【法令番号 】昭和三十九年六月二十六日条約第十四号
【施行年月日】昭和三十九年七月八日外務省告示第九十一号
この条約の当事国は、
すべての国の国民が古くから外交官の地位を承認してきたことを想起し、
国の主権平等、国際の平和及び安全の維持並びに諸国間の友好関係の促進に関する国際連合憲章の目的及び原則に留意し、
外交関係並びに外交上の特権及び免除に関する国際条約が、国家組織及び社会制度の相違にかかわらず、諸国間の友好関係の発展に貢献するであろうことを信じ、
このような特権及び免除の目的が、個人に利益を与えることにあるのではなく、国を代表する外交使節団の任務の能率的な遂行を確保することにあることを認め、
この条約の規定により明示的に規制されていない問題については、引き続き国際慣習法の諸規則によるべきことを確認して、
次のとおり協定した。
第一条 この条約の適用上、
(a)「使節団の長」とは、その資格において行動する任務を派遣国により課せられた者をいう。
(b)「使節団の構成員」とは、使節団の長及び使節団の職員をいう。
(c)「使節団の職員」とは、使節団の外交職員、事務及び技術職員並びに役務職員をいう。
(d)「外交職員」とは、使節団の職員で外交官の身分を有するものをいう。
(e)「外交官」とは、使節団の長又は使節団の外交職員をいう。
(f)「事務及び技術職員」とは、使節団の職員で使節団の事務的業務又は技術的業務のために雇用されているものをいう。
(g)「役務職員」とは、使節団の職員で使節団の役務に従事するものをいう。
(h)「個人的使用人」とは、使節団の構成員の家事に従事する者で派遣国が雇用する者でないものをいう。
(i)「使節団の公館」とは、所有者のいかんを問わず、使節団のために使用されている建物又はその一部及びこれに附属する土地(使節団の長の住居であるこれらのものを含む。)をいう。
第二条 諸国間の外交関係の開設及び常駐の使節団の設置は、相互の同意によつて行なう。
第三条 1 使節団の任務は、特に、次のことから成る。
(a)接受国において派遣国を代表すること。
(b)接受国において、国際法が認める範囲内で派遣国及びその国民の利益を保護すること。
(c)接受国の政府と交渉すること。
(d)接受国における諸事情をすべての適法な手段によつて確認し、かつ、これらについて派遣国の政府に報告すること。
(e)派遣国と接受国との間の友好関係を促進し、かつ、両国の経済上、文化上及び科学上の関係を発展させること。
2 この条約のいかなる規定も、使節団による領事任務の遂行を妨げるものと解してはならない。
第四条 1 派遣国は、自国が使節団の長として接受国に派遣しようとする者について接受国のアグレマンが与えられていることを確認しなければならない。
2 接受国は、アグレマンの拒否について、派遣国に対し、その理由を示す義務を負わない。
第五条 1 派遣国は、関係接受国に対し適当な通告を行なつた後、同一の使節団の長又は外交職員を同時に二以上の国に派遣することができる。ただし、いずれかの関係接受国が明示的に異議を申し入れた場合は、この限りでない。
2 派遣国は、同一の使節団の長を他の一又は二以上の国に派遣している場合には、その使節団の長が常駐しない各国に臨時代理大使又は臨時代理公使を首席の職員とする使節団を設置することができる。
3 使節団の長又は使節団の外交職員は、国際機関における自国の代表として行動することができる。
第六条 二以上の国は、同一の者を同時にそれぞれの国の使節団の長として他の一国に派遣することができる。ただし、接受国が異議を申し入れた場合は、この限りでない。
第七条 第五条、第八条、第九条及び第十一条の規定に従うことを条件として、派遣国は、使節団の職員を自由に任命することができる。使節団付きの陸軍駐在官、海軍駐在官又は空軍駐在官の任命については、接受国は、承認のため、あらかじめその氏名を申し出ることを要求することができる。
第八条 1 使節団の外交職員は、原則として、派遣国の国籍を有する者でなければならない。
2 使節団の外交職員は、接受国の国籍を有する者の中から任命してはならない。ただし、接受国が同意した場合は、この限りでない。接受国は、いつでも、この同意を撤回することができる。
3 接受国は、派遣国の国民でない第三国の国民についても、同様の権利を留保することができる。
