IPEの果樹園2012

今週のReview

11/26-12/1

 

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政策と迷信 ・・・米中の外交競争 ・・・中国指導部が進める改革 ・・・イスラエル・ガザ紛争 ・・・アメリカのエネルギー自給 ・・・ユーロ危機の進展 ・・・イギリスのEU離脱 ・・・日本の政治家 ・・・アメリカ外交の条件 ・・・資本主義と不平等

 [長いReview]

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主要な出典 Bloomberg, China Daily, FP: Foreign Policy, FT: Financial Times, Global Times (China), The Guardian, NYT: New York Times, Project Syndicate, SPIEGEL, VOX: VoxEU.org, WP: Washington Post, WSJ: Wall Street Journal Asia, Yale Global そして、The Economist (London)


l  政策と迷信

NYT November 15, 2012

Life, Death and Deficits

By PAUL KRUGMAN

迷信が政策を損なっている.・・・富裕層に増税すると成長を損なう.・・・平均寿命が延びているから社会保障は今のままで十分だ.

Project Syndicate 18 November 2012

America’s Fiscal Cliff Dwellers

Simon Johnson

「財政の崖」など存在しない.「財政の坂」があるだけだ.そして,この坂道で,オバマはアメリカの財政を1990年代半ばの状態に回復する機会を得る.


l  米中の外交競争

BLOOMBERG Nov 15, 2012

Obama Turns to a Place Where the Economy Grows

By William Pesek

オバマがノーベル平和賞受賞者であるアウンサン・スー・チーと並んでテレビに映るのは,心温まる,良いニュースだろう.

再選されたオバマの初の外遊先がミャンマーであった.中国に行かず,また,中国との険悪な関係を懸念される同盟諸国,オーストラリア,日本,韓国にも行かなかった.そして,タイ,カンボジア,ミャンマーを訪れた.

どうやって中国に対抗するのか? アジア諸国は中国の領土要求に屈し続け,中国の人民元に振り回されるだろう.他方,中国はミャンマー政府に憤慨したはずだ.住民の抗議を聞いて巨額のダム建設計画を中止した.さらに,ミャンマーから中国に資源が流出している,という批判的な記事が掲載されるのを容認した.

ASEANAPECも,アメリカがいなければ弱すぎる.二期目のオバマは,アジアを転換する位置にある.スー・チー女史と並ぶ写真は,ある意味で,アメリカがアジアの国であることを示した.中国に対抗するTPPに参加する意志を示す12番目の国として,タイを迎えた.

YaleGlobal, 16 November 2012

China’s Boomerang Diplomacy

Stein Tønnesson

中国は,「平和的な台頭」を目指す外交を掲げてきた.そのためには,経済的な相互依存と,近隣諸国との友好関係が重要であった.しかし,胡錦濤が行ったことは逆であった.近隣諸国に,経済力と軍備拡大を利用した威嚇的な領土要求を行い,安全保障上の脅威を与えたのだ.それは,地域の安全保障を担う役割を求めるアメリカとの同盟関係に各国を向かわせた.

グローバルな貿易自由化交渉は進展せず,もし世界が貿易ブロックに解体すれば,中国は地域の最大の貿易国を取り込んでおくために,日本,韓国との貿易自由化協定を最も重視している.しかし,その合意は以前よりはるかに難しくなった.

20103月,北朝鮮は韓国の哨戒艇を撃沈し,多くの犠牲者を出した.中国政府は,それにもかかわらず,北朝鮮を非難する安保理決議を拒んだ.また,20109月以来,日本が尖閣諸島の海域に入った漁船を拿捕した問題をめぐって,中国政府は外交的な交渉を拒み,威嚇的な解法要求と,制裁的な契約のキャンセル,レアアースの輸出禁止措置,などを行った.同様に,ベトナムやフィリピンとの関係も危機的な緊張状態にある.

