刑を言い渡された者の移送に関する条約

この条約の署名国である欧州評議会の加盟国及び他の国は、
欧州評議会の目的がその加盟国の一層強化された統合を達成することであることを考慮し、
刑事法の分野における国際協力が更に発展することを希望し、
このような協力が司法の目的及び刑を言い渡された者の社会復帰を促進すべきであることを考慮し、
これらを促進するためには、犯罪を行った結果として自由を奪われている外国人に対し自己の属する社会においてその刑に服する機会を与えることが求められていることを考慮し、
これらの外国人をその本国に移送することによりそのような要請に最もよく応ずることができることを考慮して、
次のとおり協定した。

第一条 定義
この条約の適用上、
a 「刑」とは、裁判所が犯罪を理由として命ずる有期又は無期のあらゆる刑罰又は措置であって自由の剥奪を伴うものをいう。
b 「判決」とは、刑を命ずる裁判所の決定又は命令をいう。
c 「裁判国」とは、移送され得る者又は移送された者に刑を命じた国をいう。
d 「執行国」とは、刑を言い渡された者がその刑に服するために移送され得る国又は移送された国をいう。

第二条 一般原則
1 締約国は、刑を言い渡された者の移送に関してこの条約に従い協力のための最大限の措置を相互にとることを約束する。
2 一の締約国の領域において刑を言い渡された者は、自己に命ぜられた刑に服するため、この条約に従い他の締約国の領域に移送されることができる。このため、当該者は、裁判国又は執行国に対し、この条約に従い移送されることについて自己の関心を表明することができる。
3 裁判国又は執行国のいずれの国も移送について要請することができる。

第三条 移送の条件
1 刑を言い渡された者については、次の条件が満たされる場合に限り、この条約に基づいて移送することができる。
a 当該者が執行国の国民であること。
b 判決が確定していること。
c 移送の要請があった時に、当該者が刑に服する期間として少なくとも六箇月の期間が残っていること又は刑の期間が定められていないこと。
d 当該者が移送に同意していること又は裁判国若しくは執行国のいずれかの国が当該者の年齢、身体の状態若しくは精神の状態を考慮して必要と認める場合には当該者の法律上の代理人が移送に同意していること。
e 刑が命ぜられたことの理由となった作為又は不作為が、執行国の法令により犯罪を構成すること又は執行国の領域において行われたとした場合において犯罪を構成すること。
f 裁判国及び執行国が移送に同意していること。
2 締約国は、例外的な場合には、刑を言い渡された者が刑に服すべき期間が1cに規定する期間より短いときにおいても、移送に同意することができる。
3 いずれの国も、この条約への署名の時又はこの条約の批准書、受諾書、承認書若しくは加入書の寄託の時に、欧州評議会事務局長にあてた宣言により、他の締約国との関係において第九条1a及びbに規定するいずれかの手続の適用を除外する意思を有することを明示することができる。
4 いずれの国も、欧州評議会事務局長にあてた宣言により、当該国に関する限りにおいて、この条約の適用上、「国民」という語をいつでも定義することができる。

第四条 情報を提供する義務
1 裁判国は、刑を言い渡された者であってこの条約の適用を受けることのできるすべてのものに対し、この条約の内容を通知する。
2 裁判国は、刑を言い渡された者がこの条約に基づき移送されることについて裁判国に対して関心を表明した場合には、判決が確定した後できる限り速やかに、執行国にその旨を通報する。
3 2の通報には、次の事項を含む。
a 刑を言い渡された者の氏名、生年月日及び出生地
b 当該者が執行国に住所を有する場合には、執行国における住所
c 刑の根拠となった事実
d 刑の性質、期間及び開始日
4 裁判国は、刑を言い渡された者がその移送について執行国に対し関心を表明した場合には、当該執行国の要請により3に掲げる事項を執行国に通報する。
5 裁判国又は執行国は、刑を言い渡された者に対し、1から4までの規定に従ってとったすべての措置及びいずれかの国が移送の要請について行ったすべての決定を書面により通知する。

第五条 要請及び回答
1 移送の要請及び回答は、書面により行う。
2 要請は、要請国の法務省が要請を受ける国の法務省あてに行う。回答は、要請の場合と同一の経路により通報される。
3 いずれの締約国も、欧州評議会事務局長にあてた宣言により、通報のための他の経路を利用することを明示することができる。
4 要請を受けた国は、要請された移送に同意するかしないかについての決定を速やかに要請国に通報する。

