IPEの果樹園2003

今週のReview

7/7-7/12

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駅前のTSUTAYAで,「火付け盗賊改め 鬼平犯科帳」を2本借りました.これを観て,当時の日本の時代劇に充満した緊迫感と熱気を感じました.

時代劇は,なぜ悪人たちが他人を殺し,金を奪い,幕府に一泡吹かせてやったと哄笑するのか,を説得的に示します.盗賊たちの憎しみや反抗に,その時代の暗い影を読み込みます.鬼平は,心の内にある慨嘆や悲哀も含めて,彼らを切り殺し,首領どもを河原で張り付けにします.江戸の街を映す画面の濃密さが,音楽や台詞の切れ味とともに,繁栄する社会の裏にある人間の恨み,破壊への渇望を刺激します.

鬼平は,いわば無能な幕府の作り出した悪を,一身に浴びて,切り返します.彼には,悪人が切りかかるだけでなく,腐敗した政治家たちの恨みが向かい,免職や暗殺に身をさらします.権力の側にありながら,権力者の身内をも切り捨てる,その「正義」には義賊の末裔も従います.

「なぜ日本はデフレなのに,タバコを値上げし,外国へ多額の援助を続けるのか?」と学生に質問されました.民間需要が足りない分は政府が支出しなければならない,とWBSでリチャード・クーも強調します.しかし,公共投資の追加には不信感が拭えません.無駄な建設工事を増やすだけではないか? 税金を使って政治家が選挙運動するのではないか?

すでに累積した国債残高のせいで金融不安が生じ,債券市場は混乱し始めています.インフレでもなければ,どうして膨大な国債を償還できるのか? 高齢化し,海外からも労働力を受け入れない日本が,十分な成長率を実現できるのか? 日本の貯蓄を海外にもっと投資し,債券市場を通じて非居住者の円建て資産保有を増やすべきだ,という声もあります.

ある政策が,なぜ決定されたのか,その理由が分かりません.自民党の作業部会や衆議院の委員会では,何を議論しているのでしょうか? 誰が,どんな理由で,その政策を決めたのか,どのような反対論があり,どのような代替案が検討され,否決されたのか? 要するに,その決定は誰にとっての利益なのか?

悪人が組織を作り,制度や権力を侵食して,それ自体を排除できないように見えるとき,私たちは組織全てを解体することに躊躇するでしょう.犯罪者は,自分が既存の制度や規則の犠牲者であり,自分を責めても仕方ない,と言います.そして実際,組織から抜け出すことは難しく,悪人としての言い訳を見つけて生き延び,地位や富を手に入れる方が利巧なのです.

それは,ファシズムや「全体主義」の基本であり,さまざまなディストピアや情報管理社会に描かれた不安です.どうすれば良いのか? 地方政治の現場でも,組織化された集票システムと収賄や汚職が根を張っている,と聞きました.

多くの経験者や思想家は指摘するでしょう.・・・組織の頭を潰せ! 不利益を被った者に発言させろ! 党派から独立した専門家による事後的チェックを公表せよ! 今や,鬼平が登場する時代です.正しい主張が力を持つように,また,悪しき行いと制度の腐敗を一掃するため,明確にそうした目標を示す者だけが,組織の根幹や代表を担うべきです.

デイヴィッド・ヒュームは『市民の国について』で,陶片追放制度や競争者会議,権力内部のチェック・アンド・バランス,などを指摘しています.公聴会に出席して証言できないような公人は罷免すべきではないでしょうか? 官僚や議会を退職もしくは落選した者は,「真実委員会」や「司法取引」によって,組織的な腐敗や違法行為を,物的証拠により(匿名のまま)告発できるようにすべきです.そして,さらに・・・ 

ETVドキュメント2003で観た「アウシュヴィッツ生存者の証言」は,収容所からの解放後,イタリアに住んだプリーモ・レーヴィというユダヤ人作家の言葉を伝えていました.朗読される作家の言葉が胸を打ちます.証言者が何十年を経ても強制収容所の経験を忘れず,むしろ自分を問い詰めていたことを感じます.彼は,社会がそうしないことに,深く絶望したのではないでしょうか.多くの死者たちに代わって生きた彼も,ついに,自殺しました.

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ただしFT:Financial Times, NYT:New York Times, WP:Washington Post, LAT:Los Angeles Times, BG:Boston Globe, BL:Bloomberg, CD:China Daily, ST:Straits Times, IHT:International Herald Tribune


FT June 27 2003

Pensions crisis? What crisis?

