IPEの果樹園2002

今週のReview

12/2-7

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11月28日(木)のNHK現代ジャーナルは,外国人労働者をどうするか,という問題でした.2005年を越えると日本の人口が減少し,特に生産人口は8000万人から半減していく,と言います.誰が高齢化した日本社会を支えるのか? 一つは,老人たちの貯蓄を海外投資して,生産物を輸入することでしょう.異時点間貿易,という表現がありますが,この場合は,むしろ日本の老人と外国の若者との貿易という意味で,老若貿易(あるいは,若返り)です.

もう一つは,外国人が日本に働きに来ることです.番組では,茨城県の漁港で水産加工会社の集まる地域に,インドネシアからの出稼ぎ労働者が増えている,という例を紹介していました.主要都市部だけでなく,日本中の地域で,農作業,工場,サービス業,深夜労働,その他に,ますます多くの外国人が従事するようになっています.

番組は幾つかの代表的見解を織り交ぜ,中間的な分析と国民的議論の必要性を訴えていました.中小・零細の町工場や飲食店では,不況の中,高い給与を支払えません.労働はきつく,待遇も決して良くない.社会的な地位が高いわけでは無いし,農村や漁村には若者の娯楽も少ない.企業の利益は少なく,拡大や近代化のための投資は望めない・・・

日本人の若者が来なくなった職場に,外国人が来ます.彼らの故郷が極端に貧しいというのではなく,より多くの現金収入をそれぞれが必要とするからです.子供が進学したり,親が病気になったり,地元の企業が閉鎖したり・・・ もっと金を貯めて家を買いたいとか,自分の店を持ちたい.あるいは,タクシーを買ったり,企業を起こしたりするための資金が欲しいと思う者が,日本への出稼ぎ話に興味を持ちます.そして友人や親戚から,働き口を紹介してもらうのです.

彼らには自分の目標があり,購買力以上に大きな通貨価値の差もあって,短期間の出稼ぎであれば,たとえ社会的な地位が低い,嫌われた職場でも,積極的に応募します.収入の多くを仕送りし,自分は一時的な住まいにお金をかけません.仲間と集まって生活し,できるだけ住民たちとの摩擦が生じないように気を遣います.

しかし入国管理局と警察は,こうした「不法就労」「不法滞在」を取り締まります.個別企業や労働者の利益ではなく,日本社会の利益を考えれば,こうした外国人を放置できない,と彼らは説明します.他方,水産会社の社長は,労働者たちに日本の習慣やルールを教え,摘発があったと聞けば彼らのアパートを訪ねて,一緒に心配します.

かつて,イギリスが穀物法の撤廃を決めたのは,アイルランドの不作と飢饉で穀物輸入がどうしても必要になったからです.議会を支配していた地主たちは反対しましたが,選挙法が改正されるに連れて,彼らの特殊利益はイギリスの利益と言えなくなったのです.もし日本でも,老人たちが実際に選挙で望ましい政策を決めるとしたら,老若貿易と外国人労働者の自由化を,支持するかもしれません.

もちろん,老人たちは心情において常に「保守的」です.自分たちが懸命に働き,築き上げた「工業大国・日本」があるから,老後の生活は子供らにがんばってもらおう,と.しかし現実には,貯蓄も工業力も急速に失われており,若者たちは厳しい労働条件を嫌い,増加する社会負担も嫌って,老人たちの面倒を見たくないと言います.

何が良い社会か,について,私たちはもっと議論しなければならないでしょう.魚のにおいが嫌なら,機械化して生産性を高め,賃金を引き上げるか,水産加工を外国の工場に委託しなければなりません.むしろ勤労意欲を失った「保守的な」若者や労働者を解雇して,外国人労働者との共存をめざす「革新的な」企業と老人たちが,政治的支持を得られない日本を捨てて,技術と熟練,貯蓄を持ったまま海外に移住するかもしれません.つまり,日本社会は若返ることなく,その活力をも失うのです.

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ただしFT:Financial Times, NYT:New York Times, WP:Washington Post, LAT:Los Angeles Times, ST:Straits Times, IHT:International Herald Tribune, BL:Bloomberg, FEER:Far Eastern Economic Review


FT November 19 2002

Martin Wolf: The flaws of modern capitalism

By Martin Wolf

(コメント) 預金を預かって融資を行う銀行や,企業やプロジェクトの情報とその分析を提供して投資を仲介する金融機関には,本質的に,利益相反する問題が起きます.

