『聖教新聞』 2004年8月10日 掲載

メディアが外交と世論形成に与える影響と は?
国境を超えた人びとの理解は可能 か
アジア・ヨーロッパ知的交流会議 に出席して
                    

同志社大学  渡辺武達


 七月二五日から三日間、シンガポールで開催された、「テレビが外交と世論形成に与える影響」を主テーマとするアジア・ヨーロッパ知的交流会議 に招待された。主催は一九九七年二月、日本をふくむ両大陸の主要国二四とEUの政府代表が両地域の人びとの相互理解と市民社会の発展を目的に設立し、本部 施設をシンガポール国立大学内におくアジア・ヨーロッパ財団である。

 今度の会議の企画と事務局はフランス外務省が担当、議長を務めたのが同国社会党の重鎮、アクセル・ケバル、初日のパーティの主催は在シンガ ポールのフランス大使、デルフィン・コロム夫妻、使用言語はすべて英語、のちにまとめられる会議録は次回のG8会議などの資料として提出される。
これまでにも若手国会議員を招き、国際理解と政治家の役割について議論したり、職場の女性差別の解消、音楽による相互理解の促進などのプロジェクトが実行 されてきたが、今回、上述のテーマが選ばれたのは@新聞閲読人口の減少が世界的に見られる半面、インターネットや携帯電話がいくら普及してもそこを行き交 う情報は個人の欲求に根ざすものにすぎない、A公的情報の大量・同時伝達という点でテレビにまさるものはなく、その有効利用が民主制の発達と社会政策の遂 行には不可欠である、からである。

 議論は具体的な社会的事象に基づいておこなうことを原則とし、一日目にはそれぞれ数百名の犠牲者を出した爆弾テロ、二〇〇二年のバリ島事件 (インドネシア)、翌三年のマドリッド事件(スペイン)が取り上げられ、当該国の代表が報告、他の出席者が自国での報道とそれらを比較した。スペイン代表 は事件の背景についてもっと多くの情報を政府は開示すべきであると現地住民が大がかりなデモを行ったことを報告、彼らにはこの事件が日本では爆発シーンを 中心にイラクへの自衛隊派遣に関連し報道されたことが伝えられ、危機管理と報道のあり方を相対化した。

 二日目には、メディアの作り出す偏見や外交政策形成に与える影響が取り上げられ、後者では二四時間のニュース報道を「CNN効果」として検証 した。全米一六〇〇万世帯の有線テレビ加入者を対象にニュース情報で全番組を構成するという売りで八〇年に開業したCNNは放送界の革命とよばれる。九一 年の第一次湾岸戦争時、ホワイトハウスの米国政府幹部は空爆第一撃の着地点の状況をこれで確認したし、世界中の視聴者もおなじ映像を見ていた。しかし私は それで世界が変わったわけではないと発言した。たしかにCNNは報道が「儲かる」ビジネスになったことを立証し、「事件」が二四時間起き続けていると認識 (あるいは「誤解」)させたが、それ以上のものではない。その証拠に第一次湾岸戦争で最後までバグダッドに残ったピーター・アーネット記者は今度のイラク 戦争ではフォックスTVに高給で雇用された。が、米国とイラクの中間点に立とうとイラク政治家とのインタビューを企画して「愛国報道」の同局から解雇され た。そのアーネットを即座に現地雇用したのは英国のタブロイド紙であった。つまり二四時間報道は政治・経済分野における執権層との関係を変革して・u毆) はいないのだ。

 言論の自由に関連して、シンガポール代表は「事実だけを報道すべきで、評論は必要ではない」という政府発言を紹介した。これは中国やミャン マーについてもいえ、経済発展と社会的安定のため、政府批判に過敏な政権がアジアには増えてきている。事実のどれを取材し、取材した事実をどう並べるかに は編集姿勢が作用しているのは常識だから、そうした発言は「政府批判は遺憾」と同義であり、言論・表現・情報の自由の抑圧なのである。比較的自由な言論を 享受してきているタイでもこれが起きつつあり、二つの英字紙、『バンコクポスト』と『ネーション』の両方に政府からの圧力がかかりはじめ、七月二八日付け のポスト社説には「権力監視は新聞の使命」という反論が掲げられるほどの緊張となっている。

 ヨーロッパからの出席者にはオランダ在住で、かつて『中国の左翼〜林彪と江青の栄光と没落』(一九七八年)や『インドシナ現代史』(一九八三 年)などの日本語訳もある、大衆心理学者・作家のヤープ・ヒネケンやヨーロッパメディア研究所代表のジョー・グローベルなど、アジアからは、フィリピン・ インドネシア・韓国などのテレビ関係者の出席があった。数名(buzz group)から一四名の全体まで、討議方式も多彩で、両大陸のメディア状況の共通性と相違が取り出され、じつに生産的な経験であった。