FT June 27 2003

Prescription for Medicare madness

(コメント) もし日本の社会が,金融危機を経験していなければ,真剣に取り組むはずであった問題とは,年金や医療保険の改革であったでしょう.高齢化しただけでなく,旧来の人口構造や産業制度,成長パターンを前提したままでは,これらの制度が崩壊するのは確実です.

右派であれ,左派であれ,政治家たちは立派な「約束」や素晴らしい「アイデア」を吹聴し,結局,それが机上の空論であったと分かっても,言うことはたいてい同じです.「正しいことを行っているに過ぎない.」戦争であれ,年金や医療保険であれ.

イギリスの年金制度と,アメリカの医療保険制度について,FTが議論を紹介しています.人々は老後に十分なたくわえをしていません.すでに乏しい年金額を,これ以上削ることはできません.そうであれば,税金で補うべきでしょうか? 資産制限を課した年金支給制度で,富裕層に課税し,貧しい老人に支給します.あるいは政府が,働く者に,もっと老後に備えて貯蓄するよう,促すべきでしょう.個人年金契約を民間企業が競争するシステムに,次第に,向かうでしょう.とはいえ,これほど投資が難しい時代には,免税措置などで公式に助成すべきだ,とも言われます.最後に,年金支給の開始年齢を引き上げることです.もしそれでも年金が不足するなら,強制的な措置が必要です.

アメリカ議会は,高齢者の処方箋医薬品に関しても,医療保険の支払対象に含める提案をしました.しかし,法律家はそのような支払が悪用されることを警告し,適用に反対します.製薬会社も,保険会社も,国民皆保険の支持者も,何より,その受益者である高齢者の代表も,この案を好みません.それは公的な負担だけが膨張して,高齢者の長期的な医療サービスの利用に疑いを残します.社会保障制度の全体と,長期的な見通しがなければ,こうした提案に合意を得ることは問題です.

私たちは,高齢者の生活を支援し,医療サービスを担うことに反対しません.しかし,あの「とんでもない」医者や「バケツ一杯の」投薬に,私たちの給与から政府が天引きすることに憤りを感じます.「正しいことが行われている」という確証を得られないまま,私たちは「搾取」されるのです.もし,この言葉が死語でないなら.


BG, 6/27/2003

The truth about US intelligence

By Scot Lehigh

IHT /NYT  Saturday, June 28, 2003

America's shame: A public happy to be conned

Ellen Goodman

(コメント) ブッシュ政権に対して,議会は,全ての秘密情報を公開して,大量破壊兵器や開戦を巡る情報提供と意思決定が正しかったかどうか,を調査するべきだ.と,Lehighは主張します.イギリスでは,既に開始されました.もし民主主義が誇れるとしたら,こうした調査や批判を公然と行い,それが真実を究明する過程で,権力者をも交代させることができる点です.

他方、Goodmanの論説を見れば、アメリカ人が偏った自己満足に陥っている様子も示しています.世論調査やメディアの反応は、Goodmanが言うように、アメリカの「帝国」を正当化するスタイルに満ちています.「私たちが恥ずべきは,政府が嘘をついたことではなく,わたしたちがそのことを気にも留めないことだ!」と.


NYT June 27, 2003 

Toward One-Party Rule

By PAUL KRUGMAN

(コメント) アメリカの政治が日本に似てきた,とKRUGMANの論説は教えています.実際には,メキシコの一党支配体制と比較しているのですが,それは日本の姿にそっくりです.

Nicholas Confessore の書いた"Welcome to the Machine"という記事を基に,ブッシュ政権が医療保険制度を民営化し,大企業への優遇税制や株主への配当を増やし,ラジオ局に戦争支持キャンペーンをやらせる事態を,KRUGMANは憂慮します.これらはすべて,前例のない規模で全国的な選挙マシーンが構築されていることを示唆している.一党支配国家が誕生しつつある,というわけです.

たとえば,業界のロビイストを共和党に集約させる.今や,ロビイストの忠誠心は,業界ではなく,共和党の利益に向けられています.主要なロビイストを民主党支持者から共和党支持者に入れ替える運動が確実に進んでいます.それは資金につながります.選挙資金の規制やパーティーによる集金など氷山の一角に過ぎない,とKRUGMANは憤慨します.

フライシャー報道官の「民主主義において候補者が集めた資金は,この国が彼らに寄せた支持を示すものだと思う」という発言は,私たちにとっておなじみのものです.まるで自民党の幹事長が繰り返す言葉を英語に翻訳したように響きます.金と政治を切り離せなければ,政治家も「グレシャムの法則」に従うわけです.金に卑しい政治家が,清廉で有能な政治家を潰すでしょう.


