前半から)


l  ユーロ危機は終わる

guardian.co.uk, Sunday 22 January 2012

A Marshall plan wouldn't fix Europe's woes

Steven Hill

大規模な刺激策と,財政再建・緊縮策との対立には,第三の道"aust-imulus"がある.

アメリカは戦後のヨーロッパ経済復興にマーシャル・プランで資金援助して,アメリカの輸出やアメリカ企業の拡大を促せた.アメリカが担う役割は大きく変化しているので,同じことを現代には行えない.他方,財政再建派も,防衛予算を削れば,それが重要な刺激策と雇用維持策になってきたことを知るだろう.

世界中で各国が安全保障を担う刺激策を展開するのがよい.

FT January 22, 2012

IMF should stay out of the eurozone crisis

By WolfgangMünchau

IMFは基金を拡大してユーロ危機に対する関与を強めるべきか? ユーロ危機は財源がないから解決できないのではない.ユーロ圏全体の財政状態は他の地域と比べて悪くない.問題は財政の管理を行うユーロ圏内の政治システムが機能しないことである.景気の悪化は,早すぎたECBの金利引き上げが悪い.

だからヨーロッパのような裕福な諸国にIMF融資を増やしても役に立たない.それどころが必要な政策転換を先送りする意味で,融資は逆効果だ.

BLOOMBERG Jan 22, 2012

Europe’s Debt Crisis Is Still Likely to End Badly

By Simon Johnson

FT January 23, 2012

Timely Greek lessons on the eurozone crisis

George Provopoulos

20105月のIMFEUECBとの融資計画では2012年に成長を回復し,資本市場に復帰するはずだった.今の経済状態はそれと大きく異なっている.

教訓を学ぶべきだ.①政策転換が遅く非効率だった.②(増税ではなく)財政支出削減による財政再建は,その後の民間投資を抑えた.③財政再建の幅が大きかった.④比較的閉鎖経済に近いので財政緊縮の乗数が大きかった.輸出で補えなかった.

しかし,ギリシャには成長の余地が大きい.大胆な構造改革,民営化,そして脱税を防ぐべきだ.

SPIEGEL ONLINE 01/23/2012

Merkel's Increasing Isolation

Germany at Odds with Partners over Euro Crisis

VOX 23 January 2012

Mispricing of sovereign risk and multiple equilibria in the Eurozone

Paul De Grauwe and YuemeiJi

FT January 24, 2012

A blueprint for Germany to save the eurozone

Robert Zoellick

ドイツは60年間,近代ヨーロッパの仲間になりたいと願ってきた.しかし,仲間になった途端,今ゃヨーロッパを救済せよ,という.この大きな変化には戸惑うだろう.しかし,ドイツしかユーロ危機を解決できないのも確かだ.

ドイツは財政規律と構造改革が確立された国には支援する意向である.ECBも,条約によって救済融資を行えないけれど,それ以外の支援は可能だ.そこで,関係者を集めた債務国経済再生プランを検討するべきだろう.

ドイツは財政のみではなく,もっと改革を促すプラスの誘因を示すべきだ.各国内の改革派を政治的に支援しなければならない.すでに,メルケル首相は,政治家たちがECBの積極的な役割を批判しないように求めた.ヨーロッパ委員会や欧州投資銀行ももっと利用できる.構造改革を成功させるには,投資を増やし,成長を実現しなければならない.ヨーロッパの経営者たちも行動してほしい.改革が雇用と資金をもたらすという事実を示すのが再生プランの目標だ.財政統合を欠く場合には,通貨統合による地域差の調整は労働移動に頼っていることを思い出してほしい.

ドイツの指導力はこのプランで示せるはずだ.