胡錦濤の外交政策は矛盾している.そこには悪意の計画があるというより,以前からの姿勢を修正できない外交上の慣性があるだろう.そうであれば,習近平への交代はチャンスである.

Project Syndicate 16 November 2012

America’s Unhinged “Pivot”

Brahma Chellaney

Project Syndicate 16 November 2012

China and the American Dream

Dominique Moisi

オバマは勝利演説で,「民主主義の神秘」を,非常に具体的に,また,信仰にも似た形で,簡潔に称えている.それは一党独裁の中国に対する民主制の勝利でもあった.

オバマは,民主主義の最善の姿,高貴な瞬間を描いた.それは常にそうではないが,そうあるべき姿である.自由に行動を起こした男女が,自分たちの運命を変えるために,進んで政治に参加する.

アメリカのソフトパワーが,中国の第18回共産党全国大会で示された指導部交代の政治スタイルを打ち破った.世界中の無数の人々が,中国の支配体制よりも,アメリカの民主主義をまねたい,と思っただろう.

もちろん,アメリカの提供する同盟諸国への軍事的,あるいは,経済的な保障は弱まったかもしれない.しかし,オバマの勝利は,移民や同性愛,女性に対する,開放的で,敬意に満ちたアメリカの姿勢を表明した.アメリカは多様性を受け入れる国なのだ.

アメリカは,もはや秩序の頂点に立つ国ではないことを受け入れねばならない.これまでと違って,他国を対等な関係で観るべきだ.他方,中国は,アメリカの現実に対して対抗するだけでなく,その理想にも対抗する.1989年,天安門広場で若者たちが自由の女神を模造したように,アメリカの軍事力ではなく,アメリカン・ドリームをまねるべきだ.

FP NOVEMBER 18, 2012

China's Soft Power Surge

BY DUSTIN ROASA

FT November 19, 2012

Role reversal will slow climate change

By Aaditya Mattoo and Arvind Subramanian

気候変動を抑える現在のアプローチは効果的でない.西側には金が無く,発展途上諸国には成長を抑える意志が無い.

米中の新しい協力関係で,気候変動の対応を変えることができる.グリーン・テクノロジーの開発にとって,最も効果的な方策はCO2の排出に対する代価を引き上げることだ.しかし,中国や発展途上諸国は成長を抑えるような合意に参加するつもりはない.他方,アメリカは中国が参加しないような合意を結ぶつもりはない.

ここに取引できる合意がある.アメリカは直ちに炭素排出価格を引き上げる.中国はそれに見合ったCO2価格の引き上げを,将来,厳格な法的強制を認めた形も含めて,必ず行う.こうして,アメリカの行動は促される.

これにより,1.アメリカは,グリーン・テクノロジーの開発における利益を得る.2.中国は,アメリカが恐れるようなエネルギー関連分野の競争力低下に炭素関税を認める.3.中国は,グリーン・テクノロジーに関する知的所有権の保護を強化する.4.中国は,外貨準備をグリーン・テクノロジーの開発と普及のための基金として利用する.

これはアメリカから中国へ経済の支配権が移行することを反映したものだ.中国は,開発資金を出すだけでなく,合意に背く者を処罰する力(貿易による制裁)も発揮する.それがアメリカや西側諸国であっても.役割の逆転は明らかだ.かつて通貨操作を非難された者が,これからは気候変動の抑制に遅れる者を糾弾する.


l  中国指導部が進める改革

The Guardian, Friday 16 November 2012

China's new leaders paint a picture of totalitarian banality

Jonathan Jones

WP November 16, 2012

Don’t expect reform from China’s new leaders

By David Shambaugh

Project Syndicate19 November 2012

President Xi’s Singapore Lessons

Michael Spence

中国は,1978年や1990年と同様に,決定的な改革の時期に入った.鄧小平が南巡講和をする前に,シンガポールを訪問して,その繁栄に強い印象を持ったと言われる.日本,韓国,台湾が成長とともに民主化したのに比べて,シンガポールと中国は一党支配体制を維持している.

