IPEの果樹園2014

今週のReview

12/15-20

 

*****************************

人類の遺産 ・・・ロシアの選択 ・・・政治的な石油価格 ・・・貿易自由化交渉 ・・・日本の最高意思決定 ・・・中国資本の時代 ・・・ドイツの覇権とは ・・・移民政策の神髄 ・・・EU悲観論を超えて

[長いReview]

******************************

[これは英文コラムの紹介です.私の関心に従って,いくつか要点を紹介しています.関心を持った方は正しい内容を必ず自分で確かめてください.著者と掲載機関の著作権に従います.]


l  人類の遺産

NYT DEC. 3, 2014

A Pacific Isle, Radioactive and Forgotten

By MICHAEL B. GERRARD

マーシャル諸島は人類によって2度も破滅を強いられた.私はその中の小さな島Runitに着いて,浜に降りた.

ハワイとオーストラリアの中間にあったため,アメリカはここを核実験場にした.特に,Bikini and Enewetakの環礁だ.1946年から1958年の間に,67回の核実験が行われた.

放射能汚染が激しく,住民たちは退去させられた.深さ33フィートの巨大なクレーターに汚染された土壌やプルトニウム塊を埋め,厚さ18インチのコンクリートで蓋をした.より軽い汚染土壌は環礁内にブルドーザーで埋め立てた.この施設は,アメリカ本土のネヴァダにある,最低でも100万年は安全に保管できる施設と違い,その寿命を計算されていない.

島々の海抜は6フィートしかなく,今やthe Runit domeは温暖化によって水没しつつあり,嵐によって破壊されるだろう.われわれが文明の遺産として小さな島国に残した放射能汚染物質は,こうして南シナ海に放出される.


l  ロシアの選択

FP DECEMBER 5, 2014

Can Anything Save the Ruble?

BY DANIEL ALTMAN

原油の価格は国際市場で決まる.価格を上げたければ供給を減らすべきだが,ロシアは減らさない.OPECも減産に合意できなかった.

中央銀行は介入を再開した.しかし,外貨準備は減少し続ける.通貨への攻撃や,1998年のような信用パニックに対するセーフティーネットが失われてしまう.

プーチンは外国に逃避した基金を呼び戻すためにアムネスティ(免罪)を示唆した.マネー.ロンダリングや脱税の資金が呼び戻せるか? 2013年にアルゼンチンも試みたが,成功しなかった.

ロシア経済はあまりにも石油輸出だけに依存している.その経済構造が通貨危機に対する防衛策を失わせた.そうでなければ,通貨安は自動的に回復をもたらす.同様に,通貨安はその国の資産や企業に対するバーゲンであるから,外国人の購入を刺激する.しかし,ロシアはすべてが石油関連であるから,こうした効果は生まれない.

ロシアができる,最も効果的な対策は,ウクライナでの紛争を終結させることだ.西側による制裁が解除され,逃避した資本も戻るだろう.ルーブルも経済も回復する.しかし,モスクワはそれを好まないのだ.


l  政治的な石油価格

FT December 9, 2014

For Saudi Arabia, plunging oil prices are a political weapon

By David Gardner

石油価格が5年ぶりの低水準にまで下落している.しかし,既知の油田では世界最大の産油国であるサウジアラビアがほとんど異常なくらいに冷静にふるまっている.

平静なまま,浪費的な支援を続けているサウジアラビアには,疑いなく,技術的な理由がある.この価格下落は過去の循環的な下落と全く異なる.サウジの主要な関心は市場シェアを守ることだ.もし「政治」が関係しているとすれば,それは生産コストの高い,アメリカのシェール・オイル生産者を市場から締め出すことだ.

サウジアラビアもOPECも石油価格を決める力はないが,価格が下落しても彼らは何もしなかった.最近では9月に,すでに供給過剰な市場へサウジアラビアは石油を供給した.

サウジアラビアは石油を政治的な武器として利用してきた.イランに対抗するためだ.アラブの春以降,特にエジプトに示したように,近隣諸国の社会・政治問題に潤沢な資金を与えている.2003年のアメリカが指導したイラク進攻で,スンニー派のサウド家とその絶対王朝同盟は,バクダッドからベイルートまで,イラン指導の,サウジに隣接するイエメン,バーレーンを含むシーア派同盟と対抗している.

