IPEの果樹園2015

今週のReview

1/19-24

 

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風刺の文化と宗教テロ ・・・ユーロ圏のデフレ ・・・日本の構造改革 ・・・イスラム教の宗教改革 ・・・中国とアジア ・・・自由で民主的なドイツ ・・・IT・ロボット化する世界の革新国家 ・・・ドル高に賭けるな ・・・スイス・フランの暴騰

[長いReview]

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主要な出典 Bloomberg, FP: Foreign Policy, FT: Financial Times, The Guardian, NYT: New York Times, Project Syndicate, SPIEGEL, VOX: VoxEU.org, そして、The Economist (London)

[これは英文コラムの紹介です.私の関心に従って,いくつか要点を紹介しています.関心を持った方は正しい内容を必ず自分で確かめてください.著者と掲載機関の著作権に従います.]


l  風刺の文化と宗教テロ

NYT JAN. 8, 2015

I Am Not Charlie Hebdo

David Brooks

Charlie Hebdoのジャーナリストたちは,今,言論の自由に命をささげた殉教者である.

しかし,彼らがその風刺雑誌をアメリカのキャンパスで発行したら,この20年間,それは30秒も許されなかっただろう.学生や教授陣が彼らをヘイトスピーチとみなして訴えたはずだ.大学当局はそのような雑誌に資金を与えず,閉鎖させただろう.

風刺や挑発にも公共的役割があり,原理主義の愚かさを示し,宗教を馬鹿にすることにも,表現の自由は許されるが,それは尊敬されるものではないし,子供じみた行為である.さらに,悪辣な主張に対しては社会的非難が与えられる.

Charlie Hebdoを法で禁止することはないが,社会はその違いを知っておかねばならない.

FP JANUARY 8, 2015

The Long, Slow Fuse of Jihad in France

BY KATE BRANNEN, GOPAL RATNAM

FP JANUARY 8, 2015

Do France’s Intellectuals Have a Muslim Problem?

BY ROBERT ZARETSKY

The Guardian, Friday 9 January 2015

Charlie Hebdo: first they came for the cartoonists, then they came for the Jews

Jonathan Freedland

FT January 9, 2015

For the first time in 13 years I felt like a true Parisian

Simon Kuper

聖戦主義者が自宅から徒歩10分のところで12人を殺害したと,あなたは子供たちにどうやって説明するだろうか? 私の8歳の娘は泣き出した.

私はロンドン子だったが,この13年間はパリジャンになろうとしてきた.水曜日の襲撃を観て,金曜日にはコーシャー(ユダヤ教徒の)スーパーマーケットで行われた人質事件を知った.それは,私にパリのことを教えてくれた.

多くの大都市と同じように,パリは異なるエスニシティーの多くの人々が交流して生活する場所だ.交流のほとんどはうまくいく.そしてテロ事件に対しても,パリは10年ほど前のロンドンと同じ印象的なやり方で対応するだろう.

パリの広域圏には,ヨーロッパの他の都市よりも多い,150万人の名目的なイスラム教徒が住んでいる.コモロ諸島出身のFatimaは,保育士として,不安に怯える私の子供を守ってくれた.水曜日に子供たちがフットボールできるように,イスラム教徒の父親たちやコーチのMehdiと話し合う.彼らは娘が少年たちのチームに参加する困難を克服できるように助けてくれたから.

パリにもエスニックの緊張は起きる.しかし,暴力に及ぶことはめったにない.かつてユダヤ人,イタリア人,ポーランド人が,イスラム教徒と同じように苦しんだけれど,今では受け入れられている.Charlie Hebdoを襲った5人,シリアに渡った1000人ほどのイスラム教徒もいるが,ほかに約500万人が,仕事や住居,食後のテレビ,など,もっと平凡な願いをかなえるために暮らしている.

パリの広域圏で起きる殺人事件は年に135件であり,10万人当たり1.1件,ニューヨークの3分の1でしかない.彼ら世俗のイスラム教徒は豚肉も食べる.

水曜日の夜,抗議の群集の中にいて,私はパリジャンであると初めて感じた.200577日,ロンドンで52人が死亡するテロ事件が起きた後,イスラム教徒を取り巻いたが,その1週間後,抗議集会で,イギリス・イスラム協議会の会長があいさつし,大歓迎された.多文化主義のロンドンは,その後,成功している.

