カワウの営巣と菌類の変化

2018年6月16日、広島大学で開催された、日本土壌微生物学会2018年度広島大会の大会シンポジウム「土壌環境における真核微生物-機能と生態」にて講演しました。

タイトル
過剰な養分供給に対する土壌分解系と真菌類の応答:カワウ営巣林における事例
※オリジナル論文(英語)は、InTechウェブサイトより無料でダウンロードできます。

講演要旨
【カワウ問題とは】 滋賀県琵琶湖岸の伊崎半島と竹生島では、1980年代から大型の水鳥であるカワウの集団営巣がみられる。魚の捕食による漁業被害や、悪臭による生活環境への影響などに加えて、集団営巣のみられる林分(以下、営巣林)では樹木の枯死や、ときに森林が衰退する被害が認められている。
【土壌への影響】 営巣林では、カワウによる枝の踏みつけや折り取り、樹木の枯死などによって、大量の植物リター(落葉、落枝、丸太)が土壌に供給されている。同時にカワウは大量のフンを土壌に供給するが、カワウは魚食性であるためフンには窒素やリンが多く含まれている。このため営巣林は過剰な養分供給を受けることとなり、土壌では窒素飽和の兆候や、リン濃度の上昇などが認められている。
【本研究の目的】 営巣林の土壌に供給されたリターの分解には、フン供給にともなう過剰な養分供給が影響し、それが土壌における長期的な養分の保持や林床有機物の蓄積に波及する可能性がある。そして、これらの変化は、リター分解に関与する菌類の群集構造や生理生態学的な変化によって引き起こされると考えられる。本研究の目的は、伊崎半島の営巣状況の異なる営巣林(ヒノキ人工林)を対象に、リター分解に関与する菌類群集の変化、菌類の生理生態的な応答、リター分解プロセスの変化を実証的に明らかにし、それらに基づいて林床におけるリターと養分の長期的な集積パターンを定量的に推定することである。
【菌類群集の変化】 営巣林では、カワウの営巣がみられない林分(以下、非営巣林)に比べて、落葉・落枝に含まれる菌糸量が減少し、菌類の種数、多様度指数、均衡度が増加した。営巣林では種組成も大きく変化しており、特に営巣中の林分では糞生菌が増加していた。
【菌類の生理生態学的な応答】 野外で採取した菌類子実体の窒素安定同位体比の測定により、営巣林では菌類がフン由来の窒素を吸収し利用していることがわかった。フンを含む林内雨から作成した寒天培地での培養試験により、カワウのフンは培養菌株の菌糸成長とリグニン分解活性を抑制することが示された。
【リター分解プロセスの変化】 リターバッグ法による2年間の分解実験により、営巣林では非営巣林)に比べて、落葉・落枝の分解が遅くなること、この分解速度の低下は見かけ上のリグニン分解の抑制により引き起こされること、さらには窒素安定同位体比の測定によりフン由来の窒素が落葉・落枝に不動化されていることがわかった。
【林床におけるリター集積】 以上の実証データに基づいて、カワウの営巣数とリターフォール量、および土壌での分解にともなうリター残存量とリターに含まれる窒素量の変化を記述する経験的な数理モデルを作成した。リターフォール直後は落葉が量的に多いが10年後にはほとんど分解されるがその一方で、分解の遅い落枝と枯死材が長期的には量的に主要な構成要素となること、窒素はリターフォール後10年目くらいまでは落葉に一次的に保持されるが、それ以降は落枝に長期的に保持されると予想された。