ワッハーブ主義のサウジアラビアはシーア派を腹の底から憎んでいる.アラビア湾から地中海沿岸まで,彼らの対抗関係が石油価格に反映される.シリアやイラン政府を支援する,毎月推定15億ドルの負担を耐えるために,テヘランは現在の石油価格の2倍を望むだろう.

イスラム国家と戦う上では,イランも同盟国である.オバマはテヘランとの和解を目指して核合意を模索している.しかし,アメリカはサウジアラビアの憎しみを無視できない.サウジの政府高官が,聖戦主義に対する同盟を説くケーリー国務長官に言ったようだ.「ISISは,あなたがDa’waを支援したことに対する報復だ」,と.Da’waとは,テヘランと同盟するイラクの与党である.

市場が石油価格に影響するのは当然だ.しかし,政治的な憎悪も影響している.


l  貿易自由化交渉

FP DECEMBER 4, 2014

The General Disagreement on Tariffs and Trade

BY GREG RUSHFORD

およそ70年前に,1930年代の経験を反省して,アメリカと他の22か国がGATTを設立した.それは1995年までにWTOに転換された.多角的な貿易自由化交渉を積み重ねて,世界貿易の関税率は1940年代の40%代から5%に下がった.

しかし,この20年間,WTOは機能しなくなった.Roberto Azevedo事務総長は160の加盟諸国に「死期が迫っている」と厳しく警告した.平和的な国際経済協力の見本である貿易ルールの制定機関が衰微し,回復する見込みは何もない.

問題の根本は,あまりにも多くの国が,もはや,多角的貿易自由化交渉の利益を信じていないこと,また,さまざまな理由で,その政治的意志を欠いていることだ.政治家の多くは歴史を忘れ,貿易ブロックを築くことに熱心だ.WTOの監視する多角的貿易ルールを守るより,自国の保護主義的な仕組みを守ろうとする.無差別貿易の原則に対する信念を欠くなら,WTOは何も生み出せない.

5月,インドのシン首相Narendra Modiは,すでに交渉が終わったBali Packageに署名を拒んで,インドが求める「食糧安全保障」に従う農業補助金の余地を得た.保護主義を抑えるWTOの目的に反して,世界の貧困層のために戦う,とインドの道義性を主張したのだ.

インドはさらに産業保護の「弾力性」をWTOに求め,アフリカ諸国も富裕諸国が求める産業保護の撤廃を拒んでいる.アフリカ連合諸国の外交官たちは,WTO大使に合意を遅らせるための方法を教えた.シアトルでも,カンクンでも,WTOの自由化交渉を妨げた.その直後,ケニアの外交官であったMukhisa Kituyiは「われわれが潰してやった」と自慢していた.彼は,今,UNCTADの事務総長である.

Kituyiは,104日,UNCAD結成40周年の特別講演として,エクアドル大統領Rafael Correaを招いた.WTOから数ブロックしか離れていないジュネーブ本部で,Correaは「不道徳かつ不正義な」世界経済秩序に反対した.「超国家資本と覇権諸国が支配する世界において」,貧しい諸国は自衛のために地域貿易協定を築くべきだ,と彼は主張した.貿易ブロックの世界に未来がある,という演説をKituyiUNCRADの聴衆は称賛した.

歴史の教訓を学びなおすべきだ.


l  日本の最高意思決定

Bloomberg DEC 5, 2014

Japan, Awash in Chaos

By Noah Smith

1941127日は,不名誉,というより,多くのアメリカ人にとって理解できない日だ.真珠湾に対する奇襲攻撃は,帝国の理不尽な自殺行為であるほどには,アメリカに深刻な被害を与えなかった.当時,アメリカのGDPは日本の5倍,人口は2倍であった.第2次世界大戦の開始から戦争終結までに,日本は17隻の空母を建造したが,アメリカは141隻を造った.

日本はアメリカとイギリスに戦争を仕掛けただけでなく,すでに世界最大の人口を持つ中国とも戦争していた.人口で10倍,面積で20倍の国である.中国を征服するという間違った使命が,アメリカの石油禁輸で不可能になるため,アメリカを攻撃し,東南アジアにも拡大した.その前に,石油豊富なソ連にも侵攻し,敗退していた.