第九条 1 接受国は、いつでも、理由を示さないで、派遣国に対し、使節団の長若しくは使節団の外交職員である者がペルソナ・ノン・グラータであること又は使節団のその他の職員である者が受け入れ難い者であることを通告することができる。その通告を受けた場合には、派遣国は、状況に応じ、その者を召還し、又は使節団におけるその者の任務を終了させなければならない。接受国は、いずれかの者がその領域に到着する前においても、その者がペルソナ・ノン・グラータであること又は受け入れ難い者であることを明らかにすることができる。
2 派遣国が1に規定する者に関するその義務を履行することを拒否した場合又は相当な期間内にこれを履行しなかつた場合には、接受国は、その者を使節団の構成員と認めることを拒否することができる。
第十条 1 接受国の外務省(合意により指定した他の省を含む。以下同じ。)は、次の事項について通告を受けるものとする。
(a)使節団の構成員の任命、到着及び最終的出発又は使節団における任務の終了
(b)使節団の構成員の家族である者の到着及び最終的出発並びに、状況に応じ、いずれかの者が使節団の構成員の家族となる事実又は家族でなくなる事実
(c)(a)に掲げる者が雇用している個人的使用人の到着及び最終的出発並びに、状況に応じ、そのような雇用が終了する事実
(d)接受国内に居住する者を使節団の構成員として又は特権及び免除を受ける権利を有する個人的使用人として雇用すること及びこれを解雇すること。
2 1に規定する到着及び最終的出発の通告は、可能な場合には、事前にも行なわなければならない。
第十一条 1 使節団の職員の数に関して特別の合意がない場合には、接受国は、使節団の職員の数を接受国が自国内の諸事情及び当該使節団の必要を考慮して合理的かつ正常と認める範囲内のものとすることを要求することができる。
2 接受国は、また、同様の制限の下に、かつ、無差別の原則の下に、特定の職種の職員を受け入れることを拒否することができる。
第十二条 派遣国は、接受国による事前の明示の同意を得ないで、使節団の設置の場所以外の場所に、使節団の一部を構成する事務所を設置してはならない。
第十三条 1 使節団の長は、接受国において一律に適用されるべき一般的な習律に従い、自己の信任状を提出した時又は自己の到着を接受国の外務省に通告し、かつ、自己の信任状の真正な写しを外務省に提出した時において接受国における自己の任務を開始したものとみなされる。
2 信任状又はその真正な写しを提出する順序は、使節団の長の到着の日時によつて決定する。
第十四条 1 使節団の長は、次の三の階級に分かたれる。
(a)国の元首に対して派遣された大使又はローマ法王の大使及びこれらと同等の地位を有する他の使節団の長
(b)国の元首に対して派遣された公使及びローマ法王の公使
(c)外務大臣に対して派遣された代理公使
2 席次及び儀礼に関する場合を除くほか、階級によつて使節団の長を差別してはならない。
第十五条 使節団の長に与える階級は、関係国の間で合意するところによる。
第十六条 1 使節団の長は、それぞれの階級においては、第十三条の規定による任務開始の日時の順序に従つて席次を占めるものとする。
2 使節団の長の信任状の変更で階級の変更を伴わないものは、その使節団の長の席次に影響を及ぼさないものとする。
3 この条の規定は、ローマ法王の代表者の席次に関する習律で接受国が容認するものに影響を及ぼすものではない。
第十七条 使節団の外交職員の席次は、使節団の長が接受国の外務省に通告するものとする。
第十八条 使節団の長の接受に関しよるべき手続は、当該接受国において、それぞれの階級につき同一でなければならない。
第十九条 1 使節団の長が欠けた場合又は使節団の長がその任務を遂行することができない場合には、臨時代理大使又は臨時代理公使が暫定的に使節団の長として行動するものとする。その臨時代理大使又は臨時代理公使の氏名は、使節団の長又は、使節団の長がすることが不可能な場合には、派遣国の外務省が接受国の外務省に通告するものとする。
2 派遣国は、その使節団の外交職員が接受国にいない場合には、接受国の同意を得て、事務及び技術職員を使節団の日常の管理的事務の担当者に指定することができる。
第二十条 使節団及び使節団の長は、使節団の公館(使節団の長の住居を含む。)及び使節団の長の輸送手段に派遣国の国旗及び国章を掲げる権利を有する。
第二十一条 1 接受国は、派遣国が自国の使節団のために必要な公館を接受国の法令に従つて接受国の領域内で取得することを容易にし、又は派遣国が取得以外の方法で施設を入手することを助けなければならない。
