IPEの果樹園2013

今週のReview

11/11-11/16

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ドイツの貿易黒字批判 ・・・機密・原発・防衛 ・・・スノードン氏に感謝する ・・・銀行業の社会的な評価 ・・・超富裕層とポピュリスト ・・・新旧世界の逆転 ・・・メキシコのソーダ税 ・・・中国の権力と社会変化 ・・・核軍拡から共存へ ・・・主権廃止のドイツ・モデル ・・・ユーロ圏の日本化と再国民化 ・・・イスラエル ・・・現代の奴隷制 ・・・タクシン共和国

 [長いReview]

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主な出典 Bloomberg, China Daily, FP: Foreign Policy, FT: Financial Times, Global Times (China), The Guardian, NYT: New York Times, Project Syndicate, SPIEGEL, VOX: VoxEU.org, そして、The Economist (London)


l  ドイツの貿易黒字批判

SPIEGEL ONLINE 10/31/2013

Raw Nerve

Germany Seethes at US Economic Criticism

By Christopher Alessi

ドイツの政策担当者たちは,アメリカ財務省のドイツ黒字累積批判に対して,反撃した.ベルリンは今もメルケル首相に対するアメリカの諜報活動に対する不満を持っている.

アメリカ財務省がドイツの経済モデルを,ユーロ圏の回復を妨げ,世界その成長を損なっている,とあからさまに非難した次の日,その結論は「理解できない」,アメリカは自国の経済状況を分析しろ,とドイツが抗議した.ドイツ経済省は,黒字はドイツ製品の品質に対する世界の需要を示している,と述べている.

アメリカ財務省の報告書は,伝統的に中国の通貨操作を非難するものだった.世界銀行によれば,ドイツの2012年の黒字額は中国よりも多い2385億ドルになる.ドイツの専門家も,その推定額を認め,ドイツが投資を増やして国内需要を増やすことを示唆している.

しかし,ドイツの輸出依存は問題の一部でしかない,とドイツの専門家は言う.地中海諸国の労働市場が弾力性に乏しく,通貨同盟が財政の統一を欠くことも問題だ.それでもドイツが消費者の支出を増やすような公的投資をすることは望ましいと認めている.あるいは,政府は企業に税額控除して投資を促すことができる.またドイツの家計に対する負担を減らして,可処分所得を増やすべきだ.

こうした政策転換は,左派の社会民主党が右派のキリスト教民主同盟と連立を組むことで,ドイツで次第に起きるだろう.それはちょうどアメリカの「苦言」に応じることになる.

しかし,アメリカとの同盟関係は諜報行為の疑いで損なわれた.財務省のドイツ非難は,来月に予定されているEUUS自由貿易交渉をも困難にするだろう.

NYT October 31, 2013

Germany’s Blind Spot

By THE EDITORIAL BOARD

財務省が半年ごとに出す国際経済と為替レートに関する報告書は,通常,退屈なものだ.しかし,今週出た報告書はそうではない.ドイツの極端な対外黒字依存を批判したのだ.

もちろんドイツ政府は反発したが,アメリカはドイツ製品がよく売れることを問題にしているのではない.輸出を増やすだけで,近隣諸国や自国の経済を損なっていることを注意したのだ.IMFによればドイツの今年の成長率は0.5%である.消費の伸びは遅く,投資は減っている.

ドイツはもっと国内の消費や投資を促すことができる.平均的なドイツ女性が1.4人しか子供を産まない現状を,2.1人の人口を維持できる水準まで引き上げるべきだろう.それはドイツ自身にとっても,ヨーロッパや世界にとっても望ましい.

2013-11-01 (China Daily)

US monetary gamble

中国やドイツを大げさに非難する暇があったら,アメリカは自国の問題を解決すべきだ.その歴史的な累積債務がデフォルトする瀬戸際で危機を逃れたばかりなのに,中国やドイツを無責任だと非難し始めた.