WP Friday, June 27, 2003

No 'Roe' Replay On Affirmative Action

By Charles Krauthammer

BG, 6/29/2003

A shameless decision that promotes bias

By Jeff Jacoby

LAT June 30, 2003

Colleges Will Just Disguise Racial Quotas

By Richard Sander

WP Monday, June 30, 2003

Closing the Race Gap

By William Raspberry

(コメント) Affirmative Action”に関する真剣な論争が続いています.人種差別をなくすためには,社会が合意できる範囲で,積極的な是正策を採ることも認められるべきだ,という判断を支持する意見と,それは黒人という人種に依拠し,反民主的で偏った是正措置であり,むしろ差別社会を固定化する,というような強い反対も起きています.

一つだけ紹介すれば,WPでKrauthammerは,人種差別が個人にも社会にも深刻なコストをもたらしている,と認めます.それは,@マイノリティーを肌の色で蔑視する風潮を広め,A人種間の対立を深め,Bマイノリティーの学業を損ないます.

しかし,最高裁の判決で人種差別が一掃できるのか? とKrauthammerは疑います.このような問題を,たった9人の判事によって決めるのは間違いであり、不可能です.それは議会が法律を定めるか、国民(住民)投票によって認められるべきです.このことを,「堕胎」に関する判決が世論や政治と対立した例を挙げて,judicial imperialismとさえ呼びます.そして,カリフォルニアでもワシントンDCでも,住民投票で否決されている、と指摘します.

どうすれば人種差別は無くなるのか? その手段や筋道をめぐっての論争は、さまざまな党派を巻き込みます.


IHT Saturday, June 28, 2003

Afghanistan's lack of security

Andrew Wilder

(コメント) アフガニスタンの治安も悪化しています.Wilderは,ブッシュ政権が今すぐに治安活動の改善に向けた大規模な投資を行うべきだ、と強調します.もしこのまま治安が悪化すれば、人々はカルザイ政権を支持しなくなり、次の選挙でその結果を示すでしょう.そして軍閥や盗賊に依存した生活へと戻るしかないのです.ハイウェイの建設など議論している暇があったら、もっと庶民に安全な生活を取り戻すべきだ、と.


NYT June 28, 2003

Inflation Eases, but Other Worries Build Up in Brazil

By TONY SMITH

(コメント) 6月27日、ブエノス・アイレスで,1万5000人の失業者が暴動鎮圧警官隊と衝突しました.彼らは,道路掃除やごみ集めのような仕事も無くなり、絶望した労働者です.ルーラ・ダ・シルバ大統領は、直ちに経済活動を急発進させねばなりません.

ブラジル政府は,金融市場の不安を高めていたような政策転換を行いませんでした.すなわち,労働組合出身の反体制派指導者であったルーラが,賃金の引き上げや雇用拡大のために財政赤字を増やし,金融緩和するのではないか,という不安です.彼は逆に,圧倒的な政治的支持を背景に,財政を引き締め,中央銀行の独立を尊重して,金利引上げを容認したのです.市場は政府への信頼を強めました.しかし,26.5%という金利は余りに高く,経済活動は縮小し続けています.

失業率は12.8%,サン・パウロで20%にも達しているとなれば,政府が今すぐ失業者に何かしなければ,その権力を失うだろう,と感じるのは当然です.失業者をスタジアムに招いて職を斡旋したり,早急に建設工事を増やしたり,貧困層への政府融資を増やしたり,さまざまな提案が出てきます.

「なぜ我々はそうしなかったのか?」とルーラは自問します.「できなかったからだ.」新しい政府は,まずインフレ率を抑えて,市場の信頼を得なければならなかった,と.就任した1月に40%であったインフレ率は,今や5.5%であり,このような政府はなかった,と成果を強調します.問題は,それが失業者の慰めにはならないことです.


WP Saturday, June 28, 2003

The Imperial Presidency Redux

By Arthur Schlesinger Jr.

大量破壊兵器(WMD)はどこか? この問題は鎮まらないし,なくならない.たとえ政府がそう思っているとしても.

この問題が重要なのは,多くのアメリカ人が操作されたり,騙されたりすることを,好まないからだ.