FT January 24, 2012

Europe’s avoidable growing pains

SPIEGEL ONLINE 01/24/2012

Luxembourg's Foreign Minister

Merkel's Fiscal Pact a 'Waste of Time and Energy'

SPIEGEL ONLINE 01/24/2012

Inside the Élysée

'Sarkozy Has Learned to Like Angela Merkel'

WP January 24, 2012

Hard bargaining with Greece has consequences for the whole world

FT January 25, 2012

How to pull Italy and Spain back from the precipice

By GeorgeSoros

FP JANUARY 25, 2012

'We've Got Bigger Problems Right Now'

Nouriel Roubini and Ian Bremmer

INTERVIEW BY BENJAMIN PAUKER

世界経済フォーラムが始まる.そのテーマは,富の創造でも,発展途上世界の支援でもなく,中枢の救済,である.2012年を,ルービニNouriel Roubiniは「前進なし」と見ているし,ブレマーIan Bremmerは,民主主義の後退から不平等に関する階級戦争,を予想する.大きな地政学的な変化も起きるはずだ.ヨーロッパは敗者になる.意外な勝者は,アメリカでも,中国でもない,トルコか,アフリカだろう."Go back to Africa!"

WSJ JANUARY 25, 2012

Lagarde for $1 Trillion

Project Syndicate 2012-01-25

The Eurozone’s Strategy of Pain

Jean Pisani-Ferry

Project Syndicate 2012-01-25

New Year, Same Crisis

George Soros

ECBの新手段,特にthe Long Term Refinancing Operation (LTRO)は銀行に流動性を与えた.最終的にはEFSFとユーロ債の発行に向かうだろう.

VOX 25 January 2012

Lessons for Europe’s fiscal union from US federalism

C Randall Henning and Martin Kessler

アメリカ合衆国の歴史からヨーロッパの統合は何を学ぶのか? 現代のヨーロッパにもアレクサンダー・ハミルトンを望むだけでよいか?

指導者たちが置かれた歴史的条件は異なる.州によっては財政破たんした債券を連邦に吸収してもらった.そのためにも連邦政府の歳入が確保されることが前提であった.連邦財政が確立してからは,州の財政破たんを連邦政府が認めるようになった.それでも景気変動を抑える安定化を連邦財政が行えたからだ.州政府の均衡財政を求めることも,集権的な制度が確立されたからできた.

これをヨーロッパに当てはめることはできない.EU財政は乏しく,各国が税収を抑えている.それゆえ財政破たんは甚大な影響を及ぼすだろう.ECBは政府の救済を禁じられているし,EUはユーロ債を発行していない.

各国政府は,救済融資の条件として,緊縮財政を求められている.これはEU財政が景気変動を抑える反循環的な財政政策を行わない以上,不況の時期には間違った政策になる.債務の上限を課す “debt brakes”も,誰がそれを実行させるのか? アメリカは連邦政府は,欧州委員会や欧州裁判所と比べて,憲法による権限がまったく異なる.基盤が弱い機関で監視しても,成長・安定協定が政府によって無視されたように,無意味である.

銀行システムの安定化も,EUと違って,完全に連邦政府・連銀の責任であった.政府債務処理のために救済やデフォルトを決めるなら,債権者側,銀行などの金融機関,資本市場について,EU全体の統一した制度・規制・監視が必要である.

アメリカの歴史は,政治的な連邦制度の確立が先行したものだ.EUでは同じように進まない.しかし,ハミルトンは,今のユーロ圏やEUよりもさらに困難な,独立したばかりの国で,統一のための制度を同時に構築した.ヨーロッパにもできるはずだ.

guardian.co.uk, Thursday 26 January 2012

Europe's three-dimensional crisis

Gordon Brown

ヨーロッパの政治指導者たちはユーロ危機に対する姿勢を間違っている.債務危機に対して緊縮策を示し,それが失敗すれば,また次の緊縮策を示す.しかしユーロ危機では,ヨーロッパが世界における役割を問われているのだ.

世界経済に占めるヨーロッパの比重は,40%から現在は20%以下に下がり,さらに10年で11%に低下するだろう.「われわれは,最初の産業革命を実現した大陸から新興のアジアへ,投資や貿易が移動する歴史過程の最後にいる.」

ユーロ危機では,ヨーロッパの産業構造や金融部門を再編して,競争力を高めることが求められているのである.