3年の間に,日本帝国は,1つではなく,地球上で最強の5大国のうちの4か国と戦争を始めたのだ.それが帝国を崩壊させた.

なぜこんなことをしたのか? 日本の指導者たちは,愚かでも,狂人でもなかった.彼らは米英に勝てないことを知っていた.その行動を説明するのは,歴史が示すように,組織内部の無秩序である.多くの西洋人が日本をピラミッド型に組織された国と見ているが,むしろ緩やかに結びついた,暴力団が小競り合いする状態に近かった.

1930年代には,少なくとも4度,下層の軍人たちと極右の武装集団が協力して,政府を転覆する流血のクーデタを試みた.信じがたいことだが,最後を除いて,彼らは軽微な処罰しか受けなかったのだ.中国に軍事侵略を拡大したのも,中央政府の決定に反した下層軍人たちによる不服従と独断であった.しかし彼らも処罰されずに,むしろ称賛された.

John Toland"The Rising Sun"などが示したように,内部の混乱状態から,日本帝国は自殺行為へ崩れたのだ.彼らの組織だったイメージは間違いだし,特に組織の上層部では,アメリカでは考えられないほどの混乱がある.

これは,現在の日本の政治経済状況を示していると思う.安倍晋三は,最近では珍しい,ダイナミックで威厳を持った指導者であるが,その改革は与党内部の反対で進まない.

日本が抱える組織の上層における混乱状態こそ,日本が直面する長期的な制度問題なのである.

FT December 9, 2014

A futile boycott of China’s bank will not push Xi out of his back yard

Yoichi Funabashi

アメリカと日本は,アジア・インフラ投資銀行AIIBに参加するべきだ.

習近平の「アジア太平洋の夢」とは,アメリカのオバマ大統領による「アジア旋回」に代わって,アジア地域のインフラ投資を推進することだ.それは11月のAPECサミットで提唱された新しい貿易協定,ロシアとの天然ガス合意,400億ドルの「シルクロード基金」に示された.

日米はどのように対応するべきか?

1.ブレトンウッズのIMF・世界銀行・ADBも,多くの資金をアジアのインフラに向けるべきだ.2.インドの立場,インド洋をブレトンウッズが取り込むことが重要だ.3AIIBのボイコットは成功しない.むしろ日米も参加するべきだ.中国は潤沢な資本,日米は有益な専門知識を提供できる.AIIBは,ブレトンウッズ改革の遅れを挽回し,より大きな発言力を新興諸国に与える.4.日米はTPP交渉を早期に妥結し,中国を参加させるべきだ.

こうしてブレトンウッズ改革と中国の包摂を目指す二重の戦略が,アジアのインフラを整備し,地域の平和と繁栄に中国の参加する指導体制を築く,という二重の勝利をもたらすだろう.


l  中国資本の時代

FT December 9, 2014

China: Turning away from the dollar

James Kynge and Josh Noble

「中国資本の時代」が来る.Deutsche Bankは世界金融の変化をそう呼んだ.中国からの投資が自由になり,その流れと方向は市場圧力と中国政府の計画に反応するだろう.3つの大きな変化が関係している.

中国のアメリカ財務省証券に対する需要は減少して行く.そして,中国は人民元を国際化し,ドルの支配する金融市場から抜け出す.

先月,李克強Li Keqiang首相は金融改革10項目を発表した.その一つは,39000億ドルの外貨準備を中国国内の発展や高度な中国製品の海外市場拡大に使用する,というものだ.

将来,中国の経常黒字は減少する.輸入が増え,海外旅行者は増えるだろう.アメリカ財務省証券の購入は減り,中国からの海外投資が増える.政府はそのための機関,New Development Bankthe Asian Infrastructure Investment Bankthe Silk Road Fundを整備し始めた.

もし中国によるアメリカ政府への投資が減れば,グリーンスパンが苦しんだような金融政策の制約はなくなるが,政府の借り入れコストは急増し,西側の企業にとって資金調達コストが増えて,成長率をさらに低下させる.

