IPEの果樹園2005

今週のReview

8/1-8/6

IPEの種

*****************************

世界の英字紙HPからコラムを要約もしくは紹介します.著作権は,それぞれ,元の著作権に従います.

*****************************

三つだけ推奨するとしたら?

1 人民元切上げ: この曖昧な決定の意味は? StiglitzKrugman,・・・

2 天安門=テキサス・バーゲン: 米中共生の関係を調整できるか?

3 テロ: 2度目のテロと,反テロ介入政策

******************************

ただしFT:Financial Times, NYT:New York Times, WP:Washington Post, LAT:Los Angeles Times, BG:Boston Globe, IHT:International Herald Tribune, JT:Japan Times, CSM:Christian Science Monitor


The Guardian, Thursday July 14, 2005

Kapital gain

Mark Seddon

(コメント) マルクス主義の歴史家Eric Hobsbawmは,カール・マルクスがわが国の最も尊敬される人物ではなく,ソ連のアジテーションとプロパガンダを生んだ人物だ,と理解されるようになった背景にはラジオ放送があった,と言います.むしろ,それほど『共産党宣言』がグローバリゼーションを生き生きと批判していたからでしょう.

しかし,労働党(左派?)のMark Seddonが嫌悪するほど,私はブレアやゴードン・ブラウン,ニュー・レイバーを批判したいとは思いません.社会民主主義を捨てて市場原理主義に帰依し,The Economistを信奉した,と彼らを批判すべきでしょうか? ・・・私はそう思いません.

マルクスの母親は,かつて,<資本>について著述するばかりでなく,少しは資本を稼いで欲しい,と息子に不平をこぼしたようです.ニュー・レイバーは,マルクスだけでなく,その母親の気持ちにも応えた,と思ってはどうでしょうか?


FT July 14 2005

An unpopular status quo or painful reforms

By Bertrand Benoit in Berlin

FT July 15 2005

Wanted: a new social model for Europe

(コメント) 他方,ドイツの社会民主党(SPD)はGerhard Schroderの改革が成果を上げられないまま,小泉氏と違って,政治的な死を早めたようです.失業者の増加を理由に前政権を批判して権力を得たSchroderが,さらに失業を増やした結果として,それは当然です.

ドイツの手厚い社会福祉国家は,経済停滞の長期化によって財政破綻に瀕しています.通貨を奪われ,財源を縛られた政府に,何ができるでしょうか? ブレアや小泉を羨んでいることでしょう.しかし,市場統合の中でも,民営化や労働市場改革で成果を上げる必要があることを訴えるのが遅すぎた,と指摘されます.

SPDの方針は後退しました.「痛み」のともなう改革ではなく,手厚い福祉,という現状維持を支持しています.他方,キリスト教民主同盟(CDU)の方針も改革を目指していません.それは自由民主党からも,ビジネス界やエコノミストたちからも,批判されています.

課題は同じです.すなわち,失業,福祉,財政赤字,です.戦争でも起こして巨大な公共投資を組織するのでない限り(アメリカは例外です!),民間部門の消費や投資をどのように刺激するのでしょうか? SPDにもCDUにも妙案はありません.ケインズが生きていたら,何か新しいアイデアを示したかもしれませんが.

右派の理解では,失業を解消するには労働コストを下げることです.福祉や課税を減らして,賃金決定を弾力化し,もっと競争的にします.たとえば,付加価値税を増税し,他の税金を減らします.そして企業には解雇の自由を拡大するのです.マルクスが生きていたら,厳しく批判したはずですが,もっとすばらしい妙案も示したでしょうか?

ますます多くの税収や利潤が福祉のコスト膨張に吸い込まれてしまうだけでは,経済成長へのエンジンを刺激できません.社会保障費が賃金の42%を占めています.福祉改革は,オランダでもスウェーデンでも行われたものであり,成功の鍵となります.しかし,一般的な成功の法則は無いのです.

SPDとCDUに違いがあるとしたら,前者が消費を重視し,後者が投資を重視することだ,と言います.SPDがケインズ主義,CDUは供給側をより重視する,とも言えます.福祉コストの引き下げや付加価値税の引き上げが消費に対して及ぼす影響や,競争激化の条件で投資に対して及ぼす影響を,誰も予測しきれないのです.

市場原理主義を信奉しなくても,新しい社会モデルで生産性上昇と雇用をもたらすことは可能だ,と多くのヨーロッパ人は考えているはずです.実際,それなしには,高齢化する社会福祉の負担を賄い切れないわけです.フランス中央銀行のChristian Noyer総裁は,たとえば,デンマークの解雇と雇用を即する形で失業手当を手厚く行ったデンマークの例を挙げます.ユーロ圏で社会保障の移動を認め,労働市場の統合化を促進しようとも考えています.特に,若者と高齢者の雇用を促す政策が重要です.

郵政民営化やデフレ,株価,為替レートを憂慮する以外に,日本でも何か具体的に改革されているのでしょうか?


FT July 14 2005

Urgent challenge of Muslim integration in Europe

By Roula Khalaf

FT July 15 2005

Ethnic communities can be devout and good citizens

By Krishna Guha

The eerily ordinary extremists

By Jonathan Guthrie and Chris Tighe

The Guardian, Friday July 15, 2005

It's paranoia, not Islamophobia

David Goodhart

WP Friday, July 15, 2005

Europe's Native-Born Enemy

By Charles Krauthammer

From Average Joe to Jihadist

By Eugene Robinson

The Guardian, Saturday July 16, 2005

Talking with the jihadists

David Reiff

Lahore to Leeds

NYT July 16, 2005

Tolerating a Time Bomb

By LEON de WINTER

BG July 19, 2005

The border mentality

By James Carroll

WP Tuesday, July 19, 2005

Sanity in the Face of Suicide

By Richard Cohen

(コメント) 今から思えば,7月7日にロンドンでテロが起きてから,21日に再びテロが起きるまで,イギリスやヨーロッパは9・11と比較するより,自分たちの社会にも人種による分断やイスラム過激派を浸透させる背景があることを認めて,協力して改革を模索するよう,イスラム社会(ヨーロッパ諸国に数百万人規模,全体では約2000万人が居住している)との宥和を唱えていたと思います.

たとえば,EU拡大やEU憲章を唱えるより,またイラクの内戦に深入りするより,各国内の宗教戦争を回避するためにもっと投資しなければならない,というわけです.

また,ヨーロッパで高まっているグローバリゼーションへの不安とも結びつきました.人種や宗教に,グローバリゼーション下のアイデンティティーの喪失,不安の背景を変革し,困難な現実から自分たちを救い出せるかのような幻想が広まります.