フランスはドイツの財政緊縮を受け入れ,ドイツはフランスの政治統合を受け入れた結果,現在のような経済自由主義と国家主義の結びついたEUが目指されるようになった.これはイギリスによる批判的な意見を伝えることもなくなった保守党政権の孤立主義が失敗したことによるものだ.もっと開かれた,成長志向の政策を取るべきだった.

イギリスとヨーロッパは,今こそ,世界に対する協調的な成長戦略を指導しなければならない.

FT January 26, 2012

Europe rests on Monti’s shoulders

By Philip Stephens

FT January 26, 2012

Europe could learn from US debt scramble

By Gillian Tett

VOX 26 January 2012

The coming resolution of the European crisis

Fred Bergsten and Jacob Funk Kirkegaard

ユーロ危機は誇張されている.それは政治危機であり,むしろ,プレゼンテーション危機である.

危機の源は制度の欠陥にある.

ユーロは1990年代に政治的妥協として誕生した.しかし,通貨統合は行うが,経済同盟ではないし,財政同盟でもない.経済ガバナンスは信頼できないし,構造的経済政策の協力も行われない.

ドイツの低金利で融資を行う結果,政府と民間部門に過大な債務が形成されていたとき,金融危機が起きて,ユーロ圏の制度的欠陥が危機を深刻なものにし,今に至っている.ヨーロッパには二つの選択肢しかない.60年に及ぶ統合化をあきらめるか,通貨統合に加えて経済統合を完成するか.

ヨーロッパは後者を選択し,危機の後,政治的にも経済的にも強くなるだろう.

繰り返し危機回避において主要機関や政治家は行動したが,彼らはそれを確約しなかった.その理由は,1.無制限の救済を約束することは政治的な「モラル・ハザード」になる.2.債務処理をめぐるコスト分担について債権者(ドイツ,北欧諸国,ECB,民間銀行,IMF)間とギリシャ政府で押し付け合いがある.

しかし,ユーロ圏の解体は受け入れがたい大きなコストになるので,政治的な前哨戦が終わり,選択肢が尽きると,チキン・ゲームは終わり,政治的妥協が成立する.そしてユーロ圏は生き残る.残念ながらヨーロッパには危機に耐える力があるから,それだけチキン・ゲームが長く続くのである.危機は,ヨーロッパが統合への政治的困難を克服する過程である.


Project Syndicate 2012-01-23

Egypt’s Unfinished Revolution Will Succeed

Mohamed A. El-Erian

FP JANUARY 23, 2012

A Forward Strategy of Freedom

BY ELLIOTT ABRAMS

FP JANUARY 24, 2012

What Happened to My Revolution

BY SARAH A. TOPOL


 

Project Syndicate 2012-01-23

The Libertarian and the Lobbyists

Simon Johnson

WSJ JANUARY 25, 2012

Economics for the Long Run

By JOHN B. TAYLOR


FP Monday, January 23, 2012

Where have all the public policy stars gone?

Posted By Stephen M. Walt


NYT January 23, 2012

How to Integrate Europe’s Muslims

By JONATHAN LAURENCE


l  オバマ年頭教書

NYT January 23, 2012

Free-Market Socialism

By DAVID BROOKS

オバマが年頭教書を考えるときには,Maddie Parlierの話を知ってほしい.Adam DavidsonThe Atlanticの記事に取り上げている.

Parlierは父親の飲酒運転による交通事故で家族を失った.彼女は勉強家だったが妊娠してしまい,学資や育児サービスの問題で大学進学をあきらめた.未熟練労働者として自動車部品の工場で働く.時給は13ドルであった.もっと給与を上げたかったが,そうした仕事に就くには様々な知識や技能が求められた.コンピューター言語や精密加工など.彼女のアメリカン・ドリームは遠くなる.