2 接受国は、また、必要な場合には、使節団が使節団の構成員のための適当な施設を入手することを助けなければならない。
第二十二条 1 使節団の公館は、不可侵とする。接受国の官吏は、使節団の長が同意した場合を除くほか、公館に立ち入ることができない。
2 接受国は、侵入又は損壊に対し使節団の公館を保護するため及び公館の安寧の妨害又は公館の威厳の侵害を防止するため適当なすべての措置を執る特別の責務を有する。
3 使節団の公館、公館内にある用具類その他の財産及び使節団の輸送手段は、捜索、徴発、差押え又は強制執行を免除される。
第二十三条 1 派遣国及び使節団の長は、使節団の公館(所有しているものであると賃借しているものであるとを問わない。)について、国又は地方公共団体のすべての賦課金及び租税を免除される。ただし、これらの賦課金又は租税であつて、提供された特定の役務に対する給付としての性質を有するものは、この限りでない。
2 この条に規定する賦課金又は租税の免除は、派遣国又は使節団の長と契約した者が接受国の法律に従つて支払うべき賦課金又は租税については適用しない。
第二十四条 使節団の公文書及び書類は、いずれの時及びいずれの場所においても不可侵とする。
第二十五条 接受国は、使節団に対し、その任務の遂行のため十分な便宜を与えなければならない。
第二十六条 接受国は、国の安全上の理由により立入りが禁止され又は規制されている地域に関する法令に従うことを条件として、使節団のすべての構成員に対し、自国の領域内における移動の自由及び旅行の自由を確保しなければならない。
第二十七条 1 接受国は、すべての公の目的のためにする使節団の自由な通信を許し、かつ、これを保護しなければならない。使節団は、自国の政府並びに、いずれの場所にあるかを問わず、自国の他の使節団及び領事館と通信するにあたり、外交伝書使及び暗号又は符号による通信文を含むすべての適当な手段を用いることができる。ただし、使節団が、無線送信機を設置し、かつ、使用するには、接受国の同意を得なければならない。
2 使節団の公用通信は、不可侵とする。公用通信とは、使節団及びその任務に関するすべての通信をいう。
3 外交封印袋は、開き又は留置することができない。
4 外交封印袋である包みには、外交封印袋であることを外部から識別しうる記号を附さなければならず、また、外交上の書類又は公の使用のための物品のみを入れることができる。
5 外交伝書使は、自己の身分及び外交封印袋である包みの数を示す公文書が交付されていることを要し、その任務の遂行について接受国により保護されるものとする。その外交伝書使は、身体の不可侵を享有し、いかなる方法によつてもこれを抑留し又は拘禁することができない。
6 派遣国又はその使節団は、臨時の外交伝書使を指名することができる。その場合には、5の規定の適用があるものとする。ただし、5に規定する免除は、その外交伝書使が自己の管理の下にある外交封印袋を受取人に交付した時に、適用されなくなるものとする。
7 外交封印袋は、公認の入国空港に着陸することになつている商業航空機の機長にその輸送を委託することができる。その機長は、外交封印袋である包みの数を示す公文書を交付されるが、外交伝書使とはみなされない。使節団は、その機長から直接にかつ自由に外交封印袋を受領するため、使節団の構成員を派遣することができる。
第二十八条 使節団がその公の任務の遂行にあたつて課する手数料及び料金は、すべての賦課金及び租税を免除される。
第二十九条 外交官の身体は、不可侵とする。外交官は、いかなる方法によつても抑留し又は拘禁することができない。接受国は、相応な敬意をもつて外交官を待遇し、かつ、外交官の身体、自由又は尊厳に対するいかなる侵害をも防止するためすべての適当な措置を執らなければならない。
第三十条 1 外交官の個人的住居は、使節団の公館と同様の不可侵及び保護を享有する。
2 外交官の書類、通信及び、第三十一条3の規定による場合を除くほか、その財産も、同様に、不可侵を享有する。
第三十一条 1 外交官は、接受国の刑事裁判権からの免除を享有する。外交官は、また、次の訴訟の場合を除くほか、民事裁判権及び行政裁判権からの免除を享有する。
(a)接受国の領域内にある個人の不動産に関する訴訟(その外交官が使節団の目的のため派遣国に代わつて保有する不動産に関する訴訟を含まない。)