また,議会やメディアが,ブッシュ=チェーニー=ラムズフェルドの呪縛から解放されたがっているからだ.それはイギリスの辞任した外相,ロビン・クックが,下院の調査委員会で発言したことに強い関心が向けられたからだ.「諜報機関の情報が政策を決定する材料になったのではなく,既に決定された政策を正当化するために利用された.」

WMD問題は,諜報機関による信頼問題に注意を向けさせた.信頼の喪失がブッシュ・ドクトリンを損ない,アメリカの戦略転換を阻止するだろう.その戦略は,多角的な機関による「封じ込め」と「抑止」とを組み合わせた,冷戦の戦略を逆転させるものだ.ブッシュ・ドクトリンの真髄とは,「予防的自衛」,すなわち,先制攻撃の戦争を正当化するものだ.この新しい政策は,敵が我々を攻撃するチャンスを持たなくても,必要なら一方的に攻撃する,ということだ.

その正当性は,責任ある人々と同盟諸国を説得できる信頼性の高い諜報活動からのみ得られる.

百歩譲って,それが上手く行くとしても,その政策では大統領に過大な権力を与えてしまう.エイブラハム・リンカーンは,すでにはるか以前に,憲法の予防的戦争という意味を見通していた.彼の批判は,「その必要があるかどうかは,大統領一人が判断する」という点に向けられた.もし大統領がカナダ(イギリス植民地)を攻撃する必要があると言い出したらどうなるのか? イギリス政府がそんなことはしないだろう,と言っても,「黙っても,お前に見えなくても,私には分かるのだ」と言えば,戦争が始まる.

ブッシュ・ドクトリンは,大統領を帝王にする.


NYT June 29, 2003

Playing the Euro in Both Directions

By CONRAD DE AENLLE

(コメント) ユーロ高は企業にとって不利益なのか? この記事は,必ずしもそうではないことを指摘しています.

日本の議論では,円高はデフレを悪化させ,企業を苦しめる,と強調されます.消費者の購買力や対外投資のチャンス,競争による企業の淘汰や新興企業の台頭,輸入業者や海外資源の利用に大きな利益が発生することを指摘しません.ブッシュ政権と同じように,日本のマスコミは政府や官僚の説明を信じ,偏った諜報機関の役割に甘んじているのでしょうか?


FT June 30 2003

Mexico's lost decade

By John Authers and Sara Silver

(コメント) アメリカ国境から1.2マイルにあるティファナの工場に並ぶメキシコ中から集まった失業者の列は,NAFTAやマキラドーラによるメキシコ経済の成長と市場改革が,すでに中国からの挑戦により動力を失いつつる現実を示しています.メキシコは改革の機会を逸したのかもしれません.この2年間で540の工場が中国などへ移り,20万人の雇用が失われたのです.NAFTAの利益は,1994年の金融膨張から危機に転落したことで,すでに使い果たしたとも言えます.市場統合は改革の手段であって,目的ではない,と.再び,メキシコはひたすら安い労働力を提供するだけの土地に戻りつつあるのです.


FT June 30 2003

The seductive charm of inflation targets

By Michael Heise

(コメント) 日本では今も「インフレ目標」が推奨されているのでしょうか? 私は「ドル化」と同じように,「インフレ目標」論にいつも懐疑的でした.この記事は,実に穏健で,確実な,反対論です.中央銀行の役割が,パーティーの最中に酒を取り上げるのか,追加を注文してやるのか? どのような基準を使っても,明確に線引きすることはできないのです.

インフレ目標の特徴は,誰にでもわかり易いことです.中央銀行が何をするか,誰にも明らかです.そして,インフレ率を予測することに注意が集中するでしょう.上手く行けば,中央銀行はインフレ期待や市場を導くわけです.

これについて,Heiseは三つの問題を指摘します.1.インフレ率の予測は間違いを避けられず,それによって中央銀行の評価が左右されるのは良くない.2.長期的に見ればインフレは貨幣的な現象であるが,短期的にインフレ率を変動させる要因は多くある.原油価格や為替レート,賃金,税率など,中央銀行が決めることはできない.3.インフレ率を動かさずに,資産価格はバブルを生じる.金融秩序の維持を重視しなければならない事情が,別に生じる.

中央銀行は一定のフリー・ハンドを持ち,さまざまな要因を判断して,政策を決定するしかない,とHeiseは考えます.インフレ目標だけを強調することは,この問題を解決できないし,むしろ今の日本のように?混乱させる危険があるでしょう.


FT June 30 2003

After default

FT July 1 2003

A stake in Argentina's future

By Michael Petits

Argentina's Lavagna Errs on Capital Controls

David DeRosa

July 2 (Bloomberg)

(コメント) 支払が止まったままのアルゼンチン債券も価格が上昇し,政府は短期資本の流入を規制したほどです.問題解決を楽観する見方も出てきました.FTは,それを認めながらも,困難な解決のための合意条件を検討します.