FT July 15 2005

In this chaotic world, the only realistic option is to intervene

もうたくさんだ.周りを見れば,貧困,独裁者,破綻国家,人種対立,大量破壊兵器の世界市場.イスラム圏の腐敗と邪悪はわれわれの町で爆弾テロとなる.すべてを解決することはできない.だから,バリケードを築く方がましだ.

核戦争による実存的な恐怖は,世界規模のテロによる安全の喪失に代わった.冷戦の恐怖による秩序は,自爆テロがもたらす予測できない混沌に代わった.自由民主主義と衝突するアイデアは,共産主義からイスラム過激派に代わった.

この転換は政治的な右派にも左派にも衝撃を与えた.自由主義的な介入論者はアメリカのネオコンを擁護し,左派の反帝国主義者がキプリングの称えた文明の宿命を右派のリアリストと一緒に支持する.

さまざまな介入主義者たちはその目的に同意しているが,手段について論争している.リアリストには孤立主義者もナショナリストも含まれる.重要な分裂とは,われわれが国際社会を作り変えるべきだと考えるか,あるいは要塞を築いて立てこもるべきだと考えるか,である.

G8はいくつかの合意とコミュニケを発表したが,援助も実施されるのかどうか,分からない.むしろ重大な朝鮮として,イスラム過激派のテロに立ち向かうべきだ.イスラム圏は,まだその大部分が近代化の外にあり,低開発の独裁国家が多く,グローバリゼーションに反発している.人口は急増し,若者たちは経済的繁栄も政治的発言も得る見込みが無い.これほど肥沃なテロ戦士の補給地は無い.

破綻国家の危険は尽きることが無い.ダルフール,イランや北朝鮮の核開発を見ればよい.しかし,西側政府は国家再建が高くつくことを知った.アフガニスタンもイラクも,部族紛争を越えて機能する民主主義は,短期間に銃口で押し付けることはできなかった.

何もかもに手を出して失敗するより,自分たちの戦略的利益だけ守るべきだ.介入の基準は厳密な意味の国益でしかない,とリアリストたちはその明快な原理を自慢する.その原則を擁護して,左派も,国連憲章は主権国家への介入を禁じている,と指摘する.

しかし,リアリストが正しかったと言うのは早すぎる.独裁者と窮乏のすべてを解決できる魔法の杖は確かに無い.しかし,リアリストは現代世界の真実の表面を引っかいているだけだ.隣国との領土紛争が重要であった時代,自国を世界の不安定化から切り離せた時代など戻ってこないだろう.確かに冷戦時代には,相互に破滅を確信する現状維持の主張が受け入れられた.

ソ連崩壊とグローバリゼーションとは,封印されていた政治的変革と世界中に蔓延する独裁支配のカオスという恐怖を解凍してしまった.グローバリゼーションとは相互依存と脆弱性を増し,貿易,投資,移民によって世界は「切り離せ」なくなった.中国のTシャツやインドのソフトウェアを安価に楽しむなら,核兵器の作り方もアル・カイダのネットワークも受け入れるしかない.9・11で知るべきだった.破滅はあなたの玄関先で待っている,と.

西側世界は世界の果ての事件からも逃れることはできないのだ.

重要なのは,介入の性格だ.効果的な介入は,法の支配から生じる正当性を必要とする.そのために国際機関は機能しなければならない.確かに介入は混乱に満ちており,莫大なコストを要する.しかし,真のリアリストであればそれを判断できるだろう.民主主義と同じように,国際介入も,他の選択肢に比べて望ましい取引である,と.

NYT July 15, 2005

Time to Pull Out. And Not Just From Iraq

By JOHN DEUTCH

(コメント) John Deutchは,アメリカ外交政策の原理を明確にし,民主的な価値を説くことと,それを理由に軍事介入することとの違いを説明し,イラクとボスニア,ルワンダ,リビアや北朝鮮や南アフリカの例を比較検討します.アメリカはその軍事力よりも,経済的な優位を組み合わせて利用するべきです.そして通説と異なって,イラクから撤退するべきだ,と主張しています.


FT July 15 2005

Lex: Renminbi

July 18 (Bloomberg)

China's Policies May Do More Harm Than Good

William Pesek Jr.

FT July 19 2005

Leaders do not expect revaluation

By Gordon Orr

FT July 20 2005

Lex: China

July 21 (Bloomberg)

China's GDP Report to Boost Yuan Speculation

Andy Mukherjee

(コメント) 人民元がドル・・ペッグを離脱することや切上げることは,何年も前から予想された事態です.その直前には何を議論していたのでしょうか?

アメリカ財務長官John Snowが,また,人民元切上げを来月だと予想している,と半信半疑な情報を流すFTは,十分に完璧な短いコメントをしています.人民元は切上げる時期が来ている.なぜなら通貨供給が急速に増大しており,融資も増えているから.しかし,延期することもできる.なぜならインフレ率は抑制されており,製造業には過剰生産力が控えているから.しかし,問題はアメリカ政府や政治家の主張だ.たとえ中国が5%や10%の切下げを行っても,アメリカの貿易赤字は減らないし,衰退する製造業が復活するわけでもなく,むしろ中国は介入を減らして財務省証券への需要が失われるだろう,と.政治家たちは失望したり,懐かしがったりするだけです.

アメリカ政府から,私的に,少なくとも10%は切上げなければ議会の保護主義を避けられない,と知らされている中国政府の対応は,ビジネス界を見る限り切迫したものではない,とも伝えています.中国の政界とビジネス界が血縁などで繋がっている以上,もし政府が10%の切上げを準備しているのであれば,大企業が明日には安くなる買い物を,今,するはずが無い,というわけです.なるほど,これが2%というわずかな切上げ率を説明する一つの理由でしょう.

切上げの条件として,中国の成長や投機がその結果どうなるか,を予測することは難しいわけです.


NYT July 15, 2005

A Poverty of Dignity and a Wealth of Rage

By THOMAS L. FRIEDMAN

(コメント) イラクやパレスチナではなく,宗教的確信と言って,幼い子供と次の子を身ごもった妻を残して,イギリス生まれのイスラム教徒の若者が地下鉄で同じ市民たちを殺害するために自爆テロに及ぶか? それはまったく理解できない,とTHOMAS L. FRIEDMANも驚愕します.

NYT July 20, 2005

Joined at the Hip

By THOMAS L. FRIEDMAN

中国企業がアメリカの石油会社を買収することに私は関心が無い.中国人がたっぷり支払ってくれるなら良いことだ.いずれにせよアメリカ人の消費は石油を枯渇させ,政策転換が必要になるのだ.

誰がUnocalを所有するかは重要な問題ではない.本当に重要な問題は,アメリカと中国が地政学ならぬ地経学における危険な対立を深めるかどうかだ.われわれが9・11とイラクに心を奪われている間に,アメリカと中国は経済的な意味でシャム双生児になってしまった.