その規模の違いにもかかわらず,シンガポールと中国の成長は似ている.単一政党支配の条件でも,中国はシンガポールから学ぶだろう.住民が正当性を受け入れるには,成長の果実を分け与え,多くのエスニック集団に公平な機会を保障しなければならない.クローニズムや特権層の影響を排除することが重要だ.リー・クアンユーは,単一政党支配と汚職が致命的な失敗につながることを強く意識していた.前者の有利さを生かすには,後者を許さないことだ.

中国も,複数政党や多様な意見を聞くガバナンスの「混乱」を避けたいと考えている.多元的なシステムは,共産党の支配を前提に,地方レベルで導入されている.しかしその影響力は弱く,汚職や特権層の支配を排除するには至らない.新指導部の課題は,共産党のガバナンスが,狭隘な特権層ではなく,国民一般の利益を実現するためにある,と証明することだ.

政治には,川床の石を足で探りながら慎重に進む時期もあれば,基本的な価値観や方針を大胆に転換すべき時期もある.優れた指導者はその違いを知っている.習近平たちには,国民の利益を代弁する改革に向けて,後者の選択しかないのだ.

その成否はこれから決まる.安定した,持続可能な成長と雇用パターンを見出す中国の戦いは,世界中の発展途上諸国,そして,ますます多くの先進諸国に,強い影響を及ぼす.彼らの転換の重要性は何ものにも劣らない.

FP NOVEMBER 19, 2012

The Key to Bringing Democracy to China

BY YASHENG HUANG

多くの西側の研究者や指導者たちが普遍的な価値観,道義性によって中国政府を批判してきた.人権や自由,個人の尊厳.しかし,経済のパフォーマンスに注目して,もっとバランスの取れた成長,安定性,個人の安全を保障する仕組みとして,アメリカは民主主義を中国に要求しつつある.それは中国内部の改革論者とも共鳴する.

しかし,その前に,注意しなければならない.中国のパフォーマンスは,その経済・政治システムによるものだ,という前提が間違っている.過去30年間に中国は多くの貧困層を救った,と言うが,毛沢東時代に非常に多くの中国人が貧困層に落ち込んだのであった.また, 1ドル以下の貧困層が減少したとしても,世界銀行の推定で,2ドル以下の貧困層はまだ人口の30%,39000万人もいる.その割合は,この期間,中国のような急成長のなかったホンジュラスの比率と同じだ.

さらに,中国の過去60年間のパフォーマンスは近隣諸国に劣っている.東アジアで第二次世界大戦後に成功した国は,日本,韓国,香港,シンガポールである.三つの例外として,共産党が支配した中国,北朝鮮,モンゴル(1924-93年)がある.むしろ,中国人の多くがなぜまだこれほど貧しいのか,と問うべきだ.

中国のパフォーマンスを,都市の高層ビル群や富裕層の乗り回す自動車だけで観てはいけない.中国の成長が庶民の生活を改善したのは主に1980年代であった.その時代は政治的にもリベラルで,改革を進んだ.指導部の年限を決めて交代制にし,国家と政党の役割を分離し,地方レベルで選挙制度を導入した.

1980年代には,経済の不均衡も今ほど極端ではなく,消費がGDP50%を占め(現在は35%),為替レートはむしろ過大評価されて,毎年,貿易赤字を出していた.何より,8億人の農民にとって,個人所得の増加はGDPの成長よりも早かった.政治的な自由化と経済成長とが矛盾するということはなかった.

しかし,1990年代と2000年代の最初の10年間,平均的な中国人にとって,成長の果実は及ばなくなった.エネルギー消費を観れば,中国の総消費量はアメリカを超えたが,個人消費量はほとんど増えなかった.2009年の個人による電力消費量は,アメリカの平均的な消費量の8%である.中国は多くのパワー(電力)を得たが,中国人はそうではなかったのだ.