しかし,ドル以外に選択肢はない,という幻想で,投資家たちは安心している.中国がドル資産を売れば,自分たちが大きな損失を被る.ドルの暴落は人民元の価値を高め,中国の競争力を失わせる.

だから中国は人民元で投資できる制度を準備し始めたのだ.習近平は「シルクロードの経済ベルト」を語り,「21世紀の海のシルクロード」として南シナ海からインド洋のシーレーンを縫い合わせる.国境を超える鉄道や自動車道路を建設して,中国は近隣諸国の繁栄を中国と結びつけ,アジアの中心に復帰することを目指す.

人民元の国際化は予想を超えて急速に進むだろう.特に,香港と上海の株式市場統合は海外投資家からの人民元需要を増やしている.外国政府・地方政府,企業の人民元による債券発行が増えている.

中国は,アメリカが支配するグローバルな金融市場を抜け出し,それと併存する中国中心の市場を創り出す.もちろん障害は多いだろうが,その半分でも実現すれば,アメリカの債券市場,将来の国際投資は激変する.


l  ドイツの覇権とは

FT December 9, 2014

Europe’s lonely and reluctant hegemon

Martin Wolf

1次世界大戦から100年,ベルリンの壁崩壊から25年が経つ.これは歴史の皮肉である.ドイツは軍事力によって達成できなかったものを,平和的な手段で獲得した.ヨーロッパにおける中心の地位を占めたのだ.

ドイツの支配力は,その経済規模や地政学上の位置だけによるのではない.ヨーロッパの大国の中で,ドイツが最も安定し,成熟した民主主義を実現している.外国人を差別するポピュリズムは,他の国と違って,ドイツに広がっていない.アンゲラ・メルケルは,円熟した,責任を果たす指導者だ.

こうした優位にもかかわらず,ユーロ圏の経済は停滞と超低インフレに苦しんでいる.そしてドイツの政策担当者たちは改善のために行動することを拒む.また東方では,失地回復を求めるロシアがウクライナの混乱を生み出し,さらに旧ソ連圏へも脅威を与えている.

ドイツが新しい役割を担いたがらないのは理解できる.ドイツはユーロを望んでいなかった.逆に,他国が愚かにも,ドイツ再統一の代償としてユーロに合意するよう,求めた.ドイツの政策担当者たちは,通貨同盟の政治的・経済的な意味を正しく理解していた.

さらに,戦後ドイツの経済原理は大規模で多様なユーロ圏に当てはまらない.ドイツの成長を支えた政策は,「小国開放経済」というモデルに依拠していた.ドイツの責任は,その地政学と同じく,アメリカ,フランス,イギリスの依拠するグローバルな秩序を守ることだった.

しかし,「小国」としてのドイツの視点は,それ以前の戦争を意識した,強いられたものであったが,もはや適当でない.ドイツが埋めるべき政治の真空が生じているのだ.

ドイツ連銀総裁Jens Weidmannが言うように,ユーロ圏の低成長,超低インフレを,ECBの金融政策だけで解決することはできない.しかし,ユーロ圏が賃金引き下げ競争で繁栄することもできない.

もしドイツが覇権国として成功したモデルを実現するのであれば,国内需要を増やすべきだ.ドイツには何も改革することはない,と思っているが,他国では不況が深刻で,合理的な政策を拒む政府が成立するだろう.債権国として,ドイツはその黒字をどうするのか,示さねばならない.

ドイツは債務の削減・組み換えを交渉しなければならない.金融危機後のマクロ調整に責任を果たすべきだ.賢明な覇権国になるとは,自国の行動が,そこから利益を受け,大きな責任を持つシステムの,安定化と良好な機能に,どのようにかかわるかを明確に自覚することだ.

それは経済学であり,地政学でもある.ドイツは小国ではない.あまりにも強力で,あまりにもヨーロッパの中心を占める.より大きな責任を果たすときだ.


l  移民政策の神髄

Project Syndicate DEC 9, 2014

Immigration and the New Class Divide

IAN BURUMA

アメリカのティーパーティと彼らが支援する共和党員は,長年アメリカで暮らし,働いてきた人々に,オバマ大統領が市民権を与えようとしたことを嫌い,連邦政府を閉鎖すると脅した.イギリス独立党UKIPは移民の永住権を5年間禁止するよう求める.ロシアの副首相Dmitry Rogozinは,「クズどもをモスクワから一掃する」,と約束した.それは主に旧ソ連諸国から来た移民労働者たちだ.