たとえばあなたは安価な住宅融資を得たのではないか? その融資を誰が補助してくれたか,知っているだろうか? いろいろな意味で中国政府である.アメリカ人は貯蓄をせず,輸出よりも多くを輸入する.それでも金利が上がらないのは,中国政府が大量の財務省証券を買ってくれるからだ.彼らはアメリカ市場に商品を輸出してそのドルを得ている.われわれは消費し,彼らは通貨を安くする.

その関係を「天安門=テキサス・バーゲン(取引)」(TTバーゲン)と呼ぶことができる.バークレーの国際戦略研究所に属するSteven Weberは述べている.「この取引は,中国の(本来の)有権者が投票権を諦め,その代わりに,中国政府は中産階級に9%の成長を保証する,というものだ.中国の政治的安定性はこの取引に拠っている.」

この取引のテキサス側はブッシュ政権だ.長期にわたって,ブッシュ政権は人民元の過小評価を無視し,それによって中国から安価な商品が流入し,中国政府が価値を失うドル建資産を保有すること,そして金利を低くすることを可能にした.われわれの消費パーティーが中国の労働者を雇用し,共産党政府を権力に安住させた.彼らが減価するドルを保有し続けることで,あなたは住宅購入資金を得た.われわれは,かつて冷戦期に西欧や日本とそうであったような,共生関係を築いてしまった.しかし,彼らは同盟国であり,民主主義国であった.だから彼らとの関係調整は容易であった.中国とはそうならない.

われわれはシャム双生児だ.しかしよくある双生児と違って,頭ではなく尻で繋がっている.だから人格が異なっている.それは問題だ.余りにも多くのドルと雇用が中国に流れた結果,政治的にも経済的に,ブッシュ政権はこの関係に耐えられない.このTTバーゲンを調整しなければならないが,アメリカと中国は勝手に動くだろう.ヘッジ・ファンドは既にたらふく儲けている.調整とは,中国がドルに対して人民元を切上げ,アメリカからもっと多く(そして中国からはもっと少なく)商品を買うことである.

だが中国は外貨準備を7500億ドルも,ほとんど財務省証券で保有し,1兆ドルに及ぶ勢いだ.もしアメリカが強制して中国が通貨を切上げたら,ドルはさらに価値を失う.それは,中国政府の保有するドルに多大な損失をもたらす,と言うわけだ.特に専門家たちが言うように,アメリカの貿易収支を改善するために30%も40%もドルが減価するとしたら大変だ! それは主要通貨に対する減価にもなり,インフレ圧力や金利上昇をもたらすだろう.

「ドルが減価すれば金利が上がる.アメリカは不況やスタグフレーションに向かうだろう.しかし,中国の通貨が余りにも急速に,しかも大幅に増価すれば,それは失業をもたらし中国に革命が起きるだろう.・・・われわれはドルを市場の調整と見なすが,彼らはそれを体制転換と見なすだろう.」と,Weberは主張する.

Unocalなど,どうなっても良いが,自由な市場でも民主主義でもない国との共生関係を調整する問題はきわめて重要だ.われわれの安価な商品,安価な融資を,彼らの雇用と体制の安定化と取引する関係は,今や調整を迫られている.慎重に,中国政府も,世界経済も傷つけることなく,この調整がなされるだろうか? それは2005年の地政学的大問題だ.


NYT July 16, 2005

Going Nowhere on North Korea

NYT July 17, 2005

A Sucker Bet

By NICHOLAS D. KRISTOF

NYT July 19, 2005

Remember the Pueblo

By NICHOLAS D. KRISTOF

The Asian Age, 21 July 2005

Finally, Washington is ready to play ball

- By Jonathan D. Pollack

FT July 26 2005

Chance to end Pyongyang nuclear impasse

By Mitchell Reiss

FT July 26 2005

A good deal is on offer to North Korea

(コメント) 北朝鮮の政治体制が続くと考えるなら,その政府と交渉して,核を放棄させなければなりません.彼らの体制転換や,各施設の空爆は,確実な成果を期待できないからです.その条件が安全保障を核保有以外の形で確信させる枠組みです.

NICHOLAS D. KRISTOFは,西側諸国が経済制裁や孤立化を強めている現状は,むしろ金正日の支配を長期化するものだ,と批判しています.なぜなら北朝鮮国民には情報も援助も届かず,支配者はますます閉ざされた政治・軍事支配国家を正当化できるからです.


WP Saturday, July 16, 2005

A New Latin Consensus

By Marcela Sanchez

(コメント) 1989年に失われた10年を反省して「ワシントン・コンセンサス」が誕生したとすれば,1990年代の一時的な成功と危機の後,新しいコンセンサスは得られたでしょうか?

改革を行えるような政治システムを強化し,分配問題の改善を重視する,と言うことのようです.


WP Sunday, July 17, 2005

Export Goods, Not People

By Oscar Arias

NYT July 25, 2005

Look to Virginia, Not China

FT July 27 2005

A trade agreement that undermines workers’ rights

By Benjamin Cardin

LAT July 27, 2005

Closing the deal

FT July 29 2005

Partisanship on trade

NYT July 29, 2005

Applauding the Cafta 15

(コメント) 他方,中米諸国は内戦を収拾して,民主化と貿易自由化を選択しようとしますが,それを認めるかどうかについてアメリカ議会は政治論争を続けています.非合法移民としてアメリカで働くのではなく,自国で,家族とともに,産業を起こすための市場を開いて欲しい,という彼らの要請は正しいと思います.それが政治的安定と民主主義への信頼された道でもある,と.

NYTも,保護によって雇用は守れない,と反対派を批判します.自由貿易の利益を得るためには,労働者の再教育・再訓練と新分野での雇用創出を促すことです.


LAT July 18, 2005

The end of the unipolar era

By Richard N. Haass

FT July 21 2005

China's rising power

The Guardian, Friday July 22, 2005

How the UN won the war

Dan Plesch

Asia Times Online, Jul 30, 2005

China, US discuss their relationship

By Jing-dong Yuan

(コメント) Richard N. Haassによれば,ロンドンのテロと北朝鮮の6カ国協議が,アメリカによる一極支配,という空想を吹き消しました.確かに,ベルリンの壁崩壊から9・11まで,アメリカ一極支配システムが成立するように見えました.しかし,そのような見方はグローバリゼーションを決定的に過小評価しています.グローバリゼーションは政治システムに権力を集中する過程を分散し,むしろ複雑に,多層化しました.

アメリカを脅かす脅威は,新しい大国からの挑戦ではなく,テロ,核兵器の拡散,保護貿易主義,伝染病,などによるカオスが広がることです.