パフォーマンスで観て民主主義を支持する議論は,その分配の公平性や効率を観ていない.2007年に,Zhiwu Chenの推計によれば,中国政府の歳入は1995年の5.7倍になったが,都市住民の所得は1.7倍に増えたにすぎず,農村の所得はわずか1.2倍になっただけだ.しかも,徴税だけでなく,汚職・賄賂によって,国民は富を奪われている.

たとえ治安の維持にますます多く支出をしても,弾圧だけで社会的安定性を保つことはできない.真の安定性は,市民生活や重要な意思決定に参加して,合意形成する一体感によって得られるのだ.経済的,社会的で,政治的な機会と結果に関して,社会的な分配に関して,議論に参加すること.それが,民主主義である.

政治的にオープンな議論は,まだ中国において,指導者たちにとっても死を意味する.Bo Xilaiとその妻はわずかな審理で処刑されるかもしれない.歴史的に,中国の多くの指導者たちが失極してきたし,現在も地方政府の政治エリートの多く,4人に3人が,辞任するか投獄されている.子弟を外国に留学させるのも,逃げるためだ.

もっと自分たちの国で安心できる方が良いだろう.指導部は政治改革を避けられない.

YaleGlobal, 21 November 2012

Is China Up to the Challenge?

David Shambaugh

WSJ November 22, 2012

Xi's Challenge: Stronger Property Rights

By GENG XIAO


l  イスラエル・ガザ紛争

The Guardian, Friday 16 November 2012

Gaza is no longer alone

Ahdaf Soueif

パレスチナ人の女性は,イスラエルの攻撃で殺害された子供の葬儀においても,勝利のVサインを示した.

もしあなたがここをクリックすれば,ガザを攻撃するイスラエルの爆撃音が聞こえるだろう.ドローンの音も,救急車のサイレンも.これらはパレスチナ人が今,その場で生きている音を集めたものだ.これを世界中の友好的な人々に届ける.特にアラブ世界の人々に.彼らは戦場からのマナ中継を聞くのである.

ガザの若者たちはトウィートし,ブログを書く.彼・彼女らはその写真を載せている.その一人であるRanan Arafatは,緑の目をしたかわいい少女であった.ホルタ―ネックのシャツを着て,髪に緑のリボンを付けた写真がある.そして,イスラエルの爆撃は,彼女の姿を大きく変えた.焼け焦げた,小さくなった姿だ.彼女の口は開かれたままである.看護士が,ほんの一瞬,埋葬用の青い布を持ち上げた.

エジプト大統領Mohamed Morsiは,プラグマティックな政治家として,これまでイスラエルとの和平を尊重してきた.ガザとの地下トンネルを閉鎖したり,エジプトとガザとの自由貿易協定にも反対したりした.ムバラク体制の打倒を進めてきた彼の支持者たちは,こうした彼の行動を正当化することに苦悶してきたが,もはやその必要はない.イスラエルの攻撃には,エジプトがガザを支援する以外に選択の余地は無いからだ.多くのエジプトの若者たちがガザの人々を助けるために行動を起こした.

イスラエルは,自分たちを民主主義の国家として西側に宣伝してきた.これが真実だ.イスラエルの政治家たちは,選挙で勝つために,ガザの子供を殺しても良いと爆撃を命令した.世界中の市民から,抗議の声が高まるだろう.

The Guardian, Friday 16 November 2012

Making peace means leaving the protected place where we are right

Giles Fraser

FT November 16, 2012

A dangerous spiral of violence in Gaza

FP November 16, 2012

Gaza and the new Middle Eastern order

Posted By Michael Singh

ガザ地区への攻撃は,2008-09年とは全く異なる地域情勢の中で始まった.地域の秩序は大きく変わり,まだ試されたことはない.これが最初である.近年の大衆蜂起によって影響を受けた主要なアクターと,彼らの関係が,その結果を示すだろう.