誰も自分の預金や信託基金が,どこで誰によって使われているか,よく知らないでしょう.しかし,それは悪質な不動産業者の救済に融資されたり,アルゼンチン国債に投資されたりしています.融資の審査や投資を仲介するだけの業者でも,その情報や影響力を利用して,私的な利益の実現に,私たちのお金を利用しているかもしれません.

反対に,こうした他人の資本を利用する企業の幹部が,それを個人的に流用し,あるいは潰れると分かって他の会社の投機的利益を実現し,倒産を早めたかもしれません.法人として倒産すれば,企業家はその債務を支払う必要は無いわけです.こうした「市場」に擬せられた企業の取引や破産法は,革新に資源を向かわせ,危機を短期間で処理する点で,ともに社会的な効率を高める「資本主義的」資源利用の土台となっています.

預金や投資が,あくまで自分のお金である「かのように」,その利益を最大にする制度を工夫する,というのが,Wolfのここで紹介する研究の提言でした.すなわち,資本主義が機能するためには,@説明責任,A透明性,B制度の失敗,を克服しなければならない,と.

それは,仮想的な「個人」と「所有権」を金融現象において確立する提案,と思います.そして,この仮想現実を強制するのは「法律」や「政府」なのです.しかし,仲介者の持つ情報を,公正かつ厳格に,取り締まることのできる独立した機関はありません.Wolfも,これで解決できるか,と言えば,疑わしい,としています.

バブル,エンロン,通貨危機,不良債権,不正会計,・・・ ここに近代資本主義の落とし穴があるのです.勤労と革新とを維持するのは,いつの時代でも難しいようです.


FT November 19 2002

Time to brave the ghost of inflation

By Paul De Grauwe

(コメント) フランクリン・D・ルーズベルトのように,ECBが恐れるべきは,その恐怖心だけである,とDe Grauweは言います.ユーロ圏は生産性の上昇を実現したのであり,金利を下げてもインフレは起きないのです.むしろ,インフレを気にして金融を引き締めれば,せっかくの通貨統合や市場拡大で実現できる高成長と高生産性の機会を失い,高失業と低生産性の失望に終わるでしょう.

もし安価な労働力や財がふんだんに供給されるなら,西欧や日本は,もっと金融緩和して需要を刺激しても良いはずです.しかし,ECBや日銀が心配するように,拡大は構造的な問題で阻止され,インフレを生じるかもしれません.De Grauweは,この機会を捉えずに,予め敗北することは,市場統合を失敗に終わらせる,と考えているのです.


FT November 21 2002

How to eliminate original financial sin

By Barry Eichengreen and Ricrado Hausmann

国際金融アーキテクチャーをめぐる最善の努力にもかかわらず,新興市場の危機という問題は解決されていない.ある国について悪いニュースや政治不安が伝えられると,最近ではブラジルのように,投資家がその資産を売り,通貨価値が暴落する.もしこのことの効果が,もっぱら,輸出の競争力を改善するのであれば,危機はそれ自体で終息する.しかし,新興市場の債務は多くが外貨建であるから,むしろ債務の支払が急激に増加する.支払困難になれば,悪循環が起きる.

この現象の核心は,各国は外国で借り入れるとき,自国通貨ではなく,主要外貨でしか借りることができないことである.1999年から2001年の債務について,発展途上国は8%を占めるが,債務の建値通貨としては1%以下であった.

それは発展途上国の政策や制度が信頼できないからだ,と言うかも知れない.しかし,同じ問題は途上国に限られない.主要5カ国を除けば,すべての国に影響がある.各国はインフレ抑制,財政赤字削減,信頼できる法の支配,を求められる.それに対して何ができるかは分からない,という意味で,「原罪」と呼ばれる.