FT July 18 2005

A stir in Asia

By Victor Mallet

BG July 28, 2005

Bush policy backfiring in Asia

By Leon V. Sigal

FT July 28 2005

Asia awaits US’s vision for co-operation

By Ellen Bork

LAT July 28, 2005

A DISSENT

Jacob Heilbrunn

(コメント) イギリスのジャーナリストはアジアの国際政治をどう見ているのか? 領土問題や戦争責任,歴史認識など,ヨーロッパと比べて,またイギリスと比べて,どう見えるのか? ナショナリズムという政治表現を利用して,得られるものと失うものを,政治家たちは意識しているのか?

中国,北朝鮮,韓国,日本,インド,ASEANなどの地域協力機関,いずれを取っても対米関係は変化しつつあります.


FT April 19 2005

US deficits aren’t just China's problem

By Martin Wolf

かつてJ.M.ケインズは述べた.「もしあなたが銀行から100ポンド借りれば,それはあなたの問題だ.しかし,100万ポンド借りれば,それは銀行の問題だ.」

ケインズは正しかった.債権諸国は苦しんでいるが,アメリカはそうではない.まだ債務者が借り続ける必要がある限り,債権者は債務者以上に融資を増やすことを怖がってはいない.しかし,債権者が無限の融資と債務累積の末に,デフォルトの危険を感じるなら,それ以上の融資を拒むだろう.そのときから彼らは債務者に甚大なコストを要求する.

金融的な恐怖のバランスは,アメリカの流れ込む莫大な金融フローを特徴付けている.世界がその苦境を脱するためには,経済政策に慎重な考察が必要とされる.しかし何と,われわれはブッシュ政権にそれを頼ろうとしているのだ.

今週末のG7会合で,それが示された.共同コミュニケは,婉曲ながら,中国政府に為替レートの弾力性を増すように求めている.スノー財務長官は,こうしてアメリカ国内政治における,日本バッシングをしのばせる中国バッシングの横行に応えたわけだ.

ニューヨーク大学のNouriel Roubiniは直ちに反論した.アメリカがその主要な債権者を攻撃するとは,危険な火遊びである,と.彼によれば,財政赤字の4分の3は外国の中央銀行が購入しており,アメリカは財政赤字の100%を海外から,経常収支赤字の80%を外国の中央銀行からまかなっている.自分を養っている腕に噛み付くのは愚か者だ.

IMFによれば,アメリカの財政赤字はGDPの4.4%,そして経常収支赤字は5.8%に達する.つまり,アメリカの消費者や企業は財政赤字など無いかのように行動している.財務長官は第二次大戦以来最悪の放漫財政に耽っていることを,感謝することはあっても,不平を言う資格などあるだろうか?

もし公的な国際融資が失われれば,アメリカの経済破綻は確実だと指摘する点でもRoubiniは正しい.その結果は,アメリカの不況にとどまらず,ドル暴落,物価上昇,金利高騰,住宅価格下落,住宅破産者急増,である.対外勘定で調整を強め,急がすほど,その衝撃は強まるだろう.胴体着陸から,確実に墜落へと向かう.

それにもかかわらず,対外純債務の増加を防ぐことはアメリカの長期的な利益である.しかしながら,もし直ちに調整を行えば大きな危機になるが,それでもさらに10年も債務の積み上げてから危機を起こすよりましだ.今すぐの危機と10年後の危機とを比べる代わりに,今から緩やかな調整を実施してはどうか?

その必要条件は明らかだ.アメリカにおいては潜在的な生産を超える支出を削減し,債権諸国では支出を増やす.アメリカの構造的な財政赤字を減らすことが要求されるだろう.為替レートの変化も求められる.重要な点は4つだ.

1.2004年に新興市場は平均で3360億ドルの経常勘定の黒字を出し,その反対にアメリカは6660億ドルの赤字だった.アジアの新興市場は1930億ドルの黒字だ.

2.これらの黒字は金融危機の後に発生した.特にアジアの新興諸国では顕著であり,1996年の400億ドルの赤字から1998年には1140億ドルの黒字に変わっている.

3.民間部門は新興市場を経常勘定で赤字にしようとしてきた.2004年,経常勘定の黒字と資本純流入は新興市場に5190億ドルの外貨準備をもたらした.アジアの新興市場だけでも3440億ドルだ.

4.中国はその重要な役割を示した.2004年に中国の経常黒字は新興市場全体の18%,直接投資の流入の28%,外貨準備増加の40%を占めた.

要するに,アメリカが経常収支赤字を十分に調整するためには,新興市場がその黒字を減らす必要があるのだ.彼らは世界の赤字国であるはずだ.外貨準備の現在の水準を前提すれば,少なくとも直接投資の流入に等しい経常赤字を出してもまったく安全であり,明らかに意味がある.

もし新興市場がそれだけの赤字を昨年出したとすれば,1860億ドルの赤字になっただろう.現実の黒字額との差は5230億ドルであり,アメリカの赤字を一掃するのに十分だった.中国だけでも十分に意味がある.昨年の経常黒字と直接投資注入額はGDPの7%に及んだ.もしFDI流入額に等しい経常赤字を出したとすれば,520億ドルであり,その現実との差は1110億ドルである.

新興市場が外貨準備を増やすことはもはや無意味だ.それは投資を浪費するだけなく,民間部門が正しく求めている,世界的な調整を妨げている.新興市場はFDI流入額に匹敵する経常赤字を出すべきであり,中国の為替レートだけを罵るのは愚かなことだ.しかし,世界のバランスを回復する真剣な政策論争はまだ無い.今すぐ議論し始めることだ.


FT July 19 2005

Set the euro loose from the EU

By Robert Cottrell

(コメント) 発想の転換,革新的なアイデア,というのは,たとえば,こうした論説で示されるのでしょう.Robert Cottrellは,財政安定協定の破綻やEU憲章の否決によってユーロ圏の解体まで懸念される現状を変えるために,EUの政治システムとユーロ圏・ECBとを分離するべきだ,と主張します.

ヨーロッパ統合のプロジェクトは,現在,単一市場化,シェンゲン協定(パスポート廃止)圏,ユーロ圏,などが一体として扱われています.しかし,もしユーロが本当に解体される可能性があれば,各国はユーロから距離をとり,独自に有利な立場を確保しなければなりません.政府や市民の信頼に依拠したユーロ圏のプロジェクトは,政治的な迷いや模索によって最も危機にさらされやすい部分となっています.

ユーロ圏は参加国の政府を縛るために合意したけれど,不況になれば,その財政赤字が膨張するのを止められずに,結局,合意を見直すことになりました.不健全な財政状態をユーロ圏の他国に負担させる誘惑が残ります.

そこで,Cottrellは財政破綻を各国政府の問題であると明確に宣言しておくことだ,と考えます.どこかの国が赤字を爆発させて破綻しても,それはユーロへの不安ではなく,その政府債券に対する投げ売りとして,彼ら自身が高金利を負担するべきです.ユーロをEUの政治システムと切り離し,ユーロ圏の共同管理システムにすれば良いのです.