アメリカは自分たちの均衡を回復する苦しい努力をせずに.他国を非難している.2008年の金融危機以降,中国とドイツは新しい現実に合わせて経済モデルを修正してきた.しかも,アメリカは人民元の増価や国際化を求めているが,それが財務省証券への需要を減らすことは意味している.アメリカの金融的なギャンブルが失敗することこそ,脆弱な世界経済をより大きく損なうだろう.

NYT November 3, 2013

Those Depressing Germans

By PAUL KRUGMAN

財務省の報告は正しい.ドイツの反発は困ったことだ.ドイツ政府は問題を直視しない.彼らは批判を受け入れない.

通貨価値を安くして大幅な貿易黒字を出す「チャイナ・シンドローム」とは少し違う.実際,中国の黒字は減った.GDP比では,ドイツの黒字は中国の2倍以上だ.ヨーロッパ全体では対外的に貿易収支が均衡しているから,ドイツの黒字はスペインなどの赤字であった.

ドイツは赤字国に資本を輸出してきたが,金融危機後,赤字の削減だけを求めて厳しい緊縮策を強いてきた.それはスペインなどに,高失業という形で,大きなコストを強いた.さらに,世界中が需要不足に苦しんでいる中で,ヨーロッパが全体として黒字を増やす.それは他の地域から需要を奪い,失業を輸出するに等しい.

ドイツが間違っているのは,同じ理由で,この報告書を支持した共和党議員たちにも言える.なぜなら,彼らは食糧切符を削減し,失業手当を削減するからだ.

VOX 4 November 2013

What’s wrong with Europe?

Isabella Rota Baldini, Paolo Manasse

アメリカは2.5%で成長しているのに,なぜユーロ圏は回復しないのか? その理由は,成長率の高い,貧しい地域のキャッチアップが,2000-2007年には起きたが,金融危機後は止まってしまった.逆に,金融危機後,物価や賃金の硬直性が回復を妨げ,しかも,アメリカに比べて,ユーロ圏の不十分な財政制度が総需要の不足を補えなかった.

ユーロ圏の解体は悲惨なコストをもたらす.各国は構造改革を一気に加速し,連邦型の財政を導入する.すなわち,各国は国家間で保証し合うが,救済することはない.最後に,ユー圏は非効率的で,他国を侵害する,中央集権的なシステムから抜け出す必要がある.

FT November 5, 2013

Germany is a weight on the world

By Martin Wolf

公平な批判も人を傷つける.ベルリンがアメリカ財務省の批判に憤慨したのも不思議ではない.

ドイツの財務省は,黒字はドイツにとっても,ユーロ圏にとっても,世界経済にとっても問題にならない,と返答した.こうした反応は予想されたことだが,間違いだ.

輸出黒字は,単に競争力を反映するだけでなく,その国が支出以上に生産過剰であることを示すものだ.世界需要が十分なときは,赤字国が借入れで後の債務返済をまかなえる投資をすればよい.しかし,多くの場合,輸入に使ったり,非貿易財に投資したりしてしまうのだが.現状は金利がほぼゼロで,世界中が慢性的に需要不足であるから,黒字国は需要を奪ってしまい,「近隣窮乏化」によって世界経済を損なっている.

このままではユーロ圏も日本型のデフレに向かっており,また,必要な競争力の改善をもたらさない.金融危機後の赤字国は露骨な緊縮策によって生産性をも損なっているのだ.たとえ金融政策を用いて量的緩和がユーロ安を導き,デフレを緩和するとしても,それは成功しない.なぜなら世界経済が不十分な成長しかしていないとき,ユーロ圏のような規模の経済が生きがいの需要に頼って回復することは不可能だから.

ドイツは,緩やかなデフレ,大規模な失業,ユーロ圏内の均衡回復と対外的な黒字を,望ましい,道徳にかなった,「成功」とみなす.なぜなら,彼らは神話を信じているからだ.すなわち,危機は財政的な違法行為によるものだ.財政政策で需要を動かしてはならない.中央銀行が政府債券を買うのはハイパーインフレにつながる.競争力が高いから黒字になる.

こうしてヨーロッパのプロジェクトは,繁栄ではなく貧困を,パートナーシップではなく苦痛を,意味するようになる.