中東における旧秩序は,相互利益に基づく,アメリカを中心としたハブ・アンド・スポークであった.イスラエルはこの同盟の基軸にあり,地域の主要国ともオープンな,また他にも暗黙の,同盟関係を結んでいた.イランの影響を抑え,テロ活動を掃討することがそうであった.

新しい地域秩序はそうではない.それは不明確なもので,第一に,エジプトのモルシ大統領のように,新指導者たちにとって国益が何であるか分からない.第二に,アメリカが中東における役割を変えつつあることに不安が生じている.「アジア旋回」がそうだ.アメリカはこの地域で主要な仲介者の役割から退くつもりである.エジプトとイランの指導者たちが,多くの点で意見を対立させても,アメリカの退場を歓迎する点では一致している.

逆に,アメリカの同盟諸国は相互利益の上に関係の再構築を迫られる.それはハブ・アンド・スポークから,いくつかの小さな地域連携が互いにけん制し合う姿になるだろう.それはトルコのケースに顕著である.トルコはイスラエルとの友好関係を断ち,西にも東にも頼らない,地域的な覇権を目指し始めた.

この再編は今後も続く.アメリカ政府はガザ紛争について三つの方針を基に行動しなければならない.1.イスラエルを強く支持する.オバマは最初に,イスラエルが始めた防衛のための攻撃を支持する声明を発表した.そして,ハマスに反撃の説明を求め,ガザ地区のパレスチナ人に対する間違った統治を非難した.同時に両国で,この作戦を早期に終了する交渉を急ぐ.

2.リアル・ポリティークに従い,エジプト,トルコ,その他の主要諸国と合意する.同盟の基礎は利益の共有である.戦略的な二国間対話が必要だ.アメリカの軍事.経済援助はその手段でなければならない.

3.アメリカの強い指導力を発揮する.停戦を持続的なものにするため,国連を舞台に地域安全保障の制度化を急ぎ,アラブ諸国を励ましてハマスにガザ地区のテロリストを管理・抑制させ,長期的には,彼らがパレスチナ自治政府に帰属しなければならない.こうしてパレスチナはイスラエルとの恒久的な和平を推進できるのだ.

FP NOVEMBER 16, 2012

A Pillar of Problems

BY JONATHAN SCHANZER

The Observer, Saturday 17 November 2012

I lost my daughters in Gaza last time. Surely the bloodshed has to end

Izzeldin Abuelaish

何度殺戮を繰り返せば良いのか? 現実を直視するときである.軍事的な手段や暴力では紛争を終わらせることができない.占領された,あるいは,占領した,という思考法を破棄することだ.

パレスチナとイスラエルは,その健全で持続的な未来を共有して初めて,成功できる.国際社会もこの現実から逃げてはならない.

イスラエルの攻撃は「自衛」などではない.占領された側には何ができるのか? 子供たちが殺害されているとき,国際システムはどこにあるのか?

平和とは真実によって実現するものだ.政治家にできることは,戦争を避けるだけである.持続的な平和を築くのは教育の役割だ.そして,パレスチナ人の自由が回復される.

guardian.co.uk, Saturday 17 November 2012

Stop pretending the US is an uninvolved, helpless party in the Israeli assault on Gaza

Glenn Greenwald

FT November 18, 2012

Israel needs a Gaza strategy more than war

By Efraim Halevyformer head of Mossad

1週間で既に1000回以上の出撃を済ませ,ガザ攻撃“Operation Pillar of Defence”は成果を上げている.イスラエル国民の戦意は高い.ハマス軍事部門のイスラム主義指導者Ahmed Jabariを殺害しただけでなく,イラン製のミサイルを破壊したことが重要である.予備役75000人が金曜日の夜に招集された.