第六条 補助的な文書
1 執行国は、裁判国の要請があった場合には、裁判国に次の文書を提供する。
a 刑を言い渡された者が執行国の国民であることを示す文書又は説明書
b 裁判国において刑が命ぜられたことの理由となった作為又は不作為が執行国の法令により犯罪を構成すること又は執行国の領域において行われたとした場合において犯罪を構成することを示す関係法令の写し
c 第九条2に規定する通報の内容を記載した説明書
2 裁判国は、移送の要請が行われた場合において、裁判国又は執行国が移送に同意しない旨を明示するときを除くほか、執行国に次の文書を提供する。
a 判決及び判決の根拠となった法令の認証謄本
b 既に刑に服した期間を明示する説明書(裁判の前の拘禁、刑の減免その他刑の執行に関連する事項についての情報に係るものを含む。)
c 第三条1dに規定する移送についての同意を記載した宣言d 適当な場合には、刑を言い渡された者の医療又は社会生活に関する報告書並びに裁判国における当該者の処遇に関する情報及び執行国における移送後の処遇に関する意見に関する文書
3 裁判国又は執行国は、移送について要請する前又は移送に同意するかしないかを決定する前に、1又は2に掲げる文書又は説明書の提供を求めることができる。

第七条 同意及びその確認
1 裁判国は、第三条1dの規定に従って移送について同意する者が任意に、かつ、移送の法的な効果について十分な知識をもって、同意することを確保する。同意の付与に関する手続は、裁判国の法令により規律される。
2 裁判国は、執行国に対し、同意が1に定める条件に従って行われたことを領事又は執行国と合意した他の公務員を通じて確認する機会を与える。

第八条 裁判国に対する移送の効果
1 執行国の当局による刑を言い渡された者の身柄の受領は、裁判国における刑の執行を停止する効力を有する。
2 裁判国は、執行国が刑の執行を終了したと認める場合には、当該刑をもはや執行することができない。

第九条 執行国に対する移送の効果
1 執行国の権限のある当局は、次のいずれかのことを行う。
a 次条に規定する条件の下で、直接に又は裁判所の若しくは行政上の命令に従い、裁判国の刑の執行を継続すること。
b 裁判国において命ぜられた制裁を同一の犯罪行為について執行国の法令が規定する制裁に代えるために、第十一条に規定する条件の下で、司法手続又は行政手続に従い裁判国の刑を執行国の決定に転換すること。
2 執行国は、要請がある場合には、刑を言い渡された者の移送の前に、1a又はbのいずれの手続に従うかについて裁判国に通報する。
3 刑の執行については、執行国の法令により規律され、及び執行国のみがすべての適当な決定を行う権限を有する。
4 精神の状態を理由として犯罪を行ったことについて刑事上の責任を有しないとされた者に対して他の締約国の領域においてとられた措置を実施するに当たり、自国の法令上1に定める手続をとることができない国であって自国において処遇するため当該者を受け入れる用意のあるものは、欧州評議会事務局長にあてた宣言により、このような場合において従う手続について明示することができる。

第十条 刑の執行の継続
1 刑の執行を継続する場合には、執行国は、裁判国において決定された刑の法的な性質及び期間を受け入れなければならない。
2 もっとも、執行国は、刑の性質若しくは期間が自国の法令に適合しない場合又は自国の法令が要求する場合には、裁判所の又は行政上の命令により、当該刑による制裁を同一の犯罪行為について自国の法令が規定する刑罰又は措置に合わせることができる。刑罰又は措置は、その性質に関して、執行されるべき刑として命ぜられた刑罰又は措置にできる限り合致するものとする。刑罰又は措置は、その性質又は期間について、裁判国において命ぜられた制裁より重いものとしてはならず、かつ、執行国の法令に規定する最も重いものを超えてはならない。

第十一条 刑の転換
1 刑の転換を行う場合には、執行国の法令に規定する手続を適用する。刑の転換を行う場合において、権限のある当局は、次の条件に従う。
a 裁判国において言い渡された判決から明示的又は黙示的に認められる限りにおいて、その判決の事実の認定に拘束される。
b 自由の剥はく奪を伴う制裁を財産上の不利益を課する制裁に転換することはできない。
c 刑を言い渡された者が服した、自由を剥はく奪されたすべての期間を差し引く。
d 刑を言い渡された者の制裁の状態をより重いものとしてはならず、かつ、当該者の行った犯罪行為について執行国の法令が定める最も軽いものに拘束されない。
2 執行国は、刑を言い渡された者の移送の後に刑の転換のための手続を行う場合には、その手続の結果が出るまでの間、当該者を抑留し、又は他の方法により執行国における当該者の所在を確実にする。