なぜ債務は少数の通貨建に集中するのか? 海外でも自国通貨で借りたい国は,外国の投資家,いわゆるベルギー人の歯医者に,長期間その国の通貨建資産を保有させねばならない.しかし,歯医者が多くの小国の通貨建資産を管理するとは,とても考えられない.通貨を増やせば分散投資のメリットはあるが,同時にコストとリスクが追加される.それゆえ最適なポートフォリオは限られた通貨に絞られるのだ.

各国は自国通貨をこの世界的投資バスケットに加えてもらうために激しく闘う.そして成功した国は,競争者を蹴落とすだろう.投資家たちはエキゾチックな通貨への関心をさらに弱める.こうして,原罪は各国の政策だけでなく,国際システムにとっても存在することになる.

そこで私たちは,EMインデックス,という新興市場と発展途上国の通貨に分散した計算単位を提案する.この単位は,より分散した経済への請求権を持つことでより安定することを意味する.なぜなら,たとえば輸出価格の変化といったショックは,ある国にとってはマイナスでも,他の国にとってはプラスであるから.バスケットに入る各通貨はインフレ率に連動させることで,投資家たちに借り手がその価値をごまかす動機を持たないと保証できる.歴史的に見ても,このバスケットは浮動性が低く,投資家にとって魅力がある.

世界銀行と他の国際金融機関(IFIs)が,まずEMインデックスによる債務を発行するべきだ.彼らのトリプルAの格付けで機関投資家が集まり,債券が容易に取引で切るだけの十分な流動性を作り出せるだろう.

EMインデックス債の発行で生じる通貨のミスマッチは,IFIsなら容易に除去できる.彼らは単に,こうした諸国に行ってきたドル建融資を各国通貨建のCPI(消費者物価)インデックス融資に転換すれば良い.こうしてIFIsは自分たちの通貨ミスマッチを解消し,しかも原罪の元を解消するのである.

他のハイ・グレード債務国では,金融市場がさらに発展できる.5大国はハイ・グレードEMインデックス債を発行する候補国として重要であるし,リスクも低い.同時に彼らは,原罪がもたらす世界の不安定性を除去することに関心を持っている.

もちろん,工業諸国が自ら通貨ミスマッチを増やしたくはないだろう.そこで彼らは新興市場と債務をスワップすれば良い.しかし,まさにこうすることで,彼らは新興市場に通貨リスクから解放してやるのだ.実際,主にIFIsであるが,外国の発行者やスワップ市場を通じて,ポーランド,南アフリカ,ニュージーランドのように,少数の幸運な国が原罪を免れてきた.

マクロ経済の慎重な運営や制度の改革という標準的解答では,原罪を速やかに解決できない.しかし,EMインデックス債市場を設ければ,それも可能である.

(コメント) EMインデックスは,確かに新興市場の資金調達を促し,しかも通貨危機が起きる危険性を減らすでしょう.国際通貨制度の「原罪」を除去して,本来の市場による調整過程を可能にする条件が取り戻せるわけです.

しかし,インデックス内の非対称的なショックを吸収するとしても,インデックスに共通するショックや外のショックに対しては,それに含まれる諸国間で利害対立が発生します.この仮想的な新興市場型世界資本市場を動かすインデックス通貨がうまく機能するには,政策決定や改革への指針と強制力が求められるでしょう.

世界銀行や主要国(米・欧・日)のEMインデックス債が,その市場を安定化するために介入するのでしょうか?


FEER November 28, 2002

Freeing Up China's Currency

By Joshua Eisenman

かつて,西側の経済学者や投資家は,貧しい農業国で,計画経済であった国が,ダイナミックな製造業の拠点になるのを見た.直接投資が流入し,成長率が上昇した.輸出を伸ばし,インフラと工業を整備するスピードには,その頑固な批判者も驚いた.約10年で,外貨準備が累積し,インフレ率は低いままであったから,資本勘定の自由化を続け,不動産ブームになった.経済は年7%以上で成長していた.このアジアの国こそ,自分たちの大金にふさわしい土地だと思った者は多かった.

それは1980年代後半から90年代前半のことであった.この国とはタイである.アジアの虎たちはロー・テクからハイ・テクの消費財に転換する能力を示して,東南アジアの賃金と生活水準を押し上げた.しかし,水面下ではひび割れが生じていたのだ.資本移動の自由化と為替レートの硬直性は,不安定な短期資本の流入と銀行融資のもたらす結果に対処できなかった.その2年前にメキシコで起きたように,固定為替レート政策がタイに通貨ペッグを防御する無駄な試みを続けさせ,数十億ドルの準備を失った.