グローバリゼーションと技術変化は,労働者たちに社会的な支援と教育を求めている.それがない子供たちは,非常に多くいるが,人生にチャンスを見いだせない.過去40年間で,女性の地位は上昇したが,特に男性労働者の所得は減少した.オバマ大統領がアメリカの経済ダイナミズムを本気で回復させたいなら,二つの方針で臨むことだ.すなわち,経済的自由と社会構造を組み合わせること.より多くの競争と,より多くの支援である.

guardian.co.uk, Tuesday 24 January 2012

State of the union: what President Obama should say

Jose Antonio Vargas, Jane Eisner, Jim Geraghty, Mark Ruffalo, DeeDee Garcia Blase, Anne-Marie Slaughter, Sarahi Uribe, Mark Weisbrot and Teresa Wiltz

オバマは年頭教書で何を語るべきか? 移民政策,アメリカ国民,未来に向けて,ヒスパニック,指導力,財政赤字削減,戦争,大胆な改革プログラム・・・

guardian.co.uk, Tuesday 24 January 2012

'The axis of virtue': a state of the union address Obama won't deliver

Simon Tisdall

FP JANUARY 24, 2012

The Complete Obama

BY URI FRIEDMAN

NYT JANUARY 24, 2012

The State of the Union in 2012

NYT JANUARY 24, 2012

State of the Union Wish List

By ANDREW ROSENTHAL

guardian.co.uk, Wednesday 25 January 2012

President Obama's state of the union speech: panel verdict

Jose Antonio Vargas, Jane Eisner, Jim Geraghty, DeeDee Garcia Blase, Anne-Marie Slaughter, Sarahi Uribe and Mark Weisbrot

LAT January 25, 2012

Obama's common touch

Doyle McManus

LAT January 25, 2012

State of the Union: Mixing politics and policy

WP, Thursday, January 26, 2012

Obama’s rhetorical shift from hope to teamwork

By E.J. Dionne Jr.

WP 01/25/2012

State of the Union speech is full of soaring rhetoric but skips over some major challenges

WP 01/25/2012

Obama’s lunch-pail liberalism

By Michael Gerson

デトロイトから輸入した再選キャンペーン演説だ.

FP JANUARY 25, 2012

Good Old America

BY DAVID ROTHKOPF

ちょっと皮肉かもしれないが,要約すればこうなる.「中東において我々の敵は葬った.あるいは逃走中である.我々の新しい敵は,ウォール街,大石油資本,議会の反対派,である.公平な社会を取り戻せば,1945年のアメリカに戻れる.」・・・昔に帰りたい.あのころは良かった.

The Land of Plenty

BY STEVE LEVINE ・・・エネルギー

Bringing Jobs Back Home

BY CLYDE PRESTOWITZ ・・・製造業

The 'Lump of Labor' Fallacy

BY PHIL LEVY ・・・貿易

Fine Words

BY DOV S. ZAKHEIM ・・・外交,安全保障

Kill Shot

BY MICHAEL A. COHEN ・・・外交,安全保障

WP January 26, 2012

A new vision for America: Restoring a country that makes things

By Harold Meyerson

“America clearly wants to transform itself from a nation that makes deals back into a nation that makes things — call it a bias for honest work.”

脱工業化社会のアメリカは,多くの国民にとって機会の国ではない.


guardian.co.uk, Tuesday 24 January 2012

How Larry Summers' memo hobbled Obama's stimulus plan

Dean Baker

WP January 24, 2012

The key to recovery: Boosting business confidence

By Lawrence Summers


l  グローバルな公共財

FT January 24, 2012

The world’s hunger for public goods

By Martin Wolf

公共財は文明の基礎をなしている.経済的な安定性もそのような公共財の一つと言える.他にも,安全保障,化学,きれいな環境,信頼,正直な行政,自由な言論,などもそうだ.公共財がグローバルなものになるほど,その供給は難しい.

たとえば,「資本主義の危機」は,主に,金融の安定性を確保することに関しての論争である.金融不安・危機は公共悪である.これを回避するのが公共財(善)だ.市場システムの内部には公共財を供給する機能が欠けている.

「非排除性」と「非競合性」を特徴とする公共財は,「市場の失敗」に至る.「外部性」や「規模の経済性」を示す安全保障はその典型例である.公共財については,フリー・ライダーが防げず,国家が徴税によって供給を担う.補助金や所有権の変更(創出)なども用いる.