第十二条 特赦、大赦及び減刑
締約国は、自国の憲法又は他の法令に従い、特赦、大赦又は減刑を認めることができる。

第十三条 判決に対する再審
裁判国のみが判決に対する再審の請求について決定する権利を有する。

第十四条 刑の執行の終了
執行国は、決定又は措置であってその結果として刑を執行することが不可能となるものについて裁判国からの通報を受けた場合には、直ちにその刑の執行を終了する。

第十五条 刑の執行に関する情報
執行国は、次の場合には、裁判国に対して刑の執行に関する情報を提供する。
a 刑の執行が終了したと認める場合b 刑を言い渡された者がその刑の執行が終了する前に逃走した場合c 裁判国が特に報告を求める場合
第十六条 通過
1 締約国は、その領域を刑を言い渡された者が通過することにつき、他の締約国から要請された場合において、当該他の締約国がその領域へ又はその領域から当該者を移送することについて第三国(締約国であるかないかを問わない。)との間で合意しているときは、国内法令に従って当該要請を認める。
2 締約国は、次の場合には、通過を認めることを拒否することができる。
a 刑を言い渡された者が自国民である場合
b 刑が命ぜられる原因となった犯罪が自国の法令によるならば犯罪とならない場合
3 通過の要請及び回答は、第五条2及び3に規定する経路によって行う。
4 締約国は、その領域を刑を言い渡された者が通過することにつき、非締約国から要請された場合において、当該非締約国がその領域へ又はその領域から当該者を移送することについて他の締約国との間で合意しているときは、当該要請を認めることができる。
5 通過を認めることを要請された締約国は、その領域を通過するために必要とする限度において、その間、刑を言い渡された者を抑留することができる。
6 通過を認めることを要請された締約国は、自国の領域において、刑を言い渡された者が裁判国の領域から出発する前に行った犯罪行為又は命ぜられた刑を理由として、訴追されず、5に規定する場合を除くほか、拘禁されず又は他の方法により自由を制限されないことを保証するよう要請されることがある。
7 締約国の領域を空路によって護送する場合において、その領域内に着陸する予定がないときは、通過の要請は必要としない。もっとも、各国は、この条約への署名の時又はこの条約の批准書、受諾書、承認書若しくは加入書の寄託の時に、欧州評議会事務局長にあてた宣言により、当該領域のこのような通過について通報するよう要請することができる。

第十七条 言語及び費用
1 第四条2から4までの規定に従って提供する情報は、そのあて先となる締約国の言語又は欧州評議会の公用語の一により提供する。
2 3の規定に従うことを条件として、移送の要請又は補助的な文書の翻訳は必要としない。
3 いずれの国も、この条約への署名の時又はこの条約の批准書、受諾書、承認書若しくは加入書の寄託の時に、欧州評議会事務局長にあてた宣言により、移送の要請又は補助的な文書に自国の言語、欧州評議会の公用語の一又は当該国が明示するこれらの言語の一による翻訳を添付するよう求めることができる。当該国は、その機会に、欧州評議会の公用語以外の言語による翻訳も受け入れる用意があることを宣言することができる。
4 第六条2aに掲げる文書を除くほか、この条約の適用に当たり送付される文書は、認証を必要としない。
5 この条約の適用に当たり要する費用は、専ら裁判国の領域において要する費用を除くほか、執行国が負担する。

第十八条 署名及び効力発生
1 この条約は、欧州評議会の加盟国及びこの条約の作成に参加した欧州評議会の非加盟国の署名のために開放しておく。この条約は、批准され、受諾され又は承認されなければならない。批准書、受諾書又は承認書は、欧州評議会事務局長に寄託する。
2 この条約は、欧州評議会の三の加盟国が、この条約に拘束されることに同意する旨を1の規定に従って表明した日の後三箇月の期間が満了する日の属する月の翌月の初日に効力を生ずる。
3 この条約は、この条約に拘束されることに同意する旨を2の要件が満たされた日以後に表明する署名国については、批准書、受諾書又は承認書の寄託の日の後三箇月の期間が満了する日の属する月の翌月の初日に効力を生ずる。