金融政策の決定はユーロ圏参加諸国の多数決で行い,EU拡大とユーロの採用もしくは離脱は分離されます.EU内のインとアウトの関係も,特別な政治的問題ではなくなるのです.金本位制の時代以来,初めて,ヨーロッパ諸国(そして世界)は健全な通貨単位を,政治から自由に,選択できる,と.


NYT July 19, 2005

The New Power Brokers

By DAVID BARBOZA

Asia Times Online, Jul 20, 2005

Dragon breathes down the Tigers' neck in textiles

By Ng Boon Yian

IHT THURSDAY, JULY 21, 2005

Lots of wealth, lots of people, lots of flaws

By Fei-Ling Wang

(コメント) 中国の中で,共産党内部ではなく,その外で政治経済関係はどう変化しているのでしょうか? 富が急速に蓄積される過程では,政治的な利権を超える多くの富と権力が人々の関係を再定義しているはずです.あるいは旧権力やイデオロギーの衰退が大幅に進んでいるのでしょうか?


WP Wednesday, July 20, 2005

A New Nuclear Era

Asia Times Online, Jul 21, 2005

US opens can of nuclear worms

By Praful Bidwai

LAT July 22, 2005

The wrong India deal

NYT July 22, 2005

Green Light for Bomb Builders

The Asian Age, 23 July 2005

Good day for India, bad for nonproliferation

- By Strobe Talbott

(コメント) インドとアメリカが関係を緊密化する一方で,核拡散防止条約は無視されました.インドの主張に国際的な核管理の理念が共有されるためには,新核保有国(と核放棄国)に対する,明確な合意が必要であったと思います.


FT July 21 2005

China ends renminbi’s decade-old peg to dollar

By Richard McGregor in Beijing, Edward Alden and Andrew Balls in Washington, and John Burton in Singapore

People’s Bank of China statement on renminbi

US Treasury welcomes currency reform

By Andrew Balls in Washington and Alan Beattie in London

Revaluation more about policy than politics

By Richard McGregor in Beijing

Government bonds hit by renminbi revaluation

By Joanna Chung in London

Timing is as much about politics as policy

By Richard McGregor in Beijing

Textile goods to be worst affected

By Geoff Dyer in Shanghai

Neighbouring nations take cue from Beijing

By FT Reporters

Move raises important questions on future policy

By Chris Giles, Economics Editor

(コメント) ドル・ペッグを放棄して,通貨バスケットを対象に,基本的に安定した形で,一日に±0.3%の変動を許す,と中国政府・人民銀行は発表しました.

中国政府の目的によって,この選択は正当化されます.すなわち,通貨システムを緩やかに変える,高い経済成長率を維持する,それは言い換えれば,国際収支とマクロ経済的・金融的な(国内の)安定性をバランスさせる,という姿勢です.また,この変更によって,中国政府はアメリカの保護主義圧力を緩和し,9月に予定されている胡錦涛主席のアメリカ訪問を成功させたい,と考えているわけです.

これによって中国の輸出圧力は緩和され,国内の成長を刺激する余地が生まれたのでしょうか? あるいは,小幅な切上げが一層の投機的な資本流入を招くのでしょうか?

アメリカ財務省のスノー長官,FRBのグリーンスパン議長,IMF,WTOなどが歓迎する声明を発表しています.そして,一層の調整を求めています.ということは,人民元が徐々に増価しても,中国に協力して介入する国は無い,と市場参加者は思うわけです.

政治的に見れば,新しい制度への移行は,アメリカの保護主義を回避することと,中国政府が為替レートの管理を手放すつもりは無いこと,を示したように思います.このことは,すなわち,外国為替市場を政府が管理するために,ヘッジ・ファンドなどの参加を許さない,という姿勢でしょう.しかし,いずれの国も危機の前には,国内経済が好調でユーフォリアが広まり,国内投資家や企業,政治家から資本取引の自由化を求める声があったのです.中国は?

人民元は今後とも増価するでしょう.また,アジア通貨も同じ流れに乗ります.反対に,ドルは減価できるわけです.ユーロは,アジア諸国がバスケットの基準として重視し,ドルの減価による外貨準備の損失を防ぐために購入し始めるなら,増価するかもしれません.しかし,ドル暴落が起きるかどうかは,何よりもアメリカの長期金利の動向,債券市場の需給に依存しており,予測できません.

切上げは中国の輸出産業にどのような影響を与えるのでしょうか? 繊維産業など,マージンの少ない部門では深刻な影響が出るかもしれません.労働コストの安さ,供給ネットワークの拡大,輸入中間財の利用割合,などが影響します.他方,不動産投機に向かう資本流入は加速するでしょう.しかし,人民元の増価が続けば,金利引き上げを恐れて流出するかもしれません.

中国の為替レート調整やシステム転換は,もちろんアジア通貨秩序の一部です.周辺諸国はその対応を準備してきたはずです.マレーシアは直ちにドル・ペッグを放棄し,同様に,通貨バスケットを対象としたBBCで増価を容認する姿勢に転換しました.

結局,さらに人民元は増価するのか?

July 21 (Bloomberg)

China Revalues; Trade Gap Still a Basket Case

Caroline Baum

NYT July 21, 2005

China Says It Will No Longer Peg Its Currency to the U.S. Dollar

By DAVID BARBOZA and JOSEPH KAHN

July 22 (Bloomberg)

China Has Revalued Yuan; What Happens Next?

Andy Mukherjee

Stop Partying John Snow -- GDP Forced China

William Pesek Jr.

(コメント) 賃金格差を前提とした工場流出に関して言えば,2%では意味がない.アメリカの貿易赤字も減りそうにない.アメリカの製造業が復活するわけでもない.むしろ消費者が購入する輸入財価格は上昇するし,財務省証券への需要は減るだろう.アメリカにとって重要なことは,中国を世界的な市場システムに完全に統合することだ,とJ.P.Morganのエコノミストは言います.すなわち,資本勘定を自由化し,変動相場制を採用することです.

たった2%の切上げでドル・ペッグを放棄した人民元に対して,市場参加者は引き続いて切上げが迫っていると見なし,投機的な資本流入を加速するでしょう.すなわち,「一方的な賭け」の状態は続き,「自己実現的な予言」となるわけです.

ドル・ペッグを放棄したことの意味は,マクロ政策の関心が国内経済に重心を移すということであり,過剰投資=生産力と不動産投機に対して金利を引き上げる必要があるわけです.それはますます投機的資本流入を強めるはずです.Nouriel Roubiniは,2005年秋に人民元への圧力が強まること,アジア全体の通貨秩序が移行し始める最初の一歩であること,を予言しています.

