2003年3月21付 京都新聞発行「世界水フォーラム公式新聞」 

命の水絶つ最悪の破壊行為
                 

同志社大学教授 渡辺武達

  ついに米英合同軍がイラクへの空爆を開始した。戦争は人命をうばうという最大の人権侵害行為であり、あらゆるものを破壊する非生産的行為である。必要となれば、森林を死滅させる枯れ葉作戦(アメリカによるベトナム戦)も、相手方への生物・化学薬品投下(イラクによる対クルド人や対イラン戦)、劣化ウラン弾の使用(米軍による第一次湾岸戦争)もちゅうちょせず、味方兵士の身体被害さえ甚大である。

 イラクをはじめ、中東諸国の多くは水が不足し、私がこれまで訪問したことのあるカタール、バーレン、エジプト、シリア、トルコなどでも川やオアシスのあるところに文明が栄え、海水を真水に変える機械装置ができた現在でも、水は宝である。戦争はとりわけ子どもや老人など、弱いものへの命の水を絶つ可能性がたかく、その意味でも今度の戦争は悪であり、力にたよる人間の知恵の不足が悲しい。環境問題のメディア操作でも、湾岸戦争時、米国は自分が爆撃した場所からの原油流出が原因なのに、油にまみれた海鳥の映像をイラクによる環境破壊だと宣伝し、NHKをはじめ多くの外国メディアもその広報協力をした。だがいまだにそれは訂正されていない。

 私はこの四月から同志社大学が発足させるメディア・コミュニケーション研究センターとの共同プロジェクト推進などの話し合いなどで、ワシントン、ボストン、ロサンゼルスの大学や研究機関を訪問、二週間滞在して一九日夜帰国した。現在の米政府は移民が形成したもので、今でも合法・違法あわせて毎年百万人超が「富と自由」を求めてやってくるが、その大半が自由経済の弱肉強食原理という現実のなかで、富裕層への反発をもっている。

 戦争の緊張ですでにガソリンなどが高騰しているが、ハイチなどカリブ海出身者の多い東海岸のタクシー運転手たちがいう。イラクのフセイン大統領の独裁専制は悪いに決まっている。しかし、ブッシュ現米大統領もまたイラクの石油欲しさと父親の復讐だけを考え、軍事産業の後押しで自国兵士とイラク国民の命を犠牲にする、今度の戦争準備は米国民、ましてや世界の安全とは関係がない、と。また、大学関係者の大半が、アフガンゲリラやフセインに武器と金を与え兵士を訓練したのは歴代の米政権だし、今度のやり方も国際法の定める秩序とはかけ離れたもので恥ずかしいという。

 ところが、テレビを主体に社会の動きを理解している六割ほどの中間層が、フセインとの決着戦(ABCテレビ)といった情緒的なキャッチフレーズに扇動され、まちがった「愛国心」を高揚させている。米国で唯一の大衆的全国紙USAツデーも、イラク攻撃に国連決議など必要ないといい、週刊グローブ誌は社論で「フセインの処刑」を主張して売っている。

 今回ワシントンの国立公文書館で、米国務省が作成した、サンフランシスコ条約での独立以後の親米世論形成戦略の文書(一九五二年六月と一二月)と、それにたいする日本政府やNHKなどのメディアの協力申し出の会話記録を発見した。今もそれと同じ状態が日米間でつづいており、国民は惑わされ、日本は世界戦略の立てられない状態におかれている。情報も金もエネルギー資源もすべてが国境を超え、国家は「地球社会の地方自治体」的になりつつあるのに、映像を主体とするテレビが強者のプロパガンダ機関となり、拉致問題も経済問題もふっとばしているのがなにやらおかしい。