景気が悪化することで自分たちの雇用を守りたいと思う気持ちは強い.しかし,ティーパーティを支持する,地方に住む中年白人アメリカ人は,貧しいメキシコ人と雇用を争うことなどない.UKIPの支持者が多い地域には移民が少ない.彼らが共有するのは,ますます移動が容易になる,超国家機関や,グローバルなネットワークに満ちた世界で,自分たちが置き去りにされる,という不安である.

右派は,移民労働者や超国家機関から利益を得ているビジネスの関係者と,彼らによって脅かされていると感じる集団とに分裂する.左派は,人種差別や不寛容を否定する人々と,自国生まれの労働者階級に「連帯」し,雇用を守れという人々とに分裂する.

移民に対する不安を単に,偏見,反動,とみなすのは間違いだ.民族や,宗教,文化的アイデンティティは変容しつつある.しかし,それは移民よりも,グローバルな資本主義の結果である.その経済過程には,明白な勝者と敗者が現れるからだ.教育を受けた,多様な国際ネットワークにおいて効果的に情報交換する人々は受益者だ.教育や経験を欠く,多くの人々は苦悩する.

新しい階級分裂が生じている.教育を受けた都市のエリートたちと,洗練されない,弾力を欠く,あらゆる意味で小さな土地に縛られた人々だ.

オバマ大統領が大衆的な敵意を生む理由もそれだ.アメリカ人はずっと前から知っている.白人はマイノリティであり,有色の人々が権力を握る.だからティーパーティや,同じような集団は叫ぶのだ.「われわれの国を取り戻せ!

それは不可能だ.アメリカ人も,他の誰も,ますます多様化する世界に住むしかない.経済的なグローバリゼーションを逆転できない.しかし,規制は改善できるし,するべきだ.文化,教育,生活スタイル,職場,など,市場の力にゆだねず,守るべき価値あるものは多くあるから.

その解決策の本質を,McFaddenは的確に語った.グローバル化した世界から利益を受ける手段を,人々に与えること.緊密に結びついた世界が,人々にとって好ましいものになることだ.ただし,こうした主張を支持するのは,すでに受益者である人々,特権層が多く,不安を感じている人々ではない.

それゆえ,左派の政党は都市エリートの代弁者として嫌われ,右派の政党は土着のポピュリストたちに攻撃される.


l  EU悲観論を超えて

The Guardian, Sunday 7 December 2014

Let the next generation speak up for Europe

誰がEUを救うのか? という質問に,私はECBのマリオ・ドラギ総裁だと答えるが,もう一人の若いマリオも重要だ.若い世代がEU統合を支持しなければ,その将来は悲観から抜け出せない.

それは1989年以降の世代も含めて,EUの交換学生制度Erasmusによりヨーロッパ市民となり,結婚し,子供を育てている若者たちだ.カタロニアの青年がベルギー・フランドル地方の少女に出会って,恋に落ち,彼らは結婚してヨーロッパ人の子供たちを生んだ.

若い世代がEUに魅力を感じるのは,どこでも旅行し,学び,働く自由があることだ.高齢の政治家や学者たちに意見を聞くより,若者たちに提案させることだ.

もしこれらを失ったら,彼らは静かにEUから去り始める.ローマ帝国が滅んだように.

********************************

The Economist November 30th 2014

Race in America: The fury of Ferguson

The new Silk Road: Stretching the threads

Investing in government debt: Where others fear to tread

The falling Yen: Low-calibre munitions

(コメント) アメリカの人種差別がファーガソンのような郊外で蓄積されていることと,差別を禁止する法律の強化より,その背景になっている政治の怠慢,警察の武装化や低賃金,訓練不足,銃規制の甘さ,不況と黒人の失業,などを解決するべきだ,というのは説得的です.

中央アジアや東南アジアに向けて,中国が建設する新しいシルクロードが注目されます.他方,日本が仕掛ける通貨戦争,というのは大げさである,と批判します.円安は日本の輸出を増やしておらず,安倍首相の憲法改正論より,支持されます.