イスラエルの国防相Ehud Barakは,ハマスが膝を屈して停戦を請わない限り,攻撃を絶やすことはない,と宣言した.作戦の目標が公式に表明されている.イスラエルへのロケット攻撃を完全に終わらせる.イスラエルの抑止力を回復する.ハマスに長期的な和平への関与を明確にさせる.しかし,こうした約束を実行させる手立てはない.イスラエル国民は過去の地上戦(2006年レバノン,2009年ガザ)の記憶がある以上,地上軍を送る作戦には否定的であるからだ.イスラエルは早期の停戦を実現させる必要がある.

この点で,深く傷ついたはずのハマスも独自の停戦条件を要求した.イスラエルによる暗殺攻撃の禁止.ガザ封鎖の解除.ガザとエジプトとの自由往来.こうした要求をイスラエルが受け入れる余地はない.

その結果,すべての関心はエジプトのMohamed Morsi大統領に向かう.また,パレスチナ自治政府の状態にも注意を要する.ハマスを叩くことで,むしろイスラム強硬派,イランの支援する武装勢力がガザ地区の主導権を握る恐れもある.ガザの破壊がアラブ諸国の多くの首都で激しい反発を招きつつある.それはモルシなど,政治指導者たちの姿勢にも影響する.さらに,政治体制の崩壊に至る「アラブの春」Ⅱが起きないとは断言できない.

ハマスのロケットがエルサレムを襲うような事態を許すことはできない.しかしイスラエルは,エジプトとアメリカが合意する地域の枠組みに従って,停戦を急ぐ.そして,ガザ地区の200万人をめぐる包括的な計画を準備する必要がある.

FT November 18, 2012

New Middle East runs into old realities

By Roula Khalaf in London

Project Syndicate19 November 2012

Egypt the Peacemaker?

Itamar Rabinovich

NYT November 19, 2012

Hamas’s Illegitimacy

NYT November 19, 2012

Gaza Without End

By ROGER COHEN

NYT November 19, 2012

How Obama Can Use Pressure to Bring Peace

By DAN RAVIV and YOSSI MELMAN

FP NOVEMBER 19, 2012

How Hamas Won the War

BY AARON DAVID MILLER

なぜハマスが関心を集めるのか? テロを組織し,イラン性のロケットを発射し,「ユダヤの死」部隊を育てる集団である.そんなハマスが,良心的なパレスチナ人で,暴力を禁じて交渉を進める,道理をわきまえた父権性を示すアッバスよりも,多くの支持を集め,正当性を高める.

このアッバスよりハマスが支持される流れはこの先も続くだろう.その理由はいくつかある.1.ハマスの無気力さ.アラファトの死後,指導者の席を埋める人物はおらず,アッバスは選挙で指導権を得たが,明確な方針を失った組織の弛緩と腐敗は続いている.2.パレスチナ,イスラエル,双方において,交渉を進めるプラグマティストより,武闘を重視する強硬派が刺激し合って支持を高めている.3.アラブ諸国におけるイスラム主義者の復活が強まっている.

パレスチナ問題に注意を引けたのは,PLOやアッバスのおかげではなく,ハマスのロケットによるものだ.国連や国際社会がこうした構造を変えない限り,ハマスは支持を失わない.

問題は解けない.ハマスは和平を支持するつもりが無い.アッバスには和平を行えない.

FP NOVEMBER 19, 2012

Still Think Middle East Peace Doesn't Matter?

BY STEVEN A. COOK

FP NOVEMBER 19, 2012

Winning the Stalemate

BY DANIEL BYMAN

BLOOMBERG Nov 19, 2012

Seven Truths About Israel, Hamas and Violence

By Jeffrey Goldberg

NYT November 20, 2012

Hamas Left Israel No Choice but to Strike

By MICHAEL OREN

NYT NOVEMBER 20, 2012

How to Defuse the Israel-Gaza Conflict

WP November 20, 2012

The callousness of Hamas

By Richard Cohen

もし地獄に海岸があるとすれば,それはガザであろう.