中国はしばしばIMFや経済専門家たちから為替レートに弾力性を増すように圧力を受けている.現在,人民元は中央銀行によって過小評価された水準に維持されており,政府はドルや円,ユーロを国庫に溜め込んでいる.

しかし不幸にして,外貨準備を増やすことは中国人民を犠牲にして行われている.中国の地方の平均的な家計は,年間約285ドルで生活している.そして中国の為替レートは1ドル=8.27人民元で安定している.もし為替レートを弾力化し,中国の経常収支が大幅な黒字であるから,人民元が増価すれば,平均的な家族の可処分所得は増加する.こうして増加した購買力は多くの人々の生活水準を改善し,貧困から脱出させるだろう.中国社会で最も不満を抱いている労働者や農民たちが,こうした購買力増大の受益者である.国営企業の閉鎖や農産物の価格下落でもっとも苦しみ,政府やWTO加盟を強く非難しているのは彼らなのだ.彼らの不満が解消すれば,政府は社会の安定性を増し,開放政策に対する支持を得られる.

しかし最も重要なことは,たとえ人民元の僅かな切上げで,購買力の増加が小さくても,それが中国の金融市場と資本部門を改革するのに特に必要とされる圧力となることだ.為替レートの変動幅を拡大すれば,増加する可処分所得が改革への非難を和らげるとともに,銀行の金利や金融サービスを国際水準に近づけるだろう.こうして複雑で政治的にも困難な,国営企業への不良債権に苦しむ中国の銀行改革を進めることができるだろう.

もちろん,それは中国の輸出財の価格を上昇させるかもしれない.しかし,中国製品の価格は余りに低く,多くの外国の競争企業を倒産させている.おもちゃや衣類に始まって,次第にハイ・テク部門に及び始めている.外国市場で価格を引き上げても,その価格差が縮小するだけで,ほとんどの輸出財が競争力を維持するだろう.

中国市場を求めて大規模な投資を行ってきたアメリカやヨーロッパの企業も,中国人の購買力増加から利益を得るだろう.世界中の企業が200年以上も中国で商売することを夢見てきたが,遂に実現するわけである.しかも,中国の変動幅拡大は,日本に顕著なように,世界のデフレ圧力を緩和するだろう.

IMFは繰り返し中国に為替レート制度の弾力化を求めてきた.それは中国政府にとっても,タイの経験を回避する正しい途である.人民元は1994年以来固定されている.もし中国が今の強い経済的立場を活かして,変動制を導入するなら,改革を進め,貧困を減らし,世界的統合化を実現しても,歴史から学んで,人民元はタイの失敗を繰り返さないだろう.


IHT Friday, November 22, 2002

A season for carrot and stick

Han Sung Joo(South Korea's minister of foreign affairs in 1993 and 1994)

LAT November 22, 2002

N. Korea's Foolish Gamble

LAT November 24, 2002

Striking Iraq, Stroking North Korea

By Jay Taylor

NYT November 24, 2002

Walling In, Walling Out

By THOMAS L. FRIEDMAN

IHT Monday, November 25, 2002

Alliances and deterrence

Philip Bowring

(コメント) Han Sung Jooは,飴とムチを使って,北朝鮮政府に原子爆弾の廃棄を説得できる,と考えます.飴は,軽水炉型原子力発電所,重油供給,太陽政策,日朝国交正常化交渉・経済援助,です.ムチは,重油供給停止,交渉中断,太陽政策放棄,援助獲得失敗と,経済運営の失敗が国民の窮乏化をさらに強めること,です.

LATの論説は,5歳以下の子供の約半分が栄養不良である,という北朝鮮の悲惨な現状を指摘しています.そして中国政府が,「侵略」の幻想(宣伝)を拭い去るように,北朝鮮政府への説得を強めるべきだ,と訴えています.