******************************

IPEの想像力 12/15/14

選挙が終わって,まるで選挙などなかったかのような,静かな,政治的失望状態があります.自民党や公明党の支持者が歓喜するのは,政治的<バブル>です.

もっと選挙を楽しみたい,と思いました.政治を通じて,自分たちの集団としての力を高める機会が来た,と期待できるなら,選挙はとても重要です.

「先生は誰に投票するのですか?」と聞かれて,学生たちには,自分の関心と政治家・政党の主張を比較できる手段を紹介しました.日本政治.comの「投票マッチング」や,毎日新聞「えらぼーと」,朝日新聞社と東京大学谷口研究室の共同調査,など,とても役に立ちます.本当に多くの人が利用するようになれば,政治家や政党もこれらを意識して,選挙の「効果」を高めるでしょう.

ただし,問題もあります.選択肢を見ていると,「どちらとも言えない」という答えが多いのです.私もそう思いました.つまり政治は,2者択一の,Yes/Noの答えにはならないわけです.では何が正しいのか? 違う選択肢を,もっと具体的に提案し,議論するのが良い,と思いました.

また,自分の選択では,投票すべき政党が「公明党」や「維新の党」になったのは意外でした.私が,アベノミクスを否定せず,高負担と社会保障を支持し,原発はいらないと信じ,安全保障や憲法改正も否定しない姿勢を選んだからでしょう.

欧米の選挙と違うのは,日本では外交・安全保障が論争にならない.移民問題が取り上げられない.「ポピュリスト政党」が目立たない,と思います.ある意味で,維新の党や,幸福実現党,社民党は,日本独特の,新旧世代・ポピュリスト政党です.

社会保障と景気が選挙で主に取り上げられるのは,高齢者とビジネスマン,商店街が主要な投票者だからです.若者たちが投票することをあきらめるのも,こうした争点と彼らの関心との乖離を意味します.

どうしてインターネットで投票できないのか? と質問されました.少なくとも,郵便局やコンビニの端末で送金や振り込み,決済ができるのであれば,投票もできると思います.それは,特に若者に,もっと多くの可能性を開きます.

政治家がネット上で対談し,インタビューを受け,討論会に参加し,一般質疑に答える機会を増やします.そして,「自分はだれを代表しているのか?」を訴え,政治の全体像も示してほしいです.

多くのテーマがあるのだから,こうしてばらばらの政党に投票するより,テーマごとに投票できるほうがよいでしょう.各人が10票を持って,重要と思うテーマにウェイトをつけて投票します.

これだけ政党が分裂しているのだから,国民にも多数の票を与えてくれたらよいのに,と思いました.定数是正が進まないのであれば,地方の有権者に都市部の何票かを与える,とすればどうでしょうか? 海外からも,日本の政治と経済に関心が高い人々には,(参考に)投票してもらいます.アメリカ大統領選挙ほどではないとしても,世界投票にふさわしい,優れた,魅力的な政治指導者を日本から出してほしいです.

テレビで,一人の出席者が,安倍首相の暴走を予見していました.選挙で圧倒しておくことで,この先に政府が多数を背景とした重大決定を強行しても,野党は解散したいと言わない,その気力も資金もない,と.

なぜ<バブル>か,と言えば,日本が直面する様々な政治課題に対して,答えなければならないことに答えないまま,与党があまりにも多くの議席を得たからです.日本の産業や雇用が復活する見通し,農業や地方経済,非正規雇用・派遣の労働者を含めて,労働のあり方がどうなるか,社会保障と財政再建,中国や韓国との関係改善,外交・安全保障に関しても,沖縄の米軍基地問題や憲法改正に関しても,議論しないまま,政府が得た「信任」です.

与野党で,日本政治の「保守的」再編が進みます.しかし,保守政治家の間で対立が激しくなり,もっと過激な右翼政治家がそれを批判するでしょう.それはリベラル政党の理想と政治本来の使命を刺激します.そして,社会改良を求める支持者たちの組織化に優れた,若い政治家たちが育つかもしれません.

どうです.次の選挙が楽しみですか?

******************************