聖戦主義者はイスラム教徒のきわめて少数派である.彼らの脅威はなくならないが,これが現実であろう.

Project Syndicate JAN 9, 2015

The French 9/11

DOMINIQUE MOISI

FP JANUARY 9, 2015

Religion Is Not the Enemy

BY CHRISTIAN CARYL

FP JANUARY 9, 2015

Tearing Up the Magna Carta

BY COLUM LYNCH, JAMILA TRINDLE

イスラム聖戦主義者の照りに対する警戒観が高まっている.ヨーロッパに,テロは以前からあった.しかし,シリア内戦が激化し,ヨーロッパのイスラム社会から,若い世代のイスラム教徒がシリアの戦場に向かったことで,深刻なテロの危険性が高まった.

ヨーロッパは,これまでアメリカのテロ対策や諜報活動を批判してきたが,テロ警戒のレベルを引き上げ,新しい対策や立法を模索している.各国は,シリアへの渡航を宣言し,帰国するものを厳しく監視している.イギリス議会は,首相にシリアから帰還しようとする兵士の国籍をはく奪する権限を付与するかもしれない.

イギリスがIRAと戦った歴史を考えても,テロを完全の予防することはできず,短期的に抑えることも不可能だ.ドイツの法務大臣Heiko Maasは,イスラムとの対話や教育を重視する.開放的な,自由な社会こそ,テロリストの広める憎しみに対抗する最善の答えである.しかし,政治は違う方向を目指している.

NYT JAN. 10, 2015

France, the Crucible of Europe

Ross Douthat

The Guardian, Sunday 11 January 2015

Charlie Hebdo: the danger of polarised debate

Gary Younge

事件をマニ教的な光と闇,善悪2元論,で見てはいけない.明白な敵を求める中で,複雑さを失ってしまう.

黒人が白人警官を殺す事件があれば,黒人差別に抗議した運動が責められる.Sonyが実在の指導者を暗殺する悲劇について,公開を取りやめたことに抗議が起きる.

Charlie Hebdo襲撃事件でも,単純な主張が求められた.イスラム,外交,犯罪,表現の自由,統合,差別,多文化主義.いずれも関係がある.それ以上の問題だ.市民を殺害した冷酷さと,その動機の複雑さ.理解できない部分,一貫性の欠如.しかし,大胆な,条件を付けない,矛盾した,説得性.

表現の自由は,どこでもそうであるが,フランスでも制限されている.「神聖な」権利などではまったくない.すべての社会は線を引く.公的な言論として許されるのはどこまでか,その線は間違っているし,常に変化し,論争されている.特に,文化,人種,宗教,などの問題で.

こうした殺害をイスラム教徒は答えるべきだというのは矛盾した主張だ.イスラム教徒がこの残虐な事件に責任がないのは,ユダヤ教徒がガザ空爆に責任がないのと同じだ.イスラム教徒は単一のコミュニティーではない.その信仰が政治を決定しているわけでもない.イスラム過激派に最も多く殺害されているのがイスラム教徒である.パリの殺人者たちはイスラム教徒の警察官を殺した.

イスラム教が「本質的に」暴力を支持するものではない.「本質的に」平和を支持するわけでもない.イスラムも,他の宗教も,何かの正当化に利用される.マイノリティーが暴力を行使する.

若いイスラム教徒たちが過激化したことの背景には,外国の支配と戦争がある.襲撃犯の一人は明確にイラクでアメリカが行った拷問を挙げている.

彼らの行為の責任は彼らにある.しかし,われわれは社会として,集団的に,こうした者たちが出た状態への責任がある.

FT January 11, 2015

America finds common cause with oldest ally

ED Luce

FT January 11, 2015

France’s powerful message - to itself and to the world

FT January 12, 2015

The fateful choice that faces France

Gideon Rachman

襲撃事件は,フランスの衰退論者とナショナル・フロント(FN)支持者に,自分たちの国の理想を確認させただろう.

アメリカよりもはるかに以前から,フランス衰退論は蓄積されてきた.人種間の緊張,政治の過激化,高失業,高債務,国際的影響力の低下,政治エリートへの軽蔑.もしFNのマリー・ル・ペンが大統領になれば,EUは崩壊する.

テロ事件に対して,これまでになく大統領は威厳を示し,首相は情熱とエネルギーを込めて,フランスの理想を支持する演説をした.「自由,平等,友愛」は今も言葉以上に真実である.