Project Syndicate NOV 7, 2013

Who Will Run the World’s Deficits?

SANJEEV SANYAL

国際収支の赤字と黒字を決めているのは,各国の貯蓄と投資の不均衡である.正統派経済学は,グローバルな均衡メカニズムが働き,円滑に成長すると考える.

しかし歴史上,ローマ帝国でも,ブレトン・ウッズ体制でも,世界経済が拡大する時期には,共棲関係が働いていた.次の拡大は,急激な人口変動が及ぼす貯蓄率の変化によるだろう.

中国は高い貯蓄率とGDPの半分も投資することで成長してきたが,労働人口が減少する.投資が減るにもかかわらず高齢化に備えて貯蓄を続けるから,不均衡はさらに拡大し,「世界の工場」から「世界の投資家」に変わるだろう.

他方,新興経済は規模が小さく,投資を受け入れる能力も低い.結局,アメリカだけが十分な規模と若者の人口を維持するから,世界最大の赤字を維持しながら投資を受け入れることができる.それはブレトン・ウッズⅢである.将来,世界が心配するのは,アメリカ政府が債務を十分に増やさない,という問題なのだ.

アメリカが十分な赤字を出さない場合,世界は貯蓄過剰で低金利となり,再び,アメリカがグローバルな成長の新時代を起動する.ただし,それ自体が大きな歪みを生じるだろうが.


l  機密・原発・防衛

BLOOMBERG Oct 31, 2013

Edward Snowden Has Japan Copying China’s Playbook

By William Pesek

安倍首相が就任以来,日本は機密保持や諜報に関してもアメリカだけでなく中国の真似をする.国家機密の定義を示さず,まるで香港に規制を押し付けた中国をまねているようだ.

FP NOVEMBER 1, 2013

The Man Who Would Be Warlord

BY ISAAC STONE FISH

BLOOMBERG Nov 3, 2013

India Shouldn’t Buy What Japan Is Selling

By Pankaj Mishra

原子力エネルギーへの妄執は,たとえ何百万人の人々を危険にさらす事故の恐れがあっても,政治エリートを秘密主義にし,無慈悲にする.しかも,それはイランやパキスタン,北朝鮮のことではない.日本とインドという民主的国家である.

先週,インド南部の都市Pondicherryで,ロシアが建設した原発Kudankulamに潜入しようと試みている友人に会った.地元の村人たちは激しく反対したが,先月後半から部分的に操業している.

この原発は海岸に近く,福島のような事故が懸念される.ロシアの建設した部品などの水準は悪く,いつでも深刻な事故が起こりうる.東京電力が福島の事故の過程で示したように,大企業は政治家やメディアを使って問題を隠す.今も15万人がホームレスで,事故の損害は推定1000億ドルであるのに,日本は大規模な再処理工場を準備している.その工場では毎年9トンのプルトニウムが生産され,2000発の原子爆弾を作れる量である.

FT November 6, 2013

How America should handle a changing Japan

Kurt Campbell

中国に行くたび,その景観が大きく変化している.しかし,日本の精神的な変化も非常に重要だ.

日本の国民は,今も多くは平和主義を支持しているが,急速に中国に対して不信感を持ち,敵意さえ示すようになった.また韓国に対して憤慨し,自国の防衛力を高めることに強い関心を示すようになった.第2次世界大戦の日本の経験について,複雑な,相反する感情を持っている.

安倍首相が当選してから,日本の経済改革だけでなく,国際的な役割を転換する決意を明確に示している.日本は周辺地域がますます予測不能になっており,北朝鮮の核武装や中国の増大する地域的な野心に刺激されている.それはまた,1930年代の記憶で日本を見る中国や韓国に,軍国主義の復活を懸念させており,アメリカの難しい選択を迫っている.

静かな時代と激動する時代を交代させる日本の歴史に従えば,激動する時代が来たのかもしれない.アメリカは日本の主張から距離を置くことができる.あるいは,「普通の」国家に向かう日本の戦略に緊密に連携することもできる.後者の道はリスクと不確実さを含むが,アジアにおけるもっとも重要な2国間関係を維持し,地域の経済的奇跡に依拠するものであろう.