Jay Taylorの論説では,なぜブッシュ大統領がイラクを攻撃し,北朝鮮には慎重な姿勢で臨むのか,を考察します.実際,いろいろな視点から,北朝鮮はイラク以上に「邪悪な」政府です.その脅威はより強く,アメリカやその同盟諸国,また北朝鮮の国民に対して,より残虐な性質を示しています.それでも,韓国や日本は,イスラエルのように,自分たちを脅迫する隣人に徹底した軍事的勝利を求めるより,宥和することを望んでいる,という点が違うのかもしれません.そして,ブッシュ氏自身も,国内政治の点で,もしかしたらイラクに対しても,北朝鮮と同じ慎重な姿勢を学ぶかもしれません.

FRIEDMANによれば,世界史を左右した三つの壁があります.ベルリンの壁.「緑の壁」とも呼ばれる,朝鮮半島の非武装地帯.そして中東世界の「恐怖の壁」です.ベルリンの壁は,幸いにも,住民たちが両側から打ち壊し,ゴルバチョフはこれを軍隊で阻止しませんでした.他方,朝鮮半島の「緑の壁」は,北朝鮮の恐怖政治を存続する条件であり,今も動きません.韓国国民は朝鮮戦争の記憶の中で未だに生きており,壁を離れて外国市場へとその情熱を傾け,莫大な貿易黒字を挙げています.最後に,中東の「恐怖の壁」は,それを取り除くゴルバチョフとしてサダト大統領が現れましたが,中東の民衆は受け入れませんでした.そして今も,非武装地帯すらなく,殺戮の恐怖はいたるところにあります.

Philip Bowringは,核兵器による恐怖の均衡は,今も,重要な安全保障の枠組みである,と主張します.ただし,アメリカの核は,アジアの安全保障に不可欠です.アメリカが抜ければ,日本は中国の核に対して均衡を回復しようとし,他のアジア諸国も核軍備競争に走るでしょう.それゆえ,核による恐怖の均衡と,同盟諸国による軍備削減こそが,現実に可能な途である,と主張します.


FT November 22 2002

Outside Brussels: Cutting kronas

By Christopher Brown-Humes in Stockholm

(コメント) スウェーデンも国民投票によってユーロの採用を決めることができるかどうか,国民の意見は分かれています.Goran Persson首相の説明は明確です.ユーロに参加しなければ,スウェーデンは政治的に孤立し,影響力を失うだろう.ユーロ採用で物価と金利が下がり,通貨を国際的な投機の対象から外すことができる,と.

しかし,国民はブラッセルのEU官僚を嫌っており,中央の権力によって自分たちの社会福祉体制を破壊されると思っています.ユーロ圏の経済実勢も,ドイツの停滞によって低く抑えられ,スウェーデンの現状から見て,為替レートや金利の決定権を失うことは歓迎できません.

首相は,支持派が明確な運動を通じて国民を説得すれば,デンマークの悲劇は避けられる,と言いますが,経済学者も中央銀行も,労組も社会民主党も,内部で意見が分かれています.首相の優れた政治能力をすべて尽くしても,困難な試みのようです.


NYT November 22, 2002

China's Super Kids

By NICHOLAS D. KRISTOF

6 + 8 - 7 + 6 + 5=? すぐに答えられますか? もし2秒以内に,18,と答えられたら,おめでとう,あなたは上海の幼稚園に合格です! しかも,彼らは北京語と広東語を話し,その上,第三言語としての英語で,この問題に答える.中国の驚異的近代化の源泉は,その都市にそびえるタワーではなく,教育システムにある.アメリカは,将来,ここの子供たちのようなスーパー・キッズと対決しなければならない.

親たちは,こうした私立幼稚園に子供を入れるために2000ドルを支払う.中国では大金である.それでも一人っ子政策のせいで,「小さな皇帝」となった子供を育てることに,親たちは金を惜しまない.

国際的な算数や化学のコンテストで14個の金メダルを取った優秀な中学校の校長は,もし生徒たちがタバコや酒に手を出したらどうするか,という私の質問を,全くとんでもないことを言う奴だ,と嫌悪して見ただけだった.アメリカ人は,子供が賢いから良い成績を取った,と考えるが,中国人は,子供が猛烈に勉強したから良い成績を取れた,と考える.