戦闘におけるイスラエルとハマスの最大の違いは,イスラエルが無辜の民を犠牲にしないよう配慮するのに対して,ハマスはガザの住民を含めて犠牲者が増えることを気にしないことである.ハマスは密集したスラムや住宅地区にロケットや発射装置を隠しているが,イスラエルは市民の犠牲者を避けるために高度に精密な仕方で目標を定めた爆弾を使用し,成功している.

ハマスの支配地域ではイスラエルやユダヤ人への敵意が増している.そして,暗殺集団を育てている.ハマスは受動的な政治党派ではない.ガザを武力で支配しているのだ.それを知っていても,西側のジャーナリストたちはイスラエルの長期占領が悪い,と主張する.しかし,こうした過激派と和平が実行できるだろうか? ハマスは武力によって和平の進展を阻止してきた.

よく見るべきだ.ハマスが支配するパレスチナ住民がどれほど苦しんでいるか.協力者の疑いがあるというだけで,ハマスは多数の住民を群衆の前で処刑してきた.彼らが戦争を選択したのだ.ロケットの降る町で,子供を育てることはできない.これはイスラエルの生存を脅かす問題だ.

WP November 20, 2012

In Gaza, status quo won’t do

By Eugene Robinson

FP NOVEMBER 20, 2012

Strategic Overreach

BY JONATHAN SPYER

FT November 20, 2012

Israel is all but alone in the Middle East

Ian Bremmer

トルコの首相Recep Tayyip Erdoganは,イスラエルを「テロリスト国家」と呼んだ.その意味を考えるべきだろう,

この言葉は,シリアの兵士や,イランの聖職者や,サウジの王族から漏れたのではない.トルコはNATO加盟国であり,イスラエルとも友好関係を結んできた.ガザ地区への援助を行う民間船がイスラエルの特殊部隊に襲撃されたときも,Erdoganはそのような言葉で非難しなかった.

何が変わったのか? イスラエルとパレスチナが戦火を交えることは何も新しいことではない.イスラエルの国内政治も,ハマスやアルカイダの発射するロケットの数や正確さも変化していない.変わったのは地域の政治情勢だ.

イスラエルはそれを理解していないが,中東地域においてイスラエルが話し合える国・党派が,ほとんどなくなった.世界でも,アメリカ以外に,イスラエルの立場を支持する国は得られない.そのアメリカも,地域における積極的な役割を拒んでいる.もしこの地域に継続的な石油供給を依存する大国があるとしたら,それは中国になるだろう.しかし,中国はイスラエルを支持する文化的,イデオロギー的な紐帯を持たない.

イスラエルの指導者たちは,自国が孤立を深めていることに注意し,パレスチナとの本当に機能する和平を構築するよう関心を集中しなければならない.

guardian.co.uk, Wednesday 21 November 2012

The 'both-sides-are-awful' dismissal of Gaza ignores the key role of the US government

Glenn Greenwald

FT November 21, 2012

Israel should learn from Northern Ireland

By RichardHaass

双方が戦闘を中断する停戦と,和平に向けた政治交渉を始める停戦とは,違うものである.イスラエルは北アイルランドの和平交渉から学ぶべきである.

ロンドンは,テロを停止させて,政治的な解決策を求めていた.そのためにはIRA暫定派を説得する必要があった.すなわち,テロや爆弾で権力を得ることはできない.もし責任ある行動を取るなら,彼らの目標をいくつか実現し,多くの支持者を満足させることができる政治的な道がある.

イスラエル政府も軍事力でハマスを圧倒できるが,それだけではパレスチナ人が合意に従うことはない.以前のように,ガザを占領しても成果はないだろう.彼らは,ユダヤ人国家の存在を認めるパレスチナ国家を必要としている.

しかし,西岸のパレスチナ政府は合意を望んでいるが,譲歩するにはあまりにも弱く,他方,ガザ地区のハマスは十分に強いが,暴力を拒むつもりはなく,イスラエルを認める気が無い.ベルファストでもそうだった.これが和平交渉を破壊するダイナミズムである.その状況を変えるか,さもないと,過激化する集団と妥協を模索する集団とに指導部は挟撃されてしまう.