文明の歴史は公共財の歴史である.文明が複雑になるほど,より多くの公共財,現代では教育や医療まで,が必要になる.公共財を供給する制度は,伝統的に国家であるが,その能力は疑わしい.最初,農業革命とともに文明は富の増大と盗賊への備えを必要とし,「国家」を形成した.「帝国」は,安全保障を供給する「規模の経済」が作用したからである.帝国が滅んで,各地の武装集団が国家を私物化した時代を「封建主義」と呼ぶ.

産業革命は国家の活動範囲を拡大した.市場だけでは,教育を受けた労働者や大規模なインフラ,知的所有権,公衆衛生,などを供給できなかった.また,民主主義の広がりは,再分配や,雇用不安に対する政策を求めた.今や公共財はグローバルな性格を持つ.経済や金融の安定性,核時代の安全保障,国際的な犯罪組織,汚染問題,を一国だけでは解決できない.

諸国家は協力しなければならない.覇権国がそれを実現した時代もあるが,今は多極化の時代である.文明のグローバリゼーションは,われわれに世界管理の創造的能力を求めている.

FT January 26, 2012

How to equip the IMF for the crises of our time

By Lorenzo BiniSmaghi

ユーロ危機に対するIMF融資を単に増やすことは解決にならない.新興市場の金融危機とユーロ危機とでは,IMFの果たす役割が根本的に違う.

1.IMFは,通常,3年間の融資計画で債務国が資本市場に復帰できるように政策を調整した.それは小国開放型の変動レート制を前提した議論である.ユーロ圏内の政府債務危機はそうではない.調整にはもっと長い時間がかかる.

2.発展途上国を資本市場から救い出し,IMF融資で債務返済可能な計画を立てることは可能だった.しかし,ユーロ危機では融資規模が非常に大きい.IMF融資は債務組み換えを予想させ,その影響は深刻だ.

3.先進国のマクロ経済調整の持続可能性には特殊な構造政策が求められる.銀行部門の再編など,政治的に困難問題が多く,長期間にわたる厳格なモニタリングが必要だ.

4.先進国の債務を組み替える影響は発展途上国よりはるかに重大だ.住民の金融資産は危機を伝染させ,グローバルな影響をもたらす.それは可能な限り避ける方がよい.

5.IMF融資を先に返済する特権は,逆に,IMF融資が増えるほど民間融資の返済を困難にする.それは,IMFの安定化に向けた触媒機能を損ない,債権者の不安を強めて金融市場に影響する.また,厳格な監視を怠る傾向を生む.

深い思考と強固な指導力が求められる.先進国の債務危機の場合,G7がこれを示してきたが,今ではG20に引き継がれたものの,まだ十分に機能しない.危機に対する対策が示せない.


FT January 24, 2012

Nigeria: Power outage

By Xan Rice


FT January 24, 2012

Don’t give up on globalisation

Peter Mandelson

YaleGlobal Online, 24 January 2012

France Deals With Globalization Crisis – Part I

Pierre-Noel Giraud

どうすればグローバリゼーションからの利益を最大にできるのか? 

Project Syndicate 2012-01-25

Taking Back Globalization

Olivier De Schutter


l  ゼロ・サム思考

FP JANUARY 24, 2012

The End of the Win-Win World

BY GIDEON RACHMAN

世界経済危機は国際政治をどう変えたのか? グローバリゼーションがウィン・ウィンからゼロ・サム思考に変わって,中国の理系はアメリカの損失だと思うようになる.あるいは,ドイツにとって良いことは,スペインやギリシャを苦しめる.

ユーロ危機は,アメリカが外交の焦点をヨーロッパからアジアに移す時に起きた.アメリカは中国の挑戦に本気で対抗するようになる.たとえば,共和党大統領候補者の選挙の論戦でも.尊敬されるエコノミストの間の議論でも,通貨政策や通商政策で,中国との不均衡を調整するように求めている.

軍事・戦略思考においてもそうだ.米中関係は協力と対抗とを混在させてきたが,次第に「ソフトな封じ込め」という中国のアメリカ外交非難が現実になる.

グローバリゼーションが相互の利益によってその他の分野の紛争を解決した時代は終わったのだ.それは,まだ厳しい条件で試されたことのない多極化時代の再現である.