中国人の親は非常に高い目標を示し,子供はそれを満たすために昼夜も,休日もなく,勉強する.中国人は大学でも科目に優秀な成績を収め,アメリカ人が得意とするセックスや麻薬,ロックンロールには劣るが,強烈な労働倫理と負けん気で,将来の中国を指導するだろう.


ST NOV 23, 2002 SAT

How the FTA was won

By William Choong

NYT November 26, 2002

U.S. to Seek to Abolish Many Tariffs

By EDMUND L. ANDREWS

NYT November 26, 2002

Bush Plan Ties Foreign Aid to Free Market and Civic Rule

By DAVID E. SANGER

(コメント) William Choongは,シンガポールがアメリカとのFTAを締結できたのは,計画された誘惑,を互いに提供できたからだ,と指摘します.両国のスタッフは食品分野の妥協によって合意が成立し,ワシントン,シンガポール,ロンドンで2年を費やした長い交渉を終えました.知的所有権や国内法の改正にまで及ぶ,非常に困難な交渉を二国間で行ったことについて,やはり多国間交渉のほうが良い,という批判もあります.しかしアメリカ-ASEAN商工会議所のErnest Bower会長は,アメリカとのFTA合意により,シンガポールはアジアの貿易と投資の中心地として生き残れる,と言い,アメリカのゼーリック式に,歩きながら考えることを支持します.

ANDREWSは,ブッシュ政権が示す世界貿易の多角交渉に望む新方針を紹介しています.選挙前に,鉄鋼の保護関税や農産物補助金を決めて,WTOの新ラウンドをすっかり麻痺させたブッシュ政権は,自分たちが今度こそ本気で自由化交渉を進めるという姿勢を示しました.問題は,今度も,EUとの対立でしょう.そして,実際の保護は反ダンピング規制などで残ります.

他方,SANGERによれば,援助政策でも9・11以後の新方針が示されたようです.共和党はクリントン政権の援助政策やIMF融資を非難してきました.それを受けて,ブッシュ氏は援助資金を効率的にアメリカの,それゆえブッシュ氏の,世界戦略を実現する手段にします.50億ドルの基金を設けて,一人当たりの所得が1445ドル以下の国は,これに競争して応募できる,と言うのです.政策や制度に関して,ワシントンがその基準を設けるのはもちろんです.

私は日本政府も,援助政策や銀行・企業の救済策に,基金を設けて競争的に応募させてはどうか,と感心しました.その基準は,もちろん国民が決めるのです.


FT November 24 2002

Getting the right balance in Latin America

By Michael Pettis

ブラジル政府が,自分たちの財政赤字はアルゼンチンのような過大評価されたペソと関係ない,といくら言っても,両政府ともバランス・シート危機に押し潰されているのだ.財政と金融の引き締めによって投資家の信頼を得ようとしても,皮肉なことに,その結果はさらにバランス・シートを悪化させている.

これは間違ったバランス・シート危機対策として初めての経験ではない.1980年代に,ラテン・アメリカは執拗な銀行家の要求を抑えて,成長を回復しようとした.G7の協力を得て,政府はベイカー・プランを整えた.

この戦略では,過剰借入れではなく,経済の運営ミスが債務危機の原因である,とされた.これを正して,経済改革が進めば,ラテン・アメリカは成長し,銀行も融資を回収できる,と主張された.経済改革が成功するまで,銀行は利子を資本化し,G7が時間を稼ぐ,というのがベイカー・プランであった.しかし,成長は回復せず,投資家は逃げたままで,債務が累積した.債権が売却され,株式と交換され,ブレディー・プランで債務が減って,漸く成長が回復した.

ベイカー・プランは認識を誤っていた.もし危機が経済運営のミスで起きたのなら,経済の「資産(貸方)」を改革するだけで良かっただろう.課税,関税,銀行規制などである.しかし,負債(借方)側の戦略は,改革が済むまで遅れた.とこが債務危機は,むしろバランス.シートの管理ミスで起きていたのだ.政府は負債側を解決しなければならなかった.これが理解されるのは1989年のブレディー・プランまで遅れ,今もまた債務の削減や組替えは遅れている.しかし,過剰な債務と不安定な資本構成が経済を悪化させているのである.

