動態的・戦略的な保護貿易論

1.ダンピング

GATT第6条によれば、ダンピングとは正常な価値を下回って外国で製品を販売すること、である。「正常な価格」とは、通常、国内販売価格を意味する。ダンピングそのものではなく、それが国内産業に被害をもたらした場合、各国は国内法に従って反ダンピング関税(ADDs)を課す。その法律はADDsが認められる条件や、その額、実施の手続きを定めている。

ダンピングの経済学

ダンピングには、掠奪的predatoryダンピングと価格差別化、反循環的ダンピング、が区別されている。

掠奪的ダンピングは、外国の輸入競争企業を倒産させて、市場を支配した後、価格支配力を利用して以前よりも高い価格を消費者に押し付けることである。しかし、企業がこうした行動をとる合理的な根拠は少なく、他の有利な手段が存在し、ADDsで対応すべき問題ではないし、生産補助金を国内生産者に給付できるし、それが起きたという証拠も少ない。

価格差別化は、国内の価格支配力を利用して、その独占的な利潤で外国市場に浸透するためにダンピングを行っており、むしろ利益である。

反循環的ダンピングとは、固定資本が大きな部門で、不況時にも国内販売の落ち込みを費用の削減で解消できないから、企業がダンピングによる輸出増加を図っていることを示す。それは必ずしも持続的な価格差別化ではない。

ADDsは、一般的な関税引き下げに際して、国内産業を輸入の増加から政府が保護できる措置として歓迎された。

ECの反ダンピング法

ECの反ダンピング法は、いくつかの点で非常に偏った法律である。

1.地元の生産者が提訴し、生産者が被害を調査する。消費者や利用者の利益は反映されない。

2.調査費用は政府が負担する。地元業界による安上がりの輸入嫌がらせである。

3.「正常価格」の規定に偏りがある。

4.ダンピング・マージンの算定にも偏りがある。

5.ADDを「正常価格」のコストに認める。ADDが追加された価格とダンピング・マージンの算定で、外国の輸出業者は不利になる。

2.幼稚産業保護論

基本理論

A国の潜在的に比較優位を持つ産業が、B国に先行する企業があるために、短期的には競争できない場合、長期的には優位にある「幼稚infant産業」を一時的な保護、あるいはむしろ補助金で、支援することが求められた。

その費用は将来の利潤で回収され、一定期間を経て、補助金を廃止できる、と考えた。

民間市場の失敗

こうした条件を満たす産業があり、しかも民間投資では行えないと言うためには、次の条件を満たさなければならない。

1.十分な規模の経済が実現できない。

2.「就業による学習」が重要である。

3.民間部門が政府よりも情報を集めにくい。

4.資本市場が不完全である(偏りがある)。:その場合でも、政府は税金を使うよりも、公債を発行して公的な開発銀行を設立したほうが良い。

外部性

労働者の訓練、インフラ投資など、製品への信頼・評価

実施上の問題点

保護された部門が高度の集中し、高い利潤を生産的な投資の拡大に向けない場合もある。幼稚産業の保護がなかなか廃止されず、「国益」を理由に永続化される。

老朽産業

老朽産業の保護も、同じ理由で主張される。一時的な保護が近代化や競争力の回復をもたらす。非常に限られたケースである。

3.不確実性

市場の不確実性が高まれば、価格情報による資源配分効率が悪化する。関税による小さなコストで、安定した至上と調整過程を維持することは社会的に大きな利益がある、と主張される。しかし、

1.所得分配の影響は他の手段で緩和したほうが良い。

2.不確実性に対する保険市場は存在する。市場が成立しない分野で、貿易政策が資源配分を改善できる保証は無い。

3.観察困難、監視困難(モラル・ハザード)、質的な選別困難(逆選択)

4.戦略的貿易政策

規模の経済と不完全競争は、「戦略的strategic貿易政策」という理論を発達させた。これは、経済政策の決定に企業の反応を組み入れたものである。

輸出補助金

二国間でA、B、二社しか存在しない市場を考える(各国で一社)。クールノー型の競争では、相手企業の生産量を前提して、自社の生産量を決定する。複占市場であるために、価格は限界生産費用で決まらず、生産量を減らして価格が高くなれば利潤は増える可能性がある。A社が補助金を得て生産を拡大すれば、A社の利潤は増えてB社の利潤は減る。

消費者は生産量の増加から利益を受ける。事実上、補助金は世界市場の独占を低下させる。輸出補助金も含めて、A国が利益を受けるかどうかは明らかでない。

輸出促進のための輸入保護

国内市場を確保することで、自国企業が十分な規模の利益と利潤を増加させ、結果的に、輸出を拡大させることに成功する可能性がある。特に、「就業における訓練」が重要な高度技術部門、すなわち航空機産業や半導体製造などが指摘される。

参入と退出

もしその産業が新規参入や退出の自由な条件であっても、国内と海外で市場が有効に分離されていれば、価格裁定が機能せず、こうした政策の余地がある。

戦略論批判

戦略貿易論は伝統的な自由貿易論と矛盾しており、保護や補助金の論拠を提示することに熱心である。しかし、政策効果の慎重な評価が必要だ。この政策の効果はモデルの仮定に依存しており、わずかな違いがまったく異なった結果をもたらすからである。

1.一般均衡:科学者の確保と供給について

2.競争のタイプ:ベルトラン型の競争(価格競争)。シュタッケンベルク型の解決。寡占市場の競争の型は特定化できない。

3.国内企業の数:その他の条件で、適当な政策が変わる。

4.レントの計測:R&Dによる開発成功の全利益は、補助金によっても、成功する一社が独占する。

5.関税か補助金か?:最高輸入価格による規制。

6.報復

実施方法

政策効果の計測は非常に難しい。戦略的貿易論が保護主義を説明しているのではない。

例)短距離Commuter飛行機

ブラジル、カナダ、スウェーデンの開発競争。結局、世界の厚生を改善した。


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