WSJ JANUARY 25, 2012

India's Unfinished Asia Pivot

By WALTER LADWIG


FT January 25, 2012

A winter of yet more discontent

SPIEGEL ONLINE 01/25/2012

Bridges and Benches

Homeless Tour Guides Show a New Side to London

By CarstenVolkery

WSJ JANUARY 26, 2012

The Real Margaret Thatcher Story

By DANIEL YERGIN


l  貿易赤字の不安

WSJ JANUARY 26, 2012

Asia's 'Fabulous Invalid'

By GEORGE MELLOAN

「日本が31年ぶりに貿易赤字になった,というニュースは東京の「重商主義者たち」にとって「空が降ってきた」と感じただろうが,東京の空にはまだ天国が残っている.」

貿易赤字は,震災,原発事故,円高のせいである.また,日本の工場が海外に移転し,技術や熟練もアジア各地に移転されたためである.日本に製造業が無くならないとしても,雇用は減少していく.「重商主義」の発想や成長モデルにしがみつくのは間違いだ.

日本は海外に多くの資産や生産拠点を持ち,経常収支の黒字を続けるだろう.他方,世界経済やユーロ危機の不安を解消するために,アメリカはドルを供給し続けなければならない.それを支えるのは日本,そして中国の黒字である.

日本を心配するより,アメリカを心配する.

WSJ JANUARY 26, 2012

Korea's New Resilience

By BAHK JAE-WAN

韓国は危機に優れた対応を取れた.なぜならアメリカやヨーロッパとのFTAにより,積極的に競争力を高め,輸出市場を多様化してきたからだ.マクロ経済の健全さによって,危機の波及を防いだ.

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The Economist, January 14th 2012

America’s next CEO?

Mitt Romney: Towards the coronation

Schumpeter: Romney the revolutionary

India’s identity scheme: The magic number

Natural disasters: The rising cost of catastrophes

Natural disasters: Counting the cost of calamities

Scotland referendum: Clarity, please

Brazil’s trade policy: Seeking protection

Nigeria: The spreading northern insurgency

Greek woes: The Mediterranean blues

Charlemagne: To opt in or not to opt in

Technological change: The last Kodak moment?

Japan’s trade balance: Seeing red

Free exchange: The beltway constraint

(コメント) どの論説も非常に面白いです.ロムニーの経歴やアメリカ保守派の論戦を読めば,私はオバマとロムニーの大統領選挙を,アメリカン・フットボールや大リーグを中継し,日本でも開催するように,日本で展開してほしいと思います.落選した人物に,日本政府の改革顧問になってもらってはどうでしょうか? 日本にも,オバマを10人,ロムニーを10人,与えてください.

インドのID認証システムにも,自然災害のコストにも,最後の経済学が政治を理解してこなかった点を反省して「政治経済学」の時代を再興する話にも,刺激的な内容があります.

しかし,それ以外のすべてについて,ガバナンスの革新を実感します.①スコットランドの分離独立,②ブラジルの中国製品に対する関税率引き上げ,産業政策,③ナイジェリア北部におけるイスラム武装勢力の拡大,④ギリシャの予想する以上に厳しい経済・社会状況,⑤デンマークとイギリスのユーロ感比較,⑥コダックと富士フィルムの企業戦略比較,⑦日本の貿易赤字から経常赤字,がいずれ劣らぬ迫力で現実を変革するガバナンスを示しています.

長くなりました.要約はしません.読んでみてください.

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IPEの想像力 1/30/12

日本の貿易赤字が不安を呼ぶとしたら,それは日本が敗戦後の不安(戦争再発)を克服できていないからでしょう.すなわち,安全保障・輸送の不安,輸出市場・雇用の不安,エネルギー・食糧輸入の不安,です.

日本は敗戦後,アメリカの安全保障や援助・輸送を頼り,アメリカ市場への輸出を目指し,石油や食糧の供給を維持してもらうことで,経済復興・国家再建を描く基礎を得た,と言えるでしょう.その後の様々な展開にもかかわらず,日本はこの構図から抜け出せていないように思います.