第十九条 欧州評議会の非加盟国の加入
1 この条約の効力発生の後、欧州評議会閣僚委員会は、この条約の締約国との協議の後に、欧州評議会規程第二十条dに規定する多数の議決であって同委員会に出席する資格を有するすべての締約国の代表の賛成票を含むものによる決定により、欧州評議会の非加盟国で前条1の規定に該当しない国に対してこの条約に加入するよう要請することができる。
2 この条約は、この条約に加入する国については、加入書を欧州評議会事務局長に寄託した日の後三箇月の期間が満了する日の属する月の翌月の初日に効力を生ずる。

第二十条 領域的適用範囲
1 いずれの国も、署名の時又は批准書、受諾書、承認書若しくは加入書の寄託の時に、この条約を適用する領域を特定することができる。
2 いずれの国も、その後いつでも、欧州評議会事務局長にあてた宣言により、その宣言において特定された他の領域についてこの条約の適用を拡大することができる。この条約は、当該他の領域については、同事務局長が当該宣言を受領した日の後三箇月の期間が満了する日の属する月の翌月の初日に効力を生ずる。
3 1及び2の規定に基づき行われたいかなる宣言も、その宣言において特定された領域について、欧州評議会事務局長にあてた通告により撤回することができる。撤回は、同事務局長が当該通告を受領した日の後三箇月の期間が満了する日の属する月の翌月の初日に効力を生ずる。

第二十一条 時間的適用範囲
この条約は、その効力発生の日の前又は以後に命ぜられた刑の執行について適用する。

第二十二条 他の条約及び協定との関係
1 この条約は、刑事についての国際協力に関する他の条約であって対質又は証言の目的のための拘禁された者の移送について規定するもの及び犯罪人の引渡しに関する条約から生ずる権利及び義務に影響を及ぼすものではない。
2 二以上の締約国が、刑を言い渡された者の移送に関する協定若しくは条約を締結し若しくは刑を言い渡された者の移送に関する他の方法による固有の関係を設定している場合又は将来そのような協定若しくは条約を締結し若しくはそのような関係を設定する場合には、この条約に代えて当該協定若しくは条約を適用し又は当該他の方法による関係を規律する権利を有する。
3 この条約は、刑事の判決の国際的な効力に関する欧州条約の締約国が同条約の規定を補足し又は同条約に定める原則の適用を促進するために同条約の取り扱う事項について二国間又は多数国間の協定を締結する権利に影響を及ぼすものではない。
4 移送の要請が、この条約に加えて、刑事の判決の国際的な効力に関する欧州条約又は刑を言い渡された者の移送に関する他の協定若しくは条約の適用を受ける場合には、要請国は、要請の時にいずれの条約に基づいて要請を行うかを明示する。

第二十三条 友好的な解決
欧州評議会の犯罪問題に関する欧州委員会は、この条約の適用に関して常時通報を受けるものとし、この条約の適用から生ずるいかなる問題についても友好的な解決を促進するために必要なことを行う。

第二十四条 廃棄
1 いずれの締約国も、欧州評議会事務局長にあてた通告により、いつでもこの条約を廃棄することができる。
2 廃棄は、欧州評議会事務局長が通告を受領した日の後三箇月の期間が満了する日の属する月の翌月の初日に効力を生ずる。
3 この条約は、廃棄が効力を生ずる日の前にこの条約の規定に従って移送された者の刑の執行について引き続き適用する。

第二十五条 通報
欧州評議会事務局長は、欧州評議会の加盟国、この条約の作成に参加した非加盟国及びこの条約に加入した国に対して次の事項を通報する。
a 署名
b 批准書、受諾書、承認書又は加入書の寄託
c 第十八条2及び3、第十九条2並びに第二十条2及び3の規定に従う効力発生の日
d この条約に関して行われるその他の行為、宣言、通告又は通報以上の証拠として、下名は、正当に委任を受けてこの条約に署名した。

千九百八十三年三月二十一日にストラスブールで、ひとしく正文である英語及びフランス語により本書一通を作成した。本書は、欧州評議会に寄託する。欧州評議会事務局長は、欧州評議会の各加盟国、この条約の作成に参加した非加盟国及びこの条約に加入するよう要請されたすべての国にその認証謄本を送付する。