William Pesek Jr.は,ジョン・スノーと財務省スタッフが祝杯を上げるのは間違っている,と考えます.中国が人民元を切上げたのは,アメリカの強い要請があったからではなく,中国経済の急成長が続いているからです.それゆえ中国経済には,為替レートの変化を吸収する力があり,将来の加熱を心配する理由があったわけです.

ある意味では,投機的な資本はアジア諸通貨に向かうでしょう.バスケット・ペッグと切上げによって,中国政府はアジア諸国の通貨に調整の余地を示したわけです.そして,石油などの価格高騰にアジア諸国の増価は対応する力となるでしょう.

FT July 22 2005

Drivers of the rate of change

By Richard McGregor and Mure Dickie

Aim is to allow greater flexibility while still keeping firm control

By Richard McGregor in Beijing

Market Overview: Renminbi revaluation just ‘first small step’

By Dave Shellock

Move raises key questions on central bank's future policy

By Chris Giles,Economics Editor

Chinese factories will feel pinch on exports

By Alexandra Harney in Hong Kong

Investors expect further revaluations

By Mure Dickie in Beijing

(コメント) Richard McGregor and Mure Dickieは,論説の後半で,中国政府の政策決定に生じた変化と人民元切下げについて考察しています.温家宝首相が人民元を切上げる過程は,政治的な合意形成に時間をかけた,という特徴を示しています.江沢民であれば,時間をかけずに,もっと早く大幅に切上げていただろう,と筆者たちは指摘します.

もちろん,中国の政治指導者が大胆な行動を取る場合,それは多くの犠牲を強いることもあったわけですから,さまざまな利害に配慮した温家宝の手法は江沢民よりも政治力が劣っているだけだ,と非難すべきではないでしょう.明らかに為替レートの変更は,マクロ政策の自律性を回復する方向を示しており,それは指導部が繰り返して生きた,貧富の格差拡大を示す農民や地方の所得改善を目指す政策の積極的な展開に向かうと思われます.

他方,外国で学んだ「海がめ“sea turtles”派官僚」である人民銀行総裁は,もっと早くから切上げもしくは弾力性の拡大を支持していたようです.しかし,政治局を説得することはできず,中央銀行の独立性は制約されているわけです.にもかかわらず,今回の決定でも詳しい知識を持つ幹部は彼だけであり,今後の政策決定にも重要な役割を担うでしょう.

温首相は分配の平等や政策に介入に関して左派であり,政策形成に合意を必要としています.しかし,彼が求めたように,為替市場を驚かせるような為替政策の決定が,今後,逆に彼を驚かせるものになるかもしれません.

中国政府は一層の人民元切上げを抑えようとするでしょう.そのために,人民元と香港ドルの金利を引き上げて投機のコストを高め,資本取引規制を維持しています.しかし,資本自由化を認めるにつれて変動幅も拡大するでしょう.外国政府による政策圧力を強く否定する姿勢も,もっと米中間の強調を重視するものに変わる条件が現れます.

もし人民元が他の主要通貨に対しても切上げられるなら,ドルはすべての通貨に対して減価する余地を得るでしょう.しかし,財務省証券への需要が減って,それを相殺するためにどれほど金利を高めるべきか,アメリカにとっても,輸出している中国やアジア諸国にとっても,それが重要な関心事です.

FT July 22 2005

Singapore sets model for China’s renminbi reform

By John Burton in Singapore

小国シンガポールは,中国とマレーシアがUSドルに対するペッグを破棄して管理フロート制を採用したことに,ある種のプライドをくすぐられたであろう.

シンガポールは「バスケット,バンド,クロール」もしくはBBCと呼ばれる制度を1980年代の初めから使ってきた.シンガポール・ドルはその主要な貿易相手国と競争相手国の諸通貨からなる,公表されていないバスケットを基準に管理される.為替レートは政策として示された変動幅を守り,激しい変動に翻弄されるのではなく,その範囲で徐々に上下動する(クロール・アップ・アンド・ダウン).

1970年代にBBCモデルを開発したジョン・ウィリアムソンは,シンガポールを「世界で最も成功したBBC体制の実践例」と賞賛してきた.シンガポールの通貨システムは「東アジアの他の諸国にとって基本モデルとなるだろう」,と言われる.シンガポール通貨庁は,BBC政策によって地域の,また世界の経済条件が変化しても,輸出競争力を維持しインフレをコントロールする弾力性が得られる,と言う.

通貨バスケットの構成は貿易パターンの変化を考慮して定期的に見直される.公開されていないバンド政策も,経済変化と整合的であるように,必要な場合は6ヶ月ごとに調整される.シンガポールも,その通貨を最初はUSドルにペッグし,その後,1970年代には変動させ,BBC体制を選択した.小国開放経済において,為替レートと金利との関係が緊密になったからだ.それ以来,この都市国家は直接に金利を調整するのではなく,為替レートを通じて通貨政策を誘導してきた.1980年代初めから,インフレ率は年2%という相対的に低い水準である.

BBC型の管理フロートで,シンガポール・ドルはUSドルに対して約20%増価したが,強いシンガポール・ドルを支持する政策も,1997年のアジア金融危機以来,緩和された.それに比べて日本円に対しては40%も減価している.中国もマレーシアも概ねシンガポールとよく似た管理フロートを行うように見える.ただし,その細部はまだ操作の素描に過ぎない.そこには違いもある.中国やマレーシアのバンドはシンガポールよりも狭く,より小さな変動しか許さない.また,中国のバンドは毎日変化する.

ウィリアムソンなど,何人かのエコノミストは,BBC体制が共通のアジア通貨を採用する基礎になるだろうと主張してきた.しかし,他のエコノミストは,このシステムをシンガポールのほかに広く適用できるとは考えない.

変動レート制を支持するベリー・アイケングリーンは,シンガポールが多くの強みを持っていたことを指摘する.すなわち,正しく規制された銀行・金融システム,巨額の財政黒字,である.それゆえ,他の多くの国がBBC制度を採用することはない,と.「管理フロートはほとんど市場の信頼に依存している.他のマクロ経済政策が管理フロートと整合的であるときにだけ,成功するに過ぎない」と,シンガポールの民間エコノミストSong Seng Wunも言う.

エコノミストたちは,小さな切上げがさらに切上げを予想して投機的な外国資本を引き寄せるから,導入された管理フロートが挑戦を受けるだろう,と確信している.その結果,中国は通貨取引のバンドを市場で受け入れられる程度に拡大しなければならないだろう.