2001年末に危機に陥り,大幅な減価とデフォルトは,その後も新しい資金を受け取る合意に達しないままでした.しかし,財政赤字が膨らまなかったために,インフレを抑えて,輸出が伸びています.問題は,銀行が資本不足のままであり,政府が債務に対する支払をできないことです.

IMFとの合意が可能でも,その他のアルゼンチン債券は767億ドル,その約半分を世界の60万人に及ぶ個人投資家が保有しています.150種類以上の債券が,14の異なる通貨建で発行されている,という事情が解決をさらに困難にします.年末までに,政府はさらに958億ドルの債務を負うでしょう.それは銀行への補償に必要な200億ドルも含みます.公的債務はGDPの130%に達します.

要するに,このまま全額は支払えず,大幅な債務削減が必要です.60%,あるいは80%に及ぶ削減です.その合意があって,すべては始められるのです.

Petitsは,その合意の根拠を明確にします.企業の破綻と再生のメカニズムは,国に対しても有効であり,それはアルゼンチン政府にも,投資家にも,大きな利益となるわけです.

DeRosaは,もっと悲観的です.アルゼンチンのLavagna経済大臣が資本規制したことは,インフレと並んで,投資家を嫌がらせる最悪の行為だ,と断言します.アルゼンチンは,ここに投資して失敗したという投資家たちの記憶を,再び強調したいのか! と.

しかし,IMFのコメントが慎重なものであったように,資本規制をめぐるDeRosaの判断は不十分です.彼は,投機的な短期資本の流入は固定レート制であったからだ,と考えているのは分かりますが.

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The Economist, June 7th 2003

A tiger, falling behind a dragon

Two systems, one grand rivalry

(コメント) 共産党独裁体制の中国の方が成長できたことは,インドのように民主主義を重視するのがよく無いことを意味しているのか?

The Economistは,資本主義経済と民主主義の問題を考えています.インド人が抱く中国優位への誤解:@生産性ではなく,投資が多いのだ.A輸出が製造業を支えている.Bあんな低価格は詐欺だ.C輸出はコストの問題だ.D中国製品は低品質だ.

本当の問題を見ずに,インド産業界や政治家は言い訳に終始していました.しかし,インド産業連盟の報告書は,その原因を直視しようとします.インド製品の価格が高いのは,さまざまな税金と資本調達コストが高いからです.インドが中国との競争の勝てないのは,政府や法律が産業界に不適切なものだからです.

しかし,政治家が競争する中で,こうした不適切な税制や規制を増やし続けているのであれば,基本的に政治制度が間違っていたのでしょうか? 「中国製品を輸入するか」さもなければ,「中国モデルを輸入するか?」 民主主義は金がかかり,変化に時間がかかります.こうした誤解をThe Economistは反駁します.

@中国の経済的な意思決定は,独裁ではなく,もっと多元的で,実際的だ.A腐敗,財政破綻,国際的野心の低さ,過剰な保護主義,などは民主主義の本質ではない.Bインドは,共産党主導型ブームを経験できないが,大躍進や文化大革命のような政治危機も免れてきた.

インド政府が正しい政策を行えば,民主主義的な成長は可能である,と.


The tech industry: Is Big Blue the Next Big Thing?

Economics focus: Seeking the right medicine

(コメント) シリコン・バレーのドット・コム企業が崩壊した後で,IBMは次のビジネスを開拓するつもりです.コンピューターのハードやソフトがこれほど普及し,しかも次々と変化する中では,消費者の不満や要求も複雑で,膨大です.これが新しいコンピューター・コンサルタント・ビジネスです.

もう一つの論説は,日本に経済政策の余地はないのか? という問題です.日銀にも,財務省にも,デフレを止める手立ては尽きたように見えます.しかし,IIEのPosenは財政支出が水増しされた数値であったことを批判します.またFRBのBernanke理事は,国債を政府部門が保有しているから,GDP比率は誇張されている,と言います.そして,日銀が政府に直接融資することを求めました.市場を介して国債を買うより,減税策の財源として融資すればよい,と指摘します.銀行システムの目詰まりを気にせず,また国債も増えないので,将来の増税を予想させないからです.

社会は,犯罪者や独裁を防ぐとともに,優れたアイデアを実現する仕組みを求めています.専門家集団と,政治家と,消費者であり労働者であり有権者でもある市民とが,どのような形で関わっているかに,もっと注意が必要です.