最終的には,Gerry Adams and Martin McGuinnessが武器を手放した.何十年も殺し合った相手と交渉し,合意に達したのだ.両集団の指導者たちが成し遂げたことだが,外交の余地を拡大するうえで,イギリス政府,アイルランド政府,アメリカ政府が貢献した.

イスラエル政府,そして,アメリカ政府とアラブ諸国が,それを行うときだ.

NYT November 21, 2012

A New Israel-Hamas Cease-Fire

WP November 21, 2012

United States can’t pivot away from Middle East

By Robert Kagan

WP November 21, 2012

The never-ending war in the Middle East

By David Ignatius

イスラエルの政府高官はついに激怒した.いつものように,イスラエルは個々の戦術で勝利するだけで戦略が無いと批判されたからだ.「これが我々の戦略だ.数年おきに敵に打撃を与える.それ以外の選択肢などないのだから.」

出口のない状況こそ,この紛争の最も心を破壊する特徴だ.双方が穏健な人々を絶望させることに忙しい.アメリカはこの紛争地帯で,誰にも歓迎されない,中立的な仲介者の役割を演じる.オバマは再び,ハマスの主要な支援者であるエジプト,トルコ,カタールを説得する.

FP NOVEMBER 21, 2012

On Pilgrims and Zionists

BY ROSA BROOKS

guardian.co.uk, Thursday 22 November 2012

We protested against violence in Gaza, but this time we weren't called traitors

Joshua Sobol

FT November 22, 2012

What I learnt from the Arab-Israeli Twitter war

Anne-Marie Slaughter

FT November 22, 2012

Winning wars will not make Israel safe

By Philip Stephens

アメリカがイスラエルに示す和平の条件は既に明白だ.それはこれまでのイスラエル首相たちも認めてきた.過去数年の混乱が残した唯一の教訓とは,軍事的報復を終える時期が来た,というものだ.

SPIEGEL ONLINE 11/22/2012

Deciphering the Ceasefire

Israeli Press Declares Victory for Hamas

By Ulrike Putz in Beirut

WP November 22, 2012

Israel dominates the new Middle East

By Fareed Zakaria

紛争が地域に拡大すると懸念されていた.なぜなら,中東は一層危険な地域になったから.イスラム過激派は権力を得ており,民主化された政府は人々の不満を聞くしかない.しかし,実際は早期に停戦が成立した.新しい時代の中東において,イスラエルは地域の超大国になる.

人口の圧倒的な振りにも関わらず,資金において,高度な武器や兵員において,イスラエルの軍事的な優位は突出している.唯一イスラエルに対抗できるのはシリア軍であった.そのシリアは内戦状態にある.

ハマスやヒズボラのミサイル攻撃は正確な誘導装置が無く,イスラエルの更迭の避難施設によって阻止された.対抗できないテロ攻撃についても国境の壁建設で阻止している.イスラエルは地域で唯一の核弾頭と高性能の弾道ミサイルを保有する国家である.

それゆえ,イスラム国家となったエジプトでもイスラエルとの戦争は避けるだろう.他のアラブ諸国はもちろんだ.トルコの地域的覇権を目指す政策も逆効果になっている.アメリカだけが地域外からイスラエルの友好国として仲裁できる.

イスラエルは強力だ.経済成長,技術力,軍事力,アメリカとの緊密な関係において,アラブ諸国の敵対者を圧倒している.イスラエルが望むときだけ,和平は実現する.それでも政治指導者が軍事的な行動を起こすのは,イスラエルの民主的ユダヤ国家としての性格が脅かされる,と感じたからだ.

WSJ November 22, 2012

A Pyrrhic Cease-Fire

By DOUGLAS MURRAY


後半へ続く)