第一に,債務の支払が,短期金利や通貨安のような,経済変数と緊密に結び付いている場合,経済的ショックが債務の支払に影響する.たとえばブラジルは,通貨が減価すれば,ドル建債務のデフォルト・リスクがある.第二に,成長は債務の保有と無関係では無い.債務の水準が高く,それが大きく割り引かれている場合,債権者は新規投資から間接的に利益を得る.このことが新しい投資家への「課税」となって,投資を減らし,あるいは逆転させ,資本逃避や経済停滞に繋がる.

二つの問題は累積する.あるショックが債務水準を高め,成長を抑えるから,ますますその国はショックに弱くなる.それは破綻を避けられなくする.バランス・シートを改善しなければ,ラテン・アメリカは再び債務危機に直面するだろう.政府は再びベイカー・プランを行っている.投資家は去り,経済改革を叫んでいる.しかし,税制改革も財政引締めも,投資家の信頼を取り戻せない.投資家たちは支払が停止されると確信しており,資金を戻す気は無い.

投資家は正しいのだ.高水準の債務,増大する利払いは,債務を維持不可能にした.経済には改革すべき問題があるけれど,債務の存在自体が経済主体を低成長に導く.政府や銀行は債務を維持させ,必要なら利子を資本化するけれど,その高金利と低成長がさらにバランス・シートを悪化させる.

この戦略は機能しない.アルゼンチンやブラジルが直面している危機は,バランス・シートの悪化による.正しい解決策は,負債を減らし,新規投資や成長への意欲を殺がないように,組替えることだ.難しい決断だが,今しなければ,何年も危機が悪化してから,やらねばならない.


BL 11/24 00:01

Japan's Central Bank in Dilemma Over Inflation

By David DeRosa

(コメント) DeRosaは,日銀がインフレ目標政策を採用して,デフレを逆転しないことを強く非難します.日銀が反対する理由は,@水場に連れて行っても,馬は水を飲もうとしない(これ以上,水をやっても植木は育たない).A日銀の保有する資産が悪化する.B銀行の収益を圧迫する.これに対して,DeRosaは,@デフレを止めないから実質金利が高過ぎるのだ.A日銀の信任は国債の利回りで示されない.B国民経済を無視して,銀行業界の利益を守るのは愚かだ.と言います.日銀は,もっと頻繁に政策意図を説明し,その効果を検証して欲しいです.


NYT November 24, 2002

South American Trading Bloc Frees Movement of Its People

By LARRY ROHTER

(コメント) アルゼンチン,ブラジル,パラグアイ,ウルグアイからなるメルコスールが労働者の移動を自由化することに合意しました.これはもちろん,EUやアメリカ合衆国を目指すものです.それは経済政策や社会制度に関する広範な調和・融合過程の一部であり,何よりも政治的な意思決定なのです.1991年の結成から,アルゼンチンの経済崩壊とブラジルの危機,そして9・11によるアメリカの政策転換,ブラジルの新政権誕生を受けて,ラテン・アメリカが動くきっかけになることを願います.

この合意は,推定250万人の非合法な外国居住者を合法的な地位に戻すと期待されます.すなわち,パラグアイで働く40万人のブラジル人.サンパウロの苦汗工場で最低賃金以下の労働に従い,あるいはアルゼンチンで働いていたが危機で職を失い,帰国する金も無い100万人のボリビア人やパラグアイ人.


LAT November 25, 2002

Argentine Children's Plight

(コメント) 世界で5番目の農産物輸出国であるアルゼンチンで,子供の栄養失調や飢餓が増えている,という話です.栄養失調の子供を収容する病院が増えており,その院長の一人は,政治家たちを強く非難しました.経済危機の中でも,恥知らずな地方政治家たちは財源を横領し,私腹を肥やしている,と.そして,腐敗した政府は,ますます投資家を遠ざけます.


WP Monday, November 25, 2002

Embracing Big Brother

By William Raspberry

先週火曜日のWall Street Journalは,「本土防衛」の意味を再考させるに十分だった.新しい省と新しい法律が,テロからわれわれを守るために誕生した,らしい.その話では,要するに,FBIが話を聞きたい多くの人のリストを作った,というわけだ.リストは,大銀行から旅行社,レンタル自動車会社,ラス・ヴェガスのカジノにも回された.