(b)外交官が、派遣国の代表者としてではなく個人として、遺言執行者、遺産管理人、相続人又は受遺者として関係している相続に関する訴訟
(c)外交官が接受国において自己の公の任務の範囲外で行なう職業活動又は商業活動に関する訴訟
2 外交官は、証人として証言を行なう義務を負わない。
3 外交官に対する強制執行の措置は、外交官の身体又は住居の不可侵を害さないことを条件として、1(a)、(b)又は(c)に規定する訴訟の場合にのみ執ることができる。
4 外交官が享有する接受国の裁判権からの免除は、その外交官を派遣国の裁判権から免れさせるものではない。
第三十二条 1 派遣国は、外交官及び第三十七条の規定に基づいて免除を享有する者に対する裁判権からの免除を放棄することができる。
2 放棄は、常に明示的に行なわなければならない。
3 外交官又は第三十七条の規定に基づいて裁判権からの免除を享有する者が訴えを提起した場合には、本訴に直接に関連する反訴について裁判権からの免除を援用することができない。
4 民事訴訟又は行政訴訟に関する裁判権からの免除の放棄は、その判決の執行についての免除の放棄をも意味するものとみなしてはならない。判決の執行についての免除の放棄のためには、別にその放棄をすることを必要とする。
第三十三条 1 外交官は、3の規定に従うことを条件として、派遣国のために提供された役務について、接受国で施行されている社会保障規程の適用を免除される。
2 1に規定する免除は、また、次のことを条件として、もつぱら外交官に雇用されている個人的使用人にも適用される。
(a)その使用人が、接受国の国民でないこと、又は接受国内に通常居住していないこと。
(b)その使用人が派遣国又は第三国で施行されている社会保障規程の適用を受けていること。
3 2に規定する免除が適用されない者を雇用している外交官は、接受国の社会保障規程が雇用者に課する義務に従わなければならない。
4 1及び2に規定する免除は、接受国における社会保障制度への自発的な参加を妨げるものではない。ただし、その参加には、接受国の許可を必要とする。
5 この条の規定は、社会保障に関する二国間又は多数国間の協定ですでに締結されたものに影響を及ぼすものではなく、また、将来におけるこのような協定の締結を妨げるものではない。
第三十四条 外交官は、次のものを除くほか、人、動産又は不動産に関し、国又は地方公共団体のすべての賦課金及び租税を免除される。
(a)商品又は役務の価格に通常含められるような間接税
(b)接受国の領域内にある個人の不動産に対する賦課金及び租税(その外交官が使節団の目的のため派遣国に代わつて保有する不動産に対する賦課金及び租税を含まない。)
(c)第三十九条4の規定に従うことを条件として、接受国によつて課される遺産税又は相続税
(d)接受国内に源泉がある個人的所得に対する賦課金及び租税並びに接受国内の商業上の企業への投資に対する資本税
(e)給付された特定の役務に対する課徴金
(f)第二十三条の規定に従うことを条件として、登録税、裁判所手数料若しくは記録手数料、担保税又は印紙税であつて、不動産に関するもの
第三十五条 接受国は、外交官に対し、すべての人的役務、種類のいかんを問わないすべての公的役務並びに徴発、軍事上の金銭的負担及び宿舎割当てに関する業務のような軍事上の義務を免除する。
第三十六条 1 接受国は、自国が制定する法令に従つて、次の物品の輸入を許可し、かつ、それらについてすべての関税、租税及び関係がある課徴金を免除する。ただし、倉入れ、運搬及びこれらに類似する役務に対する課徴金は、この限りでない。
(a)使節団の公の使用のための物品
(b)外交官又はその家族の構成員でその世帯に属するものの個人的な使用のための物品(外交官の居住のための物品を含む。)
2 外交官の手荷物は、検査を免除される。ただし、手荷物中に1に掲げる免除の適用を受けない物品又は輸出入が接受国の法律によつて禁止されており若しくはその検疫規則によつて規制されている物品が含まれていると推定すべき重大な理由がある場合は、この限りでない。その場合には、検査は、当該外交官又は当該外交官が委任した者の立会いの下においてのみ行なわれなければならない。
第三十七条 1 外交官の家族の構成員でその世帯に属するものは、接受国の国民でない場合には、第二十九条から第三十六条までに規定する特権及び免除を享有する。