もしそうした不安を本当に解消できるとしたら,それは,アジアがEUのように,安全保障や核エネルギー,輸送インフラ,市場統合,移民・域内移住政策,通貨・中央銀行,などを共有することによってかもしれません.そのとき日本は,貿易赤字を気にすることもないのです.

しかし,その目標が遠く,難しいからこそ,それらに先立って,私たちはもう一つの社会目標を掲げるべきではないでしょか? それは,社会的な調和,特に,「平等」です.

欧米において,金融危機から不況が深まり,超資産家と失業者の違いが社会的に受け入れ可能な状態ではなくなりました.個人に資産が所有され,社会的な富や生産能力が私的利益のために独占的に利用されることに,人々の不満は高まります.分配の問題,不平等をどうするべきか,資本主義システムの改革が議論されています.

・・・リスクによって,株式市場を正当化できるのか? ・・・機会の平等によって,所得格差を正当化できるのか? ・・・競争によって,企業重役の報酬を正当化できるのか? ・・・不平等はどこまで必要か? ・・・富の独占は,社会的に見て望ましいと言えるのか? ・・・革新と富をもたらすシステムとして,資本主義システムを正当化できるのか? ・・・

たとえ資本主義や株式会社が,革新を通じて富をもたらす,非常に成功した歴史的制度であるとしても,その悪用や私物化,社会をゆがめる側面を許容しないことが重要です.

私はGeorge Monbiotの意見に賛成します.ある社会が,全体として,報酬の最高額と最低額(あるいは中間値)とを一定の関係内に抑えることは望ましいでしょう.なぜなら,人が満足や幸福を感じることの中には,帰属する社会において満たすべき条件があると思うからです.もしこの比率を超えて富が得られた場合に,それが社会にとっても明らかに望ましい形で保有し,使用するように求められるでしょう.(法律なのか,規範なのか,わかりませんが)

ビル・ゲイツやバフェットのように病気の克服や社会事業に寄付するのか,若者の育成や挑戦を支援する活動を広めるのか,貧困国に学校や図書館を建設するのか? ある個人が,社会的に見て成功し,非常に裕福であることを認められるには,富の在り方を真剣に考えることです.

ベーシック・インカムのアイデアにも触発されます.働く者が等しく最低限の所得を保証されるのは,社会の富を具体的な制度によって実現する方法だと思います.義務教育や年金,国民皆保険制度は,その一部として改革できるでしょう.グローバリゼーションへの適応や,震災地域への支援もそうです.

日本が必要としている新しいイメージを刺激するために,ベーシック・インカムⅡとして,子供と老人の生活を保障してはどうでしょうか.住宅と食事,という形で具体的に保障します.小さな子供を養育する母親,そして高齢者には,公共の住宅・食堂施設を整備して,利用可能にしてください.

内外の所得格差は何によって生じているのか? グローバリゼーションが,国内の所得格差を拡大する要因として批判されます.それは逆転できないのでしょうか? グローバリゼーションによって,不況や不平等に対する真の解決策が帝国化ではなく,社会福祉や援助である,という思想が受け入れられるなら,急速に台頭する諸国があるとしても,国際社会は平和と繁栄を享受できるかもしれません.

こうした問題とその解決方法について,私たちはアジア諸国,特に,韓国や中国と話し合っておくべきです.そして,各国間で政策を学び合うだけでなく,非政府間の協力が増える時代も来るでしょう.中国やベトナムの貧しい農村地帯に,日本からの支援で,小さな医院や学校が建ち,先生たちの給与が支払われます.

政治的コミュニティーとして,富はどこまで共有されるのか? そして,危機の恐怖や苦しみも共有し穏健化できるのか? 公共財の豊かさ,平等な社会,という感覚は,はその手がかりになると思います.

積極的な「平等」を日本の中でも実現してほしい.そして一国を超えて,異なる文化,宗教,習慣について差異を許容できる条件があれば,私たちは一時的な「貿易赤字」を気にしないと思います.たとえば,イギリスやオランダがそうではないでしょうか?

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