「京都暮らしの音と映像」。このテーマで一年かけて、ビデオ・ドキュメンタリー作品を作る。
私たちは様々なメディアに囲まれて暮らしている。テレビや映画の映像文化。新聞や書籍の活字文化。そしてラジオやCD等の音の文化。これらの中で一番意識されにくいのが音ではないだろうか。私たちを取り巻く様々な音を手がかりに自分の住む町、生活を振り返ってみることで、いかに多くの音の中に私たちは暮らしているのか。音を手がかりに私たちの生活や京都の文化を、もう一度とらえ直してみよう。そこで、初めて見えてくるものがある。つまり、目で見ていただけでは見落としていたもの。生活の細部に潜む人の温もりや、行事を支える人々の細やかな心配り、優しい視点、思いやり、そういった目で見ていただけではつかめないもの、活字では拾いきれないものをすくい取る能力を磨くのがこの講座の狙いのひとつである。さらに、すくい取った情報をいかにして伝達するか。音と映像の撮影・録音技術、編集等の方法を学び、自分の伝えたい情報をいかにうまく、的確にまとめて伝えるかを学ぶ。これからのIT社会で必須のコンテンツを学習するのが、この講座のもうひとつの狙いである。
では、実際にどのようにしてテーマを探り、作品に仕上げるのか?
例えば、四季折々の行事や日常生活の中から音と映像を拾い出そう。具体的に説明すると、4月の花見。庶民の春の行楽,最高の遊楽の場である花見の現場に溢れる音を映像とともに採集し、花見の意味を考えてみる。5月。「今宮祭りとあぶり餅」。今宮神社は西陣の人たちが氏子。社前で売るあぶり餅は祭りの名物として知られ、これを食べれば疫病が祓えるという。今も神社の門前には二軒の餅屋が年中香ばしい匂いを立てている。信仰から広がった名物の魅力を考えてみる。このように、6月「鴨川の床」(江戸時代から続く納涼と祇園町の発展)8月「白川の夏」(岡崎の疎水から分かれた流れを追って祇園まで。川に沿って、そこに暮らす人々の生活と暮らしぶりを考える)10月「鞍馬の火祭り」(10世紀中頃から続く京都三大奇祭のひとつ。古いしきたりを今に残す伝統の祭礼を守り続ける人たちを訪ねる)等。
また、季節を問わず「嵐電」(四条大宮から嵐山まで。沿線には映画の町太秦もある。一本の路線が結ぶ地域の活力)。「出町商店街」(町中の錦商店街とは違った庶民の台所)。「西陣界隈」(職人たちの意地と心意気)等々、探せば様々なテーマに出会う。自分の見つけたテーマを音と映像で表現してみようというのである。 |