2 使節団の事務及び技術職員並びにその家族の構成員でその世帯に属するものは、接受国の国民でない場合又は接受国に通常居住していない場合には、第二十九条から第三十五条までに規定する特権及び免除を享有する。ただし、第三十一条1に規定する接受国の民事裁判権及び行政裁判権からの免除は、その者が公の任務の範囲外で行なつた行為には及ばない。前記の者は、また、最初の到着にあたつて輸入する物品について、第三十六条1に規定する特権を享有する。
3 使節団の役務職員であつて、接受国の国民でないもの又は接受国に通常居住していないものは、その公の任務の遂行にあたつて行なつた行為についての裁判権からの免除、自己が雇用されていることによつて受ける報酬に対する賦課金及び租税の免除並びに第三十三条に規定する免除を享有する。
4 使節団の構成員の個人的使用人は、接受国の国民でない場合又は接受国に通常居住していない場合には、自己が雇用されていることによつて受ける報酬に対する賦課金及び租税を免除される。その他の点については、その者は、接受国によつて認められている限度まで特権及び免除を享有する。もつとも、接受国は、その者に対して裁判権を行使するには、使節団の任務の遂行を不当に妨げないような方法によらなければならない。
第三十八条 1 接受国の国民である外交官又は接受国に通常居住している外交官は、その任務の遂行にあたつて行なつた行為についてのみ裁判権からの免除及び不可侵を享有する。ただし、接受国によつてそれ以上の特権及び免除が与えられる場合は、この限りでない。
2 外交職員以外の使節団の職員又は個人的使用人であつて、接受国の国民であるもの又は接受国内に通常居住しているものは、接受国によつて認められている限度まで特権及び免除を享有する。もつとも、接受国は、その者に対して裁判権を行使するには、使節団の任務の遂行を不当に妨げないような方法によらなければならない。
第三十九条 1 特権及び免除を受ける権利を有する者は、赴任のため接受国の領域にはいつた時又は、すでに接受国の領域内にある場合には、自己の任命が外務省に通告された時から、特権及び免除を享有する。
2 特権及び免除を享有する者の任務が終了した場合には、その者の特権及び免除は、通常その者が接受国を去る時に、又は、接受国を去るために要する相当な期間が経過したときは、その時に消滅する。ただし、その時までは、その特権及び免除は、武力抗争が生じた場合においても存続するものとし、また、前記の者が使節団の構成員として任務を遂行するにあたつて行なつた行為についての裁判権からの免除は、その者の特権及び免除の消滅後も引き続き存続するものとする。
3 使節団の構成員が死亡した場合において、その家族は、接受国を去るために要する相当な期間が経過する時まで、自己が受ける権利を有する特権及び免除を引き続き享有する。
4 使節団の構成員であつて、接受国の国民でないもの若しくは接受国に通常居住していないもの又はそれらの者の家族の構成員であつて、その世帯に属するものが死亡した場合において、接受国は、その者が接受国内で取得した財産で死亡の時に輸出を禁止されていたものを除くほか、その者の動産の持出しを許可するものとする。その者が使節団の構成員又はその家族として接受国にあつたことのみに基づいて接受国に所在する動産に対しては、遺産税及び相続税を課さない。
第四十条 1 外交官が、赴任、帰任又は帰国の途中において、旅券査証が必要な場合にその査証を与えた第三国の領域を通過している場合又はその領域内にある場合には、その第三国は、その外交官に、不可侵及びその通過又は帰還を確実にするため必要な他の免除を与えなければならない。外交官の家族で特権若しくは免除を享有するものがその外交官と同行する場合又はその外交官のもとにおもむくために若しくは帰国するために別個に旅行中である場合についても、同様とする。
2 1に規定する場合と同様の場合において、第三国は、使節団の事務及び技術職員若しくは役務職員又はそれらの者の家族が当該第三国の領域を通過することを妨げてはならない。
3 第三国は、暗号又は符号による通信文を含む通過中のすべての公用通信に対し、接受国が与えるべき自由及び保護と同様の自由及び保護を与えなければならない。第三国は、旅券査証が必要な場合にその査証を与えられた通過中の外交伝書使及び通過中の外交封印袋に対し、接受国が与えるべき不可侵及び保護と同様の不可侵及び保護を与えなければならない。
4 1、2及び3の規定に基づき第三国が有する義務は、それらの項に規定する者並びに公用通信及び外交封印袋が不可抗力によつて当該第三国の領域にはいつた場合についても、また、同様とする。
