参加するハイパー接続化した世界で,アメリカは4つの課題を説かねばならない.すなわち,1.グローバリゼーション,2IT革命,3.財政赤字,4.気候変動.

21世紀のハイパー接続化した世界では,私たちはひとり残らず移民なのだ.」そして,国家も.軍備に加えて,優れた教育とインフラ,起業が求められます.

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ドバイの高層ビルで火災が起き,八坂神社の前も群衆が道路まで埋め尽くし,ドイツでは難民の子どもが誘拐されてレイプされていた,というニュースで始まった2016年に,北朝鮮の水爆実験が加わりました.従軍慰安婦問題で政治合意に達した日韓関係が東アジアの冷戦を終わらせる,という5番目の課題です.

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