日本が単独で闘うより,変化しながらアメリカとのパートナーシップを育てる方がよい.


l  スノードン氏に感謝する

FT November 1, 2013

Spying: Too much information

The Observer, Sunday 3 November 2013

All we ask is for transparency to inform the surveillance debate

Henry Porter

FT November 3, 2013

Edward Snowden has done us all a favour – even Barack Obama

By Edward Luce

われわれは皆,スノードン氏に感謝する.アメリカ政府が情報を収集することで,いつかそれが盗まれることは明らかだった.

ジョージ・W・ブッシュとバラク・オバマは,911以後のテロ攻撃を防いだ.それは優れた成果であるが,911は過剰な学習効果をもたらした.アメリカが情報監視国家になったことだ.

近い将来に,諜報活動の行動規範に関して,アメリカは同盟諸国と緩やかな合意に達するだろう.アメリカが指導する世界の成否は,大国間の戦争で決まるのではなく,アメリカの経済と民主主義の質で決まるだろう.

30歳以下の者にとって,アメリカは単なるビッグ・ブラザーだ.アメリカのソフト・パワーが損なわれ,インターネットを国家管理し,バルカン化する勢力に力を与えたことを,軽視してはいけない.

スノードン氏の動機が何であれ,彼が悪人か聖人か,というのは重要ではない.われわれは皆,アンゲラ・メルケルなのだ.

FP November 4, 2013

NSA Spying: Where's the Beef?

Posted By Stephen M. Walt

NSAの諜報活動に関する記事を読んで思うのは,その外交的な価値に関する疑問だ.・・・「本当に,こんなことをする価値があるのか?」 重要な外交政策や我が国の安全保障に,どんな利益があったというのだろうか?

私はリアリストであるから,政府が互いに諜報活動をしても,それを驚いたり,恐れたりしない.アメリカのように豊かで,強力で,尊大で,幾分かはパラノイア的な国家が,他国よりも多くの諜報活動を行っていたとしても,そうだ.しかし,この戦略性のない,明らかに制御不能になった,情報収集は何なのか? どのような推定上の利益があると言っても,外交などの,大きな損失がそれを上回っている.

特に,われわれの情報収集能力と意欲は,事実上,すべての者に及び,アメリカは外交政策の競争・交渉で非常に有利だろう,と思うかもしれない.第二次世界大戦でドイツや日本の暗号が解読されていたから,連合軍は重要な戦略上の利益を得ていたことがわかっている.今も,それと同じような利益があるというのだろうか?

それは信じがたい.冷戦終結後,アメリカ外交は失敗を重ねているのだから.つまり,1NSAはゴジラサイズの情報を集めたが,その利用の仕方がわからないのだ.あるいは,2.外交政策の担当者たちが,その情報をうまく利用できないのだ.つまり,NSAは大きな無駄遣いであるか,外交専門家たちは予想外に無能なのだ.さらに,他の可能性もある.3NSAが集める情報というのは,外交政策にとって重要なものではない,ということだ.

徹底的に,情報収集の損益を分析するべきだろう.その独立委員会は,諜報活動の専門家,市民の自由に関する専門家,諜報活動に強く懐疑的な姿勢のジャーナリスト,年季の入った,分別ある政治家,鋭敏な学者,で構成される.

FP NOVEMBER 5, 2013

The Unconstant Gardener

BY DANIEL DREZNER

George Shultzがロナルド・レーガンの国務長官になったときから,ジョージ・W・ブッシュが大統領になったときまで,約20年年間が,「ガーデニング」の全盛期であった.「ガーデニング」とは,同盟諸国に,常時,相談し,その意見を聞きながら外交を円滑に進める手法である.

スノードンが暴露してわかったことは,オバマがブッシュと同じくらい下手な庭師だ,ということである.