フランスを支持して,国際的な連帯が示された.しかし,参加国には偽善がある.

NYT JAN. 12, 2015

Charlie Hebdo’s New Issue Has Mohammed on Cover

By RACHEL DONADIO

FP JANUARY 12, 2015

An American Absent From Paris

BY DOV ZAKHEIM

なぜオバマは,副大統領も,参加しないのか?

FP JANUARY 12, 2015

 ‘Where’s Our Unity March?’ China Wants to Know

BY BETHANY ALLEN-EBRAHIMIAN

なぜ中国は,国際連帯を示さないのか? Weiboは中国の感覚を伝える.中国にも深刻なテロ事件があった.しかし,西側は中国政府を支持してデモをしたことがない.西側の価値は2重であり,偽善である.

昆明のテロ事件は「中国の911」であった.他方,中国政府はメディアの自由を制限している.

theguardian.com, Tuesday 13 January 2015

Did Charlie Hebdo's cover get it right? Our writers' verdict

Myriam Francois-Cerrah, Timothy Garton Ash, Nabila Ramdani, Padraig Reidy, Joseph Harker, Jonathan Jones

Myriam Francois-Cerrah ・・・私はCharlie Hebdoを楽しめない.近年はしばしば人種差別的な漫画を載せたからだ.

反権力,反権威の雑誌を掲げながら,Charlie Hebdoはイスラム教徒の自由を制限する国家の姿勢を擁護した.イスラム教に関するステレオタイプを悪用した.

風刺は,権力者を攻撃して,彼らが責任を問われるべきこと,権威を失わせることだ.かつてフランスを支配した強制力を駆使する聖職者たちと,権力から締め出され,激しい偏見にさらされる移民の子孫たちとは,全く違う.

Timothy Garton Ash ・・・「お前がそういうなら,また,それを描くなら,私はお前を殺すぞ」と,誰にも主張することは許されない.そのような条件であれ,自由な表現に対して殺害で報復することは許されない.表現の自由とはそういう意味だ.

その表現を観るかどうかは,読者に任されている.Charlie Hebdoを読む者は少なかった.しかし襲撃によって,はるかに多くの者がこの雑誌を読むだろう.襲撃者のせいで.

FT January 13, 2015

How to share the world with true believers behind global terror

Martin Wolf

ナチズムとコミュニズムに反対して1951年に出版されたEric Hofferの本(The True Believer: Thoughts on the Nature of Mass Movements)は,今でも重要だ.

Hoffer20世紀に入るころ生まれ,1983年に亡くなった.移民の農業労働者,金の探鉱者,そして,サンフランシスコで港湾労働者として25年間働いた.

アルカイダ,タリバン,イスラム国家,ボコ・ハラム,あるいは,かつてのナチズムやコミュニズムについて,Hofferは,真の信奉者を信念の内容ではなく,その性格で判断する.彼らの信念は,完全な確かさを主張し,完全な忠誠を要求する.真の信奉者はその主張を認め,その要求を喜んで受け入れる.彼らは大義のために人を殺し,自分の命も捨てる.その信念が成就することは,他人や自分の命より重要だから.

彼らは狂信的である.こうした狂信者は歴史上に存在した.狂信は気質の問題であって,理念ではない.現実は,宗教の(現世における)救済という理念を滅ぼしたが,永遠の命という理念は滅びなかった.ナショナリズムでも,それにはまだ及ばない.しかし宗教とナショナリズムは相互に補強する.

Hofferは,貧困が真の信奉者を生むのではない,という.それは挫折感である.自分はもっと高く評価されるに値するはずだ,という感覚だ.ある種のテロリストは重大な犯罪者ではない.彼らは今の社会に不適合であると感じている.当然,移民マイノリティーの子供たちに多い感覚だ.家族の出自が示す文化と,その目的地である現在の社会が示す文化は,どちらにも愛着を持つが壊れやすい.

信奉者には何が得られるのか? その要点は,彼らの求める答えである.考え方,感じ方,なすべきことが得られる.すべてを受け入れてくれるコミュニティーが得られる.生きる理由,殺す理由,死ぬ理由も.空虚さは満たされ,目的が与えられる.それは大義を与えてくれる.その信念の中身と関係なく,狂信,興奮,熱望,憎悪,不寛容をもたらす.