第四十一条 1 特権及び免除を害することなく、接受国の法令を尊重することは、特権及び免除を享有するすべての者の義務である。それらの者は、また、接受国の国内問題に介入しない義務を有する。
2 派遣国がその使節団に課した接受国を相手方とするすべての公の職務は、接受国の外務省を相手方として、又は接受国の外務省を通じて、行なうものとする。
3 使節団の公館は、この条約、一般国際法の他の規則又は派遣国と接受国との間で効力を有する特別の合意により定める使節団の任務と両立しない方法で使用してはならない。
第四十二条 外交官は、接受国内で、個人的な利得を目的とするいかなる職業活動又は商業活動をも行なつてはならない。
第四十三条 外交官の任務は、特に、次の時において終了する。
(a)派遣国が、接受国に対し、その外交官の任務が終了した旨の通告を行なつた時
(b)接受国が、派遣国に対し、第九条2の規定に従つて、その外交官を使節団の構成員と認めることを拒否する旨の通告を行なつた時
第四十四条 接受国は、武力抗争が生じた場合においても、特権及び免除を享有する者で接受国の国民でないもの及びその家族(国籍のいかんを問わない。)ができる限り早い時期に退去できるように便宜を与えなければならない。特に、接受国は、必要な場合には、それらの者及びその財産のた めに必要な輸送手段を提供しなければならない。
第四十五条 二国間で外交関係が断絶した場合又は使節団が永久的に若しくは一時的に召還された場合には、
(a)接受国は、武力抗争が生じたときにおいても、使節団の公館並びに使節団の財産及び公文書を尊重し、かつ、保護しなければならない。
(b)派遣国は、接受国が容認することができる第三国に、使節団の公館並びに財産及び公文書の管理を委託することができる。
(c)派遣国は、接受国が容認することができる第三国に、自国の利益及び自国民の利益の保護を委託することができる。
第四十六条 派遣国は、接受国に使節団を設置していない第三国の要請に基づき、接受国の事前の同意を得て、当該第三国及びその国民の利益を一時的に保護することができる。
第四十七条 1 接受国は、この条約の規定を適用するにあたつて、国家間に差別をしてはならない。
2 もつとも、次の場合には、差別が行なわれているものとはみなされない。
(a)この条約のいずれかの規定が、派遣国において、接受国の使節団に対して制限的に適用されていることを理由として、接受国が当該いずれかの規定を制限的に適用する場合
(b)諸国が、慣習又は合意により、この条約の規定が定める待遇よりも一層有利な待遇を相互に与えている場合
第四十八条 この条約は、千九百六十一年十月三十一日まではオーストリア連邦外務省で、その後は千九百六十二年三月三十一日までニュー・ヨークの国際連合本部で、国際連合又はそのいずれかの専門機関のすべての加盟国、国際司法裁判所規程の当事国及びこの条約の当事国になるよう国際連合総会により招請された他の国による署名のため開放しておく。
第四十九条 この条約は、批准されなければならない。批准書は、国際連合事務総長に寄託されるものとする。
第五十条 この条約は、第四十八条に規定する四の種類のいずれかに属する国による加入のため開放しておく。加入書は、国際連合事務総長に寄託されるものとする。
第五十一条 1 この条約は、二十二番目の批准書又は加入書が国際連合事務総長に寄託された日から三十日目の日に効力を生ずる。
2 二十二番目の批准書又は加入書が寄託された後にこの条約を批准し又はこれに加入する各国については、この条約は、その国の批准書又は加入書の寄託の後三十日目の日に効力を生ずる。
第五十二条 国際連合事務総長は、第四十八条に規定する四の種類のいずれかに属するすべての国に次の事項を通報するものとする。
(a)第四十八条、第四十九条及び第五十条の規定に従つて行なわれるこの条約の署名及び批准書又は加入書の寄託
(b)第五十一条の規定に従つてこの条約が効力を生ずる日
第五十三条 この条約の原本は、中国語、英語、フランス語、ロシア語及びスペイン語による本文をひとしく正文とし、国際連合事務総長に寄託される。事務総長は、第四十八条に規定する四の種類のいずれかに属するすべての国にその認証謄本を送付するものとする。
以上の証拠として、下名の全権委員は、このためそれぞれの政府から正当に
委任を受け、この条約に署名した。
千九百六十一年四月十八日にウィーンで作成した。
(署名略)