FP NOVEMBER 5, 2013

Shouting '9/11' in a Crowded Internet

BY MICAH ZENKO

膨張し,侵入するNSA指導部のパワーを正当化するために911テロの恐怖を主張することは,もはや国民や政治家に訴える力を持たない.

FP NOVEMBER 5, 2013

Does Listening to Angela Merkel's Phone Calls Make America Safer?

BY JIM ROSAPEPE

FT November 7, 2013

The American spying scandal is no ordinary diplomatic rift

Karl-Theodor zu Guttenberg


l  韓国

FT November 1, 2013

S Korean exports hit record high on smartphone and car demand

By Simon Mundy and Song Jung-a in Seoul

FT November 6, 2013

Samsung needs more than skin-deep changes

By Richard Waters


l  銀行業の社会的な評価

FT November 1, 2013

Why can’t banking be more like baking?

By Tim Harford

アダム・スミスが述べたように,市場は美徳によってではなく,私的利益によって機能する.しかし,スミスの挙げた肉屋,酒屋,パン屋と違って,銀行業は消費者が選択できない.その競争は限られており,市場における選択が正しく行われるには,そのサーボスが有害ではなく有益であることを監視する仕組みが必要だ.

金融監督者自身が判定できないことを心配するようなら,市場は好ましい成果を上げるのにふさわしくないほど,あまりにも複雑で,あいまいなサービスを売っているのだ.

銀行業からの所得は高度に集中している.イギリスのように,経済が金融サービスに高度に依存するなら,産油諸国を苦しめる「オランダ病」の効果と少し似てくるだろう.石油輸出は通貨価値を高めて他の産業を破壊し,しかも国内にほとんど雇用を生まない.

しかも銀行業は爆発しやすい.そのとき資産の価値が大きく失われる.銀行業は,石油採掘業(オランダ病)と,原子力発電所(メルトダウン)と,中古自動車販売業(デリバティブ)の性格を併せ持っている.

銀行業は構造的な改革を必要としている.それbankingがもっとパン屋bakingに似た仕事であるように.

SPIEGEL ONLINE 11/01/2013

Dirty Money

Will Singapore Clean Up Its Act?

By Martin Hesse

シンガポールはますますマネー・ロンダリングやタックス・ヘイブンとして人気を高めている.シンガポールが直面する難問とは,宝探しと高潔さとを両立できるのか,ということだ.

都市国家の不浄さがビジネスモデルを壊しつつある,という地元で批判する声がある.シンガポールは,世界貿易に依拠し,アジア経済の成長に依拠し,世界中の富裕層から集まる資金に依拠して豊かになった.

インドやインドネシアなど,近隣の新興市場に現れた危機のシグナルがある.欧米からはタックス・ヘイブン間の競争に対する監視の圧力がある.高齢化を防ぐために,政府は大規模な移民受け入れを計画している.

シンガポールでは,全てが成長と消費のために費やされる.

銀行業にとって国内市場は非常に限られているが,ASEAN市場を目指せば,500万ではなく,5億人の市場がある.さらに,英米の金融街が金融危機に陥って,投資家たちはアジアに目を向け,シンガポールに避難所を見つけた.

政府と金融庁(MAS)はシンガポールにイメージ改善を図っている.OECDとも協力し,不正な金融取引にはデータを公開する,という.しかし,厳格は法律も課税に関する情報交換だけであり,シンガポールにはそもそも相続税やキャピタル・ゲイン税がない.課税を逃れることを奨励しているのではなく,起業家を支援したのだ,と政府はいうが.

野党Reform Partyの党首Kenneth Jeyaretnamは,シンガポールが常にタックス・ヘイブンであり,汚職の楽園であった,という.経済を監視し,汚職を罰する法律の順守を求める議会の力が不十分なのだ.強力な一族が政治と多くの企業を何十年も支配してきた.

FT November 3, 2013

Big finance is a problem, not an industry to be nurtured

By DirkBezemer

銀行業は,債務の増大がGDPの増大に見合うときだけ望ましい.しかし,実際の銀行は財やサービスの生産ではなく,不動産や金融資産の売買に融資を増やしてきた.