コミュニズムは衰退した.どこでも宗教より世俗主義が優勢だ.しかし,宗教は世俗主義に勝つときがある.腐敗した独裁体制のように,道徳的・知的に破たんした世俗の支配者が宗教の復活を助けるからだ.西側の民主主義もイスラム過激派の軍事攻撃に対して弱い.戦争ではこれに対抗できない.自ら死のうとする者を抑えることはむつかしい.理念は滅ぼせない.もしあるとしたら,もっと魅力的な理念に代えることだろう.過激な理念が消滅する可能性はある.しかし,それには長い時間がかかる.ルターが引き起こしたヨーロッパの宗教戦争は130年も続いた.

だから我々は,これが過激派・原理主義を抑える長いゲームであると理解しなければならない.その戦いの核心は欧米の外にあり,穏健派への支援が必要である.われわれは平等な市民という理念を,暴力的な聖戦に対置し,この理想に忠実であることが重要だ.そして,治安を高める方策を強めるけれど,すべてのテロを防げないことも認め,社会に対する不満や挫折を感じている者を助けなければならない.

20世紀と同じように,リベラルな民主主義は生き残るだろう.過剰な反応をしてはならない.最後には狂信が滅ぶのだから.

FT January 13, 2015

The shaken city of Paris unites for Charlie Hebdo

Adam Thomson in Paris

NYT JAN. 13, 2015

Reprisals Feared as Charlie Hebdo Publishes New Muhammad Cartoon

By ALAN COWELL and KAREEM FAHIM

FP JANUARY 13, 2015

France Is an Unequal Opportunity Offender

BY LEELA JACINTO

NYT JAN. 14, 2015

Just Another Parisian

Pamela Druckerman

NYT JAN. 14, 2015

New Charlie Hebdo Muhammad Cartoon Stirs Muslim Anger in Mideast

By ANNE BARNARD

FP JANUARY 14, 2015

Drawing While the Hand Trembles

BY JONATHAN GUYER

FP JANUARY 14, 2015

 ‘Charlie Hebdo’ Is Not a Photo-Op

BY DAVID ROTHKOPF

Project Syndicate JAN 15, 2015

Charlie and Theo

IAN BURUMA

言論の自由は相対的なものだ.芸術家や小説家が表現してよいことでも,判事や政治家には許されないことがある.

10年前に殺害されたTheo van Goghや,今回のCharlie Hebdoを,「民主主義」や「西側文明」と同一視するのは間違いだ.アルカイダは,東側やイスラム文明を示すものではない.

侮蔑や挑発の文化は民主主義と矛盾する.民主主義は妥協の精神を求める.利害の対立を法の支配の下で平和的に解決するためだ.文明化された,市民社会では,われわれは異なる文化や信仰と暮らし,たとえ共有していない価値でも,それを侮辱するようなことは避ける.それは邪悪な者を許すことではないし,表現の自由をあきらめることでもない.寛容さは,弱さを意味しない.暴力によって自分の意見を強制することは,民主的社会で,絶対に許されない.

襲撃犯たちは,たぶん,感傷的な敗者であり,思春期の絶望を味わったのだろう.しかし,暴力的な革命集団がこうした若者を殺害のためにリクルートするのは,政治的な動機がある,と思う.預言者を侮辱されたから,というのは真の理由ではないだろう.

革命家たちが最も嫌うのは,直接の攻撃を受けることではない.妥協が必要だという姿勢,ギブ・アンド・テイク,交渉と適応でリベラルな民主主義の中で暮らす,そのような仲間を憎むのだ.これを最も効果的に阻止する方法は,西側のシンボルを破壊し,反オスラムの攻撃的な反応を呼び起こすことだ.より多くのヨーロッパで暮らすイスラム教徒が恐れ,拒否され,非イスラム教徒の多数派に制圧されていると感じるほど,彼らは過激派を支持するのだ.

先週の襲撃を,われわれがイスラムと西側の戦争と考えるなら,聖戦主義者が勝利する.われわれが平和的なイスラム教徒の多数派を包摂し,ともに暴力に対抗するなら,同じ市民として彼らを扱うなら,民主主義は強化される.