The Guardian, Friday July 22, 2005

Enter the dragon

NYT July 22, 2005

China Revalues the Yuan

China's Opaque Currency Policy

By KEITH BRADSHER

Impact on Chinese Companies: For Most, Not Much

By CHRIS BUCKLEY

Dollar Falls Against Asian Currencies After China Says It Will End Link

By JONATHAN FUERBRINGER

WP Friday, July 22, 2005

China's Currency Move

(コメント) The Guardianの論説は興味深いです.人民銀行の昨日の声明は,一見,退屈である.「中国における社会主義市場経済を確立し,改善するという視点から」で,その声明は始まる.しかし,そのインターネットに示されたメッセージは何とも非社会主義的である.すなわち,北京政府は人民元,すなわち「人民の通貨」を,外国為替市場で自由に変動させるための第一歩を進めた,と言うわけだ.

外国為替市場が社会主義と矛盾しているわけではない,と私は思いますが,閉鎖型の計画経済体制とは徐々に離れています.しかし,その手法は,注意深く,プラグマチックに,何より時期の選択は自分たちで行う,という姿勢に貫かれています.少なくとも,今は.アメリカとの貿易摩擦や,国内の成長が,切上げを決断する条件でした.

中国の目覚めと,世界市場の変容は,貧困を減らし,石油価格を高め,こうして,その人民の富を貨幣的に膨張させる過程に入りました.

NYTの書き方も面白いです.「8年近くにわたって,中国の指導者たちはアラン・グリーンスパンを信用して,ドルと一緒にどこへでもついて行った.しかし,今は違う.機能,支配者たちはもっと無名の人民銀行総裁Zhou Xiaochuanに頼ることにした.そして,より裁量的な政策を動かそうとしている.」

と言うのも,新しいバスケット・ペッグの中身が公開されていないために,著しい裁量の余地が残されたからです.この先,激しい投機と急激な切上げを予想する意見と,徐々に,少しずつ切り上げるという意見があります.いずれにせよ,この方針転換は,貿易収支よりも,アメリカの金利を介して効果を発揮するであろう,と.

WPが注目するのは別のことです.米中関係は,貿易から通貨,知的所有権,人権,安全保障を含む,多面的で複雑な,より重要なものに変化しました.また,世界はアメリカとの貿易や成長から,中国との貿易や成長に移行しつつあります.それが円滑に進むためには,アメリカの消費過剰と中国の生産過剰を正すべきです.そしてWPは,アジアの通貨調整を主導する中国の勇気を求めています.

Long (un)winding road, FT July 23 2005

Philip Bowring: The dangers of a baby step, IHT SATURDAY, JULY 23, 2005

China's calculation, BG July 23, 2005

David M Lenard, Beijing's 'Thursday surprise,' Asia Times Online, Jul 23, 2005

Andrew Balls, Mure Dickie and Edward Alden, The US diplomacy behind China’s revaluation, FT July 24 2005

William Pesek Jr., With Yuan Move, China Shows It's Got Game, July 25 (Bloomberg)

Geoff Dyer and Mure Dickie, Revaluation set to challenge China's capital controls, FT July 26 2005

Lex: Currency regimes, FT July 26 2005

Robert Scheer, On China at least, Nixon was right, LAT July 26, 2005

Huw McKay, What about the capital account? Asia Times Online, Jul 26, 2005

Zhiqun Zhu, Yuan moves show a confident China, FT July 27 2005

Florian Gimbel, Asian bankers expected to stick with greenback, FT July 27 2005

Geoff Dyer, Beijing nervous over rural economy, FT July 28 2005

John M. Berry, China's Yuan Decision May Not Change Things Much, July 28 (Bloomberg)

William Pesek Jr., De-Pegging Ringgit May Uncork Malaysian Boom, July 28 (Bloomberg)

A yuan yawn, LAT July 28, 2005

(コメント) 2%ならともかく,もしKen Rogoff and Maurice Obstfeldが推定したように,アメリカの貿易赤字を半分にするために20%の人民元切上げが必要なら,世界的な不均衡を解消するには不況が起きてしまうかもしれません.中央銀行によるアメリカ投資から離脱する過程で,アメリカの長期金利上昇と,アジア諸国の切上げ,が必要です.

BGは,台湾海峡を除けば,中国との関係も維持できる,と考えます.日本がそうであったように,輸出による成長から,通貨の価値を高め,消費や投資の重要性を増して,新しい分野で輸出競争力を得るようになるのは,急速な成長の正常な過程なのです.中国もそのような道を歩むのであって,大幅な切上げを押し付けて中国製品の価格を急激に引き上げることなど期待してはいけない,と指摘します.

もちろん,為替レートにとどまらず,成長を持続するために必要な本当の市場改革は中国自身の内部で起きます.


FT July 21 2005

New wave of terror hits London

By Frederick Studemann and Jimmy Burns

The Guardian, Thursday July 21, 2005

There are apologists amongst us

Norman Geras

BG July 22, 2005

Blair's leadership

NYT July 22, 2005

Giving the Hatemongers No Place to Hide

By THOMAS L. FRIEDMAN

WP Friday, July 22, 2005

More Bombs in London

BG July 23, 2005

Britain's amazing disconnect

By Jonathan Power

LAT July 29, 2005

Brutality that boomerangs

By Saree Makdisi

(コメント) 中国政府が人民元切上げを発表した日に,ロンドンでは2週間前の爆弾テロに続いて二度目のテロが起きました.テロが繰り返されたことは,人々の生活感覚や治安についての論調を変えたと思います.

それでも9・11後のアメリカと同じではなかったと言えるでしょう.むしろヨーロッパ大陸の反移民感情に近づいたようです.イスラム原理主義に対する本格的な隔離と掃討がヨーロッパ規模で始まりました.テロに関する情報収集と捜査,拘束,発砲に関して,市民生活から対テロ制圧モードへ,イラク市民の苦しみにも少し似た姿へと変わります.


FT July 21 2005

China’s revaluation shows size matters

By Morris Goldstein and Nicholas Lardy

FT July 22 2005

Making sense of China's choice

NYT July 22, 2005

China Unpegs Itself

By PAUL KRUGMAN

WP Tuesday, July 26, 2005

China's Devalued Concession

By Robert J. Samuelson

(コメント) この切上げは何だったのか? 重要? 無意味? 第一歩? ごまかし?

Morris Goldstein and Nicholas Lardyは不満を述べています.すなわち,@彼らが適当と考える20-25%に比べて,余りに小さすぎる.Aバスケット・ペッグの採用は正しい.B国内経済は好調なのに,これでは対外不均衡を解消できない.C投機的な資本流入を抑えられない.D金融政策の自由が奪われる.Eアメリカ議会の保護主義圧力も緩和されない.F漸進主義的な改革は投機への期待を強めて失敗する.

中身の見えないバスケット・ペッグで,アジャスタブル・ペッグもしくはクローリング・ペッグにもなる.このような曖昧な制度で1年も2年も過ごすとしたら,危機を拡大するだろう,とFTは警告します.