FBIによれば,二つのことが起きた.一つは,9・11に関係あるかもしれない情報を持った人が見つかったこと.もう一つは,FBIがこのリストを管理できなくなったことだ.たとえば,あるホーム・ページに「FBIが金融機関に送ったテロリストの容疑者一覧」として公開された.多くの無実の人々がテロリスト扱いされ,完全に飛行機から降ろされないまでも,多くの時間を無駄にし,不愉快な思いをした.

それでも私たちはこんな風に言われる.もし何も隠していないなら,政府がe-mailを監視しても,電話を盗聴しても,あなたの金融記録を調べても,気にしないはずだ,と.国際テロと戦うアメリカでは,そのような無頓着がありふれている.テロリストたちを倒すためになら,何でも犠牲にするべきだ,というわけだ.

アメリカ人はプライヴァシーを犠牲にしただけではない.政府がアル・カイダとのつながりがあると分類した人々に対して,アメリカ人が示す冷淡さも驚くほどであった.彼らは法廷に訴えることも,ジュネーブの戦争捕虜条約にも,保護されなかった.われわれは彼らを拘束するのが嫌になるまで,何の公的な正当性も無いのに,身柄を拘束する.

新しい法律は,アメリカ人の「決定的に重要なインフラ」である情報の自由にも例外を設けた.誰かが企業における非合法な活動をやめさせる.家庭では,メディアもこの法律に異議を唱えず,ジャーナリストたちが政府機関の手先となるのを受け入れている.自発的にそれを行うことと,政府に命じられることとは,全然,別である.

政府がわれわれの行いをよく知れば知るほど,テロリストになりそうな者や,現実のテロリストをより逮捕できる,というのは,そうかもしれない.同様に,もっと速度違反を取り締まるカメラを増やせば,また,もっと多くの罰金が獲れるのも確かだ.スピード違反や他の犯罪は減るだろう.しかし,それでも私は速度違反監視カメラが嫌いだし,その理由は装置が限りなく濫用される,と言うだけではない.

ジョン・アシュクロフト司法長官らが9・11以後に得たものは大きすぎた.たとえば,FBIは本人が居ない間に証拠を探すために家宅捜査できる権利を得た.彼らはあなたの持ち物を調べ,コンピューターの内容をダウンロードできる.

議会は二度それを拒否したが,遂に承認した.テロとの戦争,というわけだ.しかし,われわれの自由はどうなるのか?

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The Economist, November 16th 2002

China’s future: Troubles ahead for the new leaders

新しい共産党指導部は,さらに厳しい経済的・社会的な挑戦に直面する.銀行システムの危機,失業の増大,デフレーション,政府債務の累積,・・・今までのようなその場しのぎでは持たないかもしれない.誰が指導部になっても庶民には関係ない.急速に増える都市の中間層は,年8%の成長によって利益を受け,2002年に500億ドルを越えた直接投資からも利益を得た.豊かな沿岸部の成長を動かすエンジンとして,輸出の成長率は今年も15%に達し,世界の経済困難などどこにも感じられない.

共産党はこうした中産層の要求に従う.高成長(と社会的安定),民間企業育成,政府の独占分割,私的所有権の尊重.不幸な者,すなわち都市の失業者や地方人口に対しては,社会保障や移民規制の緩和,農村投資など,美辞麗句が並べる.しかし,急速の財政赤字が膨らむ中で,貧しい者への支出は優先されていない.

政府は財政支出による刺激を続けて7%の成長を維持しようとするだろう.それは浪費と,国営企業の依存体質を強める.輸出や直接投資に依存し過ぎて,それが減少する危険性を政府は心配しているが,すでにGDPの100%を超えたと推定される政府債務の増加も危険である.国民が銀行システムを信頼しているのは幸運である.中国に金儲けの機会が増えたことは,共産党にとっても幸運であった.しかし,多くの問題は先送りにされたままだ.


Business books: From great to not so good

最も売れたビジネス書は漫画家Scott Adamsの『ディルバートの原理』.140万部を売った.

「倫理にそむく行いが叙事詩的な高まりを見せた一年のおかげで,・・・・ われわれも新しく社名を考えることにしました.」 「誰も,われわれが誰か知らないような社名を・・・」