イングランド銀行のCarney総裁が主張したのとは逆に,銀行業の縮小は避けられない.銀行は流動性の問題を抱え,資産の質が劣化していくだろう.政府がこうした銀行を救済すれば,その債務は,長期の低成長や不況として,われわれの負担となる.

銀行業と債務の規模を圧縮するべきだ.財政的な仕組みで利用されていない貯蓄を生産的な投資に向けることができるだろう.医療や輸送システムなど,成長を助ける多くのプロジェクトがある.1990年代以来,公共投資は過小であった.

問題は債務/GDP・比率の低下がどのように起きるかだ.低成長と高失業,自助に任せた債務デフレに頼るのか?

NYT NOVEMBER 4, 2013

SAC Capital Agrees to Plead Guilty to Insider Trading

By PETER LATTMAN and BEN PROTESS

FP NOVEMBER 4, 2013

For SAC, It's $1.2 Billion And Counting

BY JAMILA TRINDLE

FT November 6, 2013

The forex market is designed to encourage crime

By PatrickJenkins


l  超富裕層とポピュリスト

NYT November 1, 2013

Plutocrats vs. Populists

By CHRYSTIA FREELAND

現代アメリカの謎は,富裕層がますます富とパワーを得ているが,ポピュリストがますます拡大し,政治を動かしていることだ.そして左右の中道派は衰退している.

その答えは,21世紀の富裕層政治に特殊な性格である.アメリカは富裕層が2つの方法で政治的影響力を築いていた.1.ロビイングによる個別の法案や利権の確保.戦後の富裕層は,個人としては弱く,集団としてパワーを高めた.不平等は減少し,1950年代,60年代には,企業幹部が「GMにとって良いことは,アメリカにとって良いことだ」と主張し,信じていた.

2.社会慈善事業を行う,フィランソロピー.それを“philanthrocapitalism”と呼ぶ者もいる.Bill GatesGeorge Sorosはその代表だ.世界が抱える緊急問題に個人で取り組む.さらに,Bloombergは社会改良計画を示し,選挙事務所を構えてニューヨーク市長に当選した.富裕層がその資金を使って,銃規制や移民法など,直接に公共政策を決定する.

しかし,彼らの富をもたらす経済の変化は,富の不平等を累積していった.そして経済的な格差だけでなく,文化や社会の分断化をもたらす.富裕層のもたらす公共政策の恩恵は,チャーター・スクールへの通学や,マラリア対策ほど,支持されない.ますます多くの者にとって,富裕層の父権的な官僚支配は利益を実現する彼らのシステムであるとしか見えない.

21世紀の中道派が資本主義をファイン・チューニングして,すべての者に利益をもたらすことができるのか?

問題は,まだ誰も技術革命とグローバリゼーションが中産階級の職場を破壊する力を抑えられないことだ.また,官僚の提示するデータで武装された政策ではなく,下から積み上げた,一人一人の政治的意見を集約できない.99%の運動が公共政策を動かすのも,勝者がすべての利益を独占する世界では難しいのだ.

FT November 3, 2013

Russia: Nationalism on the march

By Kathrin Hille

増大する旧ソ連圏からの移民に反対して,ロシア人の行進,が毎年計画されている.これまでは分裂し,主流派の政治システムから分離されていたロシアの過激なナショナリズムや右派の排外主義運動が,今年は統一してロシア政治を動かしつつある.これをプーチン大統領も無視できなくなった.

プーチンはギリシャ正教やナショナリズムを利用してきたが,旧ソ連圏の影響力復活にも関与し,小ロシア主義には反対だ.しかし,すでに経済の減速や汚職,官僚制の問題で支持を失っている.大衆の怒りに逆らうこともできない.

イスラム教徒もコミュニティーは昔からあった.しかし,チェチェン紛争以来,テロの恐怖が移民排斥を強めている.他方,人口減少に苦しむロシアは移民を必要としている,と研究者は言う.


l  新旧世界の逆転

NYT November 2, 2013

Calling America: Hello? Hello? Hello? Hello?