Project Syndicate JAN 15, 2015

Charlie and the Anti-Muslim Media Factory

SAMI MAHROUM

NYT JAN. 15, 2015

After Paris Attacks, Wrong Responses to Charlie Hebdo

By THE EDITORIAL BOARD

FP JANUARY 15, 2015

From Herzl to Hebdo

BY GREGG CARLSTROM


l  ユーロ圏のデフレ

Project Syndicate JAN 8, 2015

Europe’s Lapse of Reason

JOSEPH E. STIGLITZ

EUには高度な人材や教育を受けた人々がいる.加盟諸国は強固な法的枠組みを持ち,良好に機能する社会を保持している.

ユーロ圏の停滞は自分たちが強いたものだ.金融危機の前には,構造改革の問題があっても成長していた.ユーロ圏を築いた時に始まる間違った政策決定が,この停滞を続けている.それは市場に関する間違った信念にも関係している.

EUの強みは民主主義が機能することである.ギリシャの選挙で,たとえ今回は無理でも,必ず,緊縮策を破棄する再交渉が始まる.

FT January 9, 2015

Europe’s deflation risk leaves no option but quantitative easing

FT January 9, 2015

Self-correcting depression and virtue of deflation

John Authers

2冊の優れた本が出た.Hall of Mirrors by Barry Eichengreen, and The Forgotten Depression by James Grant

Eichengreenは,大恐慌の教訓が正しく学ばれた,と考える.金融緩和,財政支出,銀行の資本強化,その結果,リーマン・ショックは大恐慌を再現しなかった.

また,連銀は1937年の失敗を繰り返すべきではない.失業率が下がり,収入が増えるまで,金融緩和を続けるべきだ.金利引き上げは犯してはならないリスクである.

James Grantは,逆に,不況は自然に回復に向かった,と考える.物価や賃金は大きく低下した.デフレーションは市場のメカニズムである,再起動する地点を見出す.

FT January 9, 2015

Europe: Deflation decoded

By Ferdinando Giugliano

FT January 11, 2015

Eurozone must act before deflation grips

Wolfgang Munchau

Project Syndicate JAN 13, 2015

Economics and Its Critics

HANS-WERNER SINN

FT January 14, 2015

Eurozone’s slide into deflation need not be a negative thing

Sarah Gordon

カサンドラの預言が実現する.ヨーロッパはデフレに入ったようだ.しかし,デフレの大部分は石油価格の下落だ.この場合,購買力は増大し,デフレが消費を抑えるという主張は当てはまらないだろう.

ECBは量的緩和を開始する.その効果はユーロ安に明白だ.1年前に企業の業績が期待を下回ったのは,予想外のユーロ高のせいだ.

良いデフレを期待できる.

FT January 14, 2015

Mario Draghi fights a battle for independence at the ECB

Project Syndicate JAN 14, 2015

Bracing for Stagnation

RAGHURAM RAJAN

世界経済の成長は弱い.デフレの傾向が広まっている.金融政策の新しい合意は,日本の経験で試されているが,明確な結論は出ていない.

停滞を説明するために,新たにLarry Summersは「長期停滞論」を提示した.金融政策はゼロ以下に金利を決める力がない.高齢化は消費を減らし,所得分配の不平等化も富裕層の消費が制限となる.

Tyler Cowen and Robert Gordonは供給側に注目する.工業諸国の戦後成長を再現することはむつかしいだろう.1970年代から,高成長に依拠した「偉大な社会」も約束が実現できなくなった.それはインフレに頼り,今では債務に頼っている.社会保障の見直しが進む.

工業諸国に輸出する,従来の開発モデルが基盤を失った.新興諸国の成長は,世界的な金融緩和で刺激されるはずだ.しかし,資本移動への脆さを解決しなければならない.

世界経済には楽観的な条件がある.アメリカの回復,石油価格の低下,技術革新.しかし,開発世界の成長見通しは暗く,構造改革の苦しみが続く.


l  ギリシャ債務危機

theguardian.com, Friday 9 January 2015

A Greek euro exit would hurt Europe – but not as much as it would hurt Greece

Katinka Barysch

FT January 12, 2015

Greece and Russia face high debt problem

Mohamed El-Erian

NYT JAN. 12, 2015

No Exit for Greece

By JOSEF JOFFE

ギリシャはまた破産するのか? 誰もギリシャの離脱は望まない.しかし,債務免除の駆け引きにユーロ危機を使うのは,繰り返された間違いだ.何度も,ギリシャは債務を支払わなかった.