PAUL KRUGMANは,要するに,中国は成功している仕組みを混乱させたくなかったのだ,と考えます.貧しい国から豊かな国への資本移動に依拠した世界は不自然であり,アメリカの「ただ乗り」は危険です.中国が外貨準備を介したアメリカ投資をやめれば,人民元は増価し,アメリカの製造業は有利になるでしょう.しかし,他方で金利が上昇します.

長期的には,製造業で雇用が増え,小売部門で雇用は減り,全体として大きく変わることは無いけれど,長期の問題は重要ではない,と言います.そして,短期的には損失を被る者がかなり多いだろう,と予想します.要するに,中国というクレジット・カードを取り去ったらどうなるか?

Robert J. Samuelsonは,問題の核心は輸出指向型成長に頼りすぎていることだ,と考えます.中国の輸出や成長を阻止することが目的ではない,彼らの戦後成長が余りにも輸出拡大に偏っていたことを正すのがまず重要だ,と考えます.


Asia Times Online, Jul 22, 2005

Yasukuni Shrine: Old wounds still fester

By Sean Curtin

The Guardian, Friday July 22, 2005

The cockpit of future conflicts

Martin Jacques in Nagoya

(コメント) 靖国神社に関するアジア諸国の意見です.

ゼミの合同合宿で,私のゼミ生たちは「小泉首相の靖国参拝を支持する」という立論に苦しみました.靖国神社は,戦争を推進し,美化するための,またそのような指導者たちの権力を絶対化し,責任回避させるための国家神道であったと思います.それゆえ,反対派は,A級戦犯の合祀問題や近隣諸国からの批判,歴史認識,などで論争となりました.

支持論の根拠は何か? もちろん,安全保障です.国家による安全保障や治安維持は,政治的指導者が戦争でなくなった兵士を弔い,国民を代表してその勇気を称え,感謝するにふさわしいことでしょう.そうであればこそ,何のための戦争化か? これまで,そして,これからの安全保障をどのように実現するのか? 指導者は応えなければなりません.

他に安全保障を実現できる選択肢があったとすれば,それを拒んで侵略戦争を拡大した責任は誰にあったのか? 戦争を理由に民間人の虐殺や人権無視を組織的に行った戦争犯罪を徹底して追及し、裁いたか? 宗教によって政治や戦争を正当化しないように,明確に,区別しているか? など,戦没者や兵士の追悼においても,語るべきことがあるはずです.

もしそれが十分に説得力を持つ形で示されれば,靖国神社を根底から改め,近隣諸国の指導者たちと一緒に,日本の政治指導者も戦争のすべての犠牲者に対して哀悼と感謝にふさわしい形式を見出せると思います.


FT July 26 2005

US has little to teach China about steady economy

By Joseph Stiglitz

(コメント) 中国の支配者たちがアメリカに為替レートや経済運営の助言を求める必要は無い,とStiglitzは考えます.

中国の貿易収支は正確に把握できておらず,均衡為替レートの推定は難しい,と言います.為替レートの切上げで米中間の貿易不均衡が解消される,と言うのは単なる<たわ言>です.スノーもブッシュも,対外赤字は貯蓄不足(あるいは投資過剰)を税制しなければ解決できないのに,人民元切上げがアメリカの貯蓄を増やす(特に財政赤字を減らす)理由など示せません.

中国の輸出が急激の伸びたのは,一つには,多角繊維協定が廃止されて他の輸出国に比べて中国の優位が突出し,繊維製品輸出を増やしたからです.つまり,アメリカの繊維製品輸入総額は増えていないのです.

「中国は輸出しなければ成長できない」という神話をStiglitzは批判します.アメリカ政府の放蕩に融資しなくても,中国国内には莫大な資本需要があるからです.なぜ世界でもっとも裕福な国がもっとも裕福なものたちに減税したり,イラクで戦争を続けたりするために投資するより,自分たちの消費を増やすために投資しないのか? 他方,むしろアメリカは中国からの投資に代わるものを見出すことが難しいために,金利が上昇するはずです.

「中国政府は,為替レートを自由な変動制にするだけで,もっと大きな利益を得られる」という神話もStiglitzは批判します.為替市場への介入を放棄した資本主義国などありません.また,すべての資本主義国はマクロ経済への介入を続けています.たとえば政府は金融市場に規則的に介入して金利を設定しています.政府は何もするな,と言う市場原理主義者はほんの一部の例外です.為替レートの変動は余りにも高いコストを生じており,介入するにふさわしい,と.

為替レートを安定化し,成長を維持して,1981-2001年に4億2200万人を貧困から救い出した中国政府が,その3分の1の成長しか実現せず,中産階級の所得を減らし,はるかに低い国内貯蓄を減らしている国の政府が示す助言を,尊重する理由は無い.

******************************

The Economist, July 9th 2005

London under attack

Mobile phones and development

The Shanghai Co-operation Organization: Suppression, China, Oil

Development and governance: Africa acknowledges it must help itself

Economics focus: Displacement activity

The Srebrenica massacre: A chronicle of deaths foretold

(コメント) ロンドンでテロが起きても,G8の合意以上に,アフリカの発展は携帯電話で起動するかもしれないし,中国は国際協調の中身を考え直すべきでは? アフリカ自身が開発の条件を監視し,改善に向けて行動できる,・・・移民から機会を奪うなら,彼らはあなたたちの職場を奪う,という逆説などに,世界市場システムの動きを見ることができます.特集記事は10年前の7月11日にイスラム系住民を虐殺したセルビア人部隊の記憶を国際社会が忘れないための記念行事です.いずれも興味深いテーマです.

もちろん,ロンドンの二度目のテロと同じ7月21日に,中国政府は切上げを発表しました.


Charlemagne: Europe’s lost leaders

(コメント) ヨーロッパの退潮は指導者の不在によるものなのか? The Economistは否定します.指導者たちの成果は,しばしば後世にとっての大きな失敗でもあった,と.

ドイツ再統一やユーロを実現したコール=ミッテラン=ドロールのトロイカ体制を懐かしむ人々は,重要なことを忘れている.1980年代・90年代にヨーロッパ政治システムを作り変えた巨人たちも,実際には,ヨーロッパ市民の意見を無視して権力を行使して来たのであり,政治的成果のためには経済学を無視する点で途方も無い連中であった.マーストリヒト条約や東西の通貨統合によってヨーロッパ市民が支払った代償は,彼らが押し付けたものだ.

偉大な政治指導者など,現在のEU混迷を救済するために登場すべきではない,とThe Economistは主張します.市場統合が進むのであれば,各国で政治的な見解が異なっても良いのです.経済の課題は山積しており,それらは将来の夢を吹聴するより,各国が具体的に解決策を見出さねばなりません.その解決がどれほど困難であっても,だからこそ政治家たちは地域の実情や合意形成に通じていなければならないのです.