By THOMAS L. FRIEDMAN

アメリカは恐れられるときも愛されるときも,常に他者が比較する圧倒的な基準であった.アメリカが建てたもの,アメリカが夢見たことは,彼らの未来を意味した.しかし,今日,人々はアメリカを酔っぱらいの運転手だと思っている.

シンガポールの政府スタッフは,この数十年間,アメリカに何度も来たが,ワシントンの政府閉鎖に際して,その都市がいかに古く,また感情的に鬱屈しているかを知って,衝撃を受けた,と語った.

シンガポールは完全な民主主義ではない.しかし彼らは優れた政府を持っている.政府は,毎日,目覚めると問いかけるのだ.われわれはどんな世界に住みたいのか? われわれはその資源を最大圏に活用して,この世界で住民たちが繁栄するように,何ができるのか?

他の諸国ではすでに長く習得されてきた良識のある解決策を,われわれは実施できないのだ.国民を守る医療保険制度も,銃の規制も,渋滞する道路への課金も,財政赤字や炭素排出量を減らすガソリンへの課税も.

始めてシンガポールに来たアメリカ政府の元スタッフは,その近代性に驚きはしなかった.しかし,シンガポールの近代性と繁栄が自然資源に基づくものではないこと,しかし,それが自然の豊富さと優れた行政力,その多くが皮肉なことにアメリカから生まれたものであること,に気づいた.

NYT November 4, 2013

The Post-American Mall

By ROGER COHEN

南米に投資する中国のビジネスマンが好むドバイからブラジルへの直行便に乗った.アメリカを周辺にしてしまう新興世界のハブをつなぐ.

ドバイ空港の朝6時,恐るべき光景を目にした.膨大な数のブランドが並ぶショッピングモールに,中国,インド,ロシア,アフリカ,その他の世界に興隆するさまざまな土地から無数の買い物客が殺到している.この10年,西側が衰微する間も,急速な成長を楽しむ土地があったのだ.これに比べたら,ニューヨークのケネディ空港も,オランダのスキポール空港も,安っぽくて素人臭い.

ドバイのなにもかもが巨大で,最高水準で,最高品質である,という.街路樹には照明が点灯し,通りまで輝いている.

他方,ブラジルはこの3年間にワールドカップとオリンピックを控えているが,それほどの熱気はない.不動産ブームは空前の規模に達し,バブルという者もいるが,失業率は低く,新しい石油埋蔵量が確認され,中産階級は信用の利用可能性が増した.しかし,新しい不安が生じているのだ.

一面では,経済管理の失敗である.一気に成長が減速し,公的債務が増え,インフレが高まっている.しかし,さらに深いレベルで,ブラジル社会の表面的な富裕化が根本的な発展の歪み,暴力と腐敗を隠していたのだ.大都市の至る所に不満が満ちている.人口が膨張しているのにインフラは不足し,交通渋滞,水不足,教育・衛生・治安の悪化,が顕著である.警察は暴力的に人々を抑圧し,あまりにも多くの死者を出している.

多国籍企業の重役であった人物が述べるところでは,リオデジャネイロの港湾改修工事に資源を胸腔する工場で,彼は強請にあった.隣接するファヴェーラ(スラム)の指導者が生産工程で何度もわいろを要求し,それを拒むと経営者を銃で脅した.

ドバイとブラジルに現れた新興世界が私に衝撃を与えたのは,彼らがますます批判を受け入れず,熱烈に貨幣を欲求する姿勢,素早く儲けることを好み,富裕層の排他的クラブに参加することを許された,その新しい貨幣文化を見たからだ.もしそれを<文化>と呼んでも良いなら.


l  ウクライナの選択

FT November 3, 2013

Russia’s foreign policy is nearing complete failure

By StephenSestanovich

NYT November 3, 2013

Ukraine's Risky Bet

By MAXIM TRUDOLYUBOV

FT November 5, 2013

China looks to Ukraine as demand for food rises

By Roman Olearchyk in Kiev and Lucy Hornby in Beijing


後半へ続く)