次期首相となるらしいTsiprasが,冷戦のレトリックまで使って述べたように,「どちらが発射ボタンを押しても,全員が敗者になる.」 これは,金融危機のチキン・ゲームなのだ.

ギリシャは2010年に1100億ユーロ,2012年に1300億ユーロを免除された.2011年には民間債権者が50%を償却した.それでも彼らは,さらに債務免除を期待する.危機を開始するのは簡単だが,誰もその終息策を知らない.

確かに,債務返済の条件は緩かった.緊縮策にもかかわらず,ギリシャ債務は増えている.しかも,ドイツはヨーロッパ内で支持を失っている.フランスもイタリアも,ギリシャと同様に,労働市場改革,市場自由化,財政規律を実行しない.債権者からの資金は彼らの財政赤字に消えてしまう.

ギリシャだけなら,それは些細な問題でしかない.しかし,フランス,イタリアはそれに似ている.Grexitはヨーロッパ問題である.生産性の上昇は鈍く,投資,技術革新,競争促進は進まない.

FT January 15, 2015

Why Draghi will watch Greece as he launches eurozone QE

Ralph Atkins


l  シリア

SPIEGEL ONLINE 01/09/2015

Assad's Secret

Evidence Points to Syrian Push for Nuclear Weapons

By Erich Follath

シリアも北朝鮮から核武装を学ぶのか?


Project Syndicate JAN 9, 2015

New Europe’s Old Ghosts

MARK MAZOWER


l  地域貿易協定

VOX 09 January 2015

Preferential trading agreements: Helping economic reform in developing countries

Leonardo Baccini, Johannes Urpelainen


l  日本の構造改革

Bloomberg JAN 9, 2015

Japan Flirts With Governance Reform

By Noah Smith

アベノミクスは成功しない.日本企業は,売春婦とは自覚しないホステスたちを加えて,バーで接待する.コーポレート・ガバナンスは改善しない.生産性は伸びず,配当は少ない.

Bloomberg JAN 9, 2015

RBS Says Sayonara to World's Weirdest Bond Market

By William Pesek

FT January 12, 2015

Japan puts secular stagnation thesis to the test

Bill Emmott

日本に注目せよ.失われた何十年,原発事故,ではなく,デフレと,日銀による量的緩和でもない.アベノミクスではなく,その労働市場改革だ.

実質的にすべての西側経済が賃金の停滞,近年では減少に苦しんでいる.金融危機後の循環的な不況や,人口減少,ハイテク技術,中国との競争,など,より深い原因も議論されている.すべてが元アメリカ財務長官Lawrence Summersの長期停滞論に注目する.

日本は長期停滞のチャンピオンだ.津波や,消費税引き上げをともない,経済は揺れ動いたが,その趨勢は一貫している.実質賃金の停滞,この3年の低下.しかし,その日本が完全雇用に向かっている.企業は労働力不足を心配している.

しかし,まだ賃金は引き上げられていない.安倍は旧式の発想で春闘に介入した.人々が懸念するような労働節約技術への投資ではなく,内部留保を増やしながら,消費の衰え,増税,人口減少を悲観する日本企業の投資不足が深刻だ.

ここで注目するのは労働法の改正だ.1990年代後半から2000年の10年にかけて,政府は日本企業の競争力を高めるために,短期の,パートタイム契約を促進した.今や被雇用者の35%以上が「非正規」だ.それは弾力的で,女性や高齢者の雇用も増えた.

しかし,2つの問題が残った.1.それ以外の労働市場は今も硬直的だ.2.雇用者も労働者も,技術の習得を怠った.その結果,経済の停滞がもたらされた.不安定で,技術を持たない職場が増えてしまった.家計の消費は減少し,かつて貯蓄で有名であった日本人が,今では生活水準を維持するために借金に依存している.

再選された安倍政権は,労働法を改正し,労働市場を一元化する.それは解雇のコストを下げて,市場による調整を機能させる.また,正規と非正規との違いをなくし,すべての労働者を平等に扱う.労働者は技術の習得に強い動機を与えられる.

グローバリゼーション,機械化・IT化,高齢化の時代である.すべての先進諸国が人的資本の開発によって繁栄しなければならない.完全雇用に近い今しか,日本がそれを実行するチャンスはない.

Bloomberg JAN 13, 2015

Why Isn't Japan Inc. Helping Japan?

